親御さんから大切に受け継いだ株式を、今度はご自身の妻子へ生前贈与したいとお考えなのですね。将来のことを考えた素晴らしいお取り組みだと思います。ただ、その株式をいざ現金化しようとしたとき、税金の計算がどうなるのか、特に「取得費」の考え方は少し複雑で分かりにくいですよね。インターネットで調べても「相続時の株価」という言葉が出てきて、それが一体いつの時点を指すのか混乱してしまうお気持ち、よく分かります。この記事では、そんなお悩みをスッキリ解決できるよう、専門用語をできるだけ使わずに、優しく丁寧に解説していきます。
贈与された株を売却!譲渡所得の計算方法
まず、基本となるところから見ていきましょう。奥様やお子さんが贈与された株式を売却して利益が出た場合、その利益には「譲渡所得税」という税金がかかります。この利益、つまり「譲渡所得」は、以下の計算式で求められます。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
この計算式が、税金を考える上での大前提になります。それぞれの言葉の意味をもう少し詳しく見ていきましょう。
譲渡所得とは?
譲渡所得とは、簡単に言うと「資産を売却して得た儲け」のことです。今回のケースでは、株式を売って得た利益部分がこれにあたります。この譲渡所得に対して、所得税(15.315%)と住民税(5%)、合わせて20.315%の税金がかかってきます(※長期譲渡の場合)。
取得費とは?
取得費は、その株式を手に入れるために「もともとかかった費用」のことです。株式を購入したときの代金や、その際にかかった手数料などが含まれます。今回のブログで一番大切なポイントが、この「取得費」がいつの時点の価格になるのか、という点ですね。
譲渡費用とは?
譲渡費用は、株式を売却するために直接かかった費用のことです。一番分かりやすい例は、証券会社に支払う売却時の手数料ですね。売却価格から差し引くことができる経費と考えるとイメージしやすいかもしれません。
疑問解決!「取得費」はいつの時点の価格が引き継がれる?
さて、ここからが本題です。ご質問の「相続時の株価」とはいつの時点なのか、結論からお伝えしますね。譲渡所得を計算するときの「取得費」は、「あなたが親御さんから相続した時点」の株価でも、「あなたから妻子に生前贈与した時点」の株価でもありません。正解は、『大元である親御さんが、その株式を最初に購入したときの価格』が、そのまま妻子に引き継がれるのです。
なぜ、大元の購入価格が引き継がれるの?
「え、どうして?」と驚かれたかもしれませんね。これは税金のルールで、相続や贈与によって資産を受け取った場合、その資産の取得日や取得価額は、前の所有者のものをそのまま引き継ぐことになっているからです(これを「取得費の引継ぎ」と言います)。
もし、贈与された時点の価格が新しい取得費になってしまうと、それまでの値上がり益(含み益)がなかったことになり、税金がかからなくなってしまいます。それでは課税の公平性が保てないため、このようなルールが定められているんですね。
取得費が引き継がれる具体例
数字を入れて考えると、より分かりやすくなります。仮に、以下のような流れで株式が移動したとしましょう。
| タイミング | 内 容 |
| ① 親御さんが購入 | 株式を100万円で購入した。 |
| ② あなたが相続 | 親御さんから相続。この時の株価は300万円だった。 |
| ③ 妻子へ生前贈与 | あなたが妻子へ贈与。この時の株価は400万円だった。 |
| ④ 妻子が売却 | 妻子が株式を500万円で売却した。(売却手数料は5万円とします) |
この場合、譲渡所得の計算はどうなるでしょうか。
取得費は、大元である親御さんが購入した①の100万円を引き継ぎます。したがって、計算式は以下のようになります。
譲渡所得 = 500万円(売却価格) – (100万円(取得費) + 5万円(譲渡費用)) = 395万円
この395万円に対して、所得税と住民税がかかるわけです。もし勘違いして、贈与された時点の400万円を取得費として計算してしまうと、譲渡所得は95万円となり、納める税金が大きく変わってきてしまいますので注意が必要です。
もし親の購入価格が分からなかったら?
「親がいつ、いくらで買ったかなんて分からない…」というケースも少なくありません。その場合、「概算取得費」というルールがあり、売却価格の5%を取得費とすることができます。
例えば、500万円で売却した場合、その5%である25万円が取得費となります。しかし、この方法は実際の購入価格よりもかなり低くなることが多く、結果的に譲渡所得が大きくなり、税金の負担が重くなってしまう可能性が高いです。できる限り、親御さんが取引していた証券会社に問い合わせるなどして、購入時の資料を探すことを強くおすすめします。
株式の生前贈与と税金の関係
株式を生前贈与する場合、売却時の譲渡所得税だけでなく、贈与した時点でかかる「贈与税」についても知っておく必要があります。ここからは、贈与に関わる税金について見ていきましょう。
贈与税がかかるケース
贈与税には「暦年贈与」という制度があり、1年間(1月1日~12月31日)に1人あたり110万円までの贈与であれば、贈与税はかかりません。この非課税枠を超えて贈与を受けた場合に、超えた部分に対して贈与税が課税されます。
株式を贈与する場合の評価額は、原則として以下の4つの価格のうち、最も低いものを選択できます。
- 贈与した日の終値
- 贈与した月の毎日の終値の月間平均額
- 贈与した月の前月の毎日の終値の月間平均額
- 贈与した月の前々月の毎日の終値の月間平均額
例えば、奥様とお子さんそれぞれに贈与する場合、それぞれ110万円ずつ、合計220万円分の株式を非課税で贈与することが可能です。
相続時精算課税制度という選択肢も
一度にまとまった額の株式を贈与したい場合には、「相続時精算課税制度」という選択肢もあります。これは、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫へ贈与する場合に利用できる制度で、合計2,500万円までの贈与であれば贈与税がかかりません。
ただし、この制度を使って贈与した財産は、贈与した方が亡くなったときに相続財産に加算して相続税を計算する必要があります。つまり、税金の支払いを相続時まで先延ばしにする制度です。一度この制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与については暦年贈与(年間110万円の非課税枠)に戻ることができないため、慎重な判断が必要です。
【特例】相続した株を売るなら知っておきたい「取得費加算の特例」
ここで少し視点を変えて、もしあなたが親御さんから相続した株式を「贈与せずにご自身で売却していたら」どうなっていたか、というお話をします。これを知っておくことで、生前贈与が本当に最適な選択肢なのかを考えるヒントになります。
取得費加算の特例とは?
相続によって財産を取得し、その際に相続税を納めた人が、相続が開始してから3年10ヶ月以内にその財産を売却した場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できるという特例があります。これを「取得費加算の特例」といいます。
取得費が増えるということは、計算上の利益(譲渡所得)が減るため、結果的に支払う所得税・住民税を安くできる、とても有利な制度です。
生前贈与すると、この特例は使えない?
結論から言うと、あなたから生前贈与を受けた妻子は、この「取得費加算の特例」を使うことができません。なぜなら、この特例を使えるのは「相続によって財産を取得し、相続税を納めた人」だからです。奥様やお子さんは、あなたから「贈与」によって株式を取得しており、「相続」で取得したわけではありません。また、この株式に関して相続税も納めていないため、要件を満たさないのです。
もしあなたが多額の相続税を納めていて、相続から3年10ヶ月以内に株式の現金化を考えている場合、ご自身で売却して特例を使った方が、税金面で有利になる可能性があります。その上で、現金化したお金を妻子に贈与するという方法も考えられますね。
手続きの流れと注意点
最後に、実際に株式を生前贈与する際の手続きと、税金の申告について簡単に触れておきます。
証券会社での手続き
上場株式を贈与するには、まず贈与する側(あなた)と贈与される側(妻子)の双方が、同じ証券会社に口座を持っていると手続きがスムーズです。一般的には、親子間・夫婦間での贈与であることを証明する「贈与契約書」を作成し、証券会社所定の「口座振替依頼書」などの書類を提出して、株式を移す手続きを行います。必要な書類や手順は証券会社によって異なりますので、必ず事前に取引先の証券会社に確認しましょう。
税金の申告を忘れずに
贈与や売却が終わったら、税金の申告を忘れてはいけません。
| 贈与税 | 贈与を受けた妻子が、贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日に申告・納税します。(非課税枠内の場合は申告不要) |
| 譲渡所得税 | 株式を売却した妻子が、売却した年の翌年2月16日~3月15日に確定申告をして納税します。 |
これらの手続きは、それぞれ行う人が違う点にも注意してくださいね。
まとめ
今回は、相続した株式を生前贈与し、それを売却した場合の税金の疑問について解説しました。最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 贈与された株を売却したときの利益(譲渡所得)計算で使う「取得費」は、大元である親御さんが最初に購入したときの価格が引き継がれます。
- 親御さんの購入価格が不明な場合は、売却価格の5%を取得費としますが、税負担が重くなる可能性があるので、できる限り購入時の資料を探しましょう。
- 株式を生前贈与すると贈与税、売却すると譲渡所得税がかかります。それぞれ申告が必要です。
- 相続税を納めた人が3年10ヶ月以内に売却した場合に使える「取得費加算の特例」は、贈与を受けた妻子は利用できません。
税金の話は少し複雑に感じるかもしれませんが、仕組みを正しく理解することで、損をすることなく、安心して資産を次の世代に引き継ぐことができます。もしご自身での判断が難しいと感じた場合は、税理士などの専門家に相談することも検討してみてくださいね。
参考文献
国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期
相続した株式の生前贈与と売却時の税金に関するよくある質問
Q.親から相続した株を妻子に贈与し、妻子が売却しました。譲渡所得を計算する際の「取得費」は、いつの時点の株価になりますか?
A.あなた(贈与者)が親から相続した際に引き継いだ、「親がその株式を購入した時点の価格」が取得費となります。「あなたが相続した時点」や「妻子に贈与した時点」の株価ではありません。これを『取得費の引き継ぎ』といいます。
Q.なぜ贈与した時点の株価が取得費にならないのですか?
A.個人間の贈与では、贈与を受けた人(受贈者)は、贈与した人(贈与者)の取得費と取得時期をそのまま引き継ぐという税法上のルールがあるためです。したがって、贈与時点の時価ではなく、大元の所有者が購入したときの価格が基準となります。
Q.株式を妻子に生前贈与する際に、贈与税はかかりますか?
A.はい、かかる可能性があります。贈与する株式の評価額が、贈与を受ける人一人あたり年間110万円の基礎控除額を超える場合、超えた部分に対して贈与税が課税されます。贈与税の申告と納税は、贈与を受けた妻子が行う必要があります。
Q.妻子が株式を売却して利益が出た場合、どのような税金がかかりますか?
A.売却して得た利益(譲渡所得)に対して、所得税(15%)、復興特別所得税(0.315%)、住民税(5%)を合わせて合計20.315%の税金が課されます。これは確定申告によって納税します。
Q.親の相続の際に支払った相続税は、妻子の株式売却時に何か考慮されますか?
A.いいえ、考慮されません。「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」という、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度がありますが、これは相続で財産を取得した人自身が売却した場合に適用されるものです。贈与を受けた妻子には適用されません。
Q.大元の親がいつ、いくらで株を買ったか分からず取得費が不明な場合はどうなりますか?
A.取得費が不明な場合、売却代金の5%を「概算取得費」として譲渡所得を計算することができます。ただし、この方法は実際の取得費よりかなり低くなるケースが多く、税金の負担が大きくなる可能性があるため注意が必要です。