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相続税が80%減額?自宅・事業用地の小規模宅地等特例の活用法

2025-09-30
目次

ご家族が遺してくれた大切な自宅や事業の土地。相続する際に気になるのが「相続税」ですよね。実は、この相続税の負担を最大で80%も軽減できる「小規模宅地等の特例」という非常に強力な制度があるのをご存知でしょうか?しかし、この特例は要件が細かく複雑で、「知らなかった」ために使えなかったというケースも少なくありません。この記事では、そんな小規模宅地等特例について、自宅や事業用地に焦点を当てて、今のうちからできる準備や注意点を分かりやすく解説していきます。

小規模宅地等特例ってどんな制度?

小規模宅地等特例とは、亡くなった方(被相続人)が住んでいた土地や事業をしていた土地などを相続した場合に、一定の要件を満たせば、その土地の評価額を大幅に減額できる制度です。この制度の目的は、残されたご家族が住む家を失ったり、事業の継続が困難になったりすることを防ぐことにあります。相続税の負担を軽くすることで、生活基盤や事業基盤を守るための、とても大切な特例なのです。

どれくらい安くなるの?特例の概要

減額される割合は、土地の種類によって異なります。代表的な3つの種類と、それぞれの減額割合・限度面積を見てみましょう。

土地の種類 内    容
特定居住用宅地等 被相続人が住んでいた自宅の敷地です。330㎡を限度に評価額が80%減額されます。
特定事業用宅地等 被相続人が個人事業を営んでいた土地です。400㎡を限度に評価額が80%減額されます。
貸付事業用宅地等 被相続人がアパートや駐車場など、不動産貸付を行っていた土地です。200㎡を限度に評価額が50%減額されます。

誰が使えるの?主な対象者

この特例を使えるのは、土地を相続した人なら誰でも、というわけではありません。主に、被相続人と密接な関係にあった方が対象となります。例えば、自宅の土地(特定居住用宅地等)の場合、主に次のような方が対象です。

  • 配偶者
  • 被相続人と同居していた親族
  • 一定の要件を満たす、別居していた親族(家なき子)

誰が土地を相続するかによって、適用できるかどうかが変わってくるため、事前の計画が非常に重要になります。

複数の土地がある場合の注意点

例えば、自宅の土地(特定居住用宅地等)と事業用の土地(特定事業用宅地等)の両方を相続するケースもあるかもしれません。この場合、それぞれの上限面積まで適用できるわけではなく、合計で適用できる面積に上限が設けられています。最大で730㎡(330㎡+400㎡)まで選択できますが、どの土地にどのくらいの面積を適用させるのが最も有利になるかは、土地の評価額などによって変わります。そのため、どの組み合わせが一番節税になるか、慎重にシミュレーションする必要があります。

自宅に適用する場合(特定居住用宅地等)のポイント

最も多くの方が利用するであろう、ご自宅の土地に関する「特定居住用宅地等」について、誰が相続するかによって要件がどう変わるのか、詳しく見ていきましょう。

配偶者が相続する場合

配偶者の方がご自宅を相続する場合、要件は非常にシンプルです。特別な要件はなく、無条件で小規模宅地等特例の適用を受けることができます。相続後にその家に住み続けなくても、売却してしまっても問題ありません。これは、配偶者の生活保障を厚く保護するという考え方に基づいています。

同居していた親族が相続する場合

お子さんなど、被相続人と一緒に住んでいた親族が相続する場合は、いくつかの要件を満たす必要があります。これを「居住継続要件」「所有継続要件」といい、具体的には、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)まで、その家に住み続け、かつ土地を所有し続ける必要があります。途中で家を売却したり、引っ越してしまったりすると、特例が使えなくなるので注意が必要です。

いわゆる「家なき子」特例とは?

被相続人に配偶者も同居の親族もいない場合に、別居していた親族がご自宅を相続するケースで使える可能性があるのが、通称「家なき子特例」です。ただし、この特例の要件は非常に厳しく、以下のすべてを満たす必要があります。

  • 被相続人に配偶者がいないこと。
  • 相続開始の直前に、被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人(同居親族)がいないこと。
  • 相続開始前3年以内に、日本国内にある「自己または自己の配偶者」が所有する家屋に住んだことがないこと。
  • 相続した宅地を、相続税の申告期限まで所有し続けていること。

持ち家がある方は基本的に対象外となるため、適用できるケースは限定的です。

事業用地に適用する場合(特定事業用宅地等)のポイント

個人で事業をされていた方の土地を相続する場合の「特定事業用宅地等」は、後継者の負担を軽減し、事業の円滑な承継を支えるための制度です。こちらも重要なポイントがいくつかあります。

どんな事業が対象?

この特例の対象となるのは、被相続人が行っていた事業の敷地です。ただし、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業などはここに含まれず、後述の「貸付事業用宅地等」として扱われます。八百屋さんや工場、個人の事務所などが典型的な例です。

誰が引き継げば使えるの?

事業用地の特例を使うには、土地を相続した親族が、相続税の申告期限までにその事業を引き継ぎ、申告期限までその事業を継続している必要があります。これを「事業承継要件」といいます。もちろん、土地を申告期限まで所有し続ける「所有継続要件」も同時に満たす必要があります。事業を継ぐ意思がない場合は、この特例は使えません。

貸付事業用宅地等のポイント

アパートやマンション、月極駐車場など、土地を貸し付けて収入を得ていた場合の土地(貸付事業用宅地等)にも特例はありますが、自宅や事業用地とは少し内容が異なります。

適用要件と減額割合

貸付事業用宅地等の場合、減額される割合は50%、限度面積は200㎡となります。自宅や事業用地の80%減額と比べると効果は少し小さくなります。この特例を適用するためには、相続した親族が、被相続人の貸付事業を引き継ぎ、相続税の申告期限までその土地を所有し、貸付事業を継続している必要があります。

相続開始前3年以内の貸付は注意

相続税対策として、亡くなる直前に慌ててアパートを建てたり、駐車場経営を始めたりするケースを想定したルールがあります。原則として、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は、この特例の対象外となります。ただし、その事業である程度の事業的規模(例えばアパートなら10室以上など)で行われていた場合は、3年以内であっても対象となる場合があります。

特例を見据えた生前対策の重要性

ここまで見てきたように、小規模宅地等特例は非常に有利な制度ですが、要件が細かく、誰が相続するかによって結果が大きく変わってしまいます。そのため、いざという時に「使えなかった」という事態を避けるために、元気なうちから生前対策を講じておくことが何よりも大切です。

誰が相続するかを決めておく

特例の要件を満たす可能性が高い相続人が誰なのかを考え、その人が土地を相続できるように遺言書を作成しておくことが最も確実な対策の一つです。例えば、同居している長男がいるのに、遺産分割協議がまとまらず別居の次男が自宅を相続することになると、特例が使えなくなってしまう可能性があります。遺言書で意思を明確にしておくことで、このような事態を防げます。

二世帯住宅の注意点

二世帯住宅の場合、建物の登記方法によって特例の適用範囲が変わることがあります。例えば、親世帯と子世帯を壁で完全に区切り、それぞれを独立して登記する「区分登記」にしていると、お子さんが住んでいる部分は親の敷地とはみなされず、特例の対象外となる可能性があります。一方、建物全体を親子で共有する「共有登記」であれば、敷地全体を特例の対象とできる可能性が高まります。将来を見据えて登記方法を検討することが重要です。

老人ホームへの入居を考えている場合

被相続人が亡くなる前に老人ホームなどに入居していた場合でも、一定の要件を満たせば、元の自宅に特例を適用できることがあります。

主な要件 内     容
要介護認定など 被相続人が要介護認定または要支援認定を受けていたこと。
家を貸していないこと 入居後、元の自宅を誰かに貸したりせず、いつでも戻れる状態にしていたこと。家具などを残しておくのが望ましいです。

これらの要件を満たせば、被相続人が老人ホームで亡くなったとしても、同居していたものとして扱われ、特例の対象となる可能性があります。

まとめ

小規模宅地等特例は、相続税の負担を劇的に軽減できる、非常にパワフルな制度です。しかし、その適用要件は複雑で、誰が、どの土地を、どのように相続するかによって、使えるかどうかが決まってしまいます。ご自身の状況で特例が使えるのか、どうすれば要件を満たせるのかを正確に把握するためには、生前のうちから準備を始めることが不可欠です。ご家族の将来のためにも、一度、相続に詳しい税理士などの専門家にご相談のうえ、計画的な生前対策を進めていくことを強くお勧めします。

参考文献

国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

小規模宅地等の特例に関するよくある質問まとめ

Q. 小規模宅地等の特例って、どんな制度ですか?

A. 相続税を計算する際に、亡くなった方が住んでいた土地や事業をしていた土地の評価額を最大80%減額できる制度です。これにより相続税の負担が大幅に軽くなることがあります。

Q. この特例は誰でも使えるのですか?

A. いいえ、配偶者や同居していた親族など、土地の種類や相続する人によって適用できる条件が細かく定められています。誰が相続するかで適用可否が変わるため注意が必要です。

Q. 二世帯住宅に住んでいる場合、特例は適用されますか?

A. はい、建物の構造が区分所有登記されていなければ、同居とみなされ特例の対象となる可能性があります。ただし、生活の実態など細かい要件があるため事前の確認が重要です。

Q. 親が経営していたお店の土地を相続します。この特例は使えますか?

A. はい、「特定事業用宅地等」として特例の対象になる可能性があります。相続人が事業を引き継ぎ、申告期限まで事業を継続し、土地を保有し続けるなどの要件を満たす必要があります。

Q. 特例を使う上での注意点はありますか?

A. 相続税の申告が必須である点です。特例を使った結果、相続税が0円になる場合でも、申告手続きをしないと特例は適用されません。必ず申告期限内に申告を行いましょう。

Q. 将来この特例を使うために、生前にできることはありますか?

A. はい、同居の要件を満たすために同居を始める、事業承継の計画を立てる、遺言書で誰がどの土地を相続するかを指定するなど、早めの対策が有効です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
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税理士 島本 雅史

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