ご家族が亡くなられた際、相続人の一人がマレーシアなど海外に住んでいると、「手続きはどうなるの?」「書類は何が必要なの?」と不安に感じますよね。日本にいる相続人だけの場合とは少し勝手が違うため、戸惑う方も少なくありません。でも、安心してください。ポイントさえ押さえておけば、手続きはきちんと進められます。この記事では、相続人がマレーシアに居住している時の相続手続きについて、必要書類から税金のことまで、分かりやすく解説していきますね。
日本とマレーシア、相続手続きの基本的な違い
まず、相続に関する基本的な考え方や手続きが、日本とマレーシアでは大きく異なることを知っておきましょう。被相続人(亡くなった方)が日本人で、主な財産が日本にある場合は、基本的に日本の法律に従って手続きを進めますが、マレーシアの制度も理解しておくと、いざという時に役立ちます。
日本の相続手続きの流れ
日本の相続手続きは、一般的に以下の流れで進みます。
まず、誰が相続人になるのかを戸籍謄本などで確定させ、次に、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めて、すべての遺産を調査します。その後、相続人全員で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行い、全員が合意したら「遺産分割協議書」という書類を作成します。最後に、その協議書に基づいて、不動産の名義変更や預貯金の解約・分配、そして相続税の申告・納税を行います。
マレーシアの相続手続き「プロベート」とは?
一方、マレーシアでは「プロベート(Probate)」と呼ばれる、裁判所が関与する手続きが基本となります。遺言書がある場合は、裁判所がその遺言書の有効性を確認し、「遺言執行者」を任命します。遺言書がない場合は、相続人が裁判所に申し立てを行い、「遺産管理人」を任命してもらう必要があります。この遺産管理人(または遺言執行者)が、財産の管理や清算を行い、最終的に残った財産を相続人に分配する、という流れになります。日本のように、相続人同士の話し合いだけで手続きが完結しないのが大きな特徴です。
相続財産に対する考え方の違い
この手続きの違いは、相続財産に対する考え方の違いから来ています。日本では、亡くなった方の財産は、原則として相続人が直接引き継ぎます。しかしマレーシアでは、財産は一度、亡くなった方の「遺産」として人格のない財団のような扱いになり、それを清算する代理人として遺産管理人が立てられます。遺産管理人が税金や債務の支払いをすべて終えた後、残った財産が初めて相続人に分配されるのです。このため、手続きに時間がかかる傾向があります。
相続人がマレーシアにいる場合の日本の相続手続き
それでは、本題である「被相続人が日本人で日本の財産を相続するけれど、相続人の一人がマレーシアに住んでいる」というケースについて見ていきましょう。この場合、相続手続きは日本の法律に基づいて進められますが、海外在住者ならではの特別な対応が必要になります。
遺産分割協議はどう進める?
相続手続きの要である遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要です。しかし、マレーシアに住んでいる方がすぐに帰国できるとは限りませんよね。その場合は、国際郵便などを利用して遺産分割協議書を持ち回りで署名したり、ビデオ通話などで話し合いを進めたりする方法が一般的です。時差や通信環境に配慮しながら、円滑にコミュニケーションをとることが大切です。
必要書類とマレーシアでの取得方法
日本の相続手続きでは、遺産分割協議書に実印を押し、印鑑証明書を添付するのが一般的です。しかし、海外に住んでいる方は日本の印鑑登録を抹消していることがほとんど。その代わりとなるのが、マレーシアにある日本領事館で取得する「サイン証明書(署名証明)」です。これは、領事の目の前で書類に署名することで、その署名が本人のものであることを証明してもらう公的な書類です。
また、住所を証明するために「在留証明書」も必要になります。
| 日本の相続人が用意する主な書類 | ・印鑑証明書 ・実印 |
| マレーシア在住の相続人が用意する書類 | ・サイン証明書(署名証明) ・在留証明書 |
これらの証明書は、現地の日本領事館で申請・取得できます。事前に必要書類や申請方法を領事館のウェブサイトで確認しておきましょう。
専門家への依頼も選択肢に
このように、国際相続は国内だけの相続に比べて手続きが煩雑になりがちです。書類のやり取りに時間がかかったり、現地の公的書類の取得が必要になったりと、ご自身たちだけで進めるのは大変なこともあります。不安な場合は、国際相続に詳しい司法書士や弁護士、税理士といった専門家に相談・依頼することをおすすめします。専門家が間に入ることで、手続きがスムーズに進み、精神的な負担も大きく軽減できますよ。
相続税の納税義務はどうなる?
「マレーシアに住んでいれば、日本の相続税はかからない?」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、そうとは限りません。相続人がどこに住んでいるか、そして被相続人の状況によって、納税義務の範囲が変わってきます。日本の相続税の申告期限は、相続開始を知った日から10ヶ月以内と定められており、これは海外在住でも同じです。
課税対象となる財産の範囲
日本の相続税法では、被相続人と相続人の住所地や国籍によって、課税対象となる財産の範囲が細かく定められています。簡単にまとめると、被相続人が亡くなった時に日本に住んでいた場合、マレーシア在住の相続人は、日本国内にある財産だけでなく、マレーシアなど海外にある財産もすべて日本の相続税の課税対象となります。
一方で、被相続人も相続人も10年以上海外に住んでいるなど、一定の要件を満たす場合は、日本国内の財産のみが課税対象となるケースもあります。
| 納税義務者の区分例 | 課税財産の範囲 |
| 被相続人が日本居住、相続人がマレーシア居住 | 国内財産+国外財産 |
| 被相続人・相続人ともに10年以上海外居住など | 国内財産のみ |
この判定は非常に複雑なため、必ず税理士などの専門家に確認するようにしてください。
相続税の申告と納税方法
相続人が日本に住所を持っていない場合、相続税の申告や納税手続きをスムーズに行うために「納税管理人」を選任する必要があります。納税管理人とは、本人に代わって税務署からの書類を受け取ったり、相続税を納付したりする代理人のことです。通常は、日本に住んでいる親族や、依頼した税理士が納税管理人になります。「納税管理人届出書」を被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に提出することで手続きができます。
マレーシアにある財産の相続手続き
もし、亡くなった方がマレーシアに不動産や銀行預金などの財産を持っていた場合は、話が少し変わってきます。その財産については、日本の法律ではなく、マレーシアの法律に基づいて相続手続きを進める必要があります。
マレーシアの法律が適用される
マレーシア国内の財産、特に不動産の相続については、その不動産がある場所の法律(=マレーシアの法律)が適用されます。そのため、先ほど説明した「プロベート」という裁判所手続きが必要になります。日本の遺産分割協議書がそのまま使えるわけではなく、現地の弁護士などに依頼して、法的な手続きを進めなければなりません。これには数ヶ月から、場合によっては数年単位の時間がかかることもあります。
遺言書の重要性
マレーシアでの相続手続きをスムーズに進めるために最も有効なのが、マレーシアの法律に準拠した遺言書を作成しておくことです。遺言書があれば、裁判所での手続きが簡素化され、期間も費用も大幅に抑えることができます。日本の財産は日本の遺言書で、マレーシアの財産はマレーシアの遺言書で、と分けて作成しておくことが、残されたご家族の負担を減らす一番の対策と言えるでしょう。
事前にできる生前対策
いざという時に慌てないために、そして残されたご家族が困らないために、元気なうちからできる対策があります。特に相続人が海外に住んでいる場合は、早めに準備を始めることが大切です。
遺言書の作成
繰り返しになりますが、遺言書の作成は最も効果的な生前対策です。誰にどの財産を渡したいのかを明確に記しておくことで、相続人間の無用な争いを防ぎ、手続きを円滑に進めることができます。特に、日本とマレーシア両方に財産がある方は、それぞれの国の法律に合った遺言書を準備しておくことを強くお勧めします。
財産リストの作成と共有
ご自身がどのような財産をどこに持っているのか、一覧にした「財産リスト」を作成し、信頼できるご家族と共有しておきましょう。銀行口座、証券口座、不動産、生命保険、そして借入金など、すべてをリストアップしておくことで、相続が始まった後の遺産調査が格段に楽になります。特に海外の財産は、ご家族がその存在を知らないケースも多いので、非常に重要です。
納税資金の準備
相続税は原則として現金で一括納付しなければなりません。相続財産が不動産ばかりで、すぐに現金化できない場合、納税資金に困ってしまうことがあります。特にマレーシアの財産は、相続手続きに時間がかかり、日本の相続税の納税期限(10ヶ月)に間に合わない可能性が高いです。生命保険の死亡保険金を活用するなど、あらかじめ納税資金を準備しておくことも大切な対策の一つです。
まとめ
相続人の一人がマレーシアに居住している場合、日本の相続手続きは少し複雑になります。特に、印鑑証明書の代わりに「サイン証明書」を取得したり、相続税の申告のために「納税管理人」を選任したりといった、海外在住者特有の手続きが必要です。また、マレーシアにも財産がある場合は、現地の法律に従った手続きが別途必要となり、遺言書の有無が手続きの難易度を大きく左右します。国際相続は時間も手間もかかりますが、事前にポイントを理解し、必要であれば専門家の力を借りることで、きっと乗り越えられます。ご家族のためにも、早めの準備と相談を心がけてくださいね。
参考文献
マレーシア在住者の相続に関するよくある質問まとめ
Q. 相続人がマレーシアに住んでいる場合、印鑑証明書はどうすればいいですか?
A. マレーシアにある日本領事館で「サイン証明書(署名証明)」を取得することで、印鑑証明書の代わりとして使用できます。
Q. 日本の相続税の申告期限は変わりますか?
A. 変わりません。相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。海外在住であっても申告と納税が必要です。
Q. 納税管理人とは何ですか?
A. 日本に住所がない相続人に代わって、税務署からの書類の受け取りや税金の納付など、納税に関する手続きを行う人のことです。
Q. マレーシアに相続税はありますか?
A. マレーシアには相続税や贈与税に相当する税金はありません。ただし、被相続人や相続人の状況によっては、日本の相続税が課税される場合があります。
Q. 日本で作成した遺言書はマレーシアの財産にも有効ですか?
A. 日本の方式で作成した遺言書がマレーシアで有効と認められるには複雑な手続きが必要な場合があります。マレーシアの財産については、現地の法律に準拠した遺言書を別途作成することが推奨されます。
Q. 手続きが複雑で不安です。どこに相談すればいいですか?
A. 国際相続に詳しい司法書士、弁護士、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。手続きを代行してもらうことで、負担を大幅に軽減できます。