親御さんなどが亡くなって株式を相続したけれど、「名義変更ってどうすればいいの?」と不安に思っていませんか?株式の名義変更は、不動産などと同じように必ず必要な手続きです。この手続きをしないと、配当金が受け取れなかったり、いざという時に売却できなかったりする可能性があります。この記事では、相続した株式の名義変更について、手続きの流れや必要書類、注意点などをわかりやすく解説していきますので、ぜひ参考にしてくださいね。
相続した株式の名義変更、まず何から始める?
まずは全体像を把握することから始めましょう。株式には大きく分けて「上場株式」と「非上場株式」の2種類があり、それぞれで手続きの窓口や流れが異なります。最初にやるべきことは、亡くなられた方(被相続人)がどんな株式をどれだけ持っていたかを確認することです。そこから、順を追って手続きを進めていきましょう。
遺言書の有無を確認する
最初に、故人が遺言書を残しているかを確認しましょう。遺言書に「株式は〇〇に相続させる」といった記載があれば、基本的にはその内容に従って手続きを進めることになります。もし遺言書がない場合は、相続人全員での話し合い、いわゆる「遺産分割協議」を開いて、誰が株式を相続するのかを決める必要があります。
相続する株式の内容を確認する方法
次に、故人がどの証券会社に口座を持っていたか、どんな銘柄を保有していたかを確認します。ご自宅で、証券会社から定期的に送られてくる「取引報告書」や「残高証明書」といった郵便物を探してみましょう。もし、どの証券会社と取引があったか全くわからない場合は、「証券保管振替機構(ほふり)」という機関に情報開示請求を行うことで、故人が口座を持っていた証券会社を調べることができますよ。
| 請求先 | 証券保管振替機構(ほふり) |
| 手数料 | 1件につき6,050円(税込) |
誰が株式を相続するか決める(遺産分割協議)
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、「誰が」「どの株式を」「どれだけ」相続するのかを具体的に決めます。話し合いがまとまったら、その内容を「遺産分割協議書」という書面に残し、相続人全員が署名と実印での押印をします。この遺産分割協議書は、後の名義変更手続きで必ず必要になる大切な書類です。
【上場株式】の名義変更手続きの流れ
東京証券取引所などで日々売買されている、なじみのある企業の株式を「上場株式」といいます。上場株式は証券会社を通じて管理されているため、手続きは故人が取引していた証券会社で行います。
証券会社への連絡と必要書類の準備
まずは故人が口座を持っていた証券会社の相続窓口に連絡し、相続が発生した旨を伝えます。すると、相続手続きに必要な書類一式が送られてきます。一般的に必要となる書類は以下の通りですが、証券会社によって異なる場合があるので、必ず事前に確認してくださいね。
| 証券会社所定の書類 | 株式名義書換請求書、相続手続依頼書など |
| 故人に関する書類 | 出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本) |
| 相続人に関する書類 | 相続人全員の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書 |
| 遺産分割に関する書類 | 遺産分割協議書 または 遺言書 |
相続人の証券口座を開設する
相続した株式を受け取るためには、株式を相続する方ご自身の証券口座が必要です。もし故人と同じ証券会社に口座を持っていない場合は、新たに口座を開設しましょう。手続きは郵送やオンラインで完結することが多く、それほど難しくはありません。
株式の移管手続き
必要書類をすべて証券会社に提出し、不備がなければ、故人の口座から相続人の口座へ株式が移管(振替)されます。これで上場株式の名義変更手続きは完了です。手続きにかかる期間は、書類を提出してから数週間程度が目安となります。
【非上場株式】の名義変更手続きの流れ
証券取引所に上場していない中小企業の株式などを「非上場株式」といいます。非上場株式は証券会社を介さず、株式を発行している会社と直接やり取りをして手続きを進めるのが一般的です。
株式発行会社への連絡
まずは株式を発行している会社に直接連絡し、株主が亡くなったことと、相続による名義変更をしたい旨を伝えます。非上場株式は、会社の定款で株式の譲渡が制限されていることがほとんどです。そのため、名義変更には会社の承認が必要になるケースが多いです。手続き方法や必要書類は会社ごとに異なりますので、担当者の案内に従って進めましょう。
必要書類の準備と提出
会社から指示された必要書類を準備して提出します。上場株式の場合と同様に、戸籍謄本や遺産分割協議書などに加え、会社所定の「株主名簿書換請求書」などが必要になります。会社によっては、名義変更の承認を得るために株主総会や取締役会の開催が必要になることもあり、上場株式より時間がかかる場合があります。
株式の名義変更にかかる費用と税金
株式の名義変更には、手続きのための手数料のほか、相続税がかかる場合があります。どのような費用や税金が発生するのか、事前に確認しておくと安心です。
手続きにかかる費用
名義変更手続きそのものや、関連する手続きでいくつかの費用がかかります。
| 書類取得費用 | 戸籍謄本(1通450円)、印鑑証明書(1通300円程度)など、公的な書類を取得するための実費です。 |
| 証券会社の手数料 | 証券会社によっては、名義変更(移管)に手数料がかかる場合がありますが、多くの証券会社では無料です。 |
| 専門家への報酬 | 手続きを司法書士や税理士などの専門家に依頼する場合は、その報酬が発生します。 |
株式にかかる相続税
株式は現金や不動産と同じく相続財産の一部なので、相続税の課税対象となります。相続財産の総額が基礎控除額である「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」を超える場合に、相続税の申告と納税が必要です。相続税の申告と納税の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内と定められていますので、くれぐれも注意しましょう。
相続した株式の評価方法
相続税を計算するためには、相続した株式がいくらの価値を持つのか(評価額)を算出する必要があります。この評価方法は、上場株式と非上場株式で大きく異なります。
| 上場株式 | 以下の4つの価格のうち、最も低い価格で評価します。 ①相続開始日(亡くなった日)の終値 ②相続開始月の終値の月平均額 ③相続開始月の前月の終値の月平均額 ④相続開始月の前々月の終値の月平均額 |
| 非上場株式 | 会社の規模などに応じて「類似業種比準価額方式」や「純資産価額方式」といった専門的な方法で評価します。評価が非常に複雑なため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。 |
株式の名義変更をしないとどうなる?注意点
株式の名義変更手続き自体に、法律で「いつまでに」という明確な期限はありません。しかし、手続きをしないまま放置してしまうと、さまざまなデメリットやリスクが生じる可能性があります。
配当金や株主優待が受け取れない
会社からの配当金や株主優待のお知らせは、株主名簿に登録されている名義人、つまり故人宛に送られ続けます。名義変更をしないと、これらの権利を正しく受け取ることができません。特に、未受領の配当金には受け取り期限(通常3~5年)が設けられていることもあり、期限を過ぎると権利がなくなってしまうので注意が必要です。
株式を売却できない
「相続した株式を売却して現金化したい」と思っても、故人の名義のままでは売却手続きはできません。株式を売却するためには、まず相続人の名義にきちんと変更することが大前提となります。
時間が経つと手続きが複雑になる
相続手続きを放置している間に、相続人の誰かが亡くなってしまう(二次相続)など、関係者が増えて権利関係が複雑になってしまう恐れがあります。そうなると、遺産分割の話し合いがまとまりにくくなったり、集めるべき書類がさらに増えたりして、手続きがどんどん大変になってしまいます。
まとめ
相続した株式の名義変更は、少し複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつ手順を踏んでいけば必ず完了できます。まずは、故人がどんな株式を持っていたかを確認し、上場株式か非上場株式かによって適切な窓口に連絡することから始めてみましょう。特に、相続税の申告期限は10ヶ月と限られています。手続きが難しいと感じたり、非上場株式の評価で悩んだりした場合は、無理せず早めに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。大切な資産をしっかりと引き継ぐために、落ち着いて手続きを進めていきましょう。
参考文献
国税庁: No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例
相続した株式の名義変更に関するよくある質問
Q. 相続した株式の名義変更は、どのような手続きが必要ですか?
A. まず、故人が株式を預けていた証券会社に連絡し、相続が発生した旨を伝えます。その後、証券会社から指示された必要書類を提出し、審査を経て名義変更(口座への移管)が完了します。
Q. 株式の名義変更に必要な書類は何ですか?
A. 一般的に、故人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書、遺産分割協議書などが必要です。ただし、金融機関や遺言書の有無によって異なるため、必ず事前に確認してください。
Q. 手続きはどこで行えばよいですか?
A. 上場株式の場合は、故人が口座を開設していた証券会社で行います。非上場株式(未公開株)の場合は、その株式を発行している会社に直接問い合わせる必要があります。
Q. 名義変更に費用はかかりますか?
A. 戸籍謄本や印鑑証明書などの書類取得費用が実費でかかります。また、証券会社によっては名義書換手数料がかかる場合があります。詳細は各証券会社にご確認ください。
Q. 株式の名義変更手続きに期限はありますか?
A. 名義変更手続き自体に法律で定められた明確な期限はありません。しかし、配当金の受け取りや株主総会の議決権行使ができないため、相続が発生したら速やかに手続きを行うことをお勧めします。
Q. 複数の相続人で株式を分けることはできますか?
A. はい、可能です。遺産分割協議で合意した内容に基づき、各相続人の証券口座へ株式を移管することができます。1株単位で分割するのが一般的です。