ご家族への大切な財産の引き継ぎ方法として「生前贈与」を考えたことはありませんか?その選択肢の一つに「相続時精算課税制度」というものがあります。特に2024年から新しいルールが加わり、以前よりも使いやすくなったと注目されています。でも、「なんだか難しそう…」「自分には関係ないかも?」と思っている方も多いかもしれませんね。この記事では、相続時精算課税制度の仕組みから、知っておくべきメリット・デメリット、そしてどんな方におすすめなのかを、分かりやすく丁寧にご紹介していきます。
相続時精算課税制度とは?基本の仕組み
まずは、この制度がどんなものなのか、基本から押さえていきましょう。相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫へ生前贈与をするときに選択できる制度です。この制度を選ぶと、特別なルールで贈与税が計算されます。
大きな非課税枠「特別控除」
この制度の最大の特徴は、贈与者(あげる人)ごとに累計2,500万円までの「特別控除」という大きな非課税枠があることです。この枠を使い切るまでは、何度贈与を受けても贈与税はかかりません。もし贈与額が2,500万円を超えた場合は、超えた部分に対して一律20%の贈与税がかかります。そして、この制度で贈与された財産は、贈与者が亡くなったときに、相続財産に持ち戻して相続税を計算するという仕組みになっています。
【2024年改正】新設された「年間110万円の基礎控除」
2024年1月1日以降の贈与から、とても重要な改正がありました。それは、上記の2,500万円の特別控除とは別に、年間110万円の基礎控除が新設されたことです。この年間110万円までの贈与であれば、贈与税の申告も不要で、将来の相続財産に加算する必要もありません。これにより、制度がぐっと使いやすくなりました。
| 制度のポイント | 内 容 |
| 贈与者(あげる人) | 贈与した年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母 |
| 受贈者(もらう人) | 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の子または孫 |
| 特別控除額 | 最大2,500万円(累計) |
| 基礎控除額(2024年〜) | 年間110万円(申告不要・相続財産への加算も不要) |
| 超過分の税率 | 一律20% |
相続時精算課税制度のメリット
この制度を利用すると、具体的にどのような良いことがあるのでしょうか。4つの大きなメリットを見ていきましょう。
まとまった財産を一度に非課税で贈与できる
最大のメリットは、2,500万円という大きな非課税枠を使えることです。例えば、お子さんやお孫さんが家を買うときの頭金や、事業を始めるときの開業資金など、まとまったお金を一度に、しかも贈与税の心配なく渡したい場合に非常に有効です。
年間110万円までなら申告不要で贈与できる
2024年の改正で新設された年間110万円の基礎控除は、この制度の使い勝手を大きく向上させました。毎年110万円以下の贈与であれば、贈与税の申告もいらず、将来の相続財産に足されることもありません。少額の贈与をコツコツ続けたい場合にも活用しやすくなりました。
将来値上がりしそうな財産の相続税を抑えられる
この制度を使って贈与した財産は、相続の時に「贈与した時点での評価額」で相続財産に加算されます。つまり、将来価値が上がりそうな株式や不動産などを早めに贈与しておけば、相続の時にどれだけ値上がりしていても、相続税の課税対象になるのは贈与時の低い価格のままです。これは大きな節税につながる可能性があります。
収益を生む財産を早く渡せる
賃貸アパートや駐車場など、家賃収入を生む収益物件をお持ちの場合、この制度を使って早めにお子さんに贈与するのも一つの手です。贈与後から発生する家賃収入は、お子さんの財産になります。これにより、ご自身の財産(将来の相続財産)が増え続けるのを防ぎ、結果として相続税対策になります。
相続時精算課税制度のデメリットと注意点
メリットが多い一方で、一度選ぶと後戻りできない注意点もあります。デメリットもしっかり理解しておくことが大切です。
一度選択すると「暦年贈与」には戻れない
これが最も重要な注意点です。例えば、お父さんからの贈与について相続時精算課税制度を選択した場合、その後、お父さんからの贈与は生涯にわたってこの制度が適用され、暦年贈与(毎年110万円まで非課税になる通常の贈与)に戻すことはできません。ただし、お母さんからの贈与については、引き続き暦年贈与を選ぶことができます。
「小規模宅地等の特例」が使えなくなる
相続税の負担を大きく軽減してくれる「小規模宅地等の特例」という制度があります。これは、亡くなった方が住んでいた土地などを相続する際に、土地の評価額を最大80%減額できるというものです。しかし、相続時精算課税制度を使って生前贈与された土地には、この特例を適用することができません。ご自宅の土地などを贈与する際は、どちらが有利になるか慎重な判断が必要です。
贈与財産が値下がりすると損をする可能性がある
メリットの裏返しになりますが、贈与した財産の価値が、相続の時に下がってしまった場合でも、相続財産に加算されるのは「贈与した時点の高い評価額」のままです。そのため、結果的に相続税が高くなってしまうリスクもあります。
相続税の申告が原則必要になる
この制度を利用して2,500万円の特別控除を使った場合、贈与者が亡くなった際には、その贈与財産を相続財産に加算して相続税の申告をする必要があります。たとえ計算の結果、相続税が0円になったとしても、申告手続きそのものは必要になるため、手間がかかる点はデメリットと言えるでしょう。
相続時精算課税制度はどんな人におすすめ?
メリットとデメリットを踏まえると、この制度は次のような方々にとって、特に有効な選択肢になると考えられます。
| こんな方におすすめ | おすすめの理由 |
| まとまった資金を早く子や孫に渡したい方 | 2,500万円の特別控除枠を使い、住宅購入資金や教育資金などを非課税で援助できます。 |
| 将来値上がりが見込まれる財産をお持ちの方 | 開発予定地の近くの土地や、成長が期待できる自社株などを贈与することで、贈与時の低い評価額で相続財産額を固定できます。 |
| アパートなど収益物件をお持ちの方 | 早期に贈与することで、その後の家賃収入を受贈者のものとし、ご自身の財産の増加を抑えることができます。 |
| 相続財産が基礎控除以下で、相続税がかからない見込みの方 | 相続税の心配がないため、非課税枠を使ってスムーズに財産を次の世代へ移転する手段として活用できます。 |
制度利用のための手続きは?
この制度を利用するためには、手続きが必要です。制度を初めて利用する年に、贈与を受けた人(もらう人)が、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの贈与税の申告期間内に、税務署へ「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書と一緒に提出します。その際、受贈者の戸籍謄本など、いくつかの添付書類が必要になりますので、事前に確認しておきましょう。
まとめ
相続時精算課税制度は、2024年の改正で年間110万円の基礎控除が加わり、これまで以上に柔軟で使いやすい制度になりました。2,500万円の特別控除と組み合わせることで、生前贈与をスムーズに進めるための強力なツールになります。しかし、「一度選ぶと暦年贈与に戻れない」「小規模宅地等の特例が使えない」といった後戻りできないデメリットもあります。ご自身の財産状況やご家族の将来をよく考え、メリットがデメリットを上回るかしっかり見極めることが大切です。判断に迷う場合は、税理士などの専門家に相談してみることをお勧めします。
参考文献
国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
国税庁 令和5年度相続税・贈与税の税制改正のあらまし
相続時精算課税制度のよくある質問まとめ
Q. 相続時精算課税制度って、どんな制度ですか?
A. 生前に贈与した財産について、合計2,500万円まで贈与税がかからず、超えた部分に一律20%の贈与税が課される制度です。この制度で贈与した財産は、相続時に相続財産に加算して相続税を計算します。
Q. 相続時精算課税制度の最大のメリットは何ですか?
A. 2,500万円までの大きな金額を非課税で一度に贈与できる点です。これにより、住宅購入資金や教育資金など、まとまったお金を子や孫に早めに渡すことができます。
Q. デメリットや注意点はありますか?
A. 一度この制度を選択すると、同じ贈与者からは暦年贈与(年間110万円まで非課税)に戻せないのが最大のデメリットです。また、贈与した財産は相続時に必ず申告が必要になります。
Q. どんな人が利用するとお得ですか?
A. 将来値上がりが予想される財産(株式や不動産など)を早めに贈与したい方や、収益物件を贈与して収益を早期に移転したい方、相続税がかからないと見込まれる方などにおすすめです。
Q. 毎年110万円まで非課税の暦年贈与とはどう違うのですか?
A. 暦年贈与は毎年110万円までが非課税で、その贈与は基本的に相続財産に加算されません。一方、相続時精算課税制度は2,500万円の特別控除がありますが、贈与財産は(新設された年110万円の基礎控除を除き)全て相続財産に加算される点が大きな違いです。
Q. 2024年の改正で何が変わりましたか?
A. 2024年1月1日から、2,500万円の特別控除とは別に年間110万円の基礎控除が新設されました。この110万円以下の贈与は、相続財産への加算や贈与税の申告が不要になり、制度が使いやすくなりました。