相続税などの申告期限をうっかり過ぎてしまったとき、「先に税金を納めるべきか、それとも申告書を提出するのが先か」と悩んでしまいますよね。期限を過ぎてしまうと、ペナルティとして本来の税金に加えて「延滞税」や「加算税」が課されてしまいます。少しでも負担を軽くするためには、正しい手順で迅速に対応することが大切です。この記事では、申告期限に遅れた場合の申告と納付の順番、そして課されるペナルティの内容と対策について、わかりやすく解説します。
申告と納付、どちらが先?期限を過ぎた場合の正しい順番
申告期限を過ぎてしまった場合、申告と納付のどちらを優先すべきか迷うかもしれません。結論から言うと、1日でも早く「申告」と「納付」の両方を完了させることが最も重要です。しかし、手続きの順序によってペナルティの額に影響が出ることがあります。
原則は「申告」をしてから「納付」
税金のルールでは、まず申告書を提出して納めるべき税額を確定させ、その確定した税額を納付するというのが基本的な流れです。申告書がなければ、いくら納めるべきかが正式に決まらないため、この順番が原則となります。特に、税額の計算が複雑で正確な金額がまだわからない場合は、まず申告書の作成を急ぎましょう。
先に納付するメリットとは?
申告と納付の遅延に対するペナルティには、主に「延滞税」と「無申告加算税」があります。このうち、延滞税は「納付」の遅れに対して課されるペナルティで、法定納期限の翌日から納付が完了する日までの日数に応じて計算されます。つまり、1日でも早く納付すれば、その分だけ延滞税の負担を減らすことができるのです。
もし、すでにおおよその納税額がわかっているなら、申告書の提出を待たずに先に納付してしまうことで、延滞税の増加を食い止めるというメリットがあります。税務署に連絡し、概算額で納付したい旨を伝えれば、納付書を送ってもらえる場合があります。
結論:できるだけ早く両方済ませることが重要
どちらを先にするか悩むよりも、気づいた時点ですぐに行動を起こすことが何よりも大切です。理想的な動き方は以下の通りです。
- 納税資金の準備ができ次第、すぐに税金を納付する。
- 納付と並行して、急いで申告書の作成を進め、一日でも早く提出する。
このように、「先に納付、すぐに申告」を心がけることで、ペナルティを最小限に抑えることができます。
申告・納付が遅れるとどうなる?ペナルティの種類と内容
申告や納付が期限に間に合わなかった場合、本来納めるべき税金(本税)とは別に、ペナルティとして「附帯税」が課されます。主なものに「延滞税」と「加算税」があります。
納付が遅れた場合のペナルティ「延滞税」
延滞税は、税金の納付が法定納期限に遅れたことに対する利息のようなペナルティです。法定納期限の翌日から実際に納付した日までの日数に応じて、自動的に計算されます。納付が遅れるほど、延滞税の額は増えていきます。
申告自体が遅れた場合のペナルティ「無申告加算税」
無申告加算税は、申告期限までに申告書を提出しなかったことに対するペナルティです。税務署から指摘を受ける前に自主的に申告した場合と、税務調査の通知を受けた後や調査で指摘されてから申告した場合とでは、税率が大きく異なります。
申告内容に不備があった場合のペナルティ
期限内に申告はしたものの、申告した税額が本来納めるべき額より少なかった場合には「過少申告加算税」が課されます。また、意図的に財産を隠したり、書類を偽造したりするなど、悪質だと判断された場合には、無申告加算税や過少申告加算税に代わって、最も重い「重加算税」が課されます。
ペナルティ「延滞税」の計算方法
延滞税は、納付が遅れた日数に応じて日割りで計算されます。税率は納付期限から2か月を経過するかどうかで変わるため、1日でも早い納付が重要です。
延滞税の税率
延滞税の税率は、納期限を基準に2段階に分かれています。令和4年1月1日から令和7年12月31日までの期間の税率は以下の通りです。
期 間 | 税率(年率) |
納期限の翌日から2か月を経過する日まで | 年2.4% |
納期限の翌日から2か月を経過した日以後 | 年8.7% |
※「納期限」とは、期限後申告や修正申告の場合は「申告書を提出した日」となります。
延滞税の計算例
例えば、本来納めるべき相続税が1,000万円で、法定納期限から90日(約3か月)遅れて納付した場合の延滞税を計算してみましょう。(10,000円未満の端数は切り捨てて計算します)
- 最初の2か月(61日間)の延滞税
1,000万円 × 2.4% × 61日 ÷ 365日 = 40,109円 - 2か月を超えた期間(29日間)の延滞税
1,000万円 × 8.7% × 29日 ÷ 365日 = 69,123円 - 合計額
40,109円 + 69,123円 = 109,232円
100円未満は切り捨てられるため、納める延滞税は 109,200円 となります。
ペナルティ「無申告加算税」の計算方法
無申告加算税は、納めるべき税額に対して、申告のタイミングに応じた税率を掛けて計算されます。
無申告加算税の税率
税率は、税務署から指摘される前に自主的に申告したか、指摘後に申告したかで大きく変わります。
申告のタイミング | 税率 |
税務調査の通知を受ける前に自主的に申告した場合 | 納付すべき税額の5% |
税務調査の通知を受けた後~調査による指摘前に申告した場合 | 納付すべき税額の50万円までは10%、50万円を超える部分は15% |
税務調査で指摘を受けてから申告した場合 | 納付すべき税額の50万円までは15%、50万円を超える部分は20% |
※令和6年1月1日以降に法定申告期限が到来するものについては、納付すべき税額が300万円を超える部分の税率がさらに高くなるなど、改正が行われています。
無申告加算税が免除されるケース
期限後申告であっても、以下の全ての要件を満たす場合は、無申告加算税は課されません。
- 申告期限から1か月以内に自主的に申告していること。
- 期限後申告に係る税金の全額を、法定納期限までに納付していること。
- 過去5年間に無申告加算税や重加算税を課されたことがないこと。
この免除規定を受けるには「法定納期限までの納付」が必要なため、申告は遅れても納付だけは期限内に済ませておくことが重要になります。
ペナルティを少しでも軽くするための対策
期限を過ぎてしまった場合でも、適切な対応をとることでペナルティの負担を軽減できる可能性があります。
気づいたらすぐに自主的に申告・納付する
これまで見てきたように、延滞税は日割りで増え、無申告加算税は税務署からの指摘で税率が上がります。したがって、ペナルティを最小限に抑える最大の対策は、気づいた時点ですぐに自主的に申告と納付を行うことです。「バレないかもしれない」と放置するのは最も危険です。税務署はさまざまな情報を把握しており、いずれ指摘を受ける可能性が非常に高いと考えましょう。
災害などやむを得ない理由がある場合は?
地震や台風などの災害、あるいは納税者自身の重い病気など、やむを得ない理由によって申告・納付ができなかった場合は、「災害による申告、納付等の期限延長申請」を行うことで、申告・納付の期限を延長してもらえる可能性があります。この申請が認められれば、延長された期間についての延滞税はかかりません。ただし、延長が認められた場合、延長後の期限内に「納付してから申告」しないと、わずかながら延滞税が発生するケースがあるため注意が必要です。
資金が足りない場合の対処法(延納・物納)
「税金が高額で、現金で一括納付するのが難しい」という場合、相続税には救済措置として「延納」と「物納」という制度があります。
- 延納:担保を提供することで、税金を分割で納付できる制度です。
- 物納:延納でも納付が困難な場合に、不動産などの相続財産そのもので税金を納める制度です。
どちらも厳しい要件があり、申請が必要です。納付が難しい場合は、早めに税務署や税理士に相談しましょう。
まとめ
申告期限を過ぎてしまった場合、どちらを先に行うか悩むかもしれませんが、最も大切なのは「1日でも早く申告と納付の両方を済ませる」ことです。あえて順番をつけるなら、延滞税の増加を抑えるために納税資金が準備でき次第「先に納付」し、間髪入れずに「申告」を行うのが賢明な判断と言えるでしょう。
ペナルティは避けられないかもしれませんが、自主的に、そして迅速に行動することでその負担を大きく減らすことができます。もし手続きに不安がある場合は、専門家である税理士に相談することも検討してください。
参考文献
申告・納税が期限に遅れた場合のよくある質問まとめ
Q.申告期限に遅れてしまいました。納付と申告、どちらを先にすれば良いですか?
A.1日でも早く申告と納付の両方を済ませることが重要です。基本的には、申告書を作成して納付額を確定させてから、すぐに納付するのが一般的な流れとなります。
Q.申告と納付が遅れると、どのようなペナルティがありますか?
A.申告が遅れると「無申告加算税」が、納付が遅れると「延滞税」が課される可能性があります。これらは遅れるほど金額が増えるため、速やかな対応が必要です。
Q.とりあえず先に納税だけ済ませることはできますか?
A.概算の税額で先に納付することも可能ですが、申告額と異なった場合、追加納付や還付の手続きが必要になります。申告書を提出して正確な税額を確定させてから納付する方がスムーズです。
Q.ペナルティ(延滞税)を少しでも減らす方法はありますか?
A.はい、延滞税は納付が完了するまでの日数に応じて計算されます。そのため、申告書の作成に時間がかかっても、先に納税を済ませておくことで、その日以降の延滞税の発生を抑えることができます。
Q.税金が払えないのですが、申告だけ先にしても良いですか?
A.はい、納税が難しい場合でも、申告だけは必ず速やかに行ってください。申告をしないと無申告加算税が課され、ペナルティが大きくなります。納税については税務署に相談することで分割納付などが認められる場合があります。
Q.期限後申告はどのように行えばよいですか?
A.通常の確定申告と同様に申告書を作成し、税務署に提出します。提出後、納付書やクレジットカードなどを利用して納税します。なるべく早く手続きを済ませましょう。