ご家族が亡くなられ、突然まとまった財産を相続することになり、「このお金、どうすればいいんだろう?」と戸惑っていませんか。大きな金額を前に、とりあえず銀行口座に預けたまま…という方も多いかもしれません。しかし、現在の経済状況では、預貯金にしておくだけでは資産が目減りしてしまう可能性があるんです。大切な財産を守り、賢く活用するために、まずは正しい知識を身につけましょう。この記事では、相続した財産の適切な管理方法から、初心者でも始めやすい資産運用の方法まで、わかりやすくステップごとに解説していきます。
相続したら、まずやるべきこと
相続した財産をどう活用するか考える前に、まずはご自身の状況を正確に把握することが何よりも大切です。焦らずに、一つひとつ確認していきましょう。
相続財産の種類と金額を確認する
最初に、どのような財産をどれくらい相続したのかをリストアップしましょう。相続財産には、現金や預貯金だけでなく、さまざまな種類があります。
<主な相続財産の種類>
- 金融資産:現金、預貯金、株式、投資信託、生命保険など
- 不動産:土地、家、マンションなど
- その他:自動車、貴金属、骨董品など
また、忘れてはならないのが「マイナスの財産」です。借金や未払いの税金、住宅ローンなども相続の対象になります。プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた金額が、実際に相続する財産の総額になりますので、必ず確認してくださいね。
相続税がかかるか確認する
次に、相続税を納める必要があるかを確認しましょう。相続税は、相続した財産のすべてにかかるわけではありません。「基礎控除」という非課税枠があり、財産の総額がこの範囲内であれば、相続税の申告も納税も不要です。
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人だった場合、基礎控除額は「3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円」となります。相続した財産の総額が4,800万円以下であれば、相続税はかかりません。
もし財産総額が基礎控除額を超える場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に税務署へ申告し、納税する必要があります。期限を過ぎてしまうとペナルティが課されることもあるため、早めに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続した財産を預貯金のままにしておく3つのリスク
「とりあえず安全だから」と、相続したお金を銀行の普通預金や定期預金に預けたままにしていませんか?実は、その選択には見えないリスクが潜んでいます。
低金利でお金がほとんど増えない
現在の日本では、超低金利が続いています。例えば、大手銀行の普通預金金利は年0.02%程度(2024年時点)です。これは、1,000万円を1年間預けても、税引き後の利息はわずか1,600円ほどにしかならない計算です。これでは、資産が増えるとは言えませんよね。
インフレでお金の価値が目減りする
インフレ(インフレーション)とは、モノやサービスの値段が上がり、相対的にお金の価値が下がることです。例えば、物価が年2%上昇すると、今100万円で買えるものが、1年後には102万円出さないと買えなくなります。つまり、銀行に預けている100万円の価値は、実質的に下がってしまうのです。預金の金利がインフレ率を下回っている限り、あなたの大切な資産は何もしなくても少しずつ目減りしていることになります。
金融機関の破綻リスク(ペイオフ)
万が一、お金を預けている金融機関が破綻してしまった場合、「ペイオフ(預金保険制度)」によって預金は保護されます。しかし、保護されるのは1つの金融機関につき、預金者1人あたり元本1,000万円までとその利息のみです。相続によって1,000万円を超えるお金を手にした場合、1つの銀行にすべてを預けていると、全額が保護されない可能性があります。このリスクを避けるためには、複数の金融機関に資産を分散させるなどの対策が必要です。
どう使う?相続した財産の賢い使い道
相続した財産は、ただ持っているだけではもったいないですよね。ご自身のライフプランに合わせて、有効に活用する方法を考えてみましょう。
住宅ローンや奨学金などの繰り上げ返済
もし住宅ローンや奨学金などの借入れがある場合、繰り上げ返済に充てるのは非常に賢い選択です。特に金利の高いローンを返済することで、将来支払うはずだった多額の利息を節約でき、月々の負担を大きく減らすことができます。精神的な安心感にも繋がりますよ。
子どもの教育資金や自分の老後資金に充てる
子どもの教育資金やご自身の老後資金は、「人生の三大資金」と呼ばれるほど大きなお金が必要です。特に教育資金は、お子様の進路によって大きく変動します。例えば、大学までにかかる費用は、すべて国公立でも約1,000万円、すべて私立理系だと2,500万円以上かかるとも言われています。将来必要になることが分かっているお金に、相続した財産を計画的に充てることで、将来の不安を軽減できます。
資産運用でお金に働いてもらう
「お金は銀行に預けるもの」という考え方から一歩進んで、「お金に働いてもらう」という選択肢もあります。それが資産運用です。インフレに負けないように資産を守り、将来のためにもっと増やしていくことを目指します。次の章で、初心者の方でも始めやすい方法を詳しくご紹介しますね。
初心者でも安心!目的別おすすめ資産運用方法
「資産運用ってなんだか難しそう…」と感じる方もご安心ください。大切なのは、ご自身の目的や、どのくらいのリスクなら受け入れられるか(リスク許容度)に合わせて、適切な方法を選ぶことです。ここでは3つのタイプに分けて、おすすめの運用方法をご紹介します。
【安定重視】リスクを抑えて着実に守りたい方向け
「元本割れは絶対に避けたい」「とにかく安全第一で」という方には、安全性の高い金融商品がおすすめです。
| 商品名 | 特 徴 |
| 個人向け国債 | 日本国が発行する債券で、非常に安全性が高いです。国が元本と利子の支払いを約束しており、最低でも年0.05%の金利が保証されています。1万円から購入可能です。 |
| 貯蓄性のある保険 | 万が一の保障を備えながら、将来のためにお金を貯めることができる保険商品です(終身保険、養老保険など)。ただし、保険料払込期間の途中で解約すると、支払った保険料を下回る(元本割れする)ことが多いので注意が必要です。 |
【バランス重視】守りながら少しずつ増やしたい方向け
「預貯金よりは増やしたいけど、大きなリスクは取りたくない」という方には、分散投資が基本となる商品が向いています。
| 商品名 | 特 徴 |
| 投資信託(インデックスファンド) | 運用の専門家が、国内外の複数の株式や債券などにバランス良く投資してくれる商品です。日経平均株価などの指数に連動するインデックスファンドは、手数料が比較的安く、値動きも分かりやすいため初心者の方におすすめです。 |
| REIT(不動産投資信託) | 多くの投資家から集めた資金でオフィスビルや商業施設などの不動産を購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する商品です。少額から手軽に不動産オーナーになれる感覚で、比較的安定した分配金が期待できます。 |
【積極重視】リスクを取って大きく増やしたい方向け
「ある程度のリスクは覚悟の上で、積極的にお金を増やしたい」という方は、より高いリターンが期待できる商品に挑戦してみましょう。ただし、生活に必要なお金ではなく、あくまで余裕資金で行うことが大前提です。
| 商品名 | 特 徴 |
| 株式投資 | 企業の株式を売買し、株価の値上がり益(キャピタルゲイン)や配当金(インカムゲイン)、株主優待などを狙います。大きな利益が期待できる一方、株価が下落して損失を被る可能性もあるハイリスク・ハイリターンな投資です。 |
| 投資信託(アクティブファンド) | ファンドマネージャーと呼ばれる専門家が独自の調査に基づいて銘柄を選び、市場平均を上回るリターンを目指す投資信託です。その分、インデックスファンドに比べて手数料は高めに設定されています。 |
資産運用を始めるなら絶対活用したい!お得な非課税制度
資産運用で得た利益(儲け)には、通常、約20%の税金がかかります。しかし、国が用意しているお得な制度を使えば、この税金が非課税になります。使わない手はありませんので、ぜひ活用しましょう。
新NISA(少額投資非課税制度)
2024年から始まった新NISAは、個人の資産形成を後押しするための非常に強力な制度です。NISA口座内で得た利益には税金がかかりません。
- 生涯非課税保有限度額:1,800万円まで投資可能
- 年間投資枠:「つみたて投資枠」で120万円、「成長投資枠」で240万円、合計で最大360万円まで投資可能
- 非課税保有期間:無期限
- 売却枠の再利用:NISA口座内の商品を売却した場合、その元本分の非課税枠が翌年に復活し、再利用できる
相続したまとまった資金を一括で投資することも、毎年少しずつ投資することも可能です。いつでも引き出せるので、柔軟性が高いのも魅力ですね。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは、自分で掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで掛金を運用する、私的年金制度です。老後資金作りに特化しており、税制上のメリットが非常に大きいのが特徴です。
- 掛金が全額所得控除:毎月の掛金が所得から差し引かれ、所得税や住民税が安くなる
- 運用益が非課税:運用で得た利益に税金がかからない
- 受け取るときも税制優遇:一時金で受け取る場合は「退職所得控除」、年金形式で受け取る場合は「公的年金等控除」が適用される
ただし、iDeCoは原則として60歳まで資産を引き出すことができません。老後まで使う予定のない資金で、将来のためにコツコツ準備したいという方にぴったりの制度です。
まとめ
大切な方が残してくれた財産をどうすればよいか、その答えは一つではありません。まずは、相続した財産の全体像をしっかりと把握し、ご自身のライフプランや将来の夢と向き合うことが大切です。預貯金のままにしておくリスクを理解した上で、ローンの返済や将来の資金準備、そして資産運用といった選択肢を検討してみてください。資産運用を始める際は、NISAやiDeCoといったお得な制度を最大限に活用し、ご自身の目的に合った方法を無理のない範囲で始めることが成功の秘訣です。もし一人で考えるのが不安な場合は、ファイナンシャル・プランナーなどの専門家に相談してみるのも良いでしょう。この記事が、あなたの大切な一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
参考文献
相続財産の運用に関するよくある質問
Q.相続した財産、まず何から手をつければよいですか?
A.まずは財産目録を作成し、相続財産の全体像(預貯金、不動産、有価証券など)を正確に把握することが第一歩です。その上で、相続税の申告が必要かを確認し、今後の運用方針を検討しましょう。
Q.相続した預金は、そのまま普通預金に入れておいても大丈夫ですか?
A.安全ですが、インフレで価値が目減りするリスクがあります。NISAなどの非課税制度を活用した資産運用や、一部を定期預金にするなど、目的やリスク許容度に応じて分散させることをおすすめします。
Q.相続した不動産(実家など)はどうするのが良いでしょうか?
A.ご自身で利用しない場合、「売却して現金化する」「賃貸に出して家賃収入を得る」「土地活用する」といった選択肢があります。物件の立地や状態、維持費などを考慮し、専門家にも相談しながら最適な方法を選びましょう。
Q.株式や投資信託を相続しました。すぐに売却すべきですか?
A.すぐに売却する必要はありません。まずはどのような銘柄なのか内容を確認しましょう。ご自身の投資方針に合わない場合や、現金が必要な場合は売却を検討しますが、専門家のアドバイスを受けながらタイミングを判断するのが賢明です。
Q.財産を運用して利益が出たら、税金はかかりますか?
A.はい、運用によって得た利益(配当金、分配金、売却益など)には所得税や住民税がかかります。ただし、NISA(少額投資非課税制度)の非課税枠を活用すれば、一定額までの利益が非課税になるため、運用の際は活用を検討しましょう。
Q.相続財産の運用について、誰に相談すればよいですか?
A.相談内容に応じて専門家を選びましょう。金融資産の運用は金融機関やファイナンシャルプランナー(FP)、不動産関連は不動産会社、税金が関わることは税理士への相談が一般的です。複数の専門家に相談して多角的なアドバイスを得ることも有効です。