ご家族が亡くなられた後の相続手続きは、たくさんの書類を集めたり、同じ説明を何度もしたりと、心身ともに大変なことが多いですよね。特に、故人様の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本をすべて集め、それを手続きのたびに金融機関や法務局へ提出するのは一苦労です。そんな煩雑な手続きを、ぐっとシンプルにしてくれるのが「法定相続情報一覧図」という制度です。この記事では、この便利な制度について、どなたにも分かりやすく、話し言葉で優しく解説していきますね。
法定相続情報一覧図って、いったい何?
まずは、「法定相続情報一覧図」がどのようなものなのか、基本から見ていきましょう。言葉は少し難しく聞こえるかもしれませんが、中身はとてもシンプルなんですよ。
一目で相続関係がわかる公的な証明書
法定相続情報一覧図とは、亡くなられた方(被相続人)と、その財産を相続する権利のある方(法定相続人)が誰なのかを、家系図のような一枚の図にまとめたものです。そして、ただの家系図と違うのは、この図の内容が「正しいですよ」と法務局の登記官が証明してくれる点です。この法務局のお墨付きがあることで、公的な証明書として、さまざまな相続手続きで利用できるんです。これ一枚で、あれだけ分厚かった戸籍謄本の束の代わりになる、とても便利な書類なんです。
なぜこの制度ができたの?
この「法定相続情報証明制度」は、2017年5月から始まりました。制度が作られた背景には、2つの大きな目的があります。一つは、相続人の方々の手続きの負担を軽くすること。もう一つは、相続登記(不動産の名義変更)がされないまま放置されている土地や建物を減らすことです。この一覧図があれば、手続きがスムーズに進むため、相続登記の促進にもつながると期待されています。
「相続関係説明図」との違いは?
似たような書類に「相続関係説明図」というものがあります。これも相続関係を示す家系図のようなものですが、決定的な違いがあります。それは、公的な証明力があるかどうかです。
| 書類の種類 | 特 徴 | 
|---|---|
| 法定相続情報一覧図 | 法務局が内容を確認し、認証文を付けてくれる公的な証明書です。これ一枚で戸籍謄本の代わりになります。 | 
| 相続関係説明図 | 個人や専門家が作成する私的な書類です。法務局の証明はなく、あくまで戸籍謄本と一緒に提出する補足資料という位置づけです。 | 
つまり、絶大な効力を持つのが「法定相続情報一覧図」と覚えておくと良いでしょう。
法定相続情報一覧図を使うメリットとデメリット
とても便利な法定相続情報一覧図ですが、すべての方におすすめというわけではありません。ご自身の状況に合わせて、利用するかどうかを判断するのが大切です。メリットとデメリットを比べてみましょう。
メリット:相続手続きの時間と手間を大幅にカット!
最大のメリットは、なんといっても相続手続きが圧倒的に楽になることです。
- 戸籍謄本の束が不要に:不動産の名義変更、銀行口座の解約、相続税の申告など、複数の手続きで必要だった戸籍謄本の束を、一覧図の写し1枚で代用できます。
- 手続きの同時進行が可能に:一覧図の写しは、必要な枚数を無料で発行してもらえます。そのため、法務局での手続きと銀行での手続きを同時に進めるなど、時間の大幅な短縮につながります。
- 手数料が無料:一覧図の写しの発行手数料は、何枚でも無料です。(※戸籍謄本などを集めるための費用は別途かかります)
デメリット:最初の準備に手間がかかる
一方で、デメリットも存在します。それは、一覧図を法務局に申し出るための最初の準備に手間がかかる点です。
- 戸籍謄本の収集が必要:結局のところ、一覧図を作成するためには、最初に一度だけ、亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍謄本などを集める必要があります。
- 一覧図の作成が必要:集めた戸籍謄本をもとに、ご自身で一覧図を作成しなければなりません。
そのため、相続する財産が少なく、手続き先が銀行1つだけ、といった場合には、かえって手間が増えてしまう可能性もあります。
法定相続情報一覧図はどんな手続きで使えるの?
法定相続情報一覧図の写しは、相続に関するさまざまな公的手続きで、戸籍謄本一式の代わりとして利用できます。具体的にどのような場面で活躍するのか見ていきましょう。
不動産の名義変更(相続登記)
土地や建物といった不動産を相続した場合、法務局で名義変更の手続き(相続登記)が必要です。2024年4月1日から相続登記は義務化されており、この手続きの際に法定相続情報一覧図の写しを提出すれば、大量の戸籍謄本の提出を省略できます。
預貯金の解約・名義変更
故人名義の銀行預金やゆうちょ銀行の貯金を解約したり、名義変更したりする際にも利用できます。複数の金融機関に口座がある場合、一覧図の写しをそれぞれの窓口に提出することで、手続きを並行して進めることができ、非常に効率的です。
その他の主な手続き
上記以外にも、以下のような手続きで利用が可能です。
- 相続税の申告(税務署)
- 有価証券(株式など)の名義変更(証券会社)
- 自動車の名義変更(運輸支局)
- 年金関係の手続き(年金事務所)
ただし、民間の保険会社など、一部の機関では独自のルールを設けている場合があるため、提出先に一度確認しておくとより安心です。
法定相続情報一覧図の取得方法【3ステップで解説】
それでは、実際に法定相続情報一覧図の写しを取得するまでの流れを、3つのステップに分けて具体的に解説します。
ステップ1:必要書類を集める
まずは、申出に必要な書類を市区町村役場などで集めます。2024年3月1日から戸籍の広域交付制度が始まり、本籍地以外の役所でも一部の戸籍謄本が取得できるようになり、以前より便利になりました。
| 必ず必要な書類 | 取得場所 | 
|---|---|
| ① 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍・除籍謄本 | 本籍地の市区町村役場など | 
| ② 亡くなった方の住民票の除票(または戸籍の附票) | 最後の住所地の市区町村役場 | 
| ③ 相続人全員の戸籍謄本または抄本 | 各相続人の本籍地の市区町村役場など | 
| ④ 申出人(手続きをする相続人)の本人確認書類の写し | (運転免許証、マイナンバーカードなど) | 
※相続人の住所を一覧図に記載したい場合は、各相続人の住民票の写しも必要になります。
ステップ2:法定相続情報一覧図を作成する
次に、集めた戸籍謄本の内容をもとに、法定相続情報一覧図を作成します。手書きでもパソコンでの作成でも構いません。作成する際は、いくつかのルールがあります。
- 用紙はA4サイズの白い紙を使い、縦向きで作成します。
- 図の下側5cmは、法務局が認証文を記載するため、必ず空白にしておきます。
- 亡くなった方や相続人の氏名、生年月日、続柄などを正確に記載します。
法務局のウェブサイトに、さまざまな相続パターンに応じた様式や記載例が用意されているので、それを参考にすると間違いが少ないでしょう。
ステップ3:申出書を法務局に提出する
最後に、作成した一覧図とステップ1で集めた書類一式、そして必要事項を記入した「申出書」を登記所(法務局)に提出します。提出できる登記所は、以下のいずれかの場所を管轄するところから選べます。
- 亡くなった方の本籍地
- 亡くなった方の最後の住所地
- 申出人(あなた)の住所地
- 相続する不動産の所在地
窓口へ直接持参するほか、郵送での申出も可能です。提出した書類に問題がなければ、後日、認証文付きの一覧図の写しが交付されます。
知っておきたい!費用・期間・有効期限のこと
最後に、費用や期間など、実務的なポイントをQ&A形式で確認しておきましょう。
費用はかかるの?
法定相続情報一覧図の写しの交付手数料は無料です。何枚発行してもらっても費用はかかりません。ただし、申出の準備のために必要となる戸籍謄本(1通450円)や除籍謄本(1通750円)、住民票(1通300円前後)などを取得する際の手数料や、郵送で手続きする場合の切手代は自己負担となります。
取得までどのくらいかかる?
申出をしてから一覧図の写しが交付されるまでの期間は、おおむね1週間から10日ほどが目安です。ただし、法務局の混雑状況や、書類に不備があった場合などは、もう少し時間がかかることもあります。戸籍を集める時間も考慮し、余裕をもって準備を始めましょう。
有効期限はあるの?
法定相続情報一覧図そのものに法的な有効期限はありません。しかし、提出先の金融機関などによっては、「発行後3か月以内」や「発行後6か月以内」といった独自の期限を設けている場合があります。そのため、手続きをする前に提出先に確認することをおすすめします。また、一覧図の原本は法務局で5年間保管されるため、無料で再交付を受けられるのはこの5年間に限られます。
まとめ
法定相続情報一覧図は、不動産や預貯金など、複数の相続手続きが必要な場合に、その手間と時間を大きく削減してくれる、とても頼りになる制度です。最初に戸籍を集めて一覧図を作成する手間はかかりますが、その後の手続きが格段にスムーズになります。特に、お仕事などで忙しく、平日に何度も役所や銀行へ足を運ぶのが難しい方にとっては、大きなメリットがあるでしょう。もし、ご自身で手続きを進めるのが不安な場合や、戸籍の収集が難しいと感じる場合は、司法書士などの専門家に相談するのも一つの良い方法ですよ。
法定相続情報一覧図のよくある質問まとめ
Q. 法定相続情報一覧図とは何ですか?
A. 法定相続情報一覧図とは、亡くなった方(被相続人)の法定相続人が誰であるかを法務局が証明する公的な書類です。戸籍謄本一式の代わりに、相続登記や預貯金の解約などの相続手続きで利用できます。
Q. 法定相続情報一覧図を取得するメリットは何ですか?
A. 一番のメリットは、相続手続きの手間が大幅に削減されることです。金融機関や法務局など、複数の窓口で大量の戸籍謄本を何度も提出する必要がなくなり、この一覧図1枚で手続きが進められます。
Q. 法定相続情報一覧図はどこで取得できますか?
A. 全国の法務局(登記所)で取得できます。被相続人の本籍地や最後の住所地、または申出人の住所地などを管轄する法務局に申し出ることで、無料で交付してもらえます。
Q. 法定相続情報一覧図の取得に費用はかかりますか?
A. 法務局での交付手数料は無料です。ただし、申出にあたって必要となる戸籍謄本や住民票などを市区町村役場で取得するための実費は別途かかります。
Q. 法定相続情報一覧図は自分で作成・申出できますか?
A. はい、ご自身で作成・申出することが可能です。必要な戸籍謄本等を集め、法務局のウェブサイトにある様式を参考に一覧図を作成し、法務局へ申し出ます。ただし、手続きが複雑なため、司法書士などの専門家に依頼することもできます。
Q. 法定相続情報一覧図に有効期限はありますか?
A. 法定相続情報一覧図自体に法律上の有効期限はありません。ただし、提出先の金融機関などが独自に「発行後3ヶ月以内」といったルールを設けている場合があるため、事前に確認することをおすすめします。
 
								 
															 
															