親から相続した株式を、ご自身の子供に贈与するケースは少なくありません。そして、贈与を受けた子供(受贈者)がその株式を売却することもあるでしょう。この一連の流れの中で、どのような税金が、いつ、誰にかかるのか、複雑で分かりにくいですよね。特に「取得費」の考え方がとても重要になります。この記事では、相続した株式を贈与し、受贈者が売却した場合の課税関係について、ステップごとに分かりやすく解説していきます。
株式の「相続→贈与→売却」で発生する税金の種類とタイミング
相続した株式を贈与し、さらにその株式が売却されるまでには、いくつかの段階があります。それぞれの段階で発生する可能性のある税金について、まずは全体像を把握しましょう。税金がかかるタイミングと納税する人が異なるので、注意が必要です。
親からあなたへ【相続】したとき:相続税
まず、親御さんなど(被相続人)からあなたが株式を相続した時点で、相続税の課税対象となります。相続税は、株式だけでなく、預貯金や不動産など、すべての相続財産の合計額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に課税されます。株式も相続財産の一部として評価され、相続税額が計算されます。
あなたから子供へ【贈与】したとき:贈与税
次に、あなたが相続した株式を子供(受贈者)に贈与した時点では、子供に贈与税がかかる可能性があります。贈与税には年間110万円の基礎控除があり、1年間に贈与された財産の合計額が110万円以下であれば贈与税はかからず、申告も不要です。しかし、株式の評価額が110万円を超える場合は、超えた部分に対して贈与税が課税され、子供が申告・納税をする必要があります。
子供が株式を【売却】したとき:所得税・住民税
最後に、贈与を受けた子供がその株式を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して子供に所得税(15%)、復興特別所得税(0.315%)、住民税(5%)の合計20.315%が課税されます。ここでの最大のポイントは、利益を計算する際の「取得費」を誰の時点のものを使うか、という点です。これを間違えると、想定外に高い税金がかかってしまうことがあるので、次の章で詳しく見ていきましょう。
最重要ポイント!売却時の「取得費」は誰のものを引き継ぐ?
株式を売却した際の利益(譲渡所得)は、「売却価格 -(取得費 + 売却手数料)」で計算されます。この「取得費」がいくらになるかで、税額が大きく変わります。相続と贈与が絡む今回のケースでは、取得費の引継ぎルールが非常に重要です。
贈与された株式の取得費は「贈与者」から引き継ぐ
贈与によって財産を取得した場合、受贈者(子供)は贈与者(あなた)の取得費と取得時期を引き継ぎます。つまり、子供が株式を売却する際の取得費は、子供が贈与された時の時価ではなく、あなたがその株式を取得した時の価額になるのです。
相続した株式の取得費は「被相続人」から引き継ぐ
では、贈与者であるあなたの取得費はいくらでしょうか。あなたは株式を相続によって取得しています。相続の場合も贈与と同様に、相続人は被相続人(親御さん)の取得費と取得時期を引き継ぎます。つまり、あなたが株式を取得した価額は、亡くなった親御さんが最初にその株式を購入した時の価額ということになります。
結論:売却時の取得費は「大元の所有者(被相続人)」の購入価額
以上のことから、「相続した株式を贈与し、受贈者が売却した」場合、売却時の取得費として計上できるのは、亡くなった親御さん(被相続人)が最初にその株式を購入した時の価額となります。もし親御さんが非常に古い時期に安い価格で株式を購入していた場合、取得費はかなり低くなります。その結果、売却価格との差額が大きくなり、譲渡所得が膨らんで税金も高額になる可能性があるため、注意が必要です。
| 登場人物 | 取得費の考え方 |
| 被相続人(親御さん) | 株式を最初に購入した人。この時の購入価額が全ての基準となる。 |
| あなた(相続人・贈与者) | 親御さんの取得費を引き継ぐ。 |
| 子供(受贈者・売却者) | あなたの取得費(=親御さんの取得費)を引き継ぐ。 |
もし、被相続人の取得費が不明な場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計上することも認められていますが、実際の取得費が5%を上回る場合は損をしてしまう可能性があります。購入時の契約書や証券会社の取引報告書などを探しておくことが重要です。
相続税も無駄にしない!「取得費加算の特例」とは?
相続した財産を売却する場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる「取得費加算の特例」という制度があります。この特例が、贈与を挟んだ場合でも使えるのか気になりますよね。詳しく見ていきましょう。
特例の概要と適用要件
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」とは、相続によって取得した財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却した場合に、その財産にかかった相続税の一部を取得費に加算できる制度です。これにより、譲渡所得が圧縮され、所得税・住民税の負担を軽減できます。
主な適用要件は以下の通りです。
- 相続や遺贈により財産を取得した人であること
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- その財産を、相続開始から3年10ヶ月以内に譲渡していること
贈与を挟むと「取得費加算の特例」は使えない!
残念ながら、この取得費加算の特例は、相続人が相続財産を直接売却した場合にのみ適用されます。今回のケースのように、相続人が一度子供に株式を贈与し、その子供(受贈者)が売却した場合は、売却した人は「相続人」ではないため、この特例を適用することはできません。支払った相続税を取得費に加算できないため、節税の機会を一つ失うことになります。これは非常に重要な注意点です。
| ケース | 取得費加算の特例の適用 |
| 相続人(あなた)が直接株式を売却 | 適用できる(相続開始から3年10ヶ月以内) |
| 贈与を受けた子供が株式を売却 | 適用できない |
贈与する際の注意点
相続した株式を生前贈与する際には、贈与税や将来のトラブルを避けるためにいくつか注意すべき点があります。計画的に進めることが大切です。
贈与税の基礎控除と申告
前述の通り、贈与税には年間110万円の基礎控除があります。贈与する株式の評価額が年間110万円を超えなければ贈与税はかかりません。株式の評価額は、上場株式の場合、以下の4つの価格のうち最も低いものを選択できます。
- 贈与日の終値
- 贈与があった月の終値の月間平均額
- 贈与があった月の前月の終値の月間平均額
- 贈与があった月の前々月の終値の月間平均額
株価が低いタイミングを狙って贈与することで、評価額を抑えることが可能です。もし110万円を超える場合は、受贈者である子供が翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の申告と納税を行う必要があります。
相続時精算課税制度の活用も検討
一度にまとまった額の株式を贈与したい場合は、「相続時精算課税制度」の利用も選択肢の一つです。この制度は、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子や孫への贈与において、累計2,500万円までが非課税となる制度です(別途、年間110万円の基礎控除あり)。ただし、この制度を選択すると、贈与者が亡くなった際に、贈与された財産(年間110万円の基礎控除分を除く)は相続財産に加算して相続税を計算する必要があります。また、一度選択すると暦年贈与に戻すことはできないため、利用は慎重に検討しましょう。
贈与契約書を作成する
贈与は口約束でも成立しますが、後々のトラブルを防ぐため、そして税務署に対して贈与の事実を明確に示すために、「贈与契約書」を作成しておくことを強くお勧めします。「いつ、誰が、誰に、何を」贈与したのかを明記し、双方が署名・捺印した書面を残しておきましょう。
事例で確認!具体的な税金計算の流れ
少し複雑なので、具体的な数字を使ってシミュレーションしてみましょう。
【前提条件】
- 祖父が1株100円で1万株(100万円)の株式を購入。
- 父がその株式を相続。相続時の時価は1株1,000円(1,000万円)。父は相続税を50万円納付。
- 父がその株式を子に贈与。贈与時の時価は1株1,200円(1,200万円)。
- 子がその株式を1株1,500円(1,500万円)で売却。売却手数料は10万円とする。
この場合の子の譲渡所得と所得税・住民税を計算します。
【計算】
- 取得費の決定
子が引き継ぐ取得費は、大元の所有者である祖父の購入価額です。取得費:100万円
- 譲渡所得の計算
売却価格 - (取得費 + 売却手数料) = 譲渡所得1,500万円 - (100万円 + 10万円) = 1,390万円
※父が支払った相続税50万円は、取得費加算の特例が使えないため、加算できません。
- 税額の計算
譲渡所得 × 税率(20.315%) = 所得税・住民税1,390万円 × 20.315% ≒ 282万3,800円
もし、取得費加算の特例が使えた場合、取得費は「100万円+50万円=150万円」となり、譲渡所得は「1,340万円」に減少します。その結果、税額は約10万円安くなります。贈与を挟むことで、この節税メリットが失われることが分かります。
まとめ
今回は、「相続した株式を贈与し、受贈者が売却した場合」の課税関係について解説しました。ポイントをまとめます。
- 株式の「相続」「贈与」「売却」の各段階で、相続税、贈与税、所得税・住民税がかかる可能性があります。
- 受贈者が株式を売却する際の取得費は、最初に株式を購入した被相続人(親御さん)の購入価額を引き継ぎます。
- 相続人が一度贈与を挟んでしまうと、受贈者が売却する際に「取得費加算の特例」は利用できません。
- 株式の贈与を行う際は、年間110万円の基礎控除を意識し、贈与契約書を作成するなど、計画的に進めることが大切です。
相続や贈与が絡む株式の売却は、税金の計算が複雑になりがちです。特に取得費の考え方は、納税額に直結する重要な要素です。もしご自身のケースで判断に迷う場合は、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
参考文献
国税庁 タックスアンサー No.1464 譲渡した株式等の取得費
国税庁 タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
国税庁 タックスアンサー No.4103 相続時精算課税の選択
相続・贈与株式の売却に関する税金のよくある質問まとめ
Q.相続した株式を子供に贈与し、子供が売却しました。どのような税金がかかりますか?
A.株式を贈与した際には「贈与税」が、お子様が株式を売却した際には「所得税(譲渡所得)」がかかります。それぞれ申告が必要です。
Q.贈与された株式を売却する際の「取得費」はいくらになりますか?
A.贈与した人(贈与者)がその株式を取得したときの価額(取得費)を引き継ぎます。贈与時の時価ではないため、贈与者の取得費が不明な場合は税負担が重くなる可能性があります。
Q.売却した株式の所有期間はいつから計算しますか?長期譲渡になりますか?
A.取得費と同様に、贈与者が株式を取得した日から計算します。そのため、贈与者が長く保有していれば、贈与後すぐに売却しても長期譲渡所得として低い税率が適用される可能性があります。
Q.株式を贈与された際に支払った贈与税は、売却時の税金計算で考慮されますか?
A.はい、一定の要件を満たせば、支払った贈与税の一部を売却時の取得費に加算できます。これにより譲渡所得を圧縮し、所得税を軽減できる場合があります。
Q.もともと相続で取得した株式なので、「相続税の取得費加算の特例」は使えますか?
A.いいえ、贈与を受けた人(受贈者)は、相続で株式を取得したわけではないため、「相続税の取得費加算の特例」を適用することはできません。この特例は相続人が直接売却した場合に適用されます。
Q.相続した株式を贈与してから売却する際の注意点は何ですか?
A.贈与者の取得費がわかる資料を必ず保管しておくことが重要です。また、相続人が直接売却した場合と比較して、贈与税と所得税の合計額がどうなるか事前にシミュレーションすることをおすすめします。