ご家族が亡くなられ、悲しみに暮れる中で進めなければならない相続手続き。ただでさえ大変なのに、相続人の中にオランダにお住まいの方がいると、「手続きはどう進めたらいいの?」「必要な書類は?」「税金はどうなるの?」と、不安や疑問が次々と湧いてきますよね。国際的な手続きは専門的で複雑に感じられるかもしれませんが、ポイントを押さえれば大丈夫です。この記事では、相続人がオランダに居住している場合の相続手続きについて、必要な書類から税金の問題まで、わかりやすく解説していきます。
国際相続の基本的な考え方
まず、相続人が海外に住んでいる場合、どの国の法律に基づいて手続きを進めるのかを知ることが大切です。これを「準拠法」といいます。日本では「法の適用に関する通則法」という法律で、相続は亡くなった方(被相続人)の国籍がある国の法律によると定められています。つまり、亡くなった方が日本人であれば、相続人がオランダに住んでいても、日本の民法に沿って相続手続きを進めることになります。これは、手続きの大きな指針になるので、最初に確認しておきましょう。
準拠法は「亡くなった方」の国籍で決まる
相続手続きで適用される法律は、相続人の国籍や居住地ではなく、亡くなった方の国籍で決まるのが日本のルールです。例えば、亡くなったお父様が日本人で、相続人である長男がオランダ国籍を取得しておらず日本国籍のままであれば、手続きはすべて日本の法律に基づいて行われます。遺産の分け方(法定相続分)や相続人の範囲なども、日本の民法が適用されるので、まずは日本のルールを基本に考えましょう。
オランダの法律との関係
幸いなことに、オランダも相続の準拠法については、日本と同じように「本国法主義(国籍がある国の法律を適用)」を採用しています。そのため、亡くなった方が日本人であれば、オランダ側でも日本の法律が適用されることに比較的理解が得られやすく、手続きの面で大きな衝突は起こりにくいとされています。ただし、オランダ国内にある不動産など、財産の種類によってはオランダの法律が関わってくる可能性もあるため、注意が必要です。
オランダ在住の相続人が準備するべき特別の書類
日本の相続手続きでは、遺産分割協議書などに実印を押し、印鑑証明書を添付するのが一般的です。しかし、オランダにお住まいの方は、日本の市区町村で発行される印鑑証明書や住民票を取得できません。そのため、代わりに以下の書類を現地の日本国大使館や領事館で取得する必要があります。
印鑑証明書の代わり「サイン証明(署名証明)」
印鑑証明書の代わりになるのが「サイン証明(署名証明)」です。これは、領事の目の前で遺産分割協議書などの書類に本人が署名し、その署名が本人のものであることを証明してもらう公的な書類です。日本での不動産登記や預貯金の解約手続きなどで、印鑑証明書の代わりに提出します。申請には、パスポートなどの本人確認書類と、署名する書類(遺産分割協議書など)が必要です。事前に在オランダ日本国大使館のウェブサイトで必要書類や予約の要否を確認しましょう。
住民票の代わり「在留証明」
住民票の代わりとなるのが「在留証明」です。これは、オランダのどこに住所があるのかを証明する書類で、不動産の相続登記などで必要になります。申請には、パスポートや、オランダでの住所と居住期間が確認できる公的な書類(公共料金の請求書など)が必要です。どの時点からの証明が必要かなど、提出先によって要件が異なる場合があるので、事前に確認しておくとスムーズです。
必要書類の比較表
| 日本在住の相続人 | オランダ在住の相続人 |
|---|---|
| 印鑑証明書 | サイン証明(署名証明) |
| 住民票 | 在留証明 |
| 戸籍謄本 | 戸籍謄本(日本で取得) |
遺産分割協議の進め方
相続人が複数いる場合、誰がどの財産をどれだけ相続するのかを話し合う「遺産分割協議」が必要です。相続人全員の合意が必要ですが、オランダと日本では物理的な距離があるため、進め方を工夫する必要があります。
書類の郵送による方法
最も一般的な方法は、日本にいる相続人が中心となって「遺産分割協議書」の案を作成し、国際郵便でオランダにいる相続人に送付する方法です。内容を確認してもらった後、在オランダ日本国大使館でサイン証明を取得し、署名した書類を日本へ返送してもらいます。時間はかかりますが、着実に手続きを進めることができます。郵送中の紛失リスクに備え、追跡可能なサービスを利用すると安心です。
オンラインでの協議と書面の取り交わし
最近では、ビデオ通話などを利用してオンラインで相続人全員が顔を合わせて協議を行うケースも増えています。話し合いで合意した内容を元に遺産分割協議書を作成し、その後の署名・証明手続きは郵送で行います。遠隔でも意思疎通が図りやすく、誤解が生じにくいのがメリットです。
相続税の納税義務はどうなる?
相続人が海外に住んでいる場合、日本の相続税がどうなるのかは非常に重要な問題です。納税義務の範囲は、亡くなった方と相続人の居住状況によって決まります。
納税義務者の区分
日本の相続税法では、納税義務者を大きく2つに分けています。
| 納税義務者 | 課税対象となる財産 |
|---|---|
| 無制限納税義務者 | 日本国内および国外にある全ての財産 |
| 制限納税義務者 | 日本国内にある財産のみ |
オランダ在住相続人のケース
相続人がオランダ在住(非居住者)で、亡くなった方が日本に住んでいた(居住者)場合、その相続人は原則として「非居住無制限納税義務者」に該当します。これは、相続人が日本国籍を有している場合に適用されることが多いルールです。この場合、日本国内の財産だけでなく、被相続人が海外に持っていた財産も含めて、すべての遺産が日本の相続税の課税対象となります。相続税の対象から外れるのは、亡くなった方と相続人の両方が一定期間以上海外に居住していた場合などに限られ、条件は非常に厳格です。ご自身のケースがどちらに該当するかは、専門家に確認することをおすすめします。
オランダの相続税と外国税額控除
日本とオランダ、両方の国から相続税を課せられる「二重課税」の状態になる可能性があります。このような国際的な二重課税を調整するため、「外国税額控除」という制度が設けられています。
二重課税を避けるための「外国税額控除」
外国税額控除とは、外国(この場合はオランダ)で課された相続税のうち、一定の金額を日本の相続税額から差し引くことができる制度です。例えば、オランダにある財産についてオランダで相続税を納めた場合、その税額の一部を日本の相続税から控除することで、二重の負担を軽減できます。この控除を受けるためには、相続税の申告書に外国税額控除に関する明細書や、オランダで相続税を納付したことを証明する書類などを添付して提出する必要があります。
まとめ
相続人がオランダに居住している場合の相続手続きは、国内だけで完結するケースに比べて、準備すべき書類やコミュニケーションに時間と手間がかかります。特に、「サイン証明」と「在留証明」の取得は、手続きを進める上での最初の重要なステップです。また、相続税については、ご自身の納税義務の範囲を正しく把握し、二重課税にならないよう「外国税額控除」の適用を検討することが大切です。手続きが複雑で不安な場合は、一人で抱え込まず、国際相続の経験が豊富な税理士や司法書士などの専門家に早めに相談しましょう。適切なサポートを受けることで、円満かつスムーズな相続を実現できます。
参考文献
オランダ在住者の相続手続きに関するよくある質問
Q.相続人がオランダ在住の場合、どの国の法律に従って相続手続きを進めますか?
A.亡くなった方(被相続人)が日本国籍であれば、相続人がオランダにお住まいでも、日本の法律(民法)に基づいて相続手続きを進めます。
Q.オランダ在住のため日本の印鑑証明書がありません。どうすればよいですか?
A.オランダにある日本国大使館または領事館で「サイン証明(署名証明)」を取得します。これが印鑑証明書の代わりとなり、遺産分割協議書などの公的な手続きに使用できます。
Q.相続手続きのために、必ず日本に帰国する必要はありますか?
A.必ずしも帰国する必要はありません。遺産分割協議書のやり取りを国際郵便で行ったり、日本にいる他の相続人や専門家に手続きを委任したりすることで、オランダにいながら手続きを進めることが可能です。
Q.オランダに住んでいますが、日本の相続税は課税されますか?
A.はい、亡くなった方が日本に居住していた場合、相続人がオランダ在住(日本国籍)であっても、原則として国内外のすべての財産に対して日本の相続税が課税されます。
Q.日本とオランダで二重に相続税が課される可能性はありますか?
A.はい、その可能性はあります。しかし、国際的な二重課税を調整するための「外国税額控除」という制度があり、これを利用することで税負担を軽減できます。
Q.手続きが複雑でよくわかりません。誰に相談すればよいですか?
A.国際相続は専門的な知識が必要です。国際案件の経験が豊富な税理士、司法書士、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。