ご家族が亡くなられ、相続人のお一人がインドにお住まいの場合、「相続手続きってどう進めたらいいの?」と不安に感じていらっしゃいませんか。国際相続は、ただでさえ大変な相続手続きがさらに複雑になります。特にインドが関わる場合は、独自の法律や文化があり、専門的な知識が必要です。この記事では、インドに相続人がお住まいの場合の相続手続きについて、どの国の法律が適用されるのか、どんな書類が必要になるのか、そして税金の問題まで、一つひとつ丁寧に解説していきますね。
国際相続の第一歩!どの国の法律が適用されるの?(準拠法)
国際相続でまず初めに確認しなければならないのが、「準拠法」、つまり「どの国の法律(ルール)に基づいて相続手続きを進めるか」という点です。国によって相続人の範囲や相続できる割合(法定相続分)が全く異なるため、これはとても重要なポイントになります。
まずは日本のルールを確認
日本の法律(法の適用に関する通則法)では、相続は原則として「亡くなった方(被相続人)の本国法」によると定められています。例えば、亡くなった方が日本国籍であれば日本の民法が、インド国籍の方であればインドの法律が適用されるのが基本です。では、亡くなった方が日本人で、相続人がインドに住んでいる場合はどうでしょう?この場合も、亡くなった方が日本国籍なので、基本的には日本の民法に沿って手続きを進めることになります。
インドの特殊な相続法体系「人的不統一法国」
インドの相続法を考えるとき、非常に特徴的な点があります。それは、インドが「人的不統一法国」であるということです。これは、人の属性、具体的には「宗教」によって適用される法律が異なる国という意味です。そのため、もし亡くなった方がインド国籍だった場合、その方がどの宗教を信仰していたかによって、従うべき法律が変わってきます。
| 被相続人の宗教 | 適用される法律の例 |
| ヒンドゥー教徒 | ヒンドゥー相続法(Hindu Succession Act) |
| イスラム教徒 | イスラム法(シャリーア)に基づく規定 |
| キリスト教徒など | インド相続法(Indian Succession Act) |
このように、宗教によって相続人の範囲や相続分が大きく異なるため、まずどの法律が適用されるのかを特定することが不可欠です。2011年の国勢調査によると、インド国内ではヒンドゥー教徒が約8割を占めるため、多くはヒンドゥー相続法が関わってくると考えられます。
「反致」により日本の法律が適用されることも
少し難しいお話になりますが、「反致(はんち)」という考え方があります。例えば、亡くなった方がインド国籍で、日本の不動産を遺したとします。日本のルールでは「被相続人の本国法(インド法)で」となりますが、そのインドの法律を調べてみると、「不動産の相続は、その不動産がある場所の法律(所在地法)による」と定められている場合があります。この場合、インド法が「日本の法律で手続きしてください」と指し返してくる形になり、結果的に日本の民法が適用されることになるのです。これを反致と呼びます。預貯金などの動産についても、亡くなった方の生活の拠点(ドミサイル)が日本にあれば、同様に日本の法律が適用されるケースが多くあります。
日本国内の財産に関する具体的な相続手続き
相続人がインドにお住まいでも、日本国内にある不動産や預貯金については、日本の法務局や金融機関で手続きを行う必要があります。ここでは、その具体的な流れと必要書類について見ていきましょう。
不動産の相続登記(名義変更)
日本にある不動産の名義変更(相続登記)は、日本の法律に基づいて進めます。通常の相続と同じように、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本などが必要になります。インド在住の相続人の方には、次の書類を用意していただく必要があります。
遺産分割協議を行う場合、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要ですが、インドには印鑑登録の制度がありません。そのため、印鑑証明書の代わりに「サイン証明書(署名証明書)」や「拇印証明書」を、インドにある日本の大使館や領事館で取得していただくことになります。また、住所を証明する書類として「在留証明書」も同様に取得が必要です。
預貯金・株式の解約や名義変更
銀行預金や証券会社の株式などの手続きも、基本的には不動産登記と同じ流れです。金融機関ごとに必要書類が若干異なる場合がありますが、遺産分割協議書とインド在住の相続人の方の「サイン証明書」「在留証明書」が必要になる点は共通しています。一つ注意点として、パスポートなどの本人確認書類と金融機関に登録された氏名のローマ字表記が微妙に違う(例:「RAJ KUMAR」と「RAJ K SHARMA」など)場合、同一人物であることを証明するための「宣誓供述書(Affidavit)」などを別途求められることがあります。
インド国内の財産に関する相続手続き
もし、亡くなった方がインド国内にも財産(不動産や預金など)をお持ちだった場合は、日本の手続きとは別に、インドの法律に基づいて現地で手続きを進める必要があります。
現地の専門家との連携が不可欠
インド国内の手続きは、前述した宗教ごとの法律に従って進められます。州ごとに運用が異なることもあり、非常に専門的で複雑です。そのため、現地の弁護士や会計士など、専門家のサポートなしに進めることは極めて困難です。日本側の専門家とも連携を取りながら、慎重に進める必要があります。
日本の書類には「アポスティーユ」が必要
インドでの手続きに日本の公文書(戸籍謄本など)を提出する場合、その書類が本物であることを証明するために、日本の外務省による「アポスティーユ(付箋による証明)」という認証を受ける必要があります。また、書類は英語に翻訳する必要があり、その翻訳文も公証役場で認証を受けるのが一般的です。
相続税の申告はどうすればいいの?
相続財産を受け取った場合、相続税の問題も考えなければなりません。国際相続における税金のルールは少し複雑です。
日本の相続税の課税対象
たとえ相続人がインドにお住まいでも、日本国内にある財産(不動産や預貯金など)は、日本の相続税の課税対象となります。また、亡くなった方が亡くなる前の10年以内に日本に住所を持っていた場合などは、インドにある財産も含めた全ての財産が日本の相続税の対象になる可能性があります。相続人と被相続人の居住状況によって納税義務の範囲が変わるため、専門家への確認が必要です。
二重課税と外国税額控除
残念ながら、日本とインドの間には相続税に関する租税条約が結ばれていません。そのため、同じ財産に対して日本とインドの両方で相続税が課税されてしまう「二重課税」の状態になる可能性があります。この場合、二重の負担を調整するため、日本で納める相続税額からインドで納めた税額の一部を控除できる「外国税額控除」という制度を利用することができます。
手続きを円滑に進めるための注意点
インド在住の相続人との手続きをスムーズに進めるために、いくつか心に留めておきたいポイントがあります。
書類の準備と郵送には余裕をもって
海外の役所や日本の大使館・領事館での書類取得には、思った以上に時間がかかることがあります。また、書類を国際郵便でやり取りするため、郵送だけで数週間かかることも珍しくありません。相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)なども考慮し、スケジュールには十分に余裕を持って進めましょう。
早めに専門家へ相談を
ここまでご説明したように、インドが関わる国際相続は、準拠法の判断、国内外での手続き、必要書類の準備、税務問題など、非常に専門性が高く複雑です。ご自身たちだけで進めようとすると、手続きが滞ってしまったり、思わぬトラブルに発展したりする可能性もあります。国際相続に詳しい司法書士や税理士などの専門家に、できるだけ早い段階で相談することをおすすめします。
まとめ
相続人の方がインドにお住まいの場合の相続手続きは、まず「どの国の法律が適用されるのか」という準拠法の確認から始まります。日本国内の財産については日本の法律で手続きを進めますが、インド在住の相続人の方には「サイン証明書」や「在留証明書」などを取得していただく必要があります。インド国内の財産については、現地の法律に基づき、専門家の協力のもとで手続きを進めなければなりません。また、相続税については、二重課税のリスクも考慮し、適切に申告・納税する必要があります。手続きは複雑で時間もかかりますので、不安な方はぜひ専門家を頼ってくださいね。
参考文献
インド在住の相続人がいる場合のよくある質問まとめ
Q.相続人がインド在住の場合、どの国の法律が適用されますか?
A.亡くなった方が日本国籍であれば、原則として日本の民法が適用されます。亡くなった方がインド国籍の場合、その方の宗教によって適用されるインドの法律が異なりますが、日本国内の不動産などについては、結果的に日本の法律が適用される(反致)ことも多くあります。
Q.インドには印鑑証明書がないですが、遺産分割協議書はどうすればいいですか?
A.インドにお住まいの相続人の方には、インドにある日本の大使館や領事館で、印鑑証明書の代わりとなる「サイン証明書(署名証明書)」を取得していただき、遺産分割協議書に署名していただきます。
Q.日本の不動産を相続したインド在住の相続人は、日本の相続税を払う必要がありますか?
A.はい、相続人が海外にお住まいでも、日本国内にある財産は日本の相続税の課税対象となりますので、基礎控除額を超える場合は申告と納税が必要です。
Q.インドにある財産はどうやって相続手続きをすればいいですか?
A.インドの法律(宗教法など)に基づいて、現地の弁護士など専門家の協力を得て手続きを進める必要があります。日本の手続きとは別に行う必要があります。
Q.日本の戸籍謄本などをインドの手続きで使う場合、何か特別な手続きは必要ですか?
A.はい、日本の公文書をインドで使うには、まず英語に翻訳し、その上で日本の外務省による「アポスティーユ」という認証を受ける必要があります。
Q.手続きが複雑なので専門家に頼みたいのですが、誰に相談すればいいですか?
A.国際相続に詳しい司法書士(不動産登記や法的手続き)や税理士(相続税申告)に相談することをおすすめします。両方の資格を持つ専門家や、連携している事務所に依頼するとワンストップで対応してもらえることが多いです。