ご家族が亡くなられた後、悲しみの中でさまざまな手続きを進めなければなりません。その中でも、故人の預貯金に関する銀行での相続手続きは、多くの方が戸惑うポイントではないでしょうか。何から始めれば良いのか、どんな書類が必要なのか、不安に感じることも多いですよね。この記事では、銀行で行う相続手続きの全体の流れから、状況に応じた必要書類まで、一つひとつ丁寧に分かりやすく解説していきます。
まずは銀行へ連絡!口座凍結とその影響
相続手続きの第一歩は、故人が口座を持っていた銀行へ連絡することから始まります。銀行に死亡の事実を伝えると、その口座は「凍結」され、入出金や引き落としが一切できなくなります。これは、相続トラブルを防ぐための重要な措置なのです。
なぜ口座は凍結されるの?
銀行が口座を凍結する一番の理由は、相続財産を安全に保護するためです。もし口座がそのままになっていると、相続人の一人が勝手にお金を引き出してしまったり、亡くなったことを知らない人からの入金があったりと、後々の遺産分割で大きなトラブルに発展する可能性があります。相続人全員の合意のもとで正式な手続きが行われるまで、財産を確定させ、守るために口座は凍結されるのです。
口座が凍結されるとどうなる?
口座が凍結されると、具体的には以下のようなことが起こります。
- 預金の引き出し、預け入れができない
- 公共料金やクレジットカード代金の自動引き落としが停止する
- 家賃や年金などの振り込みが受け取れなくなる
特に、公共料金などの引き落としが止まってしまうと、滞納につながる恐れがあります。速やかに各契約会社へ連絡し、支払い方法を別の口座に変更するなどの手続きが必要です。
葬儀費用はどうする?「預貯金の仮払い制度」を活用しよう
口座が凍結されると、当面の生活費や葬儀費用が支払えなくて困る、というケースも出てきます。そんな時に利用できるのが「預貯金の仮払い制度」です。これは、遺産分割協議が終わる前でも、一定額までであれば相続人が単独で預金を引き出せる制度です。
| 制度の名称 | 預貯金の仮払い制度 |
| 引き出せる上限額 | 「相続開始時の預金額 × 1/3 × その相続人の法定相続分」もしくは「150万円」のいずれか低い方の金額まで(一つの金融機関ごと) |
例えば、預金が900万円あり、相続人が配偶者と子供2人(法定相続分は配偶者1/2、子供各1/4)の場合、配偶者は最大150万円(900万円×1/3×1/2)、子供はそれぞれ最大75万円(900万円×1/3×1/4)を引き出すことができます。この制度を利用するには、戸籍謄本などの書類が必要になるため、事前に銀行へ問い合わせてみましょう。
銀行での相続手続き、全体の流れを4ステップで確認
銀行での相続手続きは、大まかに4つのステップで進んでいきます。全体像を把握しておくと、今どの段階にいるのかが分かり、落ち着いて手続きを進めることができますよ。
STEP1:銀行へ死亡の連絡と手続きの申し出
まずは、故人が利用していた銀行の窓口へ連絡します。取引のあった支店が分かればそちらに、分からなければ最寄りの支店でも構いません。電話で連絡し、口座名義人が亡くなったことを伝えると、今後の手続きの流れや必要書類について案内してもらえます。この連絡をもって、口座は凍結されます。
STEP2:必要書類の準備
銀行から案内された必要書類を集めます。この書類集めが、相続手続きの中で最も時間と手間がかかる部分です。特に「故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本」は、本籍地を何度も移している場合、複数の役所から取り寄せる必要があり、1ヶ月以上かかることもあります。計画的に進めていきましょう。
STEP3:書類の提出と銀行の確認
必要書類がすべて揃ったら、銀行所定の「相続手続依頼書」に相続人全員で署名・捺印(実印)し、他の書類と一緒に窓口へ提出します。提出された書類に不備がないか、銀行側で確認作業が行われます。この確認には、通常1週間から2週間ほどかかります。
STEP4:預金の払い戻し・名義変更
書類の確認が完了すると、いよいよ預金の払い戻しです。事前に指定した相続人代表の口座へ、解約した預金が振り込まれます。もし、その口座を引き続き利用したい場合は、名義変更の手続きをすることも可能です。これで銀行での相続手続きは完了となります。
【ケース別】銀行の相続手続きで必要になる書類一覧
銀行の相続手続きで必要になる書類は、遺言書の有無や遺産分割協議書の有無によって大きく異なります。ご自身の状況がどのケースに当てはまるかを確認し、準備を進めましょう。
全てのケースで共通して必要になる書類
まずは、どのパターンでも基本的に必要となる書類です。
| 書類名 | 説 明 |
| 銀行所定の相続手続依頼書 | 銀行の窓口でもらえます。相続人全員の署名と実印の押印が必要です。 |
| 故人(被相続人)の通帳・証書・キャッシュカードなど | その銀行で取引のあったもの全て。紛失した場合はその旨を伝えます。 |
| 手続きに来店する人の本人確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカードなど顔写真付きのもの。 |
| 手続きに来店する人の実印と印鑑証明書 | 発行から3ヶ月または6ヶ月以内のもの(銀行により異なります)。 |
ケース①:遺言書がなく、遺産分割協議書がある場合
相続人全員で話し合って遺産の分け方を決めた、最も一般的なケースです。上記の共通書類に加えて、以下の書類が必要になります。
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名と実印の押印があるもの)
- 故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本も含む)
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書(発行後3ヶ月または6ヶ月以内のもの)
ケース②:遺言書がある場合
故人が遺言書を残していた場合は、その内容に沿って手続きを進めます。遺言書の種類によって少し対応が変わるので注意しましょう。
- 遺言書(原本)
- 家庭裁判所の検認済証明書 または 遺言書情報証明書
※自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合に必要です。公正証書遺言の場合は不要です。
- 故人の死亡が確認できる戸籍謄本(または除籍謄本)
- 預金を受け取る方(受遺者)の印鑑証明書
- (遺言執行者がいる場合)遺言執行者の印鑑証明書
ケース③:遺言書も遺産分割協議書もない場合(法定相続)
この場合は、法律で定められた相続分(法定相続)に従って預金を分けることになります。相続人全員の協力が必要な手続きです。
- 故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
書類集めを効率化!「法定相続情報証明制度」とは?
故人が複数の銀行に口座を持っていた場合、それぞれの銀行で戸籍謄本一式を提出する必要があり、大変な手間がかかります。そこで活用したいのが「法定相続情報証明制度」です。
これは、必要な戸籍謄本一式を一度だけ法務局に提出すれば、相続関係を一覧図にした「法定相続情報一覧図の写し」を無料で必要な枚数交付してもらえる制度です。この一覧図が戸籍謄本の束の代わりになるため、その後の銀行や証券会社、法務局での不動産名義変更などの手続きが格段にスムーズになります。相続手続きを効率的に進めるために、ぜひ利用を検討してみてください。
銀行の相続手続きに関するよくある質問
ここでは、相続手続きを進める中で多くの方が疑問に思う点についてお答えします。
残高証明書は発行してもらえますか?
はい、発行してもらえます。残高証明書は、故人が亡くなった日の預金残高を証明する公的な書類で、遺産分割協議や相続税の申告に必要です。相続人の一人から依頼することができ、その際には以下の書類が必要になるのが一般的です。
- 故人が亡くなったことが確認できる戸籍謄本
- 依頼者が相続人であることがわかる戸籍謄本
- 依頼者の本人確認書類と印鑑
なお、発行には1通あたり770円~880円程度の手数料がかかります。
故人に借金(ローン)があった場合はどうなりますか?
預貯金などのプラスの財産だけでなく、借入金やローンといったマイナスの財産も相続の対象となります。故人が住宅ローンを組んでいた場合、多くは団体信用生命保険(団信)に加入しているため、保険金でローンが完済されます。しかし、カードローンやその他の借金は、原則として相続人が返済義務を引き継ぐことになります。マイナスの財産が多い場合は、相続放棄を検討する必要もあるため、まずは財産の全体像を正確に把握することが重要です。
手続きはどのくらいの期間がかかりますか?
相続手続きにかかる期間は、状況によって大きく異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
- 必要書類の収集:1ヶ月~2ヶ月程度
- 銀行へ書類提出後、払い戻しまで:2週間~1ヶ月程度
戸籍謄本の収集に時間がかかるケースが多いため、早めに着手することをおすすめします。相続人の人数が多い場合や、連絡が取りづらい方がいる場合は、さらに時間がかかることも想定しておきましょう。
まとめ
銀行での相続手続きは、聞き慣れない言葉や多くの書類が必要になるため、難しく感じられるかもしれません。しかし、一つひとつのステップを順番に進めていけば、必ず完了することができます。
今回のポイントをもう一度おさらいしましょう。
- まず最初に、故人が取引していた銀行へ連絡し、口座を凍結してもらう。
- 遺言書の有無などを確認し、ご自身のケースに合った必要書類を準備する。
- 複数の金融機関で手続きする場合は「法定相続情報証明制度」を活用すると非常に便利。
- 手続きには時間がかかるため、計画的に、そして早めに着手することが大切。
もし手続きの途中で分からないことや不安なことがあれば、一人で抱え込まずに、銀行の窓口担当者や、必要に応じて弁護士、司法書士などの専門家に相談しましょう。この記事が、皆さまの相続手続きをスムーズに進めるための一助となれば幸いです。
参考文献
相続後の銀行手続きに関するよくある質問
Q.相続が発生したら、まず銀行に何をすればいいですか?
A.まず、口座名義人が亡くなったことを取引銀行に連絡してください。連絡を受けると銀行は口座を凍結し、不正な引き出しを防ぎます。その後の手続きに必要な書類などの案内を受けましょう。
Q.銀行の相続手続きに必要な書類は何ですか?
A.一般的に、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書、遺産分割協議書(または遺言書)、銀行所定の届出書などが必要です。金融機関により異なるため事前に確認してください。
Q.故人の口座が凍結されるとどうなりますか?
A.口座が凍結されると、預金の引き出し、振り込み、公共料金などの自動引き落としが一切できなくなります。相続手続きが完了するまでこの状態が続きます。
Q.相続手続きにはどれくらいの期間がかかりますか?
A.必要書類を銀行に提出してから、通常2週間から1ヶ月程度で手続きが完了します。ただし、戸籍謄本の収集など書類の準備期間を含めると、全体で数ヶ月かかることもあります。
Q.相続人が複数いる場合、手続きは全員で行く必要がありますか?
A.全員で行く必要はありません。相続人の代表者を一人決め、その方が手続きを進めるのが一般的です。その際、他の相続人全員の実印が押された委任状や遺産分割協議書などが必要になります。
Q.相続手続きで残高証明書はなぜ必要ですか?
A.遺産分割協議や相続税の申告を行う際に、相続開始日時点の正確な預金残高を証明するために必要となります。誰がいくら相続するのかを明確にするための重要な書類です。