「うちは家族仲が良いから大丈夫」と思っていても、相続がきっかけで関係がこじれてしまうケースは少なくありません。大切な家族と相続で揉めないためには、元気なうちから家族みんなで話し合う機会を持つことが何よりも大切です。病気や認知症になってからでは、本人の意思を確認することも、対策を取ることも難しくなってしまいます。今回は、円満な相続を迎えるために、今からできる家族の話し合い方について、具体的な進め方やポイントを優しく解説していきますね。
なぜ生前の家族会議が大切なの?
相続トラブルの多くは、コミュニケーション不足から生まれます。「財産なんて大してないから」と思っていても、不動産のように分けにくい財産があったり、家族が知らない借金が見つかったりすることもあります。生前に家族会議を開くことで、お互いの想いや状況を共有し、将来の不安を解消することができます。
生前に話し合うことの本当の意味
生前に話し合う一番のメリットは、親の想いを直接聞けることです。どの財産にどんな想いがあるのか、誰に何を遺したいのか、なぜそう思うのか。遺言書だけでは伝わりきらない細かなニュアンスや気持ちを、自分の言葉で家族に伝えられます。子どもたちも、親の想いを直接聞くことで、財産の分け方に対する納得感が深まり、円満な解決につながりやすくなるんですよ。
誰が参加するべき?
家族会議に参加するメンバーは、基本的に法定相続人(相続する権利を持つ人)全員で行うのが理想です。配偶者や子どもたちが中心になりますね。相続人以外の方が参加すると、話が複雑になり、感情的な対立を生む可能性があるので注意しましょう。もし、家族だけでは感情的になってしまったり、専門的な知識がなくて話が進まなかったりする場合には、税理士や弁護士といった第三者の専門家に同席してもらうのも一つの良い方法です。
どこで話すのがベスト?
開催場所は、参加者全員がリラックスして話せる環境を選ぶことが大切です。親の自宅は、通帳や権利証といった財産に関する資料をすぐに確認できるメリットがあります。しかし、同居している子どもがいる場合、その人に有利な雰囲気にならないよう配慮も必要です。その場合は、貸し会議室や飲食店の個室など、中立的な場所を選ぶと、全員が平等な立場で話し合いを進めやすくなりますよ。
家族会議で話し合うべき4つの議題
「いざ集まっても、何から話せばいいの?」と戸惑わないように、事前に話し合うべきテーマを決めておきましょう。会議がスムーズに進むだけでなく、話し合いの抜け漏れも防げます。
親の財産の現状と分け方の希望
まず一番大切なのが、財産の全体像をみんなで把握することです。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も隠さずに共有しましょう。
プラスの財産 | 預貯金、不動産(自宅、土地)、有価証券(株、投資信託)、生命保険、自動車など |
マイナスの財産 | 借金(住宅ローン、カードローン)、未払いの税金や医療費、保証債務など |
そのうえで、「自宅は誰に継いでほしいか」「預貯金はどう分けたいか」など、親の希望を伝えます。子どもたちも、それぞれの生活状況や希望を伝えることで、お互いの状況を理解しながら、現実的な分け方を考えることができます。
生前からできる相続税対策
相続税がかかるかどうかは、財産の総額が基礎控除額を超えるかで決まります。まずは、相続税の対象になるかを確認してみましょう。
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人の場合、基礎控除額は「3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円」となります。財産がこの金額を超える場合は、相続税がかかる可能性が高いので、対策を検討しましょう。生前贈与や生命保険の活用など、早めに始めるほど効果的な対策がたくさんあります。
介護が必要になったときの希望と役割分担
相続の話とあわせて、親の介護についても話し合っておくことが重要です。もし介護が必要になったら、「自宅で過ごしたいのか」「施設に入りたいのか」といった親の希望を明確にしておきましょう。また、介護にかかる費用は誰がどのように負担するのか、子どもたちの役割分担をどうするのかも具体的に決めておくと、いざという時に慌てずに済みます。「長男だから」「近くに住んでいるから」といった曖昧な理由で特定の人に負担が偏らないよう、全員で納得できる形を見つけることが大切です。
お墓や葬儀についての希望
お墓や仏壇などを誰が引き継ぐのか(祭祀承継)、葬儀はどのような形で行いたいのかも、親の希望を聞いておきましょう。最近は家族葬を希望する方も増えていますし、埋葬方法も様々です。これらは亡くなった後すぐに決めなければならないことなので、元気なうちに意向を伝えておいてもらえると、残された家族の負担が大きく減ります。
家族会議を円満に進めるための準備
話し合いをスムーズに進めるためには、事前の準備が欠かせません。少し手間はかかりますが、この準備が会議の成功を左右します。
誰が相続人になるのかを正確に把握する
「相続人は家族だから分かっている」と思いがちですが、念のため戸籍謄本で推定相続人を確認しておきましょう。前の配偶者との間に子どもがいたり、養子縁組をしていたりすると、予想外の相続人がいる可能性もあります。正確な相続人を把握することは、話し合いの第一歩です。
財産や収支のリストを作成しておく
話し合いの土台となるのが、正確な財産の情報です。親は、保有している財産(不動産、預貯金、有価証券など)と、毎月の収支(年金収入、生活費など)を一覧にまとめておくと、話が具体的になります。エンディングノートなどを活用して整理するのもおすすめです。
それぞれの希望や不安を書き出しておく
会議の場でいきなり意見を求められても、うまく話せないかもしれません。親も子も、事前に「財産をどうしてほしいか・どうしたいか」「老後はどう過ごしたいか」といった希望や、将来に対する不安などをメモに書き出しておきましょう。自分の気持ちを整理することで、冷静に話し合いに臨むことができます。
揉めないための話し合いの4つのポイント
せっかくの家族会議が、新たな火種にならないように、話し合いの進め方にも工夫が必要です。円満な合意を目指すためのポイントをご紹介します。
親の意思を尊重し、子どもの意見も聞く
まず、親の希望や想いを明確に伝えることがスタートです。親が主体となって話し合いを進めましょう。そのうえで、子どもたち一人ひとりの意見や状況にもしっかりと耳を傾けることが大切です。「親の言うことは絶対」と押し付けるのではなく、お互いの立場を尊重しながら、家族全員が納得できる着地点を探していく姿勢が求められます。
感情的にならず、相手を否定しない
お金の話は、どうしても感情的になりがちです。しかし、「どうしてそんなことを言うんだ」「いつも自分勝手なんだから」といった相手を非難する言葉は禁物です。たとえ意見が違っても、まずは「そういう考えもあるんだね」と一度受け止め、冷静に話し合うことを心がけましょう。
議事録やメモで記録を残す
話し合いで決まったことや、保留になったことなどを議事録やメモとして記録しておきましょう。人間の記憶は曖昧なもので、後になって「言った」「言わない」のトラブルになりかねません。次の話し合いの際にも、前回の内容を振り返ることができ、スムーズに議論を再開できます。
一度で決めようと焦らない
相続や介護の問題は、すぐに結論が出るものではありません。特に、家族が集まれる機会がお盆や年末年始などに限られていると、焦ってしまう気持ちも分かります。しかし、無理に一度で全てを決めようとせず、「今日はここまで決めよう」「次は〇〇について話そう」というように、段階的に進めていくことが大切です。継続して話し合う姿勢が、より良い解決策へと導いてくれます。
話し合いで決まったことを実現するための対策
家族会議で方向性が決まったら、それを法的に有効な形で実現するための具体的な対策を実行に移しましょう。対策を講じることで、家族の想いを確実に未来へつなぐことができます。
遺言書を作成する
話し合いで決まった財産の分け方を法的に実現する最も確実な方法が遺言書の作成です。遺言書には主に2つの種類があります。
自筆証書遺言 | 自分で手書きで作成する遺言。費用はかかりませんが、形式の不備で無効になるリスクがあります。法務局で保管してもらう制度(手数料3,900円)を利用すると、検認が不要になり、紛失や改ざんのリスクも防げます。 |
公正証書遺言 | 公証役場で公証人に作成してもらう遺言。費用はかかりますが、法律の専門家が関与するため無効になる心配がほとんどなく、最も確実な方法です。 |
どちらが良いかは状況によりますが、財産が多い場合や相続関係が複雑な場合は、公正証書遺言をおすすめします。
生前贈与を活用する
相続税対策として有効なのが生前贈与です。年間110万円までの贈与であれば贈与税がかからない「暦年贈与」の制度を活用し、少しずつ財産を子どもや孫に移していくことで、将来の相続財産を減らし、相続税の負担を軽減することができます。ただし、2024年からの制度改正で、亡くなる前7年以内の贈与は相続財産に加算されることになったため、より早めの対策が重要になっています。
生命保険の非課税枠を利用する
生命保険の死亡保険金は、「500万円 × 法定相続人の数」までが非課税になります。例えば、法定相続人が3人なら1,500万円までは相続税がかかりません。この非課税枠を活用することで、納税資金を用意したり、特定の相続人に現金を遺したりすることができます。また、保険金は受取人固有の財産となるため、遺産分割協議の対象外となり、スムーズに資金を受け取れるメリットもあります。
まとめ
相続に関する家族の話し合いは、少し勇気がいることかもしれません。しかし、元気なうちだからこそできる最高の「生前対策」です。親の想いを直接聞き、家族全員で将来について考える貴重な時間は、財産だけでなく、家族の絆をも次の世代へとつないでくれるはずです。お互いを思いやる気持ちを忘れずに、まずは「今度の週末、少し将来の話をしない?」と、その一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。早めに準備を始めることで、家族みんなが安心して未来を迎えることができますよ。
参考文献
相続の話し合いに関するよくある質問まとめ
Q.相続の話し合いは、いつから始めるのが良いですか?
A.親が元気で判断能力がしっかりしているうちから始めるのが理想です。病気や認知症になってからでは、本人の意思確認が難しくなるため、早めの準備が円満相続の鍵となります。
Q.親に相続の話を切り出すのが難しいです。どうすれば良いですか?
A.「将来のために皆で考えておきたい」というように、家族全員の問題として前向きな姿勢で切り出すのがおすすめです。親の誕生日や家族が集まる機会をきっかけにするのも良いでしょう。
Q.家族での話し合いでは、具体的に何を話せば良いのでしょうか?
A.まずは親の財産(預貯金、不動産、有価証券など)の全体像を把握することから始めましょう。その上で、誰が何を相続したいか、親は誰に何を遺したいかといった希望を全員で共有することが重要です。
Q.遺言書がないと、どうして揉めるのですか?
A.遺言書がない場合、法律で定められた割合で財産を分けることになります。しかし、不動産のように分けにくい財産があったり、相続人それぞれの希望が異なったりするため、話し合いがまとまらずトラブルに発展しやすくなります。
Q.話し合いで決まった内容は、記録に残した方が良いですか?
A.はい、必ず記録に残しましょう。口約束だけでは後で「言った・言わない」のトラブルになりかねません。話し合った日付、参加者、決定事項をまとめたメモを作成し、全員で確認しておくと安心です。
Q.兄弟間で意見が対立してしまいます。どうすれば良いですか?
A.まずはお互いの意見を冷静に聞く姿勢が大切です。感情的にならず、それぞれの事情や希望を尊重しましょう。どうしても解決が難しい場合は、弁護士や司法書士など、第三者の専門家に相談することも有効な手段です。