相続が発生したものの、相続人同士の話し合いがまとまらず、相続税の申告期限が迫ってきて焦っていませんか?そんな時に、あなたの助け舟となるのが「申告期限後3年以内の分割見込書」です。この書類を提出することで、将来的に受けられるはずだった税金の特例を適用できるようになります。この記事では、分割見込書とは何か、どのような理由で認められるのか、そして具体的な手続きの流れまで、分かりやすく解説していきますね。
「申告期限後3年以内の分割見込書」とは?
「申告期限後3年以内の分割見込書」とは、相続税の申告期限(被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内)までに遺産の分割協議がまとまらない場合に、税務署へ提出する書類のことです。この書類を相続税申告書と一緒に提出しておくことで、申告期限後に遺産分割がまとまった際に、節税効果の大きい特例を使えるようにするための大切な手続きなんです。
なぜ遺産分割が申告期限内に終わらないことがあるの?
相続税の申告期限である10か月は、長いようで意外と短いものです。特に、以下のようなケースでは、期限内に遺産分割を終えるのが難しいことがあります。
- 相続人の間で意見が対立し、話し合いが難航している
- 相続人の数が多く、全員の合意を得るのに時間がかかる
- 相続人の中に行方不明の方や、海外に住んでいる方がいて連絡が取れない
- 遺産の種類が多く、財産の評価や調査に時間がかかっている
- 遺言書の内容に納得できない相続人がいる
このような理由で分割協議が長引くことは、決して珍しいことではありません。だからこそ、救済措置として「申告期限後3年以内の分割見込書」が用意されているのですね。
提出しないとどうなる?未分割申告のデメリット
もし遺産分割がまとまらないまま申告期限を迎えた場合でも、申告は必ず行わなければなりません。この場合、一旦、各相続人が法定相続分で財産を取得したと仮定して相続税を計算し、申告・納税します。これを「未分割申告」といいます。
しかし、この未分割申告には大きなデメリットがあります。それは、相続税額を大幅に軽減できる特例が使えなくなってしまうことです。
利用できなくなる主な特例 | デメリットの内容 |
---|---|
配偶者の税額軽減 | 配偶者が相続した財産のうち、最低でも1億6,000万円までは相続税がかからなくなる特例が使えません。 |
小規模宅地等の特例 | 亡くなった方の自宅や事業用の土地の評価額を最大80%減額できる特例が使えません。 |
物納 | 現金で納税できない場合に、不動産などで税金を納める「物納」の制度が利用できません。 |
これらの特例が使えないと、一時的に納める相続税額が非常に高額になってしまう可能性があります。
分割見込書を提出する最大のメリット
そこで登場するのが「申告期限後3年以内の分割見込書」です。この書類を提出しておくことで、上記のデメリットを解消できます。
具体的には、申告期限から3年以内に無事遺産分割が完了すれば、改めて特例を適用した正しい税額で計算し直すことができるのです。そして、最初に払い過ぎた税金があれば、「更正の請求」という手続きをすることで、その差額を還付してもらえます。つまり、将来的に特例を受ける権利を確保しておくための、いわば「予約券」のようなものだと考えると分かりやすいかもしれませんね。
どんな場合に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出するの?
この書類は、誰でも提出すればよいというわけではありません。提出が必要となるのは、以下の3つの条件がすべて当てはまる場合です。
- 相続税の申告義務がある
遺産の総額が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超えていて、そもそも相続税の申告が必要なケースです。 - 申告期限までに遺産分割がまとまらない
前述したような理由で、申告期限である10か月以内に遺産分割協議が成立しない見込みのケースです。 - 後から適用を受けたい特例がある
特に「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」など、節税効果の大きい特例の適用を将来的に受けたいと考えているケースです。
もし遺産が現金のみで、配偶者もいないようなケースでは、適用できる特例がないため、この書類を提出する実益はほとんどありません。
分割見込書の提出で適用を確保できる主な特例
この書類を提出することで、将来の適用が期待できる主な特例は以下の通りです。特に上の2つは節税効果が非常に大きいので、対象となる方は必ず手続きをしておきましょう。
特例の名称 | 制度の概要 |
---|---|
配偶者の税額軽減 | 被相続人の配偶者が取得した遺産が「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分」のいずれか多い金額までであれば、相続税がかからない制度です。 |
小規模宅地等の特例 | 亡くなった方が住んでいた自宅の敷地や、事業をしていた土地などを相続した場合に、その土地の評価額を最大80%減額できる制度です。 |
特定計画山林についての課税価格の計算の特例 | 一定の要件を満たす山林の評価額を減額できる制度です。 |
特定事業用資産についての課税価格の計算の特例 | 亡くなった方の事業を引き継ぐ場合に、その事業用資産(非上場株式など)の評価額を減額できる制度です。 |
「申告期限後3年以内の分割見込書」の書き方と入手方法
手続き自体はそれほど難しくありません。書類の入手方法と書き方のポイントをご紹介します。
書類の入手方法
「申告期限後3年以内の分割見込書」の様式は、国税庁のホームページからダウンロードできます。また、最寄りの税務署の窓口でもらうことも可能です。相続税の申告書を作成する際に、一緒に準備しておきましょう。
【記入例】分割されていない理由の書き方
なぜ申告期限までに遺産分割ができなかったのか、その理由を簡潔に記載します。税務署は詳細な事情聴取をするわけではないので、客観的な事実をありのままに書けば大丈夫です。
<記入例>
- 相続人間において、遺産分割の協議が整わないため。
- 相続人の一人である〇〇が海外に居住しているため、協議に時間を要しているため。
- 遺産の範囲について争いがあり、現在調査中であるため。
【記入例】分割の見込みの詳細の書き方
今後の遺産分割が、いつ頃、どのように進められる予定なのかを記載します。具体的な予定が立っていなくても問題ありません。
<記入例>
- 今後、相続人間で協議を進め、1年以内に分割が完了する見込みです。
- 現在、家庭裁判所において遺産分割調停の手続きを進めており、その決定に従い分割を行う予定です。
- 分割の見込みは現時点では確定していませんが、確定し次第、速やかに分割を行う予定です。
適用を受けようとする特例等にチェック
書類には、先ほどご紹介した特例の名称があらかじめ記載されています。その中から、将来適用を受けたいと考えている特例の番号に〇を付けるだけで完了です。どの特例が使えるか分からない場合は、税理士などの専門家に相談すると安心ですね。
提出後の流れと注意点
分割見込書を提出した後の手続きの流れと、いくつか注意しておきたい点について確認しておきましょう。
提出から税金の還付までの基本的な流れ
手続きは以下のステップで進みます。
- 申告と納税:相続税の申告期限(10か月以内)に、法定相続分で計算した相続税申告書と「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出し、納税します。
- 遺産分割協議の成立:申告期限から3年以内に、相続人全員で遺産分割協議をまとめ、遺産分割協議書を作成します。
- 更正の請求:遺産分割が成立した日の翌日から4か月以内に、特例を適用して再計算した内容で「更正の請求」という手続きを税務署に行います。
- 税金の還付:税務署の審査を経て、最初に納め過ぎた税金が指定の口座に還付されます。
特に、更正の請求には「分割成立の翌日から4か月」という期限があるので、忘れないように注意しましょう。
一時的な納税資金の準備が必要
重要な注意点として、分割見込書を提出しても、最初の申告の段階では特例が適用されないため、納税額は高くなります。後で還付されるとはいえ、一旦はまとまった納税資金を準備しなければなりません。遺産分割がまとまっていないと、相続税の延納や物納も利用できないため、資金繰りについては事前に計画しておくことが大切です。もし納税が難しい場合は、税務署に相談することで納税の猶予が認められるケースもあります。
申告自体を怠るとペナルティが発生
「どうせ分割が決まっていないから」と、申告期限内に申告自体を怠ってしまうのは絶対に避けてください。期限までに申告・納税をしなかった場合、本来の税金に加えて「無申告加算税」や「延滞税」といったペナルティが課されてしまいます。遺産分割協議が難航していても、期限内に未分割申告と分割見込書の提出は必ず行いましょう。
3年以内に分割がまとまらない場合はどうする?
相続トラブルが訴訟にまで発展した場合など、どうしても3年以内に遺産分割がまとまらないケースもあります。そんな場合でも、まだ諦める必要はありません。
「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」
3年以内に分割できなかったことについて「やむを得ない事由」があると税務署長に認められれば、特例適用のチャンスを引き続き残すことができます。そのために提出するのが「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」という書類です。
承認申請書の提出期限と「やむを得ない事由」
この申請書は、相続税の申告期限から3年を経過した日の翌日から2か月以内に提出する必要があります。期限が短いので注意が必要ですね。
そして、「やむを得ない事由」として認められるのは、以下のようなケースです。
- 遺産分割に関して訴訟や調停が提起されている場合
- 相続人の中に認知症の方がおり、成年後見人選任の申し立てを行っている場合
- 遺言の有効性をめぐって訴訟になっている場合
単に「相続人間の話し合いがまとまらない」というだけでは、やむを得ない事由とは認められない可能性が高いので、注意してください。
やむを得ない事由が解消された後の手続き
この承認を受けた後、訴訟の判決が確定するなどして遺産分割が可能になったら、その事由が解消した日の翌日から4か月以内に遺産分割を完了させなければなりません。そして、その分割が完了した日から4か月以内に「更正の請求」を行うことで、ようやく特例の適用と税金の還付を受けることができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。「申告期限後3年以内の分割見込書」は、相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらない場合に、将来の大きな節税メリットを確保するための非常に重要な書類です。手続きの流れをまとめると以下のようになります。
- 相続トラブルなどで遺産分割が期限内にまとまらない場合は、まず法定相続分で申告・納税する。
- その際、必ず「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出する。
- 原則として3年以内に分割をまとめ、「更正の請求」をすることで払い過ぎた税金の還付を受ける。
- 訴訟などで3年を超える場合は、「やむを得ない事由がある旨の承認申請書」で期間を延長できる可能性がある。
相続税の手続きは複雑で、期限も厳格に定められています。ご自身での判断が難しい、手続きに不安があるという方は、お早めに税理士などの専門家にご相談くださいね。
参考文献
申告期限3年以内の分割見込み書のよくある質問まとめ
Q. 申告期限後3年以内の分割見込書とは何ですか?
A. 相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらない場合に、相続税申告書に添付して税務署へ提出する書類です。これを提出することで、将来遺産分割が確定した際に「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった有利な特例を適用できるようになります。
Q. なぜ分割見込書の提出が必要なのですか?
A. 相続税の特例(配偶者の税額軽減など)は、原則として申告期限までに分割が確定していることが適用要件だからです。分割見込書を提出することで、未分割の状態でも将来特例を適用する権利を留保できます。
Q. どのような理由で分割見込書を提出するのですか?
A. 相続人間で遺産分割の話し合いがまとまらない、相続財産の評価に時間がかかっている、遺言の有効性をめぐって争っているなど、申告期限内に遺産分割協議が完了しない見込みの場合に提出します。
Q. 分割見込書を提出しないとどうなりますか?
A. 申告期限までに提出しないと、たとえ後から遺産分割がまとまっても、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」などの節税効果の大きい特例が一切受けられなくなります。その結果、本来よりも多額の相続税を納めることになる可能性があります。
Q. 分割見込書はいつまでにどこへ提出すればよいですか?
A. 相続税の申告書に添付して、申告期限(被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署へ提出します。
Q. 3年以内に分割協議がまとまらなかった場合はどうなりますか?
A. 3年を経過する日の翌日から2ヶ月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署に提出し、承認を得られれば、特例適用の期限を延長できます。ただし、「やむを得ない事由」には訴訟が続いているなど厳格な要件があります。