ご家族が亡くなられたときにかかる「相続税」。実は、すべての財産に税金がかかるわけではないんです。法律で「これは相続税の対象にしなくてもいいですよ」と決められている「非課税財産」というものが存在します。これを知っているかどうかで、納める税金の額が大きく変わることもあるんですよ。この記事では、どんなものが非課税財産にあたるのか、具体的な例を挙げながら、わかりやすく解説していきますね。
相続税がかからない代表的な非課税財産
まずは、相続税の計算に含めなくてよい、代表的な非課税財産について見ていきましょう。これらは私たちの生活や慣習に深く関わっているものが多いんですよ。
祭祀財産(お墓や仏壇など)
ご先祖様を敬うための財産は、課税対象から外されています。これを「祭祀財産(さいしざいさん)」と呼びます。故人を偲び、供養するための大切なものなので、税金の対象にはなじまないとされているんですね。
| 種類 | 具体例 |
| 墳墓(ふんぼ) | 墓地、墓石、墓碑など |
| 祭具(さいぐ) | 仏壇、仏具、位牌、神棚、神具など |
| 系譜(けいふ) | 家系図、過去帳など |
ただし、注意点もあります。例えば、純金でできた仏像や骨董品としての価値が非常に高い仏具など、投資目的や換金性が高いと判断されるものは課税対象になる可能性があります。あくまで「日常的に礼拝するためのもの」が非課税の対象です。また、これらは生前に購入し、支払いが完了している必要があります。亡くなった後に相続財産から購入した場合は、非課税にはなりませんので注意してくださいね。
生命保険金・死亡退職金の非課税枠
故人が亡くなったことで受け取る生命保険金や死亡退職金は、残されたご家族の生活を支えるための大切な資金ですよね。そのため、一定額までは相続税がかからない特別な枠が設けられています。
非課税になる金額は、「500万円 × 法定相続人の数」という計算式で求められます。
例えば、法定相続人が奥様とお子様2人の合計3人だった場合、500万円 × 3人 = 1,500万円までが非課税となります。受け取った生命保険金が2,000万円であれば、非課税枠の1,500万円を差し引いた500万円だけが相続税の課税対象になる、という仕組みです。この非課税枠は、受取人が法定相続人である場合に適用されます。
国や特定の法人への寄付財産
相続した財産を、社会のために役立てたいと考える方もいらっしゃるかもしれません。そういった場合に、国や地方公共団体、あるいは特定の公益法人(認定NPO法人など)へ寄付した財産は、相続税の対象から外されます。
この特例を使うためには、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに寄付を完了し、その証明書を申告書に添付する必要があります。社会貢献と節税を両立できる制度ですね。
その他の非課税財産(弔慰金など)
上記以外にも、いくつか非課税となる財産があります。代表的なものを2つご紹介します。
| 財産の種類 | 内 容 |
| 弔慰金(ちょういきん) | 故人が勤務していた会社などから遺族へ支払われるお見舞金です。業務上の死亡の場合は「死亡時の月給 × 36か月分」、業務外の死亡の場合は「死亡時の月給 × 6か月分」までが非課税となります。 |
| 心身障害者扶養共済制度に基づく給付金 | 障害のある方を扶養する保護者が掛金を支払い、万が一の際にその方に年金が給付される制度です。この給付金を受け取る権利は、制度の趣旨から相続税が非課税とされています。 |
これは非課税?判断に迷いやすい財産のケース
中には、相続税がかかるのかどうか、判断に迷ってしまう財産もあります。ここでは、特に間違いやすいケースを2つ見ていきましょう。
遺族年金や未支給年金は相続税の対象外
故人が受け取るはずだった年金や、残された家族が受け取る遺族年金は、相続税の対象になるのでしょうか?
まず、遺族年金(遺族基礎年金や遺族厚生年金)は、相続税の対象にはなりません。これは、法律によって遺族固有の権利として定められているため、故人の財産とはみなされないからです。同様に、故人が亡くなった時点でまだ受け取っていなかった「未支給年金」も相続税はかかりません。ただし、こちらは受け取った遺族の「一時所得」として所得税の課税対象になるので、確定申告が必要な場合があります。
名義預金は課税対象なので要注意
「名義預金」という言葉を聞いたことがありますか?これは、口座の名義は配偶者やお子様のものであっても、実質的には故人が管理し、お金も故人が出していた預金のことを指します。例えば、「奥様に内緒で、専業主婦である奥様名義の口座にへそくりを貯めていた」といったケースが典型例です。
このような名義預金は、口座の名義に関わらず、実質的な所有者である故人の財産として相続税の課税対象となります。税務署の調査で指摘されやすいポイントでもあるので、ご家族名義の預金でも、そのお金の出所が誰なのかをしっかり確認しておくことが大切です。
非課税財産と基礎控除はどう違うの?
相続税の話でよく出てくる「基礎控除」と「非課税財産」。似ているようで、実は役割が全く違います。ここで違いをスッキリ整理しておきましょう。
誰でも使える「相続税の基礎控除」
基礎控除とは、相続税を計算するときに、すべての人が財産の総額から差し引くことができる基本的な控除額のことです。この基礎控除額以下の財産であれば、相続税はかからず、申告も不要になります。
基礎控除額は、「3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)」で計算します。例えば、法定相続人が3人なら、3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円が基礎控除額です。
相続税計算における順番
非課税財産と基礎控除は、計算する順番が異なります。まず、故人のすべての財産から「非課税財産」を差し引きます。その後、借金などのマイナスの財産や葬儀費用を引いた金額(課税遺産総額)を算出し、最後に「基礎控除」を差し引いて、相続税がかかるかどうかを判断します。非課税財産が多いほど、最終的な税額を抑えることができるんですね。
知っておきたい!生前贈与の非課税特例
相続税対策として、生前のうちに財産を贈与しておく方法も有効です。贈与には贈与税がかかりますが、様々な非課税の特例が用意されています。これらを活用することで、将来の相続税負担を賢く軽減できますよ。
| 特例の名称 | 概 要 |
| 暦年贈与の基礎控除 | 1人あたり年間110万円までの贈与であれば、贈与税がかかりません。毎年コツコツ贈与を続けることで、大きな節税効果が期待できます。 |
| 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与) | 婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用の不動産やその購入資金を贈与する場合、最大2,000万円まで非課税になります。 |
| 住宅取得等資金の贈与 | 父母や祖父母から、子や孫がマイホームを購入・新築するための資金援助を受けた場合、最大1,000万円まで贈与税が非課税になります。(※省エネ等住宅の場合。2026年12月31日まで) |
| 教育資金の一括贈与 | 30歳未満の子や孫へ、教育資金として一括で贈与する場合、最大1,500万円まで非課税になります。(2026年3月31日まで) |
| 結婚・子育て資金の一括贈与 | 18歳以上50歳未満の子や孫へ、結婚や子育てに関する資金として一括で贈与する場合、最大1,000万円まで非課税になります。(2027年3月31日まで) |
これらの制度にはそれぞれ細かい要件がありますので、利用を検討する際は専門家に相談することをおすすめします。
非課税財産を活用するときの注意点
非課税財産はとてもありがたい制度ですが、いくつか注意すべき点があります。正しく適用を受けるために、以下のポイントを押さえておきましょう。
一つ目は、非課税財産であっても、相続税の申告書に記載が必要な場合があることです。特に、生命保険金や死亡退職金は、非課税枠内の金額だったとしても、申告書に「受け取った保険金額」と「非課税金額」を記載しなければ、非課税の適用が受けられません。申告が必要な場合は、忘れずに記載しましょう。
二つ目は、生前の購入や手続きが必須なものが多い点です。祭祀財産は生前に支払いを終えている必要がありますし、財産の寄付も相続税の申告期限までに行う必要があります。いざという時に慌てないよう、元気なうちから計画的に準備を進めることが大切ですね。
まとめ
今回は、相続税がかからない非課税財産について、具体的な例や注意点を解説しました。お墓や仏壇などの祭祀財産、生命保険金の非課税枠などを正しく理解し活用することで、大切な財産をより多くご家族に残すことができます。また、生前贈与の非課税特例を計画的に利用することも、有効な相続税対策となります。相続は誰にでも起こりうることです。この記事をきっかけに、ご自身の財産やご家族のことを考える時間を持っていただけたら嬉しいです。
参考文献
非課税財産のよくある質問まとめ
Q. そもそも非課税財産とは何ですか?
A. 社会政策的な配慮や財産の性質上、相続税や贈与税がかからない財産のことです。代表的なものに、墓地や仏壇・仏具、国や地方公共団体への寄付財産などがあります。
Q. 墓地やお墓、仏壇はなぜ非課税なのですか?
A. これらは祭祀財産(さいしざいさん)と呼ばれ、先祖を祀るためのものです。日常的な礼拝の対象であり、換金して利益を得るものではないため、課税対象から外されています。
Q. 生命保険金はすべて非課税になりますか?
A. いいえ、全額ではありません。相続人が受け取る生命保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠が設けられており、この金額を超える部分が課税対象となります。
Q. 死亡退職金にも非課税枠はありますか?
A. はい、あります。死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金にも、生命保険金と同様に「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠が適用されます。
Q. 葬式でいただいた香典や弔慰金に税金はかかりますか?
A. いいえ、かかりません。香典や弔慰金、花輪代などは、遺族への見舞金という性質から、社会通念上相当と認められる範囲内であれば相続税も贈与税も非課税です。
Q. 国や特定の団体に寄付した財産も非課税になりますか?
A. はい、相続した財産を国や地方公共団体、特定の公益法人などに寄付した場合、その寄付した財産には相続税がかかりません。ただし、相続税の申告期限までに寄付を完了させる必要があります。