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相続権を失うのはどんな人?相続欠格と相続排除の5つの違いを解説

2025-05-21
目次

ご家族が亡くなったとき、法律で定められた相続人には財産を受け取る権利があります。でも、実は特定の行動をとってしまうと、その相続権を自動的に失ってしまうことがあるんです。それが「相続欠格」という制度です。また、亡くなった方の意思によって相続権を奪われる「相続排除」という制度もあります。今回は、この2つの制度について、どんな場合に相続権を失うのか、そして両者の違いは何かを、分かりやすく解説していきますね。

相続権を自動的に失う「相続欠格」とは?

相続欠格(そうぞくけっかく)とは、相続において、法律で定められた重大な不正行為を行った相続人が、法律上当然に相続権を失う制度のことです。これは、被相続人(亡くなった方)の意思とは関係なく、また、家庭裁判所での手続きも必要なく、該当する行為をした時点で自動的に適用される、とても厳しいペナルティなんです。

相続欠格になる5つのケース(欠格事由)

では、具体的にどんなことをすると相続欠格になってしまうのでしょうか。民法第891条には、次の5つのケース(欠格事由)が定められています。

故意に被相続人や他の相続人を殺害、または殺害しようとして刑罰を受けた 自分より相続順位が先または同じ人を殺害して、自分の取り分を増やそうとするような行為です。未遂でも該当します。
被相続人が殺害されたのを知りながら告発・告訴しなかった ただし、犯人が自分の配偶者や親、子どもである場合や、物事の善悪を判断できない場合は除かれます。
詐欺や脅迫で、被相続人の遺言を妨げた 被相続人が遺言書を作成したり、変更したりするのを「遺言書を変えたらひどい目にあうぞ」などと脅してやめさせるような行為です。
詐欺や脅迫で、被相続人に遺言を書かせたり変更させたりした 被相続人を騙したり脅したりして、自分に有利な内容の遺言を書かせるような行為です。
遺言書を偽造、変造、破棄、隠した 自分に不利な内容の遺言書を見つけて破り捨てたり、内容を書き換えたり、隠したりする行為がこれにあたります。

相続欠格になるとどうなる?

相続欠格に該当すると、その人は一切の遺産を相続できなくなります。これは、法定相続分だけでなく、遺言書で財産を譲ると書かれていた場合や、最低限の取り分が保障される「遺留分」という権利もすべて失うことを意味します。つまり、完全に相続人ではなくなる、ということです。

相続欠格になった人に子どもがいたら?(代襲相続)

もし相続欠格になった人に子どもがいた場合、その子どもが代わりに相続人になる「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」という制度が適用されます。例えば、父親の財産を相続するはずだった長男が相続欠格になったとしても、長男に子ども(被相続人から見て孫)がいれば、その孫が長男の代わりに相続権を引き継ぐことができるんです。ペナルティは相続欠格になった本人一代限りで、その子どもには影響しないのですね。

被相続人の意思で権利を奪う「相続排除」とは?

相続排除(そうぞくはいじょ)は、相続欠格とは少し違い、被相続人の意思によって、特定の相続人から相続権を奪う制度です。相続欠格に当てはまるほどの重大な不正行為ではないけれど、「この人には財産を渡したくない」と被相続人が強く思うような理由がある場合に利用されます。

相続排除が認められるケース

相続排除が認められるのは、相続人が被相続人に対して「虐待」や「重大な侮辱」、その他の「著しい非行」があった場合です。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

  • 被相続人に対して日常的に暴力をふるっていた(虐待)
  • 被相続人の財産を勝手に使い込んだり、ギャンブルで作った多額の借金を肩代わりさせたりした(著しい非行)
  • 重大な犯罪を犯して家族に多大な迷惑をかけた(著しい非行)
  • 長年にわたってひどい暴言を浴びせ続けた(重大な侮辱)

ただし、「性格が合わない」とか「言うことを聞かない」といった理由だけでは、相続人の権利を奪う重大な手続きであるため、家庭裁判所に認めてもらうのは難しいでしょう。

相続排除の手続き方法

相続排除は自動的に適用される相続欠格と違い、家庭裁判所での手続きが必要です。手続きには2つの方法があります。

1. 生前の申立て
被相続人が生きている間に、自ら家庭裁判所に「推定相続人廃除」の申立てを行います。申立てが認められると、その相続人は相続権を失います。

2. 遺言による申立て
遺言書に「相続人〇〇を排除する」という意思と、その理由を明確に記載しておく方法です。この場合、被相続人が亡くなった後、遺言執行者(遺言の内容を実現する人)が家庭裁判所に排除の申立てを行います。

相続排除の対象になる人

相続排除の対象にできるのは、遺留分を持つ相続人に限られます。具体的には、配偶者、子ども(や孫)、親(や祖父母)です。兄弟姉妹にはもともと遺留分がないため、遺言書で「兄弟姉妹には財産を渡さない」と書けば、相続させないことができるので、わざわざ相続排除の手続きをする必要はありません。

「相続欠格」と「相続排除」の主な違いを比較

ここまで見てきた「相続欠格」と「相続排除」の違いを、表で分かりやすくまとめてみましょう。

項目 相続欠格
意思の主体 法律の規定(被相続人の意思は関係ない)
手続き 不要(自動的に権利を失う)
対象者 すべての相続人
原因 民法で定められた5つの重大な非行
取り消し 原則として不可
戸籍への記載 記載されない
項目 相続排除
意思の主体 被相続人の意思
手続き 必要(家庭裁判所への申立て)
対象者 遺留分を持つ相続人(配偶者、子、親など)
原因 虐待、重大な侮辱、著しい非行
取り消し 可能(被相続人の意思で取り消せる)
戸籍への記載 記載される

相続権を失った後の相続財産はどうなる?

相続欠格や相続排除によって相続人がいなくなった場合、その人の相続分は他の相続人で分けることになります。例えば、相続人が子ども2人だけだった状況で、1人が相続欠格になった場合、残ったもう1人の子どもがすべての財産を相続することになります。もし相続欠格者に代襲相続する子どもがいれば、その子どもと残りの相続人で遺産分割協議を行います。

知っておきたい注意点

相続欠格や相続排除に関して、いくつか注意点があります。
一つは、相続欠格は戸籍に記載されないという点です。そのため、不動産の相続登記など、相続人全員の証明が必要な手続きでは、他の相続人が「この人は相続欠格者です」ということを証明する必要が出てくる場合があります。
一方で、相続排除は家庭裁判所の手続きを経て戸籍に記載されます
また、一度した相続排除は、被相続人が家庭裁判所に申し立てることで取り消すことが可能です。関係が改善した場合などは、相続権を元に戻すことができるのですね。しかし、相続欠格は原則として取り消すことができません。

まとめ

今回は、相続権を失う「相続欠格」と「相続排除」について解説しました。どちらも相続人の権利を失わせる重大なものですが、その性質は大きく異なります。

  • 相続欠格:法律で定められた重大な不正行為をした場合に、自動的に相続権を失う制度。
  • 相続排除:被相続人への虐待などがあった場合に、被相続人の意思で家庭裁判所に申し立て、相続権を奪う制度。

相続は、単にお金が関わるだけでなく、家族間の感情も複雑に絡み合うものです。こうした制度があることを知っておくことで、万が一のトラブルを避けたり、自分の意思を正しく残したりすることにつながります。もしご自身の相続で心配なことがある場合は、専門家に相談してみるのも一つの方法ですよ。

参考文献

民法|e-Gov法令検索

国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分

相続権を失う「相続欠格」「相続排除」のよくある質問まとめ

Q. 相続欠格とは何ですか?具体的にどんなケースが当てはまりますか?

A. 相続欠格とは、法律で定められた不正行為を行った相続人が自動的に相続権を失う制度です。例えば、被相続人や他の相続人を殺害しようとしたり、遺言書を偽造・破棄したりした場合が該当します。

Q. 相続排除とは何ですか?相続欠格との違いは?

A. 相続排除は、被相続人への虐待や重大な侮辱などがあった場合に、被相続人の意思で特定の相続人から相続権を奪う制度です。家庭裁判所への申立てが必要です。自動的に権利を失う相続欠格と違い、被相続人の意思に基づきます。

Q. 親が相続欠格や相続排除になった場合、その子供(孫)は相続できますか?

A. はい、できます。親が相続欠格や相続排除によって相続権を失っても、その子供(被相続人から見て孫)は「代襲相続」により、親の代わりに財産を相続する権利があります。

Q. 相続欠格や相続排除と「相続放棄」は何が違うのですか?

A. 相続欠格・排除は、不正行為などを理由に強制的に相続権を失う制度です。一方、相続放棄は、相続人自身の意思で、プラスの財産も借金などのマイナスの財産もすべて受け継がないことを選択する手続きです。

Q. 一度した相続排除を取り消すことはできますか?

A. はい、被相続人であればいつでも取り消すことができます。家庭裁判所に取消しの申立てをするか、遺言によって取り消しの意思を示すことで可能です。

Q. 相続欠格に時効はありますか?

A. 相続欠格には時効はありません。不正行為の事実があれば、何年経っていても相続権は失われます。一度相続欠格となると、その効果が覆ることは基本的にありません。

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