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相続した年金受給権、税金はどうなる?課税関係をわかりやすく解説

2025-04-20
目次

ご家族が亡くなられて、個人年金などの「年金を受け取る権利(年金受給権)」を相続されることがありますよね。そのとき、「これって相続税がかかるの?」「これから年金をもらうたびに税金を払うの?」といった疑問や不安を感じる方も多いのではないでしょうか。実は、相続した年金受給権にかかる税金は、年金の種類や契約内容、そして受け取り方によって大きく変わってきます。とても複雑に感じるかもしれませんが、ポイントを押さえれば大丈夫です。この記事では、相続によって取得した年金受給権の課税関係について、一つひとつ丁寧に、そして分かりやすく解説していきますね。

相続した年金受給権にかかる税金のキホン

年金受給権を相続した場合、主に「相続税」と「所得税」という2種類の税金が関わってきます。まず、権利を相続した時点で、その年金受給権の財産的な価値に対して相続税がかかる可能性があります。そして、相続後に実際に年金としてお金を受け取る際には、その受け取った金額に対して所得税がかかることがある、という流れです。ただし、年金の種類や契約の形によっては、相続税ではなく「贈与税」の対象になったり、税金が全くかからなかったりするケースもあります。まずは、この基本的な関係性を知っておくことが大切ですよ。

相続時にかかる「相続税」

亡くなった方(被相続人)がご自身で保険料を支払っていた個人年金保険などの権利を相続した場合、その年金受給権は「みなし相続財産」として扱われ、相続税の課税対象となります。これは、現金や不動産と同じように、将来にわたってお金を受け取れるという財産的価値のある権利を引き継いだと考えられるためです。ただし、後ほど詳しくご説明しますが、すべての年金受給権に相続税がかかるわけではないので安心してくださいね。

年金受取時にかかる「所得税」

相続税の対象となった年金受給権に基づいて、実際に毎年年金を受け取っていく場合、その受け取った年金は「雑所得」という区分で所得税の課税対象になります。「相続税を払ったのに、所得税も払うの?」と二重課税を心配されるかもしれませんが、そうならないように税金の計算上でちゃんと調整される仕組みになっています。この計算方法は少し特殊ですが、損をすることはないのでご安心ください。また、受け取り方によって課税関係がガラッと変わるのも大きなポイントです。

贈与税がかかるケースも

少し特殊なケースですが、贈与税がかかることもあります。これは、亡くなった方(被保険者)と、保険料を支払っていた方(保険料負担者)、そして年金を受け取る方(受取人)がそれぞれ違う場合です。例えば、「保険料は母が支払っていたけれど、被保険者である父が亡くなったことで、子が年金受給権を取得した」というようなケースです。この場合、税務上は「母から子へ年金受給権が贈与された」とみなされ、相続税ではなく贈与税の対象となります。契約関係がどうなっているか、一度確認してみると良いでしょう。

【種類別】年金受給権の課税関係をチェック

一口に「年金」と言っても、国から支給される公的年金、会社から支給される企業年金、そして保険会社と契約する個人年金など、さまざまな種類があります。どの年金の受給権を相続したかによって、税金の扱いが大きく変わってきます。ここでは、相続税の対象になる年金とならない年金を、種類別に分かりやすく整理してみましょう。

相続税の課税対象になる年金

亡くなった方がご自身の資産で将来のために備えていた、財産的な性質の強い「私的年金」は、相続税の課税対象となるのが一般的です。代表的なものには、以下のような年金があります。

課税対象となる年金の種類 概  要
個人年金保険に係る年金受給権 亡くなった方が保険料を負担していた個人年金保険について、残りの期間の年金を受け取る権利を引き継いだ場合です。
企業年金(退職年金)に係る年金受給権 退職金を年金形式で受け取っている途中で亡くなり、その残りの期間の年金を遺族が受け取る権利です。
年金形式で受け取る生命保険金 死亡保険金を一時金ではなく、分割して年金形式で受け取ることを選択した場合の、その年金を受け取る権利です。

相続税の課税対象にならない年金

一方で、残された遺族の生活を支える「生活保障」という目的が強い年金については、相続税がかからないように法律で定められています。これらは、亡くなった方の財産を引き継ぐというよりは、遺族固有の権利として支給されるものと考えられるためです。

課税対象とならない年金の種類 概  要
遺族年金(国民年金・厚生年金) 国民年金法や厚生年金保険法に基づき、遺族の生活保障のために国から支給される公的年金です。法律で非課税と決められています。
寡婦年金 国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた夫が亡くなったときに、一定の条件を満たす妻に支給される年金です。
未支給年金 亡くなった方が受け取るはずだった、まだ支払われていない公的年金のことです。これは遺族が自身の権利として請求するため相続財産にはならず、受け取った遺族の一時所得として所得税の対象になります。

相続した年金受給権はどう評価するの?

年金受給権が相続税の対象になると分かったら、次に「その権利は一体いくらの価値があるのか?」を金額で評価しなくてはなりません。相続税の計算の基礎になる大切な部分ですね。この評価方法は少し専門的ですが、原則として、以下の3つの金額を算出して、その中で最も高い金額を評価額として採用します。

評価額の計算方法

相続税申告書に記載する年金受給権の評価額は、次の3つのうち、最も大きい金額を使います。ご自身で計算するのは大変なので、通常は保険会社に連絡すれば、相続があった日の時点での評価額を計算した証明書を発行してくれますよ。

評価の基準となる金額 説  明
解約返戻金の額 もし相続した時点ですぐにその保険契約を解約した場合に、保険会社から払い戻される金額のことです。
一時金の額 年金を分割で受け取る代わりに、一括で受け取ることができる契約の場合、その一時金として受け取れる金額です。
予定利率等で計算した金額 将来にわたって受け取る予定の年金総額を、現在の価値に割り戻して計算した専門的な金額です。残りの受取期間や契約時の予定利率などが計算に使われます。

年金を受け取る時の所得税はどうなる?

無事に相続税の申告を終えて一安心、といきたいところですが、実際に年金を受け取り始めると、今度は所得税のことが関わってきます。先ほども少し触れましたが、相続税と所得税が二重にかからないように、特別な計算方法が用意されています。受け取り方によっても扱いが全く違うので、しっかり確認しておきましょう。

年金方式で受け取る場合(雑所得)

年金を毎年、あるいは毎月など、分割して受け取る場合、その収入は雑所得として所得税の課税対象となります。ただし、受け取った年金額の全額に税金がかかるわけではありません。相続税を計算するときに評価額として計上した部分については、所得税の計算からは除外されます。具体的には、年金の支払が開始された初年度は全額が非課税となり、2年目以降、少しずつ課税される部分の割合が増えていく、という階段状の計算方法がとられています。

一時金で受け取る場合(非課税)

もし、年金として分割で受け取る方法を選ばずに、一括で一時金として受け取ることを選択した場合は、その一時金に対して所得税はかかりません。これは、その権利の価値全体に対して、すでに相続税が課税されている(または課税対象として計算されている)ためです。ただし、一般的には、保険会社での運用期間が短くなる分、年金で受け取る場合の総受取額よりも一時金の金額は少なくなることが多いです。

年金方式と一時金方式、どっちがお得?

相続した年金受給権について、「年金としてコツコツ受け取る」か、「一時金でまとめて受け取る」かを選べる場合があります。どちらの選択がご自身にとって良いのかは、税金のことだけでなく、今後のライフプランや社会保険料への影響なども含めて総合的に考えることがとても大切です。

メリット・デメリットを比較

どちらの受け取り方にも、良い点と注意すべき点があります。ここで一度、メリットとデメリットを整理してみましょう。

受け取り方 メリット・デメリット
年金方式 メリット:保険会社での運用が継続されるため、総受取額は一時金より多くなることが一般的です。計画的に定期収入を確保できます。
デメリット:毎年の所得が増えるため、所得税や住民税、国民健康保険料などが高くなる可能性があります。確定申告が必要になる場合もあります。
一時金方式 メリット:所得税がかからないため、税金の計算がシンプルです。まとまった資金を一度に手に入れられます。
デメリット:運用益が少なくなるため、総受取額は年金方式よりも少なくなる傾向にあります。

選択するときの注意点

特に注意したいのが、年金方式を選んだ場合の社会保険料への影響です。毎年の所得が増えることで、国民健康保険料の負担が増えたり、病院での医療費の自己負担割合が1割から2割や3割に上がったりする可能性があります。税金だけで「お得」かどうかを判断するのではなく、こうした社会保障制度への影響もシミュレーションした上で、ご自身の状況に合った方法を選ぶことが重要になりますね。

まとめ

相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係は、一見するととても複雑です。大切なのは、まず相続した年金が相続税の対象になるのかどうかを確認すること。そして、対象になる場合はその評価額を正しく計算し、相続税の申告に含めることです。さらに、その後実際に年金を受け取る際には、所得税のことも考慮しなくてはなりません。特に、年金方式と一時金方式のどちらを選ぶかは、手取り額に大きく影響するため、税金面や社会保険料への影響などを総合的に考えて慎重に判断したいところです。もし、ご自身での判断が難しい、手続きが不安だという場合は、税理士などの専門家に一度相談してみることをおすすめします。きっと、あなたに合った一番良い方法を一緒に考えてくれますよ。

参考文献

国税庁 No.4123 相続税等の課税対象になる年金受給権

国税庁 No.1620 相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係

国税庁 No.1615 遺族の方が支払を受ける個人年金

相続で受け取る年金の税金に関するよくある質問まとめ

Q.親から生命保険の年金をもらうことになりました。相続税は払いましたが、毎年受け取る年金にも税金はかかりますか?

A.はい、かかります。年金受給権を相続した時点では相続税の対象ですが、その後毎年受け取る年金は所得税(雑所得)の対象となり、確定申告が必要です。二重課税にならないよう、計算方法が定められています。

Q.相続した年金は、確定申告で何所得になりますか?

A.相続した生命保険契約などに基づく年金は、所得税の「雑所得」に分類されます。給与所得など他の所得と合算して税額を計算する総合課税の対象です。

Q.年金の相続税評価額はどのように計算するのですか?

A.年金受給権の相続税評価額は、①解約返戻金の額、②年金を一時金で受け取れる場合はその一時金の額、③予定利率などを基に計算した額、のうち最も高い金額で評価されます。

Q.相続した年金を一時金で受け取る場合と、年金で受け取る場合で税金は違いますか?

A.はい、異なります。一時金で受け取る場合は「一時所得」となり、年金で受け取る場合は「雑所得」となります。どちらが得かは契約内容や他の所得状況によりますので、受け取り前に税額を試算することをおすすめします。

Q.年金の所得税(雑所得)の計算方法を教えてください。

A.雑所得の金額は、その年に受け取った年金額から、その年金額に対応する保険料(必要経費)を差し引いて計算します。二重課税を避けるため、相続税の課税対象となった部分は所得税の計算上、経費として考慮されます。

Q.親が亡くなる前に、親が契約者・被保険者の年金保険の受取人を自分に変更してもらいました。この場合の税金はどうなりますか?

A.この場合、年金受給権の「贈与」を受けたことになり、贈与税の課税対象となります。その後、毎年受け取る年金については所得税(雑所得)の対象となります。これは相続とは異なる課税関係です。

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