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相続した事業の経費は確定申告で計上OK?事業所得の節税ポイント

2025-07-26
目次

ご家族が亡くなり、その事業を引き継ぐことになった場合、相続手続きなどで様々な費用がかかりますよね。「これらの費用は、引き継いだ事業の確定申告で経費にできるのかな?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。結論からお伝えすると、事業に直接関連する一部の費用は、事業所得の経費として計上することが可能です。ただし、すべての費用が対象になるわけではありません。この記事では、どのような費用が経費になり、どのような費用がならないのか、分かりやすく解説していきます。

事業所得の経費にできる相続関連費用

相続をきっかけに支払った費用の中でも、引き継いだ事業の運営に直接関わるものは、事業所得を計算する際の必要経費として認められます。具体的にどのような費用が当てはまるのか、一緒に見ていきましょう。

事業用資産の相続登記費用

亡くなった方(被相続人)から、事業で使っていた店舗や事務所、工場といった不動産を相続した場合、その名義をご自身に変更するための手続き(相続登記)にかかった費用は、事業所得の経費にできます。これには、以下のようなものが含まれます。

登録免許税 不動産の固定資産税評価額の0.4%です。例えば評価額が2,000万円の土地なら8万円かかります。
書類取得費用 戸籍謄本(450円)、印鑑証明書(300円前後)など、登記に必要な書類を集めるための実費です。
司法書士への報酬 相続登記の手続きを司法書士に依頼した場合に支払う報酬も経費になります。

もし、その不動産がご自宅兼事務所のように、プライベートと事業の両方で使われている場合は、事業として使用している面積の割合などで按分し、事業用の部分だけを経費として計上する必要がありますので注意してくださいね。

事業用資産にかかる固定資産税

事業で使っている土地や建物、機械など(償却資産)にかかる固定資産税も、もちろん必要経費になります。ただし、相続が発生した年は、誰がどのタイミングで経費にするかが少し複雑です。

ポイントは、固定資産税の納税通知書がいつ届いたか、です。

  • 相続開始「前」に納税通知書が届いていた場合:その年の固定資産税は、原則として亡くなった方の経費となります。亡くなった方の所得税申告である「準確定申告」で計上します。もし、相続人がその固定資産税を支払った場合は、相続人が支払った分を、ご自身の確定申告で経費にすることができます。
  • 相続開始「後」に納税通知書が届いた場合:その固定資産税は、事業を引き継いだ相続人の経費として、ご自身の確定申告で計上します。

その他の事業に関連する費用

上記以外にも、事業との直接的な関連性が認められれば経費にできるものがあります。例えば、事業で使っていたトラックなどの車両の名義変更にかかる費用や、事業を引き継ぐにあたって、許認可の再取得が必要になった場合の申請費用などが考えられます。

事業所得の経費にできない相続関連費用

相続には様々な費用がかかりますが、残念ながら事業とは直接関係がないと判断される費用は、事業所得の経費にすることはできません。間違えて計上しないよう、代表的なものを確認しておきましょう。

相続税そのもの 相続税は、財産を取得したことに対してかかる税金であり、事業の収益を得るために直接必要な費用とは考えられていないため、経費にはなりません。
葬儀費用 お通夜やお葬式にかかる費用は、社会的な儀式であり、個人的な家事上の費用とみなされるため、事業の経費にはできません。
遺産分割協議に関する費用 相続人間で遺産の分け方を話し合う際に、弁護士などに依頼した費用は、あくまで相続人間の財産分割に関する費用であり、事業運営とは直接関係がないため経費にはなりません。
相続税申告のための税理士報酬 相続税の申告を税理士に依頼した費用も、相続税に関する手続き費用ですので、事業所得の経費とは区別されます。

これらの費用は事業所得の経費にはなりませんが、このうち葬儀費用などは、後ほど説明する「相続税の申告」の際に、相続財産の総額から差し引くことができますよ。

「相続税の申告」と「所得税の確定申告」の違いを理解しよう

相続に関する費用を考える上で、「相続税の申告」と「所得税の確定申告」という2つの手続きの違いをしっかり理解しておくことが、とても大切です。この2つを混同してしまうと、税金の計算を間違える原因になってしまいます。

相続税の申告とは?

こちらは、亡くなった方から受け継いだ財産の総額に対してかかる税金の申告です。亡くなった方のプラスの財産(預貯金、不動産、株式など)から、マイナスの財産(借金や未払金など)を差し引いて、課税対象となる遺産額を計算します。このとき、葬儀費用亡くなった方の未払いの税金や医療費などの債務を財産総額から差し引くことができます。これを「債務控除」といいます。

所得税の確定申告とは?

こちらは、個人が1年間(1月1日~12月31日)に得た所得に対してかかる税金の申告です。事業を引き継いだ場合は、その事業で得た収入から「事業を行う上で直接必要だった経費」を差し引いて、事業所得を計算します。ここで経費として計上できるのが、先ほどご説明した事業用資産の相続登記費用固定資産税などです。

確定申告する際の注意点

相続した事業に関する経費を、ご自身の確定申告で計上する際には、いくつか注意しておきたいポイントがあります。

準確定申告を忘れずに

亡くなった方が事業をされていた場合、その年の1月1日から亡くなった日までの所得について、相続人が代わって確定申告を行う必要があります。これを「準確定申告」といいます。この手続きは、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に行わなければなりません。亡くなった方が支払うべきだった経費(例えば、年の途中で亡くなった場合の固定資産税など)は、この準確定申告で計上することになります。

領収書などの証拠書類は必ず保管

経費として計上するすべての費用について、領収書や請求書、契約書といった証拠書類は、税務調査などで提示を求められる可能性があるため、大切に保管しておきましょう。特に、司法書士への報酬などは、何のためにいくら支払ったのかが明確にわかるようにしておくことが重要です。

相続財産を売却した場合(譲渡所得)との関係

もし相続した事業用の土地や建物を売却した場合、少し話が変わってきます。この場合、支払った相続税の一部を、売却益(譲渡所得)の計算上、資産の取得費に加算できる「取得費加算の特例」という制度があります。これは事業所得の経費とは別の話ですが、相続した資産を売却する可能性がある場合は、このような特例があることも知っておくと役立ちます。

まとめ

相続で事業を引き継いだ場合、すべての相続費用が事業所得の経費になるわけではありません。経費として認められるのは、あくまで「事業に直接関連する費用」です。具体的には、事業で使う不動産の相続登記費用や固定資産税などが該当します。一方で、相続税そのものや葬儀費用、遺産分割に関する費用は対象外です。
大切なのは、「相続税の申告」で控除できるものと、「所得税(事業所得)の確定申告」で経費にできるものを、きちんと区別することです。この仕分けを正しく行うことが、適切な節税につながります。もし判断に迷ったり、手続きが複雑で不安に感じたりした場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

No.2215 固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合|国税庁

No.4126 相続財産から控除できる債務|国税庁

No.4129 相続財産から控除できる葬式費用|国税庁

No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁

事業相続と確定申告の経費に関するよくある質問まとめ

Q.被相続人の事業経費は、相続人の確定申告で経費にできますか?

A.原則として、被相続人が亡くなるまでに発生した経費は被相続人の準確定申告で計上します。相続人が事業を引き継いだ後に発生した経費は、相続人自身の確定申告で経費として計上します。発生した時期で判断するのが基本です。

Q.被相続人が生前に利用したサービスの支払いを、死亡後に相続人が行いました。この支払いは誰の経費になりますか?

A.サービスの提供が完了し、支払う義務が被相続人の生前に確定していた場合、その費用は被相続人の準確定申告の対象となります。相続人が代わりに支払ったとしても、相続人の事業経費にはできません。

Q.相続した事業用資産の減価償却費の計算はどうなりますか?

A.被相続人の準確定申告では、年の初めから死亡日までの期間に応じた減価償却費を計上します。相続人は、相続した日(事業開始日)から年末までの期間に対応する減価償却費を自身の確定申告で経費として計上できます。

Q.被相続人が持っていた在庫(棚卸資産)を相続しました。経費の処理はどうすればよいですか?

A.被相続人の準確定申告では、死亡時の在庫を期末棚卸高として計上します。相続人は、その在庫の相続時の評価額を、自身の事業の期首商品棚卸高として計上し、事業を開始します。

Q.被相続人は青色申告でした。相続人も自動的に青色申告を引き継げますか?

A.青色申告の承認は自動的には引き継がれません。相続人が新たに事業主として青色申告を行うためには、定められた期限内に「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。

Q.事業の相続手続きにかかった専門家への報酬などは経費になりますか?

A.遺産分割協議や相続登記など、相続そのものにかかった費用は、事業所得の必要経費にはなりません。ただし、これらの費用は相続税の計算上、債務として遺産総額から控除できる場合があります。

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