ご家族が亡くなられた直後は、深い悲しみの中で冷静な判断が難しい時期だと思います。しかし、残念ながら待ってはくれないのが行政手続きです。相続に関する手続きは多岐にわたり、それぞれに厳格な期限が設けられています。期限を過ぎてしまうと、思わぬ不利益を被る可能性も少なくありません。そこでこの記事では、相続発生後に必要な手続きを優先順位に沿って、いつまでに何をすべきかを分かりやすく解説します。この流れに沿って一つひとつ進めていけば、きっと落ち着いて対応できるはずです。
まずはじめに行うべき手続き(7日〜14日以内)
ご逝去後、最も緊急性が高い手続きです。葬儀の準備と並行して、速やかに行う必要があります。
死亡届・死体火葬(埋葬)許可申請
故人が亡くなった事実を役所に届け出る、最も重要な手続きです。通常、死亡届と火葬許可の申請は同時に行います。
手続き名 | 死亡届の提出 |
期限 | 死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡した場合は3ヶ月以内) |
提出先 | 故人の本籍地、死亡地、または届出人の所在地の市区町村役場 |
必要なもの | 死亡診断書(または死体検案書)、届出人の印鑑 |
この「死亡届」を提出しないと、火葬・埋葬を行うために必要な「死体火葬(埋葬)許可証」が交付されません。多くの場合、葬儀社が手続きを代行してくれますので、まずは相談してみましょう。
年金受給停止の手続き
故人が年金を受け取っていた場合、速やかに受給を停止する手続きが必要です。年金の過払いを防ぐための大切な手続きで、放置すると後で返還を求められることになります。
手続き名 | 年金受給権者死亡届 |
期限 | 厚生年金は10日以内、国民年金は14日以内 |
提出先 | 年金事務所または年金相談センター |
必要なもの | 年金証書、戸籍謄本、死亡診断書のコピーなど |
日本年金機構にマイナンバーが収録されている方は、原則としてこの届出は不要ですが、念のため確認しておくと安心です。
健康保険・介護保険の資格喪失手続き
故人が加入していた健康保険や介護保険の資格を喪失する手続きです。保険証の返却も必要になります。
手続き名 | 健康保険・介護保険の資格喪失届 |
期限 | 国民健康保険・後期高齢者医療制度は14日以内、勤務先の健康保険は5日以内が目安 |
提出先 | 市区町村役場(国民健康保険など)、故人の勤務先(社会保険など) |
故人が世帯主で国民健康保険に加入していた場合、世帯の他の家族の保険証も変更が必要になることがあります。
相続の方向性を決める手続き(3ヶ月以内)
この期間は、相続財産をどうするか、相続の基本的な方針を決める非常に重要な時期です。財産の全体像を把握し、冷静な判断が求められます。
遺言書の有無の確認
まず最初に、故人が遺言書を残していないかを確認します。遺言書の有無によって、その後の手続きが大きく変わるからです。自宅の金庫や仏壇、貸金庫などを探してみましょう。また、公正証書遺言であれば公証役場、自筆証書遺言書保管制度を利用していれば法務局で確認できます。
自筆の遺言書を見つけた場合、勝手に開封してはいけません。家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になりますので注意してください。
相続人と相続財産の調査
誰が法的な相続人になるのかを確定させるために、故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本などを収集します。同時に、故人がどのような財産を持っていたのかを調査します。預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も漏れなく調べることが重要です。
相続放棄・限定承認の検討
相続財産の調査の結果、借金などマイナスの財産がプラスの財産を上回る場合、「相続放棄」を検討します。また、財産の全貌がはっきりせず、プラスの財産の範囲内でのみ借金を返済したい場合は「限定承認」という方法もあります。
これらの手続きは、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所へ申述する必要があります。この期限は非常に厳格で、何もしないで過ぎてしまうと、すべての財産(借金も含む)を無条件に相続する「単純承認」をしたとみなされます。
所得税の手続き(4ヶ月以内)
故人の所得に関する税務手続きです。確定申告が必要だった方が亡くなった場合、相続人が代わって手続きを行います。
準確定申告
準確定申告とは、故人の亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得を計算し、申告・納税する手続きです。故人が個人事業主だったり、給与所得以外に20万円を超える所得があったりした場合などに必要となります。
手続き名 | 準確定申告 |
期限 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内 |
提出先 | 故人の死亡当時の納税地の税務署 |
この申告によって所得税が還付されるケースもありますので、給与から源泉徴収されていた方や医療費控除を受けられる可能性がある方も忘れずに確認しましょう。
遺産分割と相続税の手続き(10ヶ月以内)
相続手続きのクライマックスとも言える期間です。遺産の分け方を確定させ、相続税の申告・納付までを完了させる必要があります。
遺産分割協議
遺言書がない場合、または遺言書で指定されていない財産がある場合、相続人全員で遺産の分け方を話し合います。これを「遺産分割協議」と呼びます。相続人全員の合意が得られたら、その内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめ、全員が署名し、実印を押印します。この協議書は、後の不動産登記や預貯金の名義変更手続きで必要となる重要な書類です。
相続税の申告と納付
相続した財産の総額が、基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合に、相続税の申告と納付が必要になります。例えば、相続人が配偶者と子2人の合計3人なら、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円です。遺産総額がこの金額を超える場合は申告が必要です。
手続き名 | 相続税の申告・納付 |
期限 | 被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内 |
提出先 | 故人の最後の住所地を管轄する税務署 |
納税は、原則として現金一括で納付する必要があります。申告期限に間に合わないと、延滞税などのペナルティが課される可能性があるため、計画的に準備を進めましょう。
期限はないが早めに行うべき手続き
法律で明確な期限が定められていないものもありますが、放置するとトラブルになったり、手続きが複雑になったりする可能性があるため、速やかに行うことをおすすめします。
不動産・預貯金などの名義変更
遺産分割協議がまとまったら、不動産や預貯金、株式、自動車などの名義を故人から相続人へ変更します。特に不動産の相続登記は、2024年4月1日から義務化され、「相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内」に申請しなければなりません。正当な理由なく怠ると過料が科される可能性があります。
公共料金・クレジットカード等の解約
電気、ガス、水道、電話、クレジットカードなど、故人名義の契約は解約や名義変更が必要です。放置すると不要な支払いが続いてしまうため、一覧リストを作成して漏れなく対応しましょう。
各種給付金の請求
故人が加入していた保険や年金によっては、遺族が受け取れる給付金があります。これらは請求しなければ受け取れないため、忘れずに手続きしましょう。
給付金の例 | 請求期限の目安 |
遺族年金 | 5年 |
死亡一時金(国民年金) | 死亡日の翌日から2年 |
生命保険金 | 3年 |
埋葬料・葬祭費(健康保険) | 2年 |
まとめ
相続発生後の手続きは、期限が細かく決められており、非常に複雑です。まずは全体の流れを把握し、期限が短いものから優先順位をつけて、一つひとつ着実に進めていくことが大切です。特に、
- 3ヶ月以内の相続放棄・限定承認
- 4ヶ月以内の準確定申告
- 10ヶ月以内の相続税申告・納付
この3つは、絶対に忘れてはならない重要な期限です。もし手続きに不安を感じたり、何から手をつけて良いか分からなくなったりした場合は、税理士や司法書士、弁護士といった専門家に早めに相談することをおすすめします。専門家の力を借りることで、精神的な負担を減らし、スムーズで正確な手続きを進めることができます。
参考文献
国税庁|No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
相続手続きの優先順位に関するよくある質問まとめ
Q.相続が始まったら、まず何から手をつければいいですか?
A.まずは死亡届の提出と火葬許可の申請を行います。これらは死亡後7日以内に行う必要があります。同時に、遺言書の有無を確認することも非常に重要です。
Q.遺言書を見つけたらどうすればいいですか?
A.遺言書を見つけたら、勝手に開封してはいけません。公正証書遺言以外の場合は、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要です。検認を受けずに開封すると過料が科される可能性があります。
Q.相続人を確定させるにはどうすればいいですか?
A.亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取り寄せ、誰が法的な相続人になるのかを確定させます。これは遺産分割協議を行うための前提となります。
Q.相続財産の調査はどのように行いますか?
A.預貯金は金融機関で残高証明書を、不動産は名寄帳や固定資産評価証明書を取得して調査します。借金などのマイナスの財産も調査対象です。財産目録を作成すると全体像が把握しやすくなります。
Q.相続放棄を考えています。期限はありますか?
A.相続放棄は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。この期間を過ぎると単純承認したとみなされることがあるため注意が必要です。
Q.相続税の申告はいつまでに行えばいいですか?
A.相続税の申告と納税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。期限に遅れると延滞税などのペナルティが発生する可能性があります。