「相続対策として、相続時精算課税制度を使ってみようかな」と考えていた矢先、もし贈与をしたその年に贈与者である親が亡くなってしまったら…。そんな不測の事態を想像して、不安に思っている方もいらっしゃるかもしれませんね。「制度はちゃんと使えるの?」「2024年から始まった基礎控除110万円の扱いはどうなるの?」など、たくさんの疑問が浮かんでくることでしょう。この記事では、そんな万が一のケースに焦点を当てて、相続時精算課税制度の取り扱いや手続き、相続税の計算について、わかりやすく解説していきます。
相続時精算課税を適用したい年に贈与者が亡くなった!どうなる?
ご安心ください。結論から言うと、相続時精算課税を適用しようと贈与をした年に贈与者が亡くなってしまった場合でも、相続時精算課税制度を選択することは可能です。ただし、手続きの方法や期限が通常の場合と少し異なるので、注意が必要です。詳しく見ていきましょう。
結論:贈与した年に亡くなっても相続時精算課税は選択できる
生前の贈与が法的に成立していれば、その後に贈与者が亡くなったとしても、受贈者(財産をもらった人)は相続時精算課税を選択できます。贈与は「あげます」「もらいます」というお互いの意思が合致した時点で成立します。そのため、贈与契約書を作成しておくことが、後々のトラブルを防ぐためにも大切です。
重要なのは、贈与者が亡くなったからといって、その年にした贈与が無効になるわけではなく、税金の制度を選ぶ権利もなくならない、ということです。
通常とは異なる手続きと提出期限に注意
贈与者が贈与した年に亡くなった場合、手続きが特別ルールになります。通常、贈与税の申告と納税は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに行いますよね。しかし、贈与年に贈与者が亡くなった場合は、その年の贈与については贈与税の申告が不要になります。なぜなら、その贈与財産は相続税の計算対象に含めて精算されるからです。
ただし、贈与税の申告が不要でも、「相続時精算課税選択届出書」の提出は必須です。この届出書を提出しないと、制度を選択したことにならず、暦年贈与として扱われてしまうので注意してください。提出先や期限も通常とは異なります。
ケース | 手続きと提出先・期限 |
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通常の場合(贈与者がご存命) | ・贈与税申告書に届出書を添付して提出 ・提出先:受贈者(もらった人)の住所地を管轄する税務署 ・提出期限:贈与を受けた年の翌年3月15日まで |
贈与年に贈与者が死亡した場合 | ・届出書のみを提出(贈与税申告は不要) ・提出先:被相続人(亡くなった人)の住所地を管轄する税務署 ・提出期限:贈与年の翌年3月15日か、相続開始を知った日の翌日から10か月(相続税の申告期限)のいずれか早い日まで |
相続税の申告が不要な場合でも届出は必要
「うちは財産が少ないから、相続税の申告は必要ないはず」という方もいらっしゃるかもしれません。相続財産の総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、通常、相続税の申告は不要です。
しかし、相続税の申告が不要な場合であっても、相続時精算課税を選択したいのであれば、「相続時精算課税選択届出書」の提出は必ず必要です。この手続きを忘れてしまうと、自動的に暦年贈与として扱われ、後々税務署から指摘を受ける可能性がありますので、絶対に忘れないようにしましょう。
新しい相続時精算課税制度の「110万円基礎控除」はどうなる?
2024年1月1日から、相続時精算課税制度に新しく年間110万円の基礎控除が創設されました。これは非常に大きな改正点です。では、贈与年に贈与者が亡くなってしまった場合、この新しい110万円の基礎控除はどのように扱われるのでしょうか。
贈与年に死亡した場合、110万円以下の贈与は持ち戻し不要!
ここが最大のポイントです。相続時精算課税制度を選択した場合、年間110万円以下の贈与については、相続財産に持ち戻す必要がありません。これは、贈与者が贈与した年に亡くなった場合でも同じです。
つまり、亡くなる直前に110万円を贈与し、相続時精算課税を選択すれば、その110万円は贈与税もかからず、相続税の計算にも含まれないことになります。これは、いざという時の大きなメリットと言えますね。
110万円を超えた部分の持ち戻しの考え方
では、年間の贈与額が110万円を超えた場合はどうなるのでしょうか。この場合、贈与額の合計から基礎控除110万円を差し引いた金額が、相続財産に加算(持ち戻し)されます。
例えば、父から子へ500万円を贈与した年に父が亡くなったとします。相続時精算課税を選択した場合、相続税を計算する際には、もともとの相続財産に以下の金額を加算します。
500万円(贈与額)- 110万円(基礎控除)= 390万円(持ち戻し額)
この390万円が、生涯非課税枠である2,500万円の特別控除の対象となります。
暦年贈与との比較で見るメリット
この「110万円以下の贈与は持ち戻し不要」というルールは、暦年贈与と比べると非常に有利です。暦年贈与の場合、死亡する前の7年以内(※段階的に適用)に行われた贈与は、たとえ年間110万円以下であっても相続財産に持ち戻されてしまいます。
しかし、相続時精算課税制度なら、亡くなる直前の贈与であっても110万円までなら持ち戻しがありません。高齢の親からの贈与など、相続が近いかもしれないと考える場合には、相続時精算課税制度の活用が有効な選択肢になる可能性があります。
相続時精算課税の基本と2024年からの改正点をおさらい
ここで一度、相続時精算課税制度そのものと、2024年からの改正点について簡単におさらいしておきましょう。制度を正しく理解することが、最適な選択につながります。
相続時精算課税制度ってどんな制度?
相続時精算課税制度は、生前贈与にかかる贈与税と、将来の相続にかかる相続税を一体として考える制度です。選択すると、特定の人(親や祖父母)からの贈与について、以下のルールが適用されます。
項 目 | 内 容 |
---|---|
贈与者(あげる人) | 贈与した年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母 |
受贈者(もらう人) | 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の子または孫 |
非課税枠 | ①特別控除2,500万円(生涯にわたって利用可能) ②基礎控除110万円(毎年利用可能、申告不要、持ち戻し不要) |
税率 | 非課税枠を超えた部分について、一律20%の贈与税がかかる |
相続時の精算 | 贈与者が亡くなった時、基礎控除110万円を除いた贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算。すでに支払った贈与税があれば、相続税額から差し引く。 |
【2024年改正】ココが変わった!2つの大きなポイント
2024年からの税制改正で、この制度は大きく変わりました。ポイントは2つです。
ポイント①:年間110万円の基礎控除が新設された
これまで、この制度では少額の贈与でも申告が必要で使いにくい面がありましたが、新たに年間110万円の基礎控除ができました。この枠内なら贈与税の申告も不要、相続時の持ち戻しも不要となり、格段に利用しやすくなりました。
ポイント②:暦年贈与の持ち戻し期間が延長された
一方で、もう一つの贈与制度である暦年贈与では、相続財産への持ち戻し期間が死亡前3年から7年へと延長されました。これにより、暦年贈与による相続税対策の効果が薄れたため、相対的に相続時精算課税制度のメリットが大きくなったと言えます。
贈与年に死亡した場合の相続税計算の具体例
では、実際に贈与年に贈与者が亡くなった場合の相続税の計算がどうなるのか、具体的なケースで見てみましょう。(※相続財産の総額や相続人の数は仮のものです)
ケース1:贈与額が110万円以下の場合
父が子に100万円を贈与し、同年に父が死亡。子は相続時精算課税を選択しました。
- 贈与税:0円(110万円の基礎控除内なので申告も不要)
- 相続税の計算:贈与された100万円は持ち戻し不要。父の本来の相続財産だけで相続税を計算します。
ケース2:贈与額が110万円を超え、2,500万円の特別控除の範囲内の場合
父が子に500万円を贈与し、同年に父が死亡。子は相続時精算課税を選択しました。
- 贈与税:0円(基礎控除後の390万円が特別控除2,500万円の範囲内なので)
- 相続税の計算:贈与額500万円から基礎控除110万円を引いた390万円を、父の本来の相続財産に加算して相続税を計算します。
ケース3:贈与額が2,500万円の特別控除を超える場合
父が子に3,000万円を贈与し、同年に父が死亡。子は相続時精算課税を選択しました。
- 贈与税:0円(贈与年に死亡した場合、贈与税は課税されない)
- 相続税の計算:贈与額3,000万円から基礎控除110万円を引いた2,890万円を、父の本来の相続財産に加算して相続税を計算します。この2,890万円は2,500万円の特別控除枠を使い切ることになります。
どのケースでも、贈与年に死亡した場合は贈与税はかかりませんが、相続時に精算されるという仕組みを理解しておくことが大切です。
制度利用の注意点!知っておきたいデメリット
メリットが大きくなった相続時精算課税制度ですが、もちろん注意すべきデメリットもあります。選択する前によく理解しておきましょう。
一度選択すると暦年贈与に戻れない
これが最大のデメリットかもしれません。特定の贈与者(例えば父)に対して一度この制度を選択すると、その父からの贈与については、二度と暦年贈与に戻ることはできません。生涯にわたって相続時精算課税制度が適用され続けることになります。
小規模宅地等の特例が使えなくなる
自宅の土地などを生前贈与で受け取った場合、この制度を使うと「小規模宅地等の特例」が適用できなくなります。この特例は、一定の要件を満たすと土地の評価額を最大80%も減額できる非常に強力な節税策です。相続で受け取れば使えたはずの特例が使えなくなることで、かえって税負担が重くなるケースもあるため、不動産の贈与を考える際は特に慎重な検討が必要です。
相続財産に加算されるのは「贈与時の価額」
相続財産に持ち戻される財産の価額は、「相続時の時価」ではなく「贈与時の時価」で固定されます。そのため、将来値上がりが期待できる財産(例:開発予定地近くの土地や成長企業の株式など)を贈与すれば節税になりますが、逆に値下がりしそうな財産を贈与してしまうと、高い評価額のまま相続税が計算されてしまい、不利になる可能性があります。
まとめ
今回は、相続時精算課税を適用しようと贈与した年に贈与者が亡くなってしまった場合の取り扱いについて解説しました。
結論として、贈与年に贈与者が亡くなったとしても、相続時精算課税制度は選択可能です。特に2024年から新設された年間110万円の基礎控除は、相続時の持ち戻しが不要という大きなメリットがあります。これにより、亡くなる直前の贈与であっても、相続税の負担を軽減できる可能性が出てきました。
ただし、手続きが通常と異なる点や、一度選択すると後戻りできないといったデメリットもあります。ご自身の家族構成や財産状況に合わせて、暦年贈与と比較しながら、どちらが最適かを総合的に判断することが大切です。少しでも不安や疑問があれば、税理士などの専門家に相談して、後悔のない選択をしてくださいね。
参考文献
- 国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
- 国税庁 No.4302 贈与者が贈与した年の中途に死亡した場合の相続時精算課税の選択
- 国税庁 No.4307 贈与者が贈与をした年に死亡した場合の贈与税及び相続税の取扱い
相続時精算課税と贈与年の死亡に関するよくある質問まとめ
Q. 贈与した年に亡くなった場合、相続時精算課税は使えますか?
A. はい、使えます。受贈者(もらった人)が相続税の申告書に「相続時精算課税選択届出書」を添付して税務署に提出することで適用できます。
Q. 贈与した年に亡くなった場合、手続きはいつまでに、どのように行えばよいですか?
A. 贈与者が亡くなったため、贈与税の申告は不要です。代わりに、相続税の申告期限(通常は死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに、相続税の申告書と一緒に「相続時精算課税選択届出書」を提出します。
Q. 2024年から始まった相続時精算課税の新しい110万円控除は使えますか?持ち戻しは必要ですか?
A. はい、使えます。2024年1月1日以降の贈与には年110万円の基礎控除が新設され、この110万円以下の部分は相続財産に持ち戻す必要がなく、相続税の課税対象になりません。
Q. 暦年贈与で110万円をもらってすぐ亡くなった場合はどうなりますか?
A. 暦年贈与の場合、亡くなる前3年以内(2027年以降は段階的に7年以内に延長)の贈与は、110万円以下であっても相続財産に持ち戻して相続税を計算する必要があります。相続時精算課税の新しい110万円控除とは扱いが異なります。
Q. 贈与の年に亡くなったのに、あえて相続時精算課税を選ぶメリットは何ですか?
A. 贈与した財産の評価額が、相続時ではなく「贈与時」の価額で固定されるのが最大のメリットです。値上がりしそうな財産(株式や不動産など)を贈与していた場合に、相続税の節税につながる可能性があります。
Q. 贈与年に亡くなった場合の相続時精算課税の注意点は何ですか?
A. 一度相続時精算課税を選択すると、その贈与者からの贈与については二度と暦年贈与に戻れない点です。また、相続税の申告期限内に手続きをしないと適用できないため、期限を厳守する必要があります。