親族が亡くなり、相続手続を進めようとしたら、相続人の一人がイギリスに住んでいる…。そんな時、「手続きはどう進めたらいいの?」「必要な書類は何?」と不安になりますよね。国際的な手続きは複雑そうに感じますが、ポイントを押さえれば大丈夫です。この記事では、相続人がイギリスに居住している場合の相続手続きについて、分かりやすく解説していきます。
イギリス在住の相続人がいる場合の基本ルール
まず、相続人がイギリスに住んでいる場合、どの国の法律に基づいて相続手続きを進めるのかを知る必要があります。これを「準拠法」といいます。基本的な考え方を理解しておきましょう。
どの国の法律が適用される?準拠法の考え方
日本の法律では、「相続は、亡くなった方(被相続人)の本国法による」と定められています。つまり、亡くなった方が日本国籍であれば、相続人がどの国に住んでいても、日本の民法に基づいて相続手続きが進められます。相続人の国籍や居住地は関係ありませんので、イギリス在住の相続人も、日本にいる相続人と同じように相続する権利があります。
イギリスの相続制度「プロベート」とは?
イギリスの相続手続きには「プロベート(Probate)」という裁判所の検認手続きがあります。これは、遺言が有効であることを裁判所が証明し、遺言執行者に遺産管理の権限を与える手続きです。もし、亡くなった方がイギリスに財産(不動産や預金など)を持っている場合は、このプロベートが必要になる可能性があります。しかし、今回は亡くなった方が日本国籍で、主な財産が日本にあるケースを想定して解説します。日本の財産については、基本的に日本の法律に従って手続きを進めます。
相続税は日本とイギリス、両方でかかる?
相続税については、日本とイギリスの両方で課税される可能性があります。しかし、二重課税を防ぐための仕組み(外国税額控除)があります。日本の相続税は、相続人がイギリスに住んでいても、亡くなった方が日本に住んでいた場合、原則として国内外のすべての財産が課税対象になります。イギリスの相続税(Inheritance Tax)についても、現地のルールを確認する必要があります。税金の問題は非常に複雑なので、国際相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
イギリス在住の相続人がいる場合の遺産分割協議
相続人が複数いる場合、誰がどの財産をどれだけ相続するのかを話し合う「遺産分割協議」が必要です。相続人全員の合意が必要ですが、イギリスにいる相続人はどう参加すれば良いのでしょうか。
全員で集まらなくても大丈夫!遺産分割協議の進め方
遺産分割協議は、相続人全員が一同に会して行う必要はありません。電話、メール、ビデオ通話などを利用して話し合いを進めることができます。話し合いがまとまったら、その内容を「遺産分割協議書」という書類にまとめます。
遺産分割協議書の作成と署名
遺産分割協議書には、相続人全員が署名し、実印を押印するのが一般的です。しかし、イギリスには印鑑登録の制度がありません。そのため、イギリス在住の相続人は、実印の代わりに「サイン(署名)」をします。このサインが本人のものであることを証明するために、特別な書類が必要になります。
最重要!イギリス在住の相続人が用意するべき書類
イギリスに住んでいる相続人は、日本にいる相続人とは異なる書類を用意する必要があります。特に「サイン証明書」と「在留証明書」は手続きの要となる重要な書類です。
印鑑証明書の代わりになる「サイン証明書」
イギリスには印鑑証明書がないため、その代わりとして「サイン証明書(署名証明書)」を取得します。これは、遺産分割協議書などの書類にしたサインが、間違いなく本人のものであることを公的に証明するものです。現地の日本大使館や領事館で発行してもらえます。
サイン証明書は2種類ある!どちらを選ぶべき?
サイン証明書には2つの形式があり、どちらを選ぶかが非常に重要です。
形式1(貼付型) | 遺産分割協議書などの署名すべき書類を大使館に持参し、職員の目の前でサインします。その書類とサイン証明書を一体化させて割り印を押してもらう形式です。証明力が高く、不動産の相続登記(名義変更)がある場合は、必ずこの形式が必要になります。 |
形式2(単独型) | 日本の印鑑証明書のように、サイン証明書が単独の書類として発行される形式です。預貯金の解約など、不動産登記が絡まない手続きでは、こちらの形式で対応できることが多いです。 |
どちらが必要か分からない場合は、手続き先に確認するか、より証明力の高い「貼付型」を取得しておくと安心です。
住民票の代わりになる「在留証明書」
不動産を相続して名義変更(相続登記)をする場合、新しい名義人となる人の住民票が必要です。しかし、イギリス在住の相続人は日本の住民票がありません。その代わりに「在留証明書」を取得します。これもサイン証明書と同様に、現地の日本大使館や領事館で発行してもらえます。相続登記で使う場合は、「本籍地」の記載があるものが必要になるので注意しましょう。
書類の取得方法と注意点
サイン証明書や在留証明書は、イギリスにある日本大使館・領事館で取得します。事前に予約が必要な場合がほとんどです。また、金融機関の手続きでは、これらの証明書に「発行から6ヶ月以内」といった有効期限が設けられていることがあるため、手続きのスケジュール管理が重要になります。
日本の相続税申告はどうする?
相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告が必要です。申告と納税は、亡くなった日から10ヶ月以内に行わなければなりません。
相続税の課税対象となる財産の範囲
相続人がイギリスに住んでいる場合でも、亡くなった方が日本国内に住んでいた場合(居住被相続人)、原則として日本国内だけでなく海外にある財産も含めた全ての財産が日本の相続税の課税対象となります。ただし、相続人や亡くなった方の状況(国籍、居住期間など)によって課税範囲が変わるため、専門家への確認が必要です。
納税管理人を選任しよう
イギリス在住の相続人は、日本での納税手続きをスムーズに進めるために「納税管理人」を選任する必要があります。納税管理人とは、本人に代わって確定申告書の提出や税金の納付などを行う人のことです。親族や、税理士などの専門家に依頼することが一般的です。「納税管理人届出書」を税務署に提出することで選任できます。
手続きをスムーズに進めるためのポイント
国際相続は、時間も手間もかかりがちです。少しでもスムーズに進めるために、いくつかポイントを押さえておきましょう。
早めに専門家に相談する
国際相続は、法律や税務の知識だけでなく、各国の制度に関する理解も必要です。手続きが複雑で、必要書類も多岐にわたるため、早い段階で国際相続に詳しい司法書士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家は、必要な手続きを整理し、スケジュールを立て、書類の準備などをサポートしてくれます。
スケジュール管理を徹底する
書類の取り寄せには時間がかかります。特に、イギリスの日本大使館で書類を取得し、それを日本へ郵送するだけでも数週間かかることがあります。相続税の申告期限(10ヶ月)や金融機関が定める書類の有効期限など、各手続きの期限を意識して、余裕を持ったスケジュールを立てることが大切です。
相続人同士でこまめに連絡を取り合う
日本とイギリスでは時差もあり、コミュニケーションが取りにくいかもしれません。しかし、手続きの進捗状況や必要書類の準備状況など、相続人同士でこまめに情報を共有することが、トラブルを防ぎ、円滑に手続きを進める鍵となります。
まとめ
相続人がイギリスに居住している場合の相続手続きは、日本国内だけで完結する手続きに比べて、準備すべき書類や注意すべき点が多いのが特徴です。特に、印鑑証明書や住民票の代わりとなる「サイン証明書」や「在留証明書」の取得が重要なポイントとなります。また、相続税の申告が必要な場合は「納税管理人」の選任も忘れてはいけません。手続きは複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつ手順を踏んでいけば必ず完了できます。不安な点や分からないことがあれば、無理せず国際相続の専門家に相談し、スムーズな手続きを目指しましょう。
参考文献
イギリス在住の相続人がいる場合の相続手続き【よくある質問まとめ】
Q.イギリス在住ですが、日本の相続手続きで住民票や印鑑証明書の代わりに何が必要ですか?
A.住民票の代わりには「在留証明書」、印鑑証明書の代わりには「サイン証明書(署名証明書)」が必要です。どちらもイギリスの日本国総領事館または大使館で取得できます。
Q.イギリスにいる相続人との遺産分割協議はどのように進めればよいですか?
A.遺産分割協議書を作成し、国際郵便などでイギリスの相続人に送付します。相続人は内容を確認後、日本国総領事館等で取得したサイン証明書を添付して署名し、返送するのが一般的です。
Q.私はイギリスに住んでいますが、日本の相続税は課税されますか?
A.被相続人(亡くなった方)が日本国内に住所を持っていた場合、原則としてイギリス在住の相続人にも日本の相続税が課税されます。取得した財産のすべてが課税対象となります。
Q.イギリスから日本の相続を放棄することはできますか?
A.はい、可能です。相続放棄の申述書にサイン証明書を添付し、日本の家庭裁判所に提出します。相続の開始を知った時から3ヶ月以内という期限があるため、速やかに手続きを進める必要があります。
Q.イギリス在住の相続人がいると、手続きにはどのくらいの時間がかかりますか?
A.書類の国際郵便でのやり取りや、領事館での証明書取得に時間を要するため、相続人全員が日本国内にいる場合に比べて数ヶ月長くかかることが一般的です。早めに手続きを開始することをおすすめします。
Q.海外とのやり取りで手続きが複雑です。専門家に依頼した方が良いでしょうか?
A.はい、強く推奨します。国際相続は必要書類や手続きが煩雑で、多くの時間と手間がかかります。司法書士や税理士などの専門家に依頼することで、スムーズかつ正確に手続きを進めることができます。