会社の将来を考えたとき、相続対策は経営者にとって避けては通れない大切な課題ですよね。特に、ご自身が育ててきた同族会社の株式をどうやって次の世代に引き継ぐか、頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。そんなとき、選択肢の一つとして注目されるのが「株式のホールディングス化(持株会社化)」です。この方法を上手に活用すると、相続税の負担を軽くしたり、スムーズな事業承継を実現したりできる可能性があります。今回は、相続対策として同族会社の株式をホールディングス化する際のメリットとデメリットについて、わかりやすく解説していきますね。
ホールディングス化(持株会社化)とは?相続対策の基本を解説
まずは、「ホールディングス化ってそもそも何?」という基本からお話ししますね。ホールディングス化とは、親会社となる「持株会社(ホールディングカンパニー)」を設立し、その持株会社が事業を行う「事業会社(子会社)」の株式を保有する組織形態に変えることをいいます。つまり、会社の経営戦略を考える親会社と、実際に事業を行う子会社に役割を分けるイメージです。
純粋持株会社と事業持株会社
持株会社には、大きく分けて2つのタイプがあります。
種類 | 特 徴 |
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純粋持株会社 | 自らは事業を行わず、子会社の株式を保有してグループ全体の管理・統括に専念する会社です。主な収入源は子会社からの配当金になります。 |
事業持株会社 | 自らも何らかの事業を行いながら、子会社の管理も行う会社です。 |
相続対策や事業承継を目的とする場合、グループ全体の株式を管理しやすい「純粋持株会社」の形が選ばれることが多いんですよ。
なぜ相続対策として注目されるの?
ホールディングス化が相続対策で注目される理由は、単に組織の形が変わるだけではないからです。この仕組みを利用することで、事業承継における大きな課題である「株式の評価額」と「経営権の集中」という2つの問題を同時に解決できる可能性があるんです。具体的にどんなメリットがあるのか、次の章で詳しく見ていきましょう。
相続対策でホールディングス化する5つのメリット
それでは、ホールディングス化がもたらす具体的なメリットを5つのポイントに分けてご紹介します。これらが、多くの経営者の方がホールディングス化を選ぶ理由です。
メリット①:自社株評価を引き下げ、相続税・贈与税を節税
最大のメリットは、相続税や贈与税の節税効果が期待できることです。事業が順調な会社ほど、自社株の評価額は高くなりがちで、その分、相続税も高額になってしまいます。ホールディングス化では、後継者が設立した持株会社が金融機関から融資を受けて、現経営者から事業会社の株式を買い取るという手法がよく使われます。このとき、持株会社は多額の借金を抱えることになりますよね。会社の株価を計算するとき、純資産から負債を差し引いて評価する方法(純資産価額方式)があるため、この借入金が負債として計上されることで、持株会社の株価を低く抑えることができるのです。結果として、後継者が引き継ぐ持株会社の株式にかかる相続税や贈与税の負担を軽減できるというわけです。
メリット②:後継者への株式集約がスムーズになる
会社の経営を安定させるためには、後継者が議決権の過半数、できれば3分の2以上の株式を保有することが理想です。しかし、相続人が複数いると、株式が分散してしまい経営権が不安定になるリスクがあります。ホールディングス化を活用すれば、後継者がオーナーとなる持株会社に事業会社の株式をすべて集約できます。これにより、他の相続人には現金などの他の財産を渡すことで、経営権の分散を防ぎ、後継者が安定した経営基盤を築くことができます。後継者個人に株式を買い取るための多額の資金がなくても、持株会社として融資を受けられる点も大きなポイントです。
メリット③:納税資金を確保しやすくなる
相続税は原則として現金で一括納付しなければなりません。ホールディングス化していると、納税資金の準備もしやすくなります。事業会社が得た利益を配当金として持株会社に支払い、その資金を原資として、持株会社から後継者へ役員報酬や配当を支払うことができます。これにより、後継者は個人として納税資金を計画的に準備することが可能になります。また、持株会社が子会社から受け取る配当金は、一定の条件を満たせば税金がかからない「受取配当金の益金不算入」という制度が適用されるため、効率的に資金を移動させることができます。
メリット④:経営と資産の分離・リスク分散
複数の事業を展開している場合、ホールディングス化によって各事業を別々の子会社に分けることができます。これにより、経営と資産の分離が明確になります。もし、ある事業が大きな損失を出してしまったとしても、その影響は該当の子会社にとどまり、他の健全な事業や親会社にまで直接的なダメージが及ぶのを防ぐことができます。グループ全体として見れば、経営リスクを分散できるというわけです。これは、会社の持続的な成長にとっても重要なメリットと言えますね。
メリット⑤:後継者の育成と柔軟な事業承継
事業承継を成功させるには、後継者の育成が不可欠です。ホールディングス体制では、後継者をまずは子会社の社長に就任させ、経営者としての経験を積ませることができます。現経営者は持株会社のオーナーとしてグループ全体を見守りながら、後継者の成長をサポートできます。また、将来的に複数の事業を別々の後継者に継がせたい場合や、一部の事業だけを売却(M&A)したい場合にも、事業ごとに会社が分かれているため、柔軟な対応がしやすくなります。
知っておくべきホールディングス化の4つのデメリット
多くのメリットがある一方で、もちろんデメリットも存在します。良い面だけでなく、注意すべき点もしっかりと理解した上で判断することが大切です。
デメリット①:設立・維持コストの増加
会社が一つ増えるわけですから、当然コストも増えます。まず、持株会社を設立する際には、登録免許税(最低15万円)や定款認証手数料などの設立費用がかかります。そして設立後も、会社を維持していくためのランニングコストが発生します。具体的には、法人住民税の均等割(資本金の額などによりますが、赤字でも最低年間7万円)、税理士への顧問料などが、親会社と子会社の両方で必要になります。これらのコストが、得られる節税メリットを上回るかどうか、事前にシミュレーションすることが重要です。
デメリット②:グループ経営の複雑化
組織が分かれることで、グループ全体の意思疎通が難しくなる可能性があります。親会社と子会社、あるいは子会社同士の連携がうまくいかず、かえって経営効率が落ちてしまうことも考えられます。例えば、子会社間でセクショナリズムが生まれたり、グループ全体としての目標よりも自社の利益を優先してしまったりするリスクです。こうした事態を避けるためには、グループ全体の理念やビジョンを共有し、円滑なコミュニケーションを保つための仕組みづくりが不可欠になります。
デメリット③:グループ通算制度の事務負担
ホールディングス化の税務メリットの一つに、グループ全体の所得と損失を合算して法人税を計算できる「グループ通算制度」があります。これにより、グループ内に赤字の子会社があれば、黒字の子会社の利益と相殺して全体の税負担を軽減できます。しかし、この制度の適用を受けるためには、複雑な税務計算や申告手続きが必要となり、経理部門の事務負担が大きく増加します。また、親会社の資本金が大きくなると、中小企業向けの税制優遇(例えば、交際費の損金算入枠や法人税の軽減税率など)が適用されなくなるケースもあるので注意が必要です。
デメリット④:税務上の否認リスク
ホールディングス化は有効な相続税対策ですが、その目的が節税だけであると税務署に判断された場合、租税回避行為として否認されるリスクがあります。例えば、事業の実態が全くないペーパーカンパニーを持株会社にしたり、非現実的な株価評価を行ったりすると、税務調査で厳しく指摘される可能性があります。事業承継を円滑に進める、経営効率を高めるなど、経営上の合理的な目的をもって計画的に進めることが大切です。
ホールディングス化を実現する3つの手法
実際にホールディングス体制を構築するには、いくつかの方法があります。会社の状況によって最適な手法が異なりますので、代表的な3つの手法をご紹介します。
株式移転方式
既存の事業会社が、そのすべての株式を新しく設立する親会社(持株会社)に移転させる方法です。複数の会社が経営統合して一つのグループになる際などによく用いられます。株主は、元の事業会社の株式と引き換えに、新設された持株会社の株式を受け取ることになります。
株式交換方式
既存の会社の一つを親会社とし、その会社が他の事業会社の株式をすべて取得する方法です。株式の対価として、親会社の株式を交付します。すでに中心となる会社があり、その傘下に他の会社を収めたい場合に適しています。
会社分割(抜け殻)方式
既存の会社から事業部門を切り離して新しい子会社を設立し、元の会社は株式を保有する持株会社として残る方法です。事業を行っていた会社が「抜け殻」のようになり、純粋持株会社へと移行することからこう呼ばれます。一つの会社からホールディングス体制を作る場合に最も一般的な手法です。
手法 | 特 徴 |
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株式移転方式 | 複数の会社が共同で、全く新しい親会社を設立する。 |
株式交換方式 | 既存の会社の一つが親会社となり、他の会社の株式を取得する。 |
会社分割方式 | 既存の会社から事業を切り離して子会社化し、元の会社が親会社になる。 |
ホールディングス化を検討する際の注意点
最後に、ホールディングス化を進める上で特に注意していただきたい点を2つお伝えします。
事業承継税制(特例措置)との関係
後継者が非上場株式を相続・贈与された際に、納税が猶予・免除される「法人版事業承継税制」という非常に有利な制度があります。しかし、この制度を利用するためには、対象となる会社が「資産管理会社」に該当しないことが要件の一つです。持株会社は、その資産の多くが子会社株式であるため、この資産管理会社に該当してしまう可能性があります。資産管理会社と判定されると、原則として事業承継税制は使えません。ただし、事業の実態があるなど、一定の要件を満たせば適用できる場合もありますので、この制度の活用を考えている場合は、ホールディングス化の設計段階で専門家と慎重に検討する必要があります。
専門家への相談の重要性
ここまでお話ししてきたように、ホールディングス化は税務、法務、会計など、非常に専門的な知識が求められる複雑な手続きです。どの手法が自社にとって最適なのか、税務上のリスクはないか、必要な手続きは何かなど、自己判断で進めるのは非常に危険です。計画を立てる早い段階から、相続や事業承継に詳しい税理士などの専門家に相談し、自社の状況に合わせた最適なプランを一緒に考えてもらうことが、成功への一番の近道です。
まとめ
同族会社の株式ホールディングス化は、自社株評価の引き下げによる相続税対策、後継者へのスムーズな経営権の集中、そして柔軟な事業展開など、多くのメリットを持つ強力な手法です。しかしその一方で、コストの増加や経営の複雑化といったデメリットや、税務上のリスクも存在します。大切なのは、メリットとデメリットの両方を正しく理解し、自社の将来のビジョンと照らし合わせながら、慎重に検討することです。実行する際には、必ず信頼できる専門家と一緒に、綿密な計画を立てて進めていきましょう。
参考文献
国税庁 No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)
株式のホールディングス化による相続対策のよくある質問まとめ
Q.相続対策で株式をホールディングス化する最大のメリットは何ですか?
A.ホールディングス会社(親会社)の株価評価額を低く抑えやすくなる点です。事業会社の成長とホールディングス会社の株価を切り離すことで、将来の相続税負担を軽減できる可能性があります。
Q.ホールディングス化のデメリットや注意点はありますか?
A.会社の設立や維持にコストがかかる点、組織が複雑化し意思決定が遅れる可能性がある点がデメリットです。また、税務上の要件も複雑になるため、専門家との連携が不可欠です。
Q.どのような会社がホールディングス化に向いていますか?
A.複数の事業を展開している会社や、将来的に事業売却(M&A)を検討している会社、後継者が複数いる会社などに向いています。事業ごとのリスク分散や柔軟な事業承継が可能になります。
Q.株式をホールディングス会社に移すだけで節税になりますか?
A.単に株式を移すだけでは節税になりません。ホールディングス化後の株価評価の仕組みを利用し、計画的に株価を引き下げることで、結果的に相続税の節税につながります。
Q.ホールディングス化を検討するタイミングはいつが良いですか?
A.会社の株価が比較的低く、経営者が元気なうちが理想的です。株価が高くなってからでは、株式移転時の税負担が大きくなる可能性があります。早めに計画を立てることが重要です。
Q.ホールディングス化にかかる費用はどのくらいですか?
A.会社の規模や再編手法により大きく異なります。会社設立の登記費用に加え、税理士や司法書士といった専門家への報酬が発生します。具体的な金額は事前に専門家へ見積もりを依頼しましょう。