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相続税が2割増しに?知っておきたい「相続税額の2割加算」の対象者と対策

2025-05-28
目次

ご家族が亡くなられて財産を相続することになったとき、「相続税」という言葉を耳にしますよね。実はこの相続税、財産を受け取る人によっては、計算された税額からさらに2割も多く納税しなければならないケースがあるのをご存知でしたか?それが「相続税額の2割加算」という制度です。この制度を知らないと、思った以上の税負担に驚いてしまうかもしれません。この記事では、どのような人が対象になるのか、なぜこのような制度があるのか、そして事前にできる対策について、分かりやすく解説していきます。

相続税額の2割加算とは?基本的な仕組みを解説

まずは、「相続税額の2割加算」がどのような制度なのか、基本から見ていきましょう。簡単に言うと、亡くなった方(被相続人)との関係が近い人以外が財産を受け取った場合に、その人の相続税額が20%割り増しになる、というルールです。大切なのは、遺産の総額が2割増えるのではなく、計算された各人の「相続税額」が2割増えるという点です。納税額に直接影響する、とても重要なポイントになります。

なぜ2割も加算されるの?制度の目的

「どうして税金が増えてしまうの?」と疑問に思いますよね。この制度が設けられている背景には、相続税の考え方があります。相続は本来、亡くなった方の配偶者やお子さんなど、生活を共にし、財産形成にも貢献してきた近い親族へ財産が引き継がれることを想定しています。一方で、それ以外の方が財産を受け取る場合は、予期せず偶然に得た利益という側面が強いと考えられています。そのため、より税金を負担する能力(担税力)が高いとみなされ、税負担を少し重くすることでバランスを取ろうというのが、この制度の目的なのです。

計算方法の具体例

では、実際にどれくらい納税額が変わるのか、簡単な例で見てみましょう。例えば、遺産を相続したAさんの本来の相続税額が500万円だったとします。もしAさんが2割加算の対象者だった場合、計算は以下のようになります。

500万円(本来の相続税額) × 20% = 100万円(加算される税額)

この結果、Aさんが実際に納税する金額は、本来の500万円に100万円が加算された合計600万円になります。このように、最終的な納税額に直接上乗せされるため、影響はとても大きいことがわかりますね。

2割加算はいつからある制度?

この相続税額の2割加算は、実は最近できた制度ではありません。昭和33年の税制改正で創設された、非常に歴史のある制度です。長い間、相続税の公平性を保つための仕組みとして、日本の税制の中で役割を果たしてきました。時代に合わせて細かい改正はありましたが、基本的な考え方は今も変わらず受け継がれています。

【要注意】2割加算の対象になる人、ならない人

この制度で最も重要なのが、「誰が対象で、誰が対象でないのか」を正確に知っておくことです。ご自身が対象になるかどうかで、納税計画が大きく変わってきます。ここでは、対象者と対象外の人を具体的に確認していきましょう。

対象になるのはこんな人

相続税額の2割加算の対象となるのは、原則として「被相続人の配偶者と一親等の血族、代襲相続人となった孫や甥・姪」以外の人です。具体的には、以下のような方々が挙げられます。

対象者 具体例
兄弟姉妹、甥、姪 亡くなった方の兄弟や、その子ども(代襲相続人でない場合)が遺産を受け取るケースです。
孫(代襲相続人でない場合) お子さんがご健在にもかかわらず、遺言などでお孫さんに直接財産を遺すケースです。お孫さんを養子にしている場合も対象です。
その他の方々 内縁の配偶者、友人、お世話になった方、いとこ、祖父母(親が存命の場合)など、上記以外の方が財産を受け取るケースです。

対象にならないのはこんな人

一方で、2割加算の対象にならないのは、被相続人と特に近い関係にある方々です。法律上、税の負担を考慮されている人たちと言えます。

対象にならない人 備  考
配偶者、子、親 被相続人の配偶者と、親子関係にある「一親等の血族」は対象外です。養子も一親等の血族に含まれます。
代襲相続人となった孫、甥、姪 本来相続人であるはずの子や兄弟姉妹が先に亡くなっているために、その代わりに相続人となった孫や甥・姪は、2割加算の対象になりません。

孫への相続・遺贈で気をつけたいポイント

「子どもを飛び越えて、かわいい孫に財産を遺したい」と考える方もいらっしゃるでしょう。この「一世代飛ばしの相続」は相続税を一度免れるため節税対策として考えられがちですが、2割加算の観点からは注意が必要です。

孫養子は2割加算の対象?対象外?

お孫さんを養子にすると、法律上は「子」として一親等の血族になります。そのため、2割加算の対象外になると思われがちですが、ここに落とし穴があります。代襲相続人ではないお孫さんを養子にした場合、そのお孫さんは相続税額の2割加算の対象になってしまいます。これは、養子縁組を利用した相続税の過度な節税を防ぐための特別なルールです。ただし、亡くなったお子さんの代わりとして相続する「代襲相続人」であるお孫さんは、養子であってもなくても2割加算の対象外です。

代襲相続人である孫は対象外

前述の通り、代襲相続の場合は話が別です。代襲相続とは、本来相続人となるはずだった子(被相続人から見て)が、相続開始時より前に亡くなっている場合に、その子(被相続人から見て孫)が代わりに相続権を引き継ぐ制度です。この場合、お孫さんは亡くなった親の立場を引き継いで相続するため、2割加算の対象にはなりません。あくまで本来の相続の流れに乗っていると見なされるためです。

生命保険金や死亡退職金も2割加算の対象になる?

亡くなった方が遺した預貯金や不動産だけでなく、生命保険金や死亡退職金も「みなし相続財産」として相続税の対象になります。では、これらの財産を受け取った場合も2割加算は適用されるのでしょうか。

生命保険金の受取人が対象者の場合

結論から言うと、生命保険金も2割加算の対象になります。例えば、亡くなった方がご自身の兄弟や内縁の妻を受取人に指定していた生命保険金を受け取った場合、その保険金にかかる相続税額は2割加算されます。また、生命保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠がありますが、この枠を使えるのは法定相続人のみです。法定相続人でない方が受け取った場合は、非課税枠の適用もなく、さらに税額が2割加算されることになるので注意が必要です。

死亡退職金の受取人が対象者の場合

死亡退職金も生命保険金と全く同じ考え方です。ご遺族が受け取った死亡退職金は、みなし相続財産として課税対象となります。そして、その受取人が2割加算の対象者(兄弟姉妹など)であれば、やはりその死亡退職金にかかる相続税額は2割加算の対象となります。こちらも生命保険金と同様の非課税枠がありますが、法定相続人以外は利用できません。

相続税の2割加算を回避・節税するための生前対策

2割加算は避けられないケースもありますが、事前に計画を立てることで負担を軽減できる可能性もあります。ここでは、代表的な生前対策をいくつかご紹介します。

生前贈与を活用する

最も直接的な対策は、生前に財産を贈与しておくことです。相続ではなく贈与であれば、相続税そのものがかからないため、2割加算も発生しません。ただし、年間110万円までの基礎控除を利用する「暦年贈与」や、一定の要件で利用できる「相続時精算課税制度」など、贈与税のルールをしっかり理解する必要があります。また、亡くなる前一定期間内(現在は3年、段階的に7年に延長)の贈与は相続財産に持ち戻されるルールもあるため、早めに専門家へ相談しながら計画的に進めることが大切です。

遺言書の内容を見直す

遺言書を作成する際に、2割加算のことを考慮して財産の配分を決めるのも一つの方法です。例えば、2割加算の対象となる兄弟姉妹に財産を遺す場合、納税資金として現預金もセットで遺したり、加算される税額分を見越して渡す財産額を調整したりといった配慮ができます。誰に、何を、どれだけ遺したいのか、そしてその人の税負担がどうなるのかをシミュレーションした上で、最適な内容を検討しましょう。

生命保険を活用する

生命保険は、2割加算の直接的な回避策にはなりませんが、納税資金の準備や全体の節税に役立ちます。例えば、2割加算の対象外であるお子さんを受取人にして生命保険に加入し、非課税枠を最大限活用することで、全体の相続税を圧縮できます。そして、お子さんが受け取った保険金の中から、遺言者の想いを汲んで他の親族へ金銭的な援助をすることも考えられます。ただし、この場合も贈与税の問題が生じる可能性があるため、慎重な検討が必要です。

まとめ

相続税額の2割加算は、亡くなった方の配偶者や一親等の血族(子・親)以外の人が財産を受け取った場合に、その人の相続税額が20%も増額される制度です。具体的には、兄弟姉妹や甥・姪、代襲相続ではない孫、内縁の配偶者などが対象となります。特に、節税目的で行われがちな孫への遺贈や孫養子についても、原則として2割加算の対象となるため注意が必要です。このルールを知らずにいると、納税の段階で資金が足りなくなるという事態にもなりかねません。ご自身の財産を誰に遺したいか、そしてその方の税負担はどうなるのかを考え、必要であれば生前贈与などの対策を早めに検討することが、円満な相続の鍵となります。

参考文献

国税庁 No.4157 相続税額の2割加算

相続税の2割加算に関するよくある質問まとめ

Q. 相続税の2割加算とは何ですか?

A. 亡くなった方の配偶者や子、父母以外の方が財産を相続した場合に、本来の相続税額が2割増しになる制度です。

Q. 誰が2割加算の対象になりますか?

A. 兄弟姉妹、甥、姪、孫(代襲相続でない場合)、内縁の妻、友人などが対象者となります。

Q. なぜ相続税が2割加算されるのですか?

A. 配偶者や親子といった近い関係でない方への相続は、偶然性が高いと考えられることや、世代を飛ばした相続による税負担の回避を防ぐためです。

Q. 孫が相続した場合、必ず2割加算の対象になりますか?

A. いいえ。親が先に亡くなっていて代襲相続人として相続する場合は対象外です。遺言で財産を受け取った場合は2割加算の対象となります。

Q. 養子は2割加算の対象になりますか?

A. 養子は法律上「子」として扱われるため、原則として2割加算の対象にはなりません。ただし、被相続人の孫が養子となっている場合は2割加算の対象です。

Q. 相続税の2割加算を避ける方法はありますか?

A. 受取人を指定した生命保険金(死亡保険金)は相続税の課税対象ですが、2割加算の対象にはなりません。生前にこの制度を活用することが有効な対策となります。

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