税理士法人プライムパートナーズ

相続税で損しない!亡くなる前後の費用、債務控除できる・できないを一覧で解説

2025-06-04
目次

ご家族が亡くなられると、悲しみに暮れる間もなく様々な手続きや費用の支払いに追われることになります。実は、その中には相続税を計算する際に財産から差し引ける費用があることをご存知でしょうか?これを「債務控除」といいます。債務控除を正しく理解し、漏れなく申告することが、相続税の負担を軽くするための大切なポイントになります。この記事では、亡くなる前後に発生する費用のうち、どれが相続税の計算で債務として認められるのか、反対に認められないのかを、分かりやすく解説していきます。

相続税の節税に繋がる「債務控除」とは?

相続というと、預貯金や不動産といったプラスの財産をイメージされる方が多いかもしれません。しかし、亡くなった方(被相続人)が残した借金などのマイナスの財産も相続の対象となります。相続税は、このプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた、実質的な財産の価値に対して課税されます。このマイナスの財産を差し引くことを「債務控除」と呼びます。債務控除をしっかり行うことで、課税対象となる財産の額が減り、結果的に相続税の節税に繋がるのです。

債務控除の対象になる費用の基本

債務控除の対象になるものは、大きく分けて2種類あります。一つは、被相続人が亡くなった時点で確かに存在していた「債務」です。これには、借入金や各種未払金などが含まれます。もう一つは、厳密には債務ではありませんが、社会通念上、相続に伴って発生する必然的な費用として特別に控除が認められている「葬式費用」です。これらの費用を相続財産から漏れなく差し引くことが重要です。

誰が債務控除を利用できるの?

債務控除を利用できるのは、原則として財産を相続する「相続人」や、遺言によって財産の一定割合を受け取る「包括受遺者」です。一方で、以下のような方は原則として債務控除を利用することができません。

  • 相続放棄をした人:財産も債務も一切引き継がないため、債務控除もできません。ただし、例外的に葬式費用を負担した場合は、遺贈によって取得した財産の範囲内で控除が認められることがあります。
  • 特定遺贈を受けた人:「Aの土地を遺贈する」というように特定の財産だけを受け取る人は、被相続人の債務を引き継ぐ立場にないため、債務控除は利用できません。

【一覧表】相続税で債務控除できる費用

それでは、具体的にどのような費用が債務控除の対象になるのかを見ていきましょう。亡くなる前に発生していた「債務」と、亡くなった後に発生した「葬式費用」に分けて解説します。

亡くなる前の「債務」で控除できるもの

被相続人が生前に負っていた支払義務のうち、亡くなった時点でまだ支払われていなかったものが対象です。これらは「確実な債務」として認められる必要があります。

費用の種類 詳細
金融機関などからの借入金 銀行の住宅ローン(※団信なしの場合)、カードローン、事業のための借入金などです。亡くなった日の借入金残高と、その日までの未払利息が控除の対象となります。
個人からの借入金 親族や友人などから借りていたお金です。口約束だけでは認められない可能性が高く、「金銭消費貸借契約書」や返済実績がわかる通帳の記録など、借入れの事実を客観的に証明できる資料が必要です。
未払いの税金(公租公課) 亡くなった年の所得税・消費税(準確定申告で納付)、未納だった住民税や固定資産税、国民健康保険料などが対象です。固定資産税や住民税は、亡くなった年の1月1日に所有者・住民であった場合に課税されるため、納付書が届く前でもその年の税額全額が控除対象になります。
未払いの医療費 亡くなる直前の入院費用や治療費などで、亡くなった後に相続人が支払ったものが対象です。
未払いの公共料金など 電気、ガス、水道、電話料金など、被相続人が亡くなるまでに利用した期間の未払分が対象です。
その他の未払金 生前に利用したクレジットカードの未決済代金、商品の未払代金、事業を営んでいた場合の買掛金などが該当します。また、アパート経営などをしていた場合の入居者からの預かり敷金も、将来返還すべき債務として控除できます。

亡くなった後の「葬式費用」で控除できるもの

お葬式にかかる費用は、亡くなった後に発生するものですが、相続税法上、特別に債務控除の対象として認められています。ただし、対象となる範囲が決められているので注意が必要です。

控除できる葬式費用 詳細
通夜・告別式の費用 葬儀会社に支払った一式の費用(会場使用料、祭壇設営費、棺、霊柩車代など)や、通夜振る舞い・精進落としなどの飲食代が対象です。
火葬・埋葬・納骨の費用 火葬場に支払う費用、埋葬料、遺体や遺骨の運搬費用などが含まれます。納骨の際にかかる作業料(石材店への支払いなど)も対象です。
寺院などへのお礼 僧侶へのお布施、読経料、戒名料などが対象です。領収書が出ないことが多いですが、支払先、日付、金額などをメモしておくことで認められます。
その他、葬儀に不可欠な費用 死亡診断書の発行費用や、葬儀のお手伝いをしてくれた方への心付け(社会通念上相当な金額)などが該当します。

【要注意!】債務控除できない費用

次に、債務控除の対象だと間違えやすい費用について解説します。これらを誤って計上すると、税務調査で指摘される可能性があるので、しっかり確認しておきましょう。

債務に見えるけど控除できないもの

被相続人の負債のように見えても、相続税の計算上は控除できないものがあります。

控除できない費用 理由
団体信用生命保険(団信)付き住宅ローン 被相続人が亡くなると、生命保険金によってローンが完済されます。そのため、相続人が返済義務を引き継ぐことがなく、債務として残らないため控除できません。
保証債務 被相続人が他人の借金の保証人になっていた場合、主たる債務者が返済不能にならない限り、相続人が支払う義務は発生しません。将来支払うかが不確実なため、原則として控除の対象外です。
墓地・仏壇などの未払金 お墓や仏壇、位牌などは、祭祀財産として相続税が非課税です。非課税の財産を取得するための費用は、債務控除の対象にはなりません。
相続手続きに関する費用 相続税申告を依頼した税理士への報酬や、不動産の名義変更(相続登記)にかかる司法書士報酬・登録免許税などは、相続人が負担すべき費用とされるため控除できません。

葬式に関連するけど控除できない費用

お葬式に関連して支出する費用でも、控除が認められないものが定められています。

控除できない葬式関連費用 理由
香典返しの費用 いただいた香典は非課税です。そのお返しである香典返しの費用も、対応して控除の対象にはなりません。
墓石や墓地の購入・借入費用 これらは葬儀そのものとは区別され、祭祀財産(非課税)の取得費用とみなされるため、控除できません。
法事(初七日・四十九日など)の費用 初七日や四十九日などの法要は、葬儀後の供養行事と位置づけられています。そのため、葬儀そのものにかかる費用とは見なされず、控除の対象外となります。(ただし、告別式と初七日を同日に行う「繰り上げ初七日」で、費用が葬儀費用と一体化している場合は認められることもあります。)

債務控除を漏れなく申告するためのポイント

債務控除を正しく適用するためには、いくつかのポイントを押さえておくことが大切です。

証拠書類をしっかり保管する

債務控除を申告する際には、その支払いを証明する書類が必要です。金融機関からの借入金であれば「残高証明書」、各種未払金であれば「請求書」や「領収書」を必ず保管しておきましょう。お布施のように領収書が発行されない費用については、「いつ」「誰に」「いくら」「何のために」支払ったかを詳細に記録したメモを残しておくことが、税務署への有効な説明資料となります。

申告期限に注意する

相続税の申告と納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。債務や葬式費用の確認、資料集めには意外と時間がかかるものです。期限間際になって慌てないように、早めに財産と債務の全体像を把握し、準備を始めることをお勧めします。

まとめ

今回は、相続税の計算において重要な「債務控除」について、対象となる費用とならない費用を詳しく解説しました。亡くなる前後の出費をきちんと整理し、控除できるものを漏れなく計上することが、適正な相続税申告と節税の第一歩です。借入金や未払金、葬式費用など、控除できる項目は多岐にわたります。一方で、控除できない費用を誤って含めてしまわないよう注意も必要です。この記事を参考に、ご自身のケースではどの費用が対象になるかを確認してみてください。もし判断に迷う場合や、手続きに不安がある場合は、専門家である税理士に相談することをお勧めします。


【参考文献】

相続税の債務控除に関するよくある質問まとめ

Q. 葬式費用は相続税の計算で差し引けますか?

A. はい、お通夜や告別式など、葬儀そのものにかかった費用は債務として相続財産から差し引くことができます。ただし、香典返しの費用や墓石の購入費用は対象外です。

Q. 亡くなる前の入院費や未払いの医療費は債務になりますか?

A. はい、被相続人(亡くなった方)が支払うべきだった未払いの入院費や医療費は、確実な債務として相続財産から差し引くことができます。

Q. 墓石や仏壇の購入費用は債務控除の対象ですか?

A. いいえ、墓石や仏壇、墓地の購入費用は債務控除の対象にはなりません。これらは祭祀財産と呼ばれ、相続税が非課税となる財産のため、控除の対象外とされています。

Q. 香典返しの費用は葬式費用として認められますか?

A. いいえ、香典返しの費用は、葬儀に直接必要な費用とは見なされないため、債務控除の対象外です。香典自体に相続税がかからないため、その返礼費用も控除できないという考え方です。

Q. 亡くなった人の未払いの税金(住民税や固定資産税)はどうなりますか?

A. はい、亡くなった時点で支払義務が確定している未払いの住民税や固定資産税、所得税などは、債務として相続財産から差し引くことができます。

Q. 四十九日などの法要の費用は債務控除できますか?

A. いいえ、初七日や四十九日などの法要にかかる費用は、葬儀そのものとは区別されるため、相続税の計算上、債務として差し引くことはできません。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。