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相続で慌てない!父の事業用不動産担保融資、生前・相続後の対応策

2025-03-13
目次

お父様が事業のために不動産を担保に融資を受けている場合、「将来の相続でこの借金はどうなるんだろう…」と不安に思われるかもしれませんね。実は、この借入はお父様の財産の一部として、相続人である皆さまに引き継がれることになります。だからこそ、お父様がお元気なうちから、将来を見据えてきちんと準備しておくことがとても大切なんです。この記事では、相続が「争続」にならないために今からできること、そして万が一相続が発生した後の具体的な対応策について、分かりやすく丁寧にご説明していきますね。

まずは現状把握から!お父様の不動産担保融資の状況を確認しよう

相続対策を始めるにあたって、何よりも先にやるべきことは「現状を正確に知る」ことです。借入の全体像が見えないと、対策の立てようがありません。まずはお父様と一緒に、または許可を得て、以下の点を確認してみましょう。大切なご家族のことですから、勇気を出して一歩踏み出してみてくださいね。

誰が、どこから、いくら借りている?

まずは融資の基本情報を整理しましょう。金融機関から送られてくる返済予定表や、契約時の金銭消費貸借契約書を確認するのが確実です。

確認すべき項目 主な確認書類
債権者(借入先の金融機関名) 金銭消費貸借契約書、返済予定表
債務者(誰の名前で借りているか) 金銭消費貸借契約書 ※お父様個人か、お父様の会社(法人)かを確認します。
現在の借入残高 返済予定表、残高証明書(金融機関に依頼)
金利(年利)と返済期間 金銭消費貸借契約書、返済予定表

特に、債務者がお父様の会社(法人)で、お父様個人がその連帯保証人になっているケースはよくあります。この点も必ず確認してください。

担保になっている不動産はどれ?

次に、どの不動産が担保に入っているのかを正確に把握しましょう。これは、法務局で「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得することで確認できます。登記事項証明書は、手数料(オンライン請求で480円、窓口請求で600円など)を支払えば誰でも取得可能です。証明書の「権利部(乙区)」という欄に、どの金融機関が、いくらの「抵当権」を設定しているかが記載されています。

連帯保証人は誰になっている?

契約書で、連帯保証人の有無を必ず確認してください。もし、お母様やご兄弟など、ご家族の誰かが連帯保証人になっている場合、その責任は非常に重いものになります。連帯保証人の地位も相続の対象となるため、これは相続を考える上で極めて重要なポイントです。

相続が発生したらどうなる?借入と不動産の行方

もし対策をしないまま相続が発生した場合、お父様の財産はどうなるのでしょうか。相続では、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借入金のようなマイナスの財産もすべて引き継ぐことになります。

借入金は相続人が引き継ぐ「債務」

お父様が個人名義で借り入れていた不動産担保融資の残債は、「債務」として相続の対象になります。原則として、各相続人が法定相続分に応じて返済義務を負うことになります。例えば、相続人が配偶者と子供2人の場合、配偶者が1/2、子供がそれぞれ1/4ずつの返済義務を負うわけです。
遺産分割協議で「長男が不動産と一緒に借入もすべて引き継ぐ」と決めたとしても、それは相続人間の取り決めに過ぎません。債権者である金融機関の同意がなければ、他の相続人の返済義務はなくならないという点に注意が必要です。

団体信用生命保険(団信)の加入は?

住宅ローンの場合は加入が一般的な「団体信用生命保険(団信)」ですが、事業用の融資では加入していないケースが多いです。もし加入していれば、お父様がお亡くなりになった際に、保険金でローンが完済されます。これは非常に大きな違いですので、保険証券などで加入の有無を必ず確認しましょう。

相続放棄という選択肢

調査の結果、お父様の財産がどう見ても借金の方が多い「債務超過」の状態だった場合、「相続放棄」という選択肢もあります。これは、家庭裁判所へ「相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に申述することで、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しない、という手続きです。ただし、一度相続放棄をすると、実家などの不動産も手放すことになるため、慎重な判断が必要です。

相続税はかかる?借入金がある場合の計算方法

「借金があるのに、さらに相続税まで払うの?」と心配になるかもしれませんが、ご安心ください。借入金は相続税を計算する上で、納税者の負担を軽くする方向に働きます。

借入金は相続財産から控除できる(債務控除)

相続税を計算するときは、まず亡くなった方のプラスの財産(不動産、預貯金など)の総額を計算します。そして、その総額から借入金や未払金といったマイナスの財産を差し引くことができます。これを「債務控除」といいます。つまり、借入金がある分、相続税の課税対象となる金額が減り、結果的に相続税の負担が軽くなるのです。

相続税の基礎控除額

債務控除をした後の財産の価額が、下記の「基礎控除額」を下回っていれば、相続税はかかりませんし、税務署への申告も原則として不要です。

項目 計算式
基礎控除額 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

例えば、法定相続人が奥様とお子様2人の合計3人なら、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円となります。

担保不動産の評価額も重要

プラスの財産を計算する際、不動産の価額が大きな割合を占めます。相続税の計算で使う不動産の評価額は、一般的に時価(実際の売買価格)よりも低い「路線価」「固定資産税評価額」を基に計算されます。これも、相続税の負担を考える上で知っておきたいポイントです。

【生前対策】今からできる3つのこと

相続が起きてから慌てないために、お父様がお元気なうちから対策を始めることが最も効果的です。ご家族で将来について話し合う良い機会にもなりますよ。

繰り上げ返済で借入を減らす

お父様の手元の資金に余裕があれば、繰り上げ返済で借入残高そのものを減らしておくのが最もシンプルで確実な対策です。相続人が引き継ぐ債務が直接減るため、将来の負担を大きく軽減できます。ただし、事業資金や生活資金まで無理に使うことのないよう、バランスを考えることが大切です。

生命保険を活用する

お父様を被保険者、相続人(例えば奥様や長男)を受取人とする生命保険に加入する方法も非常に有効です。お父様に万が一のことがあった場合、受け取った死亡保険金を借入の返済資金や、相続税の納税資金に充てることができます。さらに、生命保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があり、相続税対策としてもメリットがあります。

遺言書を作成してもらう

特に事業を引き継ぐ方が決まっている場合などは、遺言書を作成してもらうことがトラブル防止に繋がります。「事業と担保不動産は長男に相続させる。その代わり、借入の返済も長男が責任を持って行う」といった内容を明確にしておくことで、相続人間の無用な争いを避けることができます。法的に有効な「公正証書遺言」を作成しておくことをお勧めします。

【相続発生後】取るべき具体的な対応策

もし、すでにお父様の相続が始まってしまった場合でも、打つ手はあります。落ち着いて、ご自身の状況に合った方法を選びましょう。

不動産を売却して返済する

相続した不動産を売却し、その売却代金でローンを完済する方法です。これが可能であれば、借金の悩みは一気に解決します。もし売却して利益(譲渡所得)が出た場合は譲渡所得税がかかりますが、その際に「取得費加算の特例」という制度を使える場合があります。これは、支払った相続税の一部を不動産の取得費に加算することで、譲渡所得税の負担を軽減できる制度です。

新たに不動産担保ローンを組んで借り換える

相続した不動産を担保に、今度は相続人が債務者となって新たにローンを組み、お父様の借入を返済する(借り換える)方法です。現在の金利情勢によっては、より低い金利で借り換えができる可能性があります。また、相続税の納税資金や、不動産を相続しない他の相続人へ渡すお金(代償金)が不足している場合に、その分も含めて借り入れを起こすといった活用も考えられます。

どうしても納税が難しい場合は「延納」や「物納」も

相続税は、原則として相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に現金で一括納付しなければなりません。しかし、どうしても現金での納付が難しい場合には、国が定めた救済制度があります。

制度名 概  要
延納 相続税額が10万円を超え、金銭での一括納付が難しい場合に、担保を提供することで年単位の分割払いが認められる制度です。ただし、延納期間中は利子税(年0.4%~など、条件による)がかかります。
物納 延納でも納付が困難な場合に、最終手段として、不動産などの相続財産そのもので税金を納める制度です。適用されるための要件は非常に厳しく、簡単に認められるものではありません。

これらの制度は手続きが複雑なため、利用を検討する際は税務署や税理士などの専門家に相談することが不可欠です。

まとめ

お父様が事業のために借り入れた不動産担保融資は、相続において大きな課題となり得ますが、事前に準備をすれば決して乗り越えられない問題ではありません。
まずは、借入状況、担保不動産、連帯保証人の有無といった現状を正確に把握することが全てのスタートです。お父様がお元気なうちであれば、繰り上げ返済や生命保険の活用、遺言書の作成といった生前対策が非常に有効です。
もし相続が発生してしまった後でも、不動産の売却や借り換え、国の延納・物納制度といった選択肢があります。どの方法がご家族にとって最適なのかは、それぞれの状況によって異なります。一人で抱え込まず、なるべく早い段階で税理士や司法書士などの専門家に相談し、計画的に準備を進めていきましょう。

参考文献

事業用不動産担保ローンの相続に関するよくある質問まとめ

Q.父の不動産担保ローンは相続しなければいけませんか?

A.はい、原則として借金(債務)も相続財産に含まれるため、相続人が引き継ぐことになります。相続放棄や限定承認という選択肢もあります。

Q.事業用の借入に団体信用生命保険(団信)は使えますか?

A.事業用融資では団信に加入していないケースが多いです。契約内容を金融機関に確認することが重要です。もし加入していれば、保険金でローンが完済されるため、相続人が返済する必要はありません。

Q.借金を相続したくない場合、どうすればいいですか?

A.「相続放棄」または「限定承認」の手続きを家庭裁判所で行う必要があります。相続放棄をすると、不動産などのプラスの財産も一切相続できなくなります。手続きは相続開始を知った時から3ヶ月以内が原則です。

Q.相続する不動産の価値よりローンの残高が多い場合はどうなりますか?

A.いわゆるオーバーローンの状態です。そのまま相続すると、相続人が自己資金で返済を続けるか、不動産を任意売却しても残った借金を返済する義務を負います。相続放棄も有力な選択肢となります。

Q.相続人が複数いる場合、不動産担保ローンはどうなりますか?

A.ローンは法定相続分に応じて各相続人に分割して承継されます。誰が不動産を相続し、誰がローンを返済していくのか、相続人全員で話し合う「遺産分割協議」で決めることが重要です。

Q.生前のうちにできる対策はありますか?

A.はい、あります。まずは借入状況や不動産の価値を正確に把握することが第一です。その上で、生命保険への加入や、繰り上げ返済、事業承継と合わせた債務の整理などを検討することが有効です。専門家への相談をおすすめします。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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