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相続で損しない!特別受益の計算方法と相続税申告への反映方法

2025-04-05
目次

特定の相続人だけが故人から生前に多くの財産をもらっていた…そんなとき、他の相続人との間で不公平が生まれないように調整するのが「特別受益」の制度です。でも、この特別受益、遺産を分けるときと相続税を計算するときでルールが違うのをご存知でしたか?この記事では、特別受益の基本的な計算方法から、複雑な相続税申告書への反映方法まで、具体例を交えながら分かりやすく解説していきますね。

そもそも特別受益って何?

特別受益(とくべつじゅえき)とは、一部の相続人が亡くなった方(被相続人)から生前に受け取った「特別な利益」のことです。例えば、一人の子どもだけがマイホームの購入資金を援助してもらっていた場合、それを無視して残りの遺産を平等に分けると、援助を受けた子だけが多く財産をもらうことになり、不公平ですよね。そうした不公平をなくし、相続人みんなが納得して遺産分割できるようにするための大切な仕組みなんです。この、過去の贈与を相続財産に加えて計算し直すことを「持ち戻し」と呼びます。

特別受益になる贈与の具体例

すべての生前贈与が特別受益になるわけではありません。「遺産の前渡し」といえるような、生活の基盤となるまとまった金額の贈与が対象になります。具体的には、次のようなものが挙げられます。

贈与の種類 具体例
生計の資本としての贈与 ・マイホームの購入資金(例:2,000万円)
・事業を始めるための開業資金(例:1,000万円)
・居住用の不動産そのものの贈与
婚姻・養子縁組のための贈与 ・結婚時の持参金や支度金(社会通念を超える高額な場合)
遺贈・死因贈与 ・遺言によって特定の相続人に財産を渡すこと(金額に関わらず全て対象)
その他 ・私立大学医学部など、他の兄弟と比べて著しく高額な学費
・被相続人の土地を無償で借りて家を建てること(使用貸借)

特別受益にならない贈与の具体例

一方で、扶養の範囲内と考えられるものや、お祝いとして社会通念上相当な金額のものは、特別受益にはあたらないとされています。故人が自身の財産を自由に使う範囲とみなされるためです。

種類 具体例
扶養義務の範囲 ・生活費の仕送り
・通常の学費や習い事の費用
お祝いなど ・結婚式の挙式費用の援助
・結納金
・新築祝いや入学祝い(常識の範囲内)
生命保険金など ・生命保険金や死亡退職金(原則として受取人固有の財産とみなされるため。ただし、遺産総額に対してあまりに高額で著しく不公平な場合は、例外的に特別受益とみなされる判例もあります。)

特別受益の持ち戻しに時効はない?

ここが少しややこしいのですが、遺産分割の話し合い(民法)における特別受益の「持ち戻し」には、時効がありません。たとえ30年前の住宅資金の援助であっても、証拠があれば計算に含めることができます。ただし、相続人に最低限保障されている権利である「遺留分」を計算するときの特別受益は、相続開始前10年以内のものに限られる、というルールがあるので注意が必要です。

【遺産分割編】特別受益の計算方法(持ち戻し計算)

では、実際に特別受益がある場合の遺産の分け方はどうなるのでしょうか。相続人間の公平をはかるための「持ち戻し計算」という方法を使います。考え方はシンプルで、「生前にもらった分を、一旦、相続財産に足し戻してから、みんなで分けよう」というものです。

計算の基本ステップを分かりやすく解説

計算は以下のステップで進めます。ポイントは、相続開始時の財産に特別受益の額を加えたものを「みなし相続財産」として考えることです。

  1. ステップ1:相続開始時の財産(例:預貯金、不動産など)の総額を計算します。
  2. ステップ2:ステップ1の総額に、特別受益の価額を加算します。これが「みなし相続財産」です。
  3. ステップ3:「みなし相続財産」を法定相続分で分け、各相続人の一応の相続分を計算します。
  4. ステップ4:特別受益を受けた人(特別受益者)は、ステップ3の金額から自分が受けた特別受益の額を差し引きます。これが最終的な取り分(具体的相続分)です。

式で表すとこのようになります。
(相続開始時の財産価額 + 特別受益の価額)× 法定相続分 - 特別受益の価額 = 具体的相続分
※特別受益を受けていない相続人は、最後の「- 特別受益の価額」はもちろんありません。

具体例で見てみよう!計算シミュレーション

言葉だけだと難しいので、具体例で見ていきましょう。

  • 被相続人:
  • 相続人:長男と次男の2人(法定相続分は各1/2)
  • 相続開始時の財産:8,000万円
  • 長男への特別受益:10年前に住宅購入資金として2,000万円の援助あり

1. みなし相続財産の計算
8,000万円(相続財産)+ 2,000万円(長男の特別受益)= 1億円

2. 各相続人の一応の相続分の計算
1億円 × 1/2 = 5,000万円

3. 具体的相続分の計算
長男:5,000万円 - 2,000万円(特別受益)= 3,000万円
次男:5,000万円(特別受益なし)= 5,000万円

結果として、相続財産8,000万円は、長男が3,000万円、次男が5,000万円を受け取ることになり、長男が先に受け取った2,000万円を考慮した公平な分割が実現できます。

特別受益が多すぎて相続分がマイナスになったら?

もし、上の例で長男への特別受益が6,000万円だった場合、一応の相続分5,000万円から6,000万円を引くとマイナス1,000万円になってしまいます。これを「超過特別受益」といいます。この場合、長男がもらった6,000万円の一部を返す必要はありません。ただし、今回の相続での取り分はゼロということになります。残った財産8,000万円は、すべて次男が相続することになります。

遺産分割で注意したいポイント

特別受益の計算では、他にも知っておくべき大切なルールがあります。トラブルを避けるためにも、しっかり押さえておきましょう。

持ち戻しの評価は「相続開始時」が原則

特別受益の財産を評価するタイミングは、贈与を受けた時ではなく「相続が開始した時(亡くなった時)」の時価で評価するのが原則です。例えば、20年前に1,000万円で贈与された土地が、相続開始時に3,000万円に値上がりしていたら、持ち戻し計算では3,000万円として扱います。現金の場合は、消費者物価指数などを参考に、相続開始時の貨幣価値に換算して計算することもあります。

故人が持ち戻しを免除できる「持ち戻し免除の意思表示」

被相続人は、遺言などで「この贈与については、特別受益として持ち戻しをしなくてよい」という意思を示すことができます。これを「持ち戻し免除の意思表示」といいます。この意思表示があれば、その贈与はなかったものとして遺産分割の計算を進めることができます。
また、法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用の家やその購入資金を贈与した場合は、わざわざ遺言などで意思表示をしなくても、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されることになりました。これは、長年連れ添った配偶者の生活保障を厚くするための制度です。

【相続税申告編】特別受益はどう反映させる?

ここからが特に重要なポイントです。これまで説明してきた遺産分割のルール(民法)と、相続税を計算するときのルール(相続税法)は全くの別物です。この違いを理解していないと、相続税の申告で大きなミスにつながる可能性があります。

遺産分割の「持ち戻し」と相続税の「生前贈与加算」は別物!

相続税の計算では、特別受益の「持ち戻し」という考え方はしません。代わりに「生前贈与加算」というルールが適用されます。これは、相続税逃れのために亡くなる直前に駆け込みで贈与することを防ぐための制度です。両者の違いを表で見てみましょう。

項目 遺産分割の「持ち戻し」(民法)
目的 相続人間の公平な遺産分割
対象となる贈与 生計の資本、婚姻等のための贈与など「遺産の前渡し」と認められるもの
対象期間 期限なし(何十年前でも対象)
評価額 相続開始時(死亡時)の価額
相続税の「生前贈与加算」(相続税法)
目的 相続税の課税の公平(租税回避の防止)
対象となる贈与 原則として全ての贈与(生活費などを除く)
対象期間 相続開始前3年以内(2024年1月1日以降の贈与からは段階的に7年以内に延長)
評価額 贈与時の価額

このように、目的も対象期間も評価額も全く異なります。遺産分割の計算結果をそのまま相続税申告に使うことはできない、と覚えておいてください。

相続税申告で加算対象となる贈与とは?

相続税の申告で課税対象に加算するのは、相続や遺贈で財産を取得した人が、被相続人が亡くなる前の一定期間内に受けた贈与です。この期間は、これまで「3年以内」でしたが、法改正により2024年1月1日以降の贈与については、段階的に「7年以内」へと延長されます。この期間内の贈与であれば、年間110万円の基礎控除以下の贈与であっても加算の対象となるので注意が必要です。
また、「相続時精算課税制度」を選択して受けた贈与は、贈与の時期に関わらず、すべて相続税の課税価格に加算されます。

申告書への具体的な記載箇所

生前贈与加算の対象となる贈与財産は、相続税申告書の以下の箇所に記載します。

  • 相続税の申告書第1表「課税価格の合計額」:ここに生前贈与加算の額を含めて計算します。
  • 第11表「相続税がかかる財産の明細書」:相続した財産と合わせて、加算する贈与財産を記載します。
  • 第14表「純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額等の明細書」:加算する贈与の詳細(贈与年月日、財産の種類、価額など)を記入します。

もし、加算した贈与についてすでに贈与税を支払っている場合は、その贈与税額を算出した相続税額から差し引くことができます(贈与税額控除)。これを忘れると税金の二重払いになってしまうため、必ず申告書第1表の「贈与税額控除額」の欄に記入しましょう。

特別受益がある場合の相続税申告でよくある間違い

特別受益と生前贈与加算のルールは複雑なため、申告でミスが起こりがちです。特に注意したい点を3つご紹介します。

遺産分割の計算結果をそのまま申告してしまう

最も多い間違いです。遺産分割協議で「長男の具体的相続分は3,000万円」と決まったからといって、その金額で相続税を申告するのは誤りです。相続税は、あくまで実際に相続した財産と、生前贈与加算の対象となる財産を基に計算しなければなりません。

生前贈与加算の対象期間を間違える

「特別受益の持ち戻しには時効がない」という知識と混同して、10年前の贈与まで加算してしまうケースがあります。相続税申告で加算するのは、あくまで相続開始前3年(または7年)以内の贈与と、相続時精算課税制度による贈与です。期間外の贈与は、たとえ特別受益に該当するものであっても、相続税の計算に含める必要はありません。

贈与税額控除を忘れて二重課税に

生前贈与加算の対象となる財産について、過去に贈与税を納めている場合、その税額を相続税から控除できる「贈与税額控除」を適用し忘れるケースです。これを忘れると、同じ財産に贈与税と相続税の両方がかかってしまい、税金を払い過ぎることになります。過去の贈与税申告書を確認し、忘れずに控除を受けましょう。

まとめ

今回は、特別受益の計算方法と相続税申告への反映方法について解説しました。最後に大切なポイントをまとめますね。

  • 特別受益は、相続人間の公平を図るための遺産分割(民法)のルールです。
  • 生前贈与加算は、課税の公平を図るための相続税申告(税法)のルールです。
  • 遺産分割では、原則として時効なく、相続開始時の価額で過去の贈与を持ち戻します。
  • 相続税申告では、相続開始前3年(順次7年)以内の贈与を、贈与時の価額で加算します。
  • 両者は全くの別物なので、計算方法や対象を混同しないように注意が必要です。

特別受益が絡む相続は、財産の評価や税金の計算が非常に複雑になります。もし少しでも不安な点があれば、ご自身で判断せずに、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

国税庁 相続税の申告のしかた

特別受益の計算と相続税申告に関するよくある質問

Q.特別受益とは何ですか?

A.一部の相続人が亡くなった方(被相続人)から生前に受けた特別な贈与(住宅資金や事業資金など)のことです。相続人間の公平を保つため、この贈与額を相続財産に加えて(持ち戻して)各人の相続分を計算します。

Q.どのようなものが特別受益にあたりますか?

A.主に、①遺言による贈与(遺贈)、②結婚時の持参金や支度金、③マイホームの購入資金や事業の開業資金など、生計の資本となる贈与が該当します。生命保険金も場合によっては特別受益とみなされることがあります。

Q.特別受益はどのように計算に反映させるのですか?

A.まず、相続開始時の財産額に特別受益の価額を加算したものを「みなし相続財産」とします。この金額を基に各相続人の法定相続分を算出し、特別受益を受けた相続人は、そこから自分の受益額を差し引いた額が最終的な取得分となります。

Q.「持ち戻しの免除」とは何ですか?

A.被相続人が「この贈与は相続分とは別に与える」という意思表示をしていた場合、特別受益を相続財産に加算する「持ち戻し計算」をしなくてもよくなる制度です。この意思表示は、遺言などで明確にされていなくても、黙示的に認められるケースもあります。

Q.特別受益は相続税申告書にどうやって書けばいいですか?

A.特別受益の持ち戻し計算により各相続人の最終的な取得財産額が変動するため、その結果を相続税申告書の第1表や第11表(相続税がかかる財産の明細書)に反映させます。また、相続開始前3年(順次7年に延長)以内の贈与は、特別受益とは別で相続税の課税対象となるため、申告書への記載が必要です。

Q.何年前の生前贈与まで特別受益の対象になりますか?

A.遺産分割協議における特別受益の持ち戻し計算には、原則として期間の制限はありません。何十年も前の贈与でも対象になり得ます。ただし、相続税の計算上、課税価格に加算される生前贈与は、相続開始前3年(2024年1月以降の贈与から段階的に7年に延長)以内のものに限られます。

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