ご家族が亡くなられて相続が発生したとき、「税金の手続きはどうすればいいの?」「確定申告って必要なのかな?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。相続では「相続税」がよく知られていますが、実は場合によっては「所得税」の確定申告が必要になることもあります。この記事では、相続にまつわる税金と確定申告について、どのような場合にどの手続きが必要になるのかを、わかりやすく丁寧にご説明しますね。
相続税と所得税の確定申告、基本のキホン
まず、相続で関わってくる税金には「相続税」と「所得税」の2種類があることを知っておきましょう。この2つの税金はまったくの別物です。ごちゃごちゃにならないように、それぞれの役割をしっかり理解することから始めましょう。
相続した財産にかかるのは「相続税」
相続税は、亡くなった方(被相続人)から財産を受け継いだときにかかる税金です。ただし、財産を相続した人すべてに課税されるわけではありません。遺産の総額が「基礎控除額」という非課税の枠を超えた場合にのみ、申告と納税が必要になります。基礎控除額は、「3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)」で計算されます。この金額を超えなければ、相続税の申告も納税も必要ありません。相続税の申告が必要な場合の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
所得を得たときにかかるのが「所得税」
一方、所得税は、個人の1年間の「所得」に対してかかる税金です。会社からのお給料(給与所得)や、お店を経営して得た儲け(事業所得)などがこれにあたります。そして、ここが大切なポイントですが、親から遺産を相続すること自体は「所得」にはあたりません。そのため、原則として、遺産を受け取ったことに対して所得税の確定申告をする必要はないんです。
相続税と所得税は二重にかからない
「じゃあ、相続税と所得税の両方がかかってしまうことがあるの?」と心配になるかもしれませんが、安心してください。基本的に、同じ財産に対して相続税と所得税が二重に課税されることはありません。相続で受け取った財産には相続税(基礎控除額を超えた場合)、相続後にその財産から新たな利益が生まれた場合には所得税、というように役割分担がされています。
亡くなった方の確定申告「準確定申告」が必要なケース
原則、相続財産に所得税はかからないとお伝えしましたが、例外があります。その一つが「準確定申告」です。これは、亡くなった方ご自身の代わりに、相続人が行う確定申告のことです。
準確定申告ってなに?
準確定申告とは、亡くなった方がその年の1月1日から亡くなった日までに得た所得について、相続人が代わりに行う確定申告手続きのことです。例えば、亡くなった方が個人事業主だったり、家賃収入があったりした場合に必要になります。通常の確定申告が翌年の2月16日から3月15日までなのに対し、準確定申告の期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」と短いため、注意が必要です。
どんな場合に準確定申告が必要?
亡くなった方に次のような状況があった場合、準確定申告が必要になる可能性が高いです。
- 個人事業主やフリーランスだった
- アパート経営などで不動産収入があった
- 給与収入が年間2,000万円を超えていた
- 2か所以上から給与を受け取っていた
- 公的年金等の収入が400万円を超え、かつ年金以外の所得が20万円を超えていた
- 生前に土地や建物を売却して利益(譲渡所得)があった
準確定申告で税金が戻ってくることも
準確定申告は、税金を納めるためだけの手続きではありません。亡くなった方が生前に給与や年金から所得税を天引き(源泉徴収)されていて、多額の医療費を支払っていた場合(医療費控除)や、生命保険料を支払っていた場合(生命保険料控除)などは、準確定申告をすることで払い過ぎていた税金が戻ってくる(還付される)ことがあります。このような還付を受けるための申告は、相続開始を知った日の翌日から5年以内に行うことができます。
相続人自身の確定申告が必要になる6つのケース
次に、相続をきっかけとして、財産を受け取った相続人ご自身が確定申告をしなければならないケースについて見ていきましょう。これは、相続した財産を使って新たな所得(利益)が生まれた場合などが該当します。
ケース1:相続した不動産を売却した
相続で受け継いだ家や土地を売却して、利益が出た場合は「譲渡所得」として確定申告が必要です。この利益は、「売却価格」から「その不動産を買ったときの価格(取得費)」と「売るためにかかった費用(譲渡費用)」を差し引いて計算します。なお、取得費がわからない場合は、売却価格の5%を取得費とすることができます。売却した翌年の2月16日から3月15日までに申告しましょう。
ケース2:相続した賃貸物件から家賃収入がある
アパートやマンション、駐車場などを相続し、そこから家賃収入を得るようになった場合、その収入は「不動産所得」となり、確定申告が必要です。遺産分割協議がまとまるまでは、各相続人が法定相続分に応じて収入を分け合い、それぞれが申告します。協議がまとまり、誰がその物件を相続するかが決まった後は、その物件を所有することになった方が申告を行います。
ケース3:死亡保険金を受け取った
死亡保険金を受け取った場合、かかる税金の種類は「誰が保険料を支払っていたか」によって変わります。相続人が確定申告(所得税)をすべきなのは、受取人であるご自身が保険料を支払っていたケースです。この場合の保険金は「一時所得」という扱いになります。
| 保険料を支払っていた人 | かかる税金の種類 |
|---|---|
| 亡くなった方(被相続人) | 相続税 |
| 保険金を受け取った相続人 | 所得税(一時所得) |
| 被相続人でも受取人でもない第三者 | 贈与税 |
一時所得には、最高50万円の特別控除があります。受け取った保険金から支払った保険料の総額を引いた金額が50万円以下であれば、基本的に所得税はかかりません。
ケース4:亡くなった方の事業を引き継いだ
亡くなった方が営んでいた個人事業を相続人が引き継いだ場合、その事業から得られる所得は「事業所得」となり、確定申告が必要です。節税効果の高い青色申告をしたい場合は、新たに「青色申告承認申請書」などの届出が必要になります。
ケース5:未支給年金を受け取った
年金は後払いのため、亡くなった方がまだ受け取っていない年金(未支給年金)が発生することがあります。遺族がこの未支給年金を受け取った場合、これは受け取った方の「一時所得」として扱われます。死亡保険金と同じように、他の一時所得と合わせて年間50万円を超えなければ、所得税の心配はほとんどありません。
ケース6:相続財産を寄付した
相続した財産を国や地方公共団体、認定NPO法人などに寄付した場合、「寄付金控除」という制度を利用して所得税を安くすることができます。この控除を受けるためには、確定申告が必要です。これは義務ではありませんが、税金の負担を軽くするための手続きとして覚えておくとよいでしょう。
相続税の申告が必要になるのはどんなとき?
これまで所得税の確定申告について見てきましたが、ここで改めて、相続の基本である「相続税」の申告について確認しておきましょう。
基礎控除額を超えたら申告が必要
相続税の申告が必要になるのは、遺産の総額が基礎控除額を超える場合です。基礎控除額の計算式をもう一度確認しましょう。
基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
例えば、法定相続人が奥様とお子様2人の合計3人だった場合、基礎控除額は 3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円となります。遺産の総額が4,800万円以下であれば、相続税の申告も納税も必要ありません。
相続税の申告期限と納税
もし遺産総額が基礎控除額を超える場合は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、税務署へ相続税の申告書を提出し、納税まで済ませる必要があります。申告書の提出先は、ご自身の住所地ではなく、亡くなった方の最後の住所地を管轄する税務署ですので、間違えないようにしましょう。
知っておきたい!相続税の負担を軽くする特例
相続税の申告が必要になった場合でも、いくつかの特例を使うことで税金の負担を大きく減らせる可能性があります。ただし、これらの特例を利用するためには、相続税の申告書を提出することが必須です。基礎控除額は超えているけれど、特例を使えば納税額がゼロになる、という場合でも申告は必要なので注意してください。
配偶者の税額軽減
亡くなった方の配偶者が遺産を相続する場合に使える非常に強力な特例です。配偶者が相続した財産のうち、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは、相続税がかかりません。多くのケースで、この特例を使えば配偶者の相続税はゼロになります。ただし、次にその配偶者が亡くなったとき(二次相続)にお子様たちの税負担が重くなる可能性もあるため、慎重な検討が必要です。
小規模宅地等の特例
亡くなった方が住んでいた自宅の土地や、事業で使っていた土地などを相続した場合に、その土地の評価額を最大で80%も減額できる特例です。例えば、5,000万円と評価される土地が1,000万円の評価で済むことになるため、相続税を大幅に減らす効果が期待できます。ただし、誰が相続するか、その後どうするかなど、適用には非常に細かい条件があります。
まとめ
相続と確定申告の関係について、ポイントを整理しましょう。
- 相続で財産を受け取ること自体に所得税はかかりません。
- 亡くなった方が生前に確定申告すべき所得があった場合、相続人が「準確定申告」を4か月以内に行う必要があります。
- 相続した不動産を売却したり、家賃収入を得たりした場合は、相続人ご自身が確定申告をする必要があります。
- 遺産の総額が基礎控除額を超える場合は、「相続税の申告」を10か月以内に行う必要があります。
このように、相続に関する税金の手続きは、状況によって必要な申告や期限が異なります。特に準確定申告と相続税申告は期限も短く、手続きも複雑です。もしご自身での判断が難しい、手続きが大変だと感じたら、無理をせず税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)|国税庁
相続と確定申告のよくある質問まとめ
Q.そもそも、相続で確定申告は必要ですか?
A.通常、遺産を相続しただけでは相続人に確定申告は不要です。相続税の申告が必要な場合はありますが、これは所得税の確定申告とは別の手続きです。ただし、故人の所得に対する「準確定申告」や、相続した不動産を売却した場合など、特定のケースでは確定申告が必要になります。
Q.故人の確定申告(準確定申告)はいつまでに必要ですか?
A.故人が亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得について、相続人が代わりに行う確定申告を「準確定申告」といいます。申告と納税の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
Q.相続税の申告と確定申告は何が違うのですか?
A.相続税の申告は、亡くなった方の遺産総額が基礎控除額を超える場合に相続人が行う手続きです。一方、確定申告は個人の1年間の所得にかかる「所得税」を計算して申告する手続きです。目的も税金の種類も全く異なります。
Q.相続した不動産を売却したら確定申告は必要ですか?
A.はい、必要です。相続した不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して所得税がかかるため、売却した年の翌年に確定申告(譲渡所得の申告)を行う必要があります。
Q.親の遺産として賃貸アパートを相続しました。確定申告は必要ですか?
A.はい、必要です。賃貸アパートなど収益を生む不動産を相続した場合、相続後の家賃収入は相続人の「不動産所得」となります。そのため、ご自身の所得として確定申告を行う必要があります。
Q.生命保険金を受け取った場合、確定申告は必要ですか?
A.受け取り方によって異なります。故人が保険料を負担し、相続人が保険金を受け取った場合は「相続税」の対象となり、所得税の確定申告は不要です。ただし、保険料負担者と受取人が異なる場合など、贈与税や所得税の対象となるケースもあるため注意が必要です。