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相続税で契約未履行の債務は控除できる?法人税との違いも解説

2025-03-18
目次

相続が発生したとき、「故人が結んだ契約で、まだ支払いが終わっていないものはどうなるの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんね。特に、まだサービスや商品を受け取っていない「履行されていない債務」は、相続税申告で債務として控除できるのか、判断が難しいところです。この記事では、相続税と法人税のそれぞれで、契約したけれど履行されていない債務の取り扱いについて、分かりやすく解説していきます。

相続税申告における債務控除の基本

相続税の計算では、亡くなった方(被相続人)が遺した預貯金や不動産といったプラスの財産から、借入金などのマイナスの財産を差し引くことができます。これを「債務控除」といいます。債務控除を正しく行うことで、相続税の負担を軽減できるんですよ。

債務控除の対象となる債務の条件

相続税法で債務控除の対象となるのは、「被相続人の債務で、相続開始の際現に存するもので確実と認められるもの」に限られます。つまり、次の3つのポイントを満たす必要があります。

  • 被相続人の債務であること:亡くなった方が契約当事者となっているなど、ご本人が負っていた債務であること。
  • 相続開始時に存在すること:亡くなった時点で、すでに発生していた債務であること。
  • 確実な債務であること:その存在や金額がはっきりしていること。

例えば、亡くなった時点での金融機関からの借入金の残高や、未払いの医療費、未納の税金などがこれにあたります。

契約はしたけど、まだ支払っていない…これはどうなる?

ここが今回の本題ですね。例えば、亡くなる前に自宅のリフォーム工事の契約を1,000万円で結んだけれど、工事はまだ始まっておらず、支払いも発生していないケースを考えてみましょう。この場合、契約は成立していますが、工事という役務の提供(履行)がされていません。このような「未履行の債務」は、相続税の債務控除の対象になるのでしょうか。

相続税では「未履行の債務」は債務控除できる?

相続税の世界では、契約の内容によって判断が分かれる、少し難しいポイントになります。原則として、どう考えるのか見ていきましょう。

原則:双方未履行の場合は債務控除できない

先ほどのリフォーム工事の例のように、亡くなった方(買主側)も代金を支払っておらず、相手方(業者側)も工事に着手していない場合、これを「双方未履行の双務契約」と呼びます。この状態では、相続人は契約を引き継いで履行を求めることも、契約を解除することも選択できます。

税務上は、もし相続人が契約を履行する(代金を支払ってリフォームしてもらう)ことを選んだとしても、その支払う予定の代金は「確実な債務」とはいえないため、原則として債務控除の対象にはなりません。なぜなら、代金を支払う代わりに「リフォームされた家」という資産価値の増加が見込まれるからです。財産全体で見るとプラスマイナスゼロに近い状態と考えられるため、債務として差し引くことは認められにくいのです。

例外的に債務控除が認められるケース

ただし、例外もあります。例えば、契約を解除したくても、解約によって違約金や損害賠償金の支払い義務が発生する場合です。この違約金や損害賠償金は、相続開始時に発生した「確実な債務」とみなされ、債務控除の対象となる可能性があります。例えば、リフォーム契約を解約した場合に200万円の違約金が発生するのであれば、その200万円は債務控除できる、ということです。

また、商品の購入契約で、すでに商品が発送されていて受け取るだけの状態(履行が開始されている)など、ケースによっては判断が異なる場合もあるため、専門家への相談が重要になります。

法人税における未履行債務の考え方

では、これが個人の相続ではなく、法人の税金計算(法人税)の場合はどうなるのでしょうか。考え方が少し異なりますので、比較してみましょう。

法人税の基本:債務確定主義

法人税では、経費(損金)を計上できるタイミングについて「債務確定主義」という考え方を採用しています。これは、以下の3つの要件をすべて満たした時点で、その債務(費用)が確定したとみなし、損金に計上できるというルールです。

  1. 債務が成立していること:契約などにより、支払い義務が法的に成立している。
  2. 履行義務が具体的に確定していること:原因となる事実(商品の納品やサービスの提供など)が発生している。
  3. 金額が合理的に算定できること:支払うべき金額が確定している。

この中で特に重要なのが2番目の「原因となる事実が発生していること」です。

契約だけでは損金にできない

法人税の世界では、たとえ契約書を交わしていても、相手方からの商品の納品やサービスの提供(履行)が完了していなければ、原則として費用(損金)として計上することはできません。

例えば、法人が12月1日にコンサルティング契約(期間:12月1日~翌年11月30日、契約金120万円)を締結したとします。契約は成立していますが、12月末の決算時点でまだコンサルティングサービスを受けていない未来の期間の分については、費用として計上できないのです。12月分のサービス提供が完了していれば、その1か月分(10万円)だけを費用計上することになります。

相続税と法人税の比較まとめ

ここまで見てきたように、契約はしたけれど履行されていない債務の扱いは、相続税と法人税で異なります。ポイントを表で整理してみましょう。

税目 考え方と結論
相続税 原則、債務控除できない。「相続開始時に現存する確実な債務」という要件を満たさないため。ただし、解約に伴う違約金などが発生する場合は、その金額を債務控除できる可能性があります。
法人税 原則、損金(経費)にできない。「債務確定主義」に基づき、サービスの提供などの「履行」が完了していないと費用として認められないためです。

このように、どちらの税金においても、単に「契約を結んだ」という事実だけでは、債務や費用として認めてもらうのは難しい、ということが分かりますね。

判断に迷ったら専門家へ相談を

未履行の債務を債務控除に含めて申告してしまい、後から税務調査で否認されると、過少申告加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性があります。

契約内容や履行の進捗状況によって判断はケースバイケースです。「この契約はどうなるんだろう?」と少しでも不安に思ったら、ご自身で判断せずに、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。正しい申告が、結果的に余計な税金を払わない一番の近道になりますよ。

まとめ

今回は、「契約したけれど履行されていない債務」が相続税や法人税でどのように扱われるかについて解説しました。

相続税では、原則として債務控除の対象外ですが、解約に伴う違約金などは控除できる可能性があります。一方、法人税では「債務確定主義」の考え方から、サービスの提供などが完了していなければ損金計上はできません。どちらも「契約しただけ」では認められないという点が共通していますね。

相続税申告は専門的な知識が求められる場面が多くあります。特に債務控除は節税に直結する大切なポイントです。迷ったときには、ぜひ専門家の力を借りて、適切で安心な申告を目指しましょう。

参考文献

No.4126 相続財産から控除できる債務|国税庁

No.5387 販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定|国税庁

契約済み・未履行債務の相続税・法人税での扱いに関するよくある質問

Q.相続税申告で、契約済みでも未払いの債務は債務控除の対象になりますか?

A.はい、被相続人が亡くなった時点で契約が成立しており、支払義務が確定している債務であれば、相続税の債務控除の対象となります。これを「確実な債務」と呼びます。

Q.相続税の債務控除にできる未履行債務には、どんなものがありますか?

A.例えば、生前に契約したリフォーム工事の未払代金、購入契約済みの商品の未払金、未払いの医療費などが該当します。契約書などで債務の存在が証明できることが重要です。

Q.法人税の場合、未履行の契約に基づく債務は経費にできますか?

A.法人税では、原則として役務の提供や商品の引き渡しが完了した時点で債務が確定し、損金(経費)として計上します。これを「債務確定主義」といい、単なる契約締結だけでは損金算入できません。

Q.相続税で未履行債務を計上するときの注意点は何ですか?

A.契約書や請求書など、債務の存在と金額を客観的に証明できる資料を準備することが不可欠です。また、その債務が被相続人のものであることが明確でなければなりません。

Q.相続税と法人税で未履行債務の扱いが違うのはなぜですか?

A.相続税は、亡くなった時点での「財産と債務の総額」を正確に評価することが目的です。一方、法人税は事業年度ごとの「期間損益」を正しく計算することが目的であるため、債務の確定基準が異なります。

Q.被相続人が契約したサービスを、相続開始後に解約した場合、債務控除はできますか?

A.相続開始時点で存在した債務は原則として控除対象ですが、相続後に解約し違約金等が発生しなかった場合や、支払義務が消滅した場合は、債務控除が認められない可能性があります。ケースバイケースでの判断が必要です。

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