ご家族が亡くなられて財産を相続したとき、「そういえば、田舎に山林があったはず…」と思い出す方もいらっしゃるかもしれませんね。山林を相続する場合、土地そのものだけでなく、そこに生えている木(立木)も財産として評価し、相続税の対象になることがあるんです。でも、「木の価値なんてどうやって計算するの?」と不安になりますよね。この記事では、山林の木の評価方法について、専門的な内容をできるだけ優しく、具体例を交えながら解説していきます。この記事を読めば、山林の相続に関する不安がきっと軽くなりますよ。
そもそも山林の木(立木)は相続財産になるの?
山林を相続した場合、土地だけでなく、その上に生えている木々、つまり「立木(りゅうぼく)」も財産として評価される可能性があります。ただし、どんな木でも評価対象になるわけではありません。大切なのは、その立木に「財産的価値があるかどうか」という点です。もし価値があると判断されれば、相続税の申告に含める必要があります。
評価が必要なケースと不要なケース
では、どのような場合に立木に財産的価値があると判断されるのでしょうか。ポイントは、その山林が林業として管理・手入れされているか、そして売却できる市場価値があるかという点です。
例えば、定期的に間伐(木の間引き)や下草刈りが行われ、スギやヒノキといった木材として価値のある樹木が育てられている場合は、評価が必要になる可能性が高いです。一方で、何十年も放置されて手入れがされておらず、木を伐採しても買い手がつかないような山林の木は、財産価値がないとみなされ、評価対象外となることがほとんどです。評価が不要な場合でも、その土地自体は「山林」として評価が必要なので注意してくださいね。
「立木」の相続税評価の基本
立木の評価方法は、その木がどこにあるかによって大きく変わります。主に「森林にある立木」と「お家の庭にある立木(庭木)」の2つに分けて考えます。それぞれ評価の仕方が全く異なるので、まずはどちらに当てはまるかを確認することが大切です。
森林の立木の評価方法(標準価額比準方式)
林業に使われるような一般的な森林の立木は、「標準価額比準方式」という方法で評価します。少し難しそうに聞こえますが、計算式自体はシンプルです。国が定めた基準をもとに、その山林の状況に合わせて価値を調整していくイメージですね。基本的な計算式は以下の通りです。
評価額 = 1ヘクタール当たりの標準価額 × 地味級 × 立木度 × 地利級 × 地積(ヘクタール)
それぞれの項目について、これから詳しく見ていきましょう。
標準価額とは?
「標準価額」とは、国税庁が樹木の種類(樹種)と樹齢に応じて定めている、1ヘクタール(10,000平方メートル)あたりの基準となる価格のことです。スギ、ヒノキ、マツといった主要な樹種について、各都道府県の林業地帯ごとに定められています。この価額は、国税庁のホームページで確認することができます。
例えば、東京都で樹齢40年のスギ林であれば、1ヘクタールあたり370千円、といったように具体的な金額が決められています。
地味級・立木度・地利級って何?
「標準価額」に掛け合わせる3つの「級」は、その山林の個性を評価に反映させるための調整係数です。専門用語ですが、内容はそれほど難しくありません。
評価項目 | 内容と係数例 |
地味級(ちみきゅう) | 土地の肥沃度、つまり木の育ちやすさを表します。土地が肥えていて木がよく育てば評価は高く、痩せた土地なら低くなります。例えば、上級(1.3)、中級(1.0)、下級(0.6)のように係数が決まっています。 |
立木度(りゅうぼくど) | 木の密集度合いのことです。適度に密集して育てられている場合は評価が高くなります。例えば、密(1.0)、中庸(0.8)、疎(0.6)といった係数があります。 |
地利級(ちりきゅう) | 木材を伐採して運び出す際の便利さを表します。道路に近く搬出しやすい場所は評価が高く、険しい山奥で搬出が困難な場所は評価が低くなります。1級(1.2)から12級(0.1)まで細かく等級が分かれています。 |
これらの係数も、国税庁が基準を定めています。実際には森林組合などに問い合わせて確認することが多いです。
具体的な計算例を見てみよう
言葉だけだと分かりにくいので、具体的な数字を当てはめて計算してみましょう。相続した山林が以下の条件だったと仮定します。
- 場所:東京都の山林
- 樹種・樹齢:スギ・40年
- 地積:3ヘクタール
- 地味級:中級(係数:1.0)
- 立木度:密(係数:1.0)
- 地利級:5級(係数:0.8)
まず、国税庁の資料から、東京都のスギ(標準伐期)の1ヘクタールあたりの標準価額が370千円だとします。これを先ほどの計算式に当てはめると…
370千円 × 1.0(地味級) × 1.0(立木度) × 0.8(地利級) × 3(地積) = 888千円
この場合、立木の評価額は888,000円となります。これが土地の評価額とは別に、相続財産として計上されるわけですね。
森林以外の立木の評価方法
すべての木が森林にあるわけではありません。お家の庭にある立派な松の木や、畑の隅にある数本の木なども、価値があれば評価の対象になります。
庭園にある木(庭木)の評価
お庭にある木は、一本一本を評価するのではなく、庭石や灯篭などと一緒に「庭園設備」としてまとめて評価します。評価方法は、その庭全体をもう一度造るとしたらいくらかかるか(調達価額)を算出し、その金額の70%で評価します。
評価額 = 庭園設備の調達価額 × 0.7
ただし、これは非常に高価な庭園や手入れの行き届いた日本庭園などが対象です。一般的な家庭の庭木が相続税評価の対象になることは、実際にはあまりありません。
森林でも庭園でもない立木の評価
例えば、農地や雑種地などに生えている木で、森林や庭園に該当しないものは、原則として1本ずつ評価します。その木の売買実例や、林業の専門家(精通者)の意見などを参考にして、適正な時価を評価額とします。
注意!伐採が制限されている山林(保安林など)の評価
山林の中には、土砂崩れの防止や水源の確保といった公益的な目的のために、法律で木の伐採が制限されている「保安林」があります。自分の土地であっても自由に木を切ることができないため、財産的な価値は低くなります。そのため、相続税評価においても評価額が減額される仕組みがあります。
保安林の評価減
保安林に指定されている立木は、その伐採制限の厳しさに応じて、通常の評価額から一定の割合を控除することができます。控除割合は以下のようになっています。
制限の内容 | 控除割合 |
禁伐(すべての伐採を禁止) | 0.8 |
単木選伐(特定の木を指定して伐採を認める) | 0.7 |
択伐(森林全体の成長の範囲内で一定量を伐採) | 0.5 |
一部皆伐(一定の面積を限度として伐採) | 0.3 |
例えば、先ほどの計算例の山林(評価額888,000円)が、すべての伐採を禁止されている「禁伐」の保安林だった場合、評価額は以下のように計算されます。
888,000円 × (1 – 0.8) = 177,600円
このように、評価額を大幅に下げることができます。保安林かどうかは、市町村役場の林務担当課などで確認できますので、必ずチェックしましょう。
まとめ
山林の木の評価は、一見すると複雑で難しそうに感じますよね。ですが、ポイントを押さえれば、基本的な考え方は理解できるはずです。最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- まずはその木に財産的価値があるかを確認する。
- 森林の木は「標準価額比準方式」で評価する。
- 庭園の木は「庭園設備」としてまとめて評価する。
- 保安林など伐採制限があれば評価額が下がることを忘れない。
山林の評価は専門的な知識が必要な場面も多く、特に「地味級」などの判断は個人では難しい場合もあります。評価に迷ったり、手続きに不安を感じたりした場合は、無理せず税理士などの専門家に相談することをおすすめします。適切な評価を行うことで、払い過ぎの相続税を防ぐことにもつながりますよ。
参考文献:
国税庁 財産評価基本通達 第3章 立木の評価
国税庁 No.1480 山林所得
山林の木の評価方法に関するよくある質問まとめ
Q. 山林の木の価値はどうやって決まるのですか?
A. 木の価値は主に「樹種(スギ、ヒノキなど)」「太さ(胸高直径)」「高さ」「品質(曲がりや傷の有無)」、そして「木材市場の相場」によって総合的に評価されます。これらの情報から1本あたりの体積(材積)を算出し、市場価格を掛けて価値を計算するのが基本です。
Q. 自分で山林の価値を調べる簡単な方法はありますか?
A. 正確な評価は難しいですが、地域の森林組合や自治体が公表している「立木標準単価」を参考に概算できます。所有する山の代表的な木の太さと本数を把握し、単価表と照らし合わせることで、大まかな価値の目安を知ることが可能です。
Q. 山林の評価はどこに依頼すれば良いですか?
A. お近くの「森林組合」や「林業コンサルタント」「素材生産業者」などに依頼するのが一般的です。特に山林の売買や相続が目的の場合は、公平で信頼できる専門家への依頼をおすすめします。
Q. 立木調査や評価にかかる費用はどのくらいですか?
A. 費用は調査対象となる山林の「面積」「地形の険しさ」「立木の本数」「要求される精度」によって大きく変動します。簡単な見積もりであれば無料の場合もありますが、一般的には数万円から数十万円が目安です。複数の業者から見積もりを取ると良いでしょう。
Q. 特に価値が高い木の種類はなんですか?
A. 日本では建材として需要が高い「スギ」や「ヒノキ」が代表的です。特に樹齢が高く、太くてまっすぐな良質な木は高値で取引されます。その他、ケヤキ、クリ、ナラなどの広葉樹も、家具材や特殊な用途で高い価値を持つことがあります。
Q. 相続税の計算で山林の木はどのように評価されますか?
A. 相続税の財産評価では、国税庁の「財産評価基本通達」に基づいて評価します。立木は「標準伐期(一般的な伐採年齢)」に達しているかどうかで評価方法が異なります。複雑な計算が必要となるため、税理士や森林組合などの専門家に相談することが不可欠です。