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相続税が最大40%減額?不整形地補正の計算方法と注意点を解説

2025-05-06
目次

ご家族から土地を相続したけれど、その土地がきれいな四角形ではない…そんな不整形地をお持ちではありませんか?実は、形が整っていない土地は、相続税を計算する際の評価額を大きく下げられる可能性があります。そのための制度が「不整形地補正」です。この制度を正しく使うことで、相続税の負担を大幅に軽くできるかもしれません。この記事では、不整形地補正の基本的な考え方から、具体的な計算方法、知っておきたい注意点まで、図や表を使いながら誰にでも分かりやすくお話ししていきますね。

不整形地補正とは?相続税が安くなる仕組み

土地の相続税評価額は、その土地の価値に基づいて決まります。一般的に、正方形や長方形のような「整形地」は、建物を建てやすく、土地全体を有効活用できるため価値が高いとされます。一方で、いびつな形をした「不整形地」は、使えないスペース(デッドスペース)が生まれてしまったり、建築に制限が出たりするため、整形地に比べて利用価値が低いと判断されます。この利用価値の低さを評価額に反映させ、税負担を公平にするための仕組みが不整形地補正です。この補正を適用することで、土地の評価額を最大で40%も減額できることがあるんですよ。

不整形地ってどんな土地?

不整形地と聞くと、とても複雑な形を想像するかもしれませんが、実は身近な土地も多く含まれます。例えば、以下のような土地はすべて不整形地として扱われる可能性があります。

  • 三角地:文字通り、三角形の土地
  • 旗竿地:道路に接する間口が狭く、奥に敷地が広がっているL字型のような土地
  • 隅切り地:交差点の角にある、見通しを良くするために角が削られている土地
  • 台形や平行四辺形の土地
  • 境界線がギザギザになっている土地

ご自身の土地がこれらの形に当てはまる場合は、不整形地補正の対象になる可能性が高いと言えます。

土地の評価方法は2種類

相続税の土地評価には、主に2つの方法があります。不整形地補正が使われるのは、主に「路線価方式」です。

評価方式 内   容
路線価方式 主に市街地の土地で使われる方法です。道路ごとに定められた価格(路線価)を基準に、土地の奥行、形、角地かどうかといった個別の特徴を考慮して評価額を計算します。
倍率方式 路線価が定められていない郊外の土地などで使われます。その土地の固定資産税評価額に、国税庁が地域ごとに定めた一定の倍率を掛けて評価額を計算します。土地の形状などは固定資産税評価額に既に反映されているため、原則として不整形地補正は行いません。

不整形地補正率の計算方法【3ステップ】

では、実際に不整形地補正率をどのように計算するのか、3つのステップに分けて見ていきましょう。計算は少し複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつのステップを丁寧に進めれば大丈夫ですよ。

STEP1: 地積区分を判定する

最初に、評価する土地がどの「地積区分」に属するかを判定します。これは、土地の面積の広さによって評価の基準を分けるためのものです。

  1. 地区区分を調べる:国税庁のホームページにある「路線価図」で、ご自身の土地が面している道路の記号を確認します。「普通住宅地区」「普通商業・併用住宅地区」など7種類に分かれています。
  2. 地積区分表で判定する:調べた「地区区分」と土地の「面積(地積)」を下の「地積区分表」に当てはめて、A・B・Cのいずれに該当するかを確認します。

例えば、「普通住宅地区」にある400㎡の土地なら、500㎡未満なので地積区分は「A」となります。

地積区分表

地区区分 地積区分
高度商業地区 A:1,000㎡未満 / B:1,000㎡以上1,500㎡未満 / C:1,500㎡以上
繁華街地区 A:450㎡未満 / B:450㎡以上700㎡未満 / C:700㎡以上
普通商業・併用住宅地区 A:650㎡未満 / B:650㎡以上1,000㎡未満 / C:1,000㎡以上
普通住宅地区 A:500㎡未満 / B:500㎡以上750㎡未満 / C:750㎡以上
中小工場地区 A:3,500㎡未満 / B:3,500㎡以上5,000㎡未満 / C:5,000㎡以上

STEP2: かげ地割合を求める

次に、その土地がどれくらい「いびつ」なのかを示す「かげ地割合」を計算します。「かげ地」とは、土地の形を整えるために仮想的に補った部分のことです。

  1. 想定整形地を決める:評価したい不整形地をすっぽりと囲む、最も面積が小さくなる長方形または正方形を想定します。これを「想定整形地」と呼びます。
  2. かげ地割合を計算する:以下の式で計算します。
    かげ地割合 = (想定整形地の面積 - 不整形地の面積) ÷ 想定整形地の面積

例えば、想定整形地が500㎡で、実際の不整形地の面積が350㎡の場合、かげ地は150㎡です。かげ地割合は (500 – 350) ÷ 500 = 0.3、つまり30%となります。

STEP3: 不整形地補正率表で補正率を確認

最後に、STEP1とSTEP2で求めた情報を基に、「不整形地補正率表」から最終的な補正率を見つけます。

下の表で、「地区区分」「地積区分(A,B,C)」「かげ地割合」が交差する場所の数値が、適用する不整形地補正率です。この数値が1.00より小さいほど、評価額が大きく減額されます。

先ほどの例(普通住宅地区、地積区分A、かげ地割合30%)の場合、補正率は「0.90」となります。これは、土地の評価額を10%減額できることを意味します。

不整形地補正率表(抜粋)

地区区分 普通住宅地区
かげ地割合 / 地積区分 A / B / C
10%以上 0.98 / 0.99 / 0.99
20%以上 0.94 / 0.97 / 0.98
30%以上 0.90 / 0.93 / 0.96
40%以上 0.85 / 0.88 / 0.92
50%以上 0.79 / 0.82 / 0.87
65%以上 0.60 / 0.65 / 0.70

不整形地の評価で使われるその他の補正

不整形地の評価では、不整形地補正の他にも、土地の形に応じて適用できる減額補正があります。これらを組み合わせることで、さらに評価額を下げられる場合があります。

間口が狭い土地は「間口狭小補正」

道路に接している部分(間口)が狭い土地は、車の出入りがしにくかったり、建築の際に重機が入れなかったりするため、利用価値が低いと評価されます。この減額措置が「間口狭小補正」です。例えば、普通住宅地区では間口が8m未満の場合に適用されます。
この補正は不整形地補正と併用が可能で、「不整形地補正率 × 間口狭小補正率」として計算します。ただし、最終的な補正率が0.60を下回ることはありません。

細長い土地は「奥行長大補正」

間口の幅に比べて奥行きが極端に長い、いわゆる「うなぎの寝床」のような土地も、奥の部分が使いにくいため評価額が下がります。これが「奥行長大補正」です。例えば、普通住宅地区では奥行が間口の2倍以上ある場合に適用されます。
ただし、こちらは注意が必要で、不整形地補正との併用はできません。どちらの補正を適用した方が評価額が低くなるか(有利になるか)を計算し、有利な方を選択することになります。

補正率の組み合わせ

どの補正を使うかは、土地の状況によって変わります。有利な方法を選ぶことが節税の鍵です。

土地の状況 適用できる補正の組み合わせ(有利な方を選択)
不整形地で間口が狭い 不整形地補正率 × 間口狭小補正率
不整形地で間口が狭く、かつ細長い ①(不整形地補正率 × 間口狭小補正率)か、②(間口狭小補正率 × 奥行長大補正率)の有利な方

不整形地評価の4つの評価方法

実は、不整形地の評価額を出す方法は1つだけではありません。国税庁は4つの評価方法を認めており、納税者はその中から最も評価額が低くなる(=税金が安くなる)方法を自由に選ぶことができます。どの方法が最適かは土地の形によって異なるため、専門的な知識が求められる部分です。

整形地に区分して評価する方法

L字型の土地などを、複数の長方形に仮想的に分割し、それぞれの評価額を合計してから不整形地補正を適用する方法です。比較的わかりやすい土地の形で使われます。

計算上の奥行距離を使う方法

「土地の面積 ÷ 間口の距離」で計算した「平均の奥行距離」を使って評価する方法です。どんな形の不整形地にも適用できるため、基本となる評価方法と言えます。

近似整形地を使う方法

評価する土地にはみ出す部分とへこんでいる部分の面積がほぼ同じになるような、その土地に最も近い形の整形地(近似整形地)を想定して評価する方法です。専門家が図面上で正確に作図する必要があり、腕の見せ所とも言える評価方法です。

差し引き計算をする方法

想定整形地の評価額から、かげ地部分の評価額を差し引いて計算する方法です。非常に複雑ですが、場合によっては評価額を最も大きく下げられる可能性があります。

不整形地評価でよくある質問と注意点

ここでは、不整形地評価について、皆さんが疑問に思いがちな点や注意すべきポイントをQ&A形式でお答えします。

隅切り(角地)も不整形地になりますか?

はい、なります。交差点の角にある土地が、安全のために角を削られている「隅切り」がある場合、その土地は不整形地として扱われます。削られた部分は「かげ地」となり、評価額を下げる要因になります。ただし、間口の距離は隅切りがなかったものとして計算するなど、少し特殊なルールがあるので注意が必要です。

路線が折れ曲がっている(屈折路)場合はどうしますか?

「く」の字に曲がった道路に面している土地の場合、評価の基準となる「想定整形地」の作り方が複数考えられます。このような場合は、考えられる想定整形地のうち、最も面積が小さくなるものを採用するというルールがあります。どの取り方が一番有利になるか、慎重な判断が求められます。

不整形地なのに補正が使えないケースはありますか?

はい、あります。例えば、土地の大部分は整形地なのに、評価額を下げるためだけに意図的に作られたような細長い土地(帯状地)がついている場合などです。このようなケースで不整形地補正を適用すると、かえって不合理な評価になってしまうため、補正の対象外となることがあります。

まとめ

ここまで、不整形地補正についてお話ししてきましたが、いかがでしたでしょうか。不整形地の評価は、相続税を大きく節約できる可能性を秘めた、非常に重要なポイントです。しかし、その計算は想定整形地の取り方や評価方法の選択など、専門的な知識と経験がなければ非常に複雑で難しいものです。どの方法を選ぶかによって、評価額、つまり納める相続税額が何百万円も変わってしまうことも少なくありません。
もしご自身が相続した土地の形がいびつで、「もしかして…?」と思われたら、まずは土地評価に詳しい相続専門の税理士に相談することをおすすめします。正しい評価で、損のない相続税申告を行いましょう。

参考文献

国税庁:財産評価基準書 路線価図・評価倍率表

国税庁:No.4602 土地家屋の評価

不整形地補正のよくある質問まとめ

Q.不整形地補正とは何ですか?

A.土地の形が正方形や長方形ではなく、L字型や三角形などいびつな形(不整形)の場合に、その使いにくさを考慮して土地の評価額を減額する制度です。主に相続税や固定資産税の計算で適用されます。

Q.どのような土地が不整形地補正の対象になりますか?

A.正方形や長方形でない土地全般が対象となり得ます。具体的には、L字型の土地、三角形や多角形の土地、敷地の一部が通路状になっている旗竿地などが代表的な例です。

Q.不整形地補正はどのように計算するのですか?

A.まず、その土地がすっぽり収まる長方形(想定整形地)を描きます。次に、想定整形地のうち実際の土地以外の部分(かげ地)の割合を計算し、国税庁が定める「不整形地補正率表」に当てはめて補正率を求め、評価額を減額します。

Q.不整形地だと、土地の評価額はどれくらい下がりますか?

A.土地の形状や「普通住宅地区」「商業地区」などの地区区分によって異なりますが、最大で40%評価額が減額される可能性があります。補正率が大きいほど節税効果も高くなります。

Q.自分で不整形地補正の計算はできますか?

A.計算には専門的な知識が必要で、特に想定整形地の取り方や間口距離の測り方などが複雑なため、ご自身での正確な計算は困難です。税理士や不動産鑑定士などの専門家に相談することをおすすめします。

Q.不整形地補正は相続税以外でも使えますか?

A.はい、相続税や贈与税のほか、固定資産税の評価においても適用される場合があります。ただし、評価のルールが自治体によって異なるケースがあるため、詳しくは管轄の役所にご確認ください。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
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電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。