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相続した実家の売却、税金はいくら?知らないと損する特例や計算方法を解説

2025-06-24
目次

親から実家を相続したけれど、住む予定がないため売却を考えている…という方は多いのではないでしょうか。大切な実家を売却する際には、大きな金額が動くと同時に、「税金」のことも考えなくてはなりません。特に、売却で利益が出た時にかかる「譲渡所得税」は、知らずにいると数百万円もの大きな負担になることも。でも、ご安心ください。不動産の売却には、税金の負担を軽くするための様々な特例制度が用意されています。この記事では、相続した実家を売却した時にかかる税金の種類や、賢く節税するための特例について、専門用語をできるだけ使わずに、分かりやすく解説していきます。ご自身の状況に合った節税方法を見つけて、損のない不動産売却を目指しましょう。

実家を売却するときにかかる税金は4種類

実家を相続してから売却するまでには、いくつかのタイミングで税金を支払う必要があります。具体的には、以下の4つの税金が関係してきます。それぞれいつ、どのくらいかかるのか見ていきましょう。

税金の種類 概要
相続税 実家を含む遺産を相続した時にかかる税金
登録免許税 実家の名義を自分に変更(相続登記)する時にかかる税金
印紙税 不動産の売買契約書を作成する時にかかる税金
譲渡所得税・住民税 実家を売却して利益(譲渡所得)が出た時にかかる税金

【相続時】相続税

相続税は、亡くなった方(被相続人)から財産を受け継いだ時にかかる税金です。ただし、誰でも必ずかかるわけではありません。相続税には「基礎控除」という非課税枠があり、遺産の総額がこの基礎控除額を下回る場合は、相続税はかからず、申告も不要です。

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

例えば、相続人が配偶者と子供2人の合計3人だった場合、基礎控除額は「3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円」となります。遺産の総額が4,800万円以下であれば、相続税の心配はありません。もし超える場合は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告と納税が必要です。

【名義変更時】登録免許税

相続した実家を売却するためには、まず家の名義を亡くなった親からご自身の名義に変更する「相続登記」という手続きが必要です。この登記手続きの際に法務局に納める税金が登録免許税です。

登録免許税 = 不動産の固定資産税評価額 × 0.4%

例えば、固定資産税評価額が2,000万円の実家であれば、登録免許税は「2,000万円 × 0.4% = 8万円」となります。固定資産税評価額は、毎年市区町村から送られてくる固定資産税の納税通知書で確認できます。なお、登記手続きは複雑なため司法書士に依頼することが一般的で、その場合は別途5万円~10万円程度の手数料がかかります。

【売買契約時】印紙税

無事に買主が見つかり、売買契約を結ぶ際には、契約書に収入印紙を貼ることで「印紙税」を納めます。税額は、契約書に記載される売買価格によって決まります。

契約金額 印紙税額(軽減措置適用後)
500万円超 1,000万円以下 5,000円
1,000万円超 5,000万円以下 1万円
5,000万円超 1億円以下 3万円

※不動産売買契約書については、現在、税額が軽減される措置が取られています(令和9年3月31日まで)。

【売却後】譲渡所得税・住民税

実家を売却して利益が出た場合、その利益に対してかかる税金が「譲渡所得税」と「住民税」です。これは4つの税金の中で最も高額になる可能性があり、特に注意が必要です。利益(譲渡所得)は、以下の計算式で求められます。

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)

取得費とは、親がその実家を購入したときの代金や手数料のことです。もし購入時の契約書などがなく取得費が分からない場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計算します。しかし、これだと取得費が非常に低く計算されてしまい、税金が高くなる可能性があるので注意が必要です。

譲渡費用とは、売却のために直接かかった費用のことで、仲介手数料や印紙税などが含まれます。

この計算で出た譲渡所得に対して、実家の所有期間に応じた税率をかけて税額が決まります。なお、相続した不動産の所有期間は、親が取得した日を引き継ぐことができます。

所有期間 税率(所得税+復興特別所得税+住民税)
長期譲渡所得(売却した年の1月1日時点で所有期間が5年超) 20.315%
短期譲渡所得(売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下) 39.63%

知らないと大損!実家売却で使える節税特例

譲渡所得税は高額になりがちですが、ご安心ください。条件を満たせば、税金の負担を大きく減らせる「特例(特別控除)」が用意されています。ここでは、代表的な特例を「実家に住んでいた場合」と「空き家だった場合」に分けてご紹介します。

【ケース1】相続した実家に住んでいた場合に使える特例

亡くなった親と一緒に住んでいた、あるいは相続後にご自身が住んでいた実家を売却する場合には、主に以下の特例が利用できる可能性があります。

居住用財産の3,000万円特別控除

これは、マイホームを売却した際に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できるという非常に強力な特例です。譲渡所得が3,000万円以下であれば、この特例を使うことで税金がゼロになります。

主な適用要件
・ご自身が住んでいる家、または住まなくなってから3年目の年末までに売却すること。
・親子や夫婦など、特別な関係にある人への売却ではないこと。
・売却した年の前年、前々年にこの特例を使っていないこと。

10年超所有の軽減税率の特例

売却した実家の所有期間が10年を超えている場合、譲渡所得のうち6,000万円以下の部分について、通常より低い税率が適用されます。この特例は、上記の3,000万円特別控除と併用が可能です。

課税譲渡所得 軽減税率
6,000万円以下の部分 14.21%

【ケース2】相続した実家が空き家だった場合に使える特例

ご自身が住んでおらず、空き家になっていた実家を売却する場合にも、節税できる特例があります。

被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除

通称「空き家特例」と呼ばれる制度で、こちらも譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。ただし、適用要件が少し複雑なので注意が必要です。

主な適用要件
・相続の開始直前まで、亡くなった親が一人で住んでいたこと。
・昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること。(マンションは対象外)
・相続日から3年後の年末までに売却すること。
・売却代金が1億円以下であること。
・家屋を解体して更地で売るか、耐震基準を満たすようにリフォームして売ること。

【どちらのケースでも使える】知っておきたい特例

住んでいたかどうかにかかわらず、使える可能性がある重要な特例もご紹介します。

相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

これは、相続税を支払った人が、その相続税額の一部を売却した不動産の取得費に加算できるという特例です。取得費が増えることで譲渡所得が圧縮され、結果的に税金を減らすことができます。

主な適用要件
・相続によって財産を取得し、相続税を納めていること。
・相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内に売却すること。

【注意点】
この「取得費加算の特例」は、先にご紹介した「3,000万円特別控除(居住用・空き家)」とは併用できません。どちらの特例を使った方が有利になるかは、ご自身の状況によって異なりますので、税額をシミュレーションして比較検討することが大切です。

どっちがお得?税金シミュレーションで比較

特例を使うと、どれくらい税金が変わるのでしょうか。具体的な例で見てみましょう。(※計算を分かりやすくするため、復興特別所得税は省略しています)

「3,000万円特別控除」で税金がゼロになるケース

【条件】
・売却価格:4,000万円
・取得費+譲渡費用:800万円
・所有期間:5年超(長期譲渡所得)
・相続した実家に住んでいた

【特例なしの場合】
譲渡所得:4,000万円 – 800万円 = 3,200万円
税額:3,200万円 × 20% = 約640万円

【3,000万円特別控除を使った場合】
課税譲渡所得:3,200万円 – 3,000万円 = 200万円
税額:200万円 × 20% = 約40万円
→このケースでは、なんと約600万円も節税できました!もし譲渡所得が3,000万円以下なら、税金は0円になります。

「取得費加算の特例」で節税するケース

【条件】
・売却価格:6,000万円
・取得費+譲渡費用:3,000万円
・所有期間:5年超(長期譲渡所得)
・取得費に加算できる相続税額:500万円
・相続後3年10ヶ月以内に売却

【特例なしの場合】
譲渡所得:6,000万円 – 3,000万円 = 3,000万円
税額:3,000万円 × 20% = 約600万円

【取得費加算の特例を使った場合】
譲渡所得:6,000万円 – (3,000万円 + 500万円) = 2,500万円
税額:2,500万円 × 20% = 約500万円
→このケースでは約100万円の節税になりました。状況によっては3,000万円控除より有利になることもあります。

実家売却で損しないための重要ポイント

最後に、税金で損をしないために必ず押さえておきたい2つのポイントをお伝えします。

親が家を買ったときの「売買契約書」を探す!

譲渡所得の計算で非常に重要になるのが「取得費」です。親が実家を購入した時の売買契約書など、購入金額がわかる書類があれば、それを取得費として計上できます。しかし、もし書類が見つからず取得費が不明な場合、「売却価格の5%」という非常に低い金額で計算されてしまいます。これにより譲渡所得が不当に高くなり、多額の税金を支払うことになりかねません。まずは、実家の購入当時の資料が残っていないか、徹底的に探してみましょう。

売却は「相続から3年以内」がカギ

これまで見てきたように、「空き家特例」は相続開始から3年後の年末まで、「取得費加算の特例」は3年10ヶ月以内と、有利な特例の多くには期限が設けられています。「いつか売ろう」と考えているうちに期限を過ぎてしまい、何百万円も損をしてしまうケースは少なくありません。もし実家の売却を少しでも考えているなら、この「3年」という期間を一つの目安として、早めに計画を立て、行動を始めることが節税の最大のポイントです。

参考文献

まとめ

今回は、相続した実家を売却する際の税金について解説しました。特に譲渡所得税は高額になる可能性がありますが、様々な特例を知っているかどうかで、手元に残るお金が大きく変わってきます。ご自身の状況でどの特例が使えるのか、どの特例を使うのが一番有利なのかをしっかりと見極めることが大切です。特例の適用要件は複雑で、期限も設けられています。相続した実家の売却で後悔しないためにも、不動産会社はもちろん、税金の専門家である税理士にも早めに相談し、計画的に手続きを進めていくことをおすすめします。

相続した実家の売却に関する税金のよくある質問まとめ

Q. 相続した実家を売却すると、どんな税金がかかりますか?

A. 売却して利益(譲渡所得)が出た場合に、「譲渡所得税」と「住民税」、そして「復興特別所得税」がかかります。これらはまとめて確定申告で納税します。

Q. 税金の計算はどうやるの?

A. 税金は「譲渡所得 × 税率」で計算します。譲渡所得は「売却価格 – (取得費 + 譲渡費用)」で求めます。取得費は親がその家を買った価格、譲渡費用は仲介手数料などです。

Q. 税金を安くする「空き家特例」とは何ですか?

A. 一定の要件を満たす相続した空き家を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。例えば、相続開始直前まで親が一人で住んでいた、耐震基準を満たす、などの条件があります。

Q. 親が家を買ったときの金額(取得費)が分かりません。どうすればいいですか?

A. 売買契約書などが見つからない場合、売却価格の5%を「概算取得費」として計算できます。ただし、実際の取得費よりかなり低くなることが多く、税負担が増える可能性があります。

Q. 相続税を払った場合、売却時の税金も安くなりますか?

A. はい、「取得費加算の特例」が使えます。相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば、支払った相続税の一部を取得費に加算でき、税金の負担を軽減できます。

Q. 税金はいつまでに支払う必要がありますか?

A. 実家を売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行い、納税します。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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