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相続どうする?単純承認・限定承認・相続放棄の3つの選択肢を徹底解説

2025-05-11
目次

ご家族が亡くなられた後、遺された財産をどう引き継ぐか、これはとても大切な問題ですよね。相続と聞くと、単純に財産をもらうことだと考えがちですが、実はいくつかの選択肢があります。特に、亡くなった方(被相続人)に借金などのマイナスの財産があった場合、どの方法を選ぶかでその後の状況が大きく変わってきます。今回は、相続の3つの方法である「単純承認」「限定承認」「相続放棄」について、それぞれの特徴やどんな人に向いているのかを、優しく分かりやすく解説していきます。

相続方法の3つの選択肢とは?

相続が始まると、相続人であるあなたは、亡くなった方の財産をどのように引き継ぐか、次の3つの方法から選ぶことになります。この選択は、相続が開始したことを知った時から原則として3か月以内に行わなければなりません。この期間を「熟慮期間」といいます。それでは、一つずつ見ていきましょう。

単純承認|すべての財産を引き継ぐ方法

単純承認は、最も一般的でシンプルな相続方法です。亡くなった方の預貯金や不動産といったプラスの財産はもちろん、借金やローン、未払金などのマイナスの財産もすべて無条件で引き継ぐことを意味します。特別な手続きは必要なく、熟慮期間である3か月が過ぎると、自動的に単純承認をしたことになります。プラスの財産が明らかに多いと分かっている場合に選ばれることが多い方法です。

限定承認|プラスの財産の範囲でマイナスを返済する方法

限定承認は、少し特殊な方法です。これは、相続するプラスの財産の範囲内でだけ、マイナスの財産(借金など)を返済するという条件付きで相続する方法です。たとえば、相続財産が「預金500万円、借金800万円」だった場合、相続した500万円の範囲で返済すればよく、残りの300万円の借金を自分で支払う必要はありません。逆に「預金1,000万円、借金300万円」なら、借金を返済した後に残った700万円を受け取ることができます。ただし、手続きが複雑で、相続人全員が共同で家庭裁判所に申し立てる必要があります。

相続放棄|すべての財産を放棄する方法

相続放棄は、その名の通り、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない方法です。これを選択すると、その人は初めから相続人ではなかったことになります。亡くなった方に多額の借金がある場合や、遺産を巡るトラブルに関わりたくない場合などに選ばれます。相続放棄は、他の相続人の同意は必要なく、各相続人が単独で家庭裁判所に申し立てることができます。

3つの相続方法を徹底比較!あなたに合うのはどれ?

「自分はどの方法を選べばいいんだろう?」と迷ってしまいますよね。ここでは、あなたの状況に合わせてどの方法が適しているか、具体的なケースごとに解説します。

種類 内容
単純承認 プラスもマイナスも全ての財産を無条件に引き継ぎます。
限定承認 相続したプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を返済します。残ったプラスの財産は受け取れます。
相続放棄 プラスの財産もマイナスの財産も、全ての財産を引き継ぐ権利を放棄します。

単純承認を選ぶべきケース

単純承認は、以下のような場合に適しています。

  • 財産調査の結果、明らかにプラスの財産が多いと確信できる場合
  • 亡くなった方に借金や保証債務などが全くないことが分かっている場合
  • 手続きに時間や手間をかけたくない場合

基本的には、相続によって損をすることがない、と判断できる状況であれば、特別な手続きが不要な単純承認で問題ありません。

限定承認を選ぶべきケース

限定承認は、手続きが複雑なためあまり利用されていませんが、次のような状況では非常に有効な選択肢となります。

  • 財産調査をしても、プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかハッキリしない場合
  • 借金はあるけれど、どうしても手放したくない自宅や家業の土地など、特定の財産がある場合
  • 亡くなった方が事業をしていたため、後から多額の負債が見つかるかもしれないと不安な場合

リスクを限定しつつ、価値のある財産を残せる可能性があるのが限定承認の大きなメリットです。

相続放棄を選ぶべきケース

相続放棄は、主にマイナスの財産からご自身を守るために選ばれます。

  • 明らかに借金やローンなどのマイナスの財産が多い場合
  • 亡くなった方が他人の借金の連帯保証人になっていたことが判明した場合
  • 他の相続人との関係性が悪く、遺産分割協議などのトラブルに一切関わりたくない場合

ただし、相続放棄をすると、次の順位の相続人に相続権が移る点には注意が必要です。たとえば、子どもであるあなたが相続放棄をすると、次は亡くなった方の親(祖父母)、そして兄弟姉妹へと相続権が移っていきます。

相続方法の選択期限「熟慮期間」に注意!

相続方法を決定するための期間は、法律で定められています。この「熟慮期間」を過ぎてしまうと、自動的に単純承認したとみなされてしまうため、非常に重要です。

熟慮期間のスタートはいつ?

熟慮期間である3か月は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から数え始めます。具体的には、「亡くなった事実」と「自分がその相続人であること」の両方を知った日からです。たとえば、長年連絡を取っていなかった親族が亡くなったことを、亡くなってから数か月後に知った場合は、その知った日から3か月となります。

期間内に決められない場合は「期間伸長の申立て」

「財産の全体像が分からなくて、3か月じゃとても決められない…」というケースも少なくありません。そのような場合は、諦める必要はありません。熟慮期間内に家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることで、期間を延長してもらうことが可能です。財産調査に時間がかかることが見込まれる場合は、早めにこの手続きを検討しましょう。

知らないうちに相続が決まる?「法定単純承認」とは

「借金が多いから相続放棄しよう」と考えていても、ある行動をとってしまうと、あなたの意思とは関係なく単純承認したとみなされてしまうことがあります。これを「法定単純承認」といい、一度こうなると限定承認相続放棄はできなくなりますので、くれぐれも注意してください。

相続財産を処分・消費する行為

法定単純承認とみなされる最も一般的なケースが、相続財産の処分です。具体的には、以下のような行為が該当します。

  • 亡くなった方の預貯金を引き出して、自分の生活費やローンの返済に使う。
  • 亡くなった方が所有していた不動産を売却したり、誰かに貸したりする。
  • 亡くなった方の車や骨董品などを売却する。
  • 遺産分割協議を行い、財産の分け方を決めてしまう。

ただし、社会通念上相当な範囲での葬儀費用を亡くなった方の預金から支払うことや、価値の低い形見分けなどは、処分行為にあたらないとされる場合が多いです。

相続財産を隠す行為

相続人が、自分の利益のために意図的に相続財産の一部を隠したり、使ってしまったり、財産目録にわざと記載しなかったりする行為も法定単純承認にあたります。これは、たとえ限定承認相続放棄の手続きをした後であっても、発覚すればその手続きが無効になってしまう可能性があります。誠実な対応が求められます。

各手続きの流れと必要書類

ここでは、限定承認相続放棄の具体的な手続きについて説明します。単純承認には特別な手続きは必要ありません。

限定承認の手続き

限定承認は、相続人全員が共同で、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要があります。一人でも反対する相続人がいると、この手続きは利用できません。
主な必要書類は以下の通りです。

  • 家事審判申立書
  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 財産目録

申立て後には、官報への公告や債権者への弁済など、複雑な清算手続きが待っています。

相続放棄の手続き

相続放棄は、各相続人が単独で、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
主な必要書類は以下の通りです。

  • 相続放棄の申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人(放棄する人)の戸籍謄本
  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

手続きが家庭裁判所に受理されると、「相続放棄申述受理通知書」が交付され、正式に相続放棄が認められます。

手続き 詳細
限定承認 相続人全員が共同で、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申述します。費用は収入印紙800円分と連絡用の郵便切手代が必要です。
相続放棄 各相続人が単独で、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申述します。費用は収入印紙800円分と連絡用の郵便切手代が必要です。

まとめ

今回は、相続の3つの選択肢「単純承認」「限定承認」「相続放棄」について解説しました。どの方法を選ぶかは、亡くなった方の財産状況やご自身の状況によって大きく異なります。最も大切なのは、熟慮期間である3か月以内に、しっかりと財産調査を行い、ご自身にとって最適な選択をすることです。特に借金の可能性がある場合は、法定単純承認とみなされるような行動をとらないよう、慎重に行動してください。もし判断に迷ったり、手続きに不安があったりする場合は、早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 相続税のあらまし

法務局 相続登記

単純承認・限定承認・相続放棄のよくある質問まとめ

Q.相続の方法にはどのような種類がありますか?

A.相続方法には、すべての財産(プラスもマイナスも)を相続する「単純承認」、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する「限定承認」、すべての財産を放棄する「相続放棄」の3種類があります。

Q.相続放棄や限定承認はいつまでに手続きが必要ですか?

A.原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所で手続きをする必要があります。この期間を「熟慮期間」といいます。

Q.何もしないで3ヶ月が過ぎるとどうなりますか?

A.何も手続きをしないで熟慮期間(3ヶ月)を過ぎると、自動的に「単純承認」したとみなされ、すべての財産(借金などのマイナスの財産も含む)を相続することになります。

Q.亡くなった人に借金がある場合、どの方法を選べばよいですか?

A.借金が明らかに財産より多い場合は「相続放棄」が一般的です。財産と借金のどちらが多いか不明な場合は、プラスの財産の範囲内で返済すればよい「限定承認」が有効な選択肢となります。

Q.相続放棄をすると、生命保険金や遺族年金は受け取れませんか?

A.いいえ、受け取れます。生命保険金や遺族年金は受取人固有の財産とみなされるため、相続財産には含まれません。したがって、相続放棄をしても受け取ることが可能です。

Q.限定承認のメリットとデメリットは何ですか?

A.メリットは、プラスの財産の範囲内で借金を返済すればよく、もし財産が残れば相続できる点です。デメリットは、相続人全員で手続きする必要があることや、手続きが複雑で時間がかかる点が挙げられます。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
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税理士 島本 雅史

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