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相続税の延納申請、生活費はいくら残せる?6ヶ月分の資金確保を解説

2025-07-13
目次

相続税の納税額が高額で、すぐに現金を用意するのが難しい…そんな時に頼りになるのが「延納」制度です。でも、延納を申請すると手元の資金がすべてなくなってしまうのでは?と心配になりますよね。特に、遺産分割協議が長引くなどで今後数ヶ月は相続財産が取得できない場合、当面の生活費を確保できるのかは大きな問題です。この記事では、相続税の延納申請で手元に残せる資金の計算方法や、6ヶ月分の生活費を確保できるのかについて、具体的にわかりやすく解説していきます。

相続税の「延納」とは?分割払いの制度です

相続税の延納とは、相続税を金銭で一括納付することが難しい場合に、年単位での分割払いを認めてもらう制度のことです。相続税は、原則として亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、現金で一括納付しなければなりません。しかし、相続財産のほとんどが不動産で現金が少ない場合など、期限内の一括納付が困難なケースもあります。そういった特別な事情がある場合に、延納制度を利用することができます。

延納が認められるための4つの要件

延納は誰でも気軽に利用できるわけではなく、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。

要件1 相続税額が10万円を超えていること。
要件2 納期限までに金銭で一括納付することが困難であること。(具体的な理由は後述します)
要件3 延納税額と利子税額に相当する担保を提供すること。(※延納税額が100万円以下で、延納期間が3年以下の場合は不要です)
要件4 相続税の申告期限までに、延納申請書と担保関係の書類を税務署に提出すること。

延納のメリットとデメリット

延納制度を利用する際のメリットとデメリットを理解しておきましょう。一番のメリットは、やはり一度に多額の現金を準備する必要がなくなる点です。一方で、デメリットとして延納期間中は「利子税」という利息がかかることを覚えておく必要があります。

利子税はどれくらいかかるの?

利子税の割合は、相続した財産に占める不動産の割合などによって変わります。また、金利の変動に応じて毎年見直されるため、申請するタイミングで確認が必要です。参考までに、令和5年1月1日時点の特例割合をご紹介します。

財産の状況 利子税の年率(特例割合)
不動産等の割合が75%以上の場合(不動産等に係る税額) 0.4%
不動産等の割合が50%未満の場合 0.7%

※上記は一例です。詳細は国税庁のホームページ等でご確認ください。

延納申請の鍵!「金銭納付を困難とする理由」とは?

延納が認められるかどうかを左右するのが、「金銭で納付することが困難」という要件です。これは、「手元にお金はあるけれど、今は払いたくない」といった自己都合は認められません。「相続財産だけでなく、ご自身の預貯金などを使っても、どうしても一括で納付できない」という客観的な理由が必要になります。この「納付が困難な金額」が、延納できる金額の上限(延納許可限度額)となります。

延納できる金額(延納許可限度額)の計算方法

延納できる金額は、以下の式で計算されます。

延納許可限度額 = 納付すべき相続税額 - 納付することができる金額(納付可能額)

つまり、税務署はあなたが「いくらまでなら納付できるのか(納付可能額)」を算出し、それを超える部分について延納を許可する、という流れになります。

「納付可能額」はどうやって計算するの?

ここが最も重要なポイントです。「納付可能額」は、相続によって得た現金だけでなく、あなた自身がもともと持っている預貯金なども含めて計算されます。具体的には、税務署に提出する「金銭納付を困難とする理由書」という書類の中で、以下のように算出します。

納付可能額 = (相続した現金・預貯金など + あなた固有の現金・預貯金など) - (当面の生活費 + 当面の事業経費)

この計算式にある「当面の生活費」や「当面の事業経費」が、手元に残せる資金ということになります。

【本題】手元に残せる生活費はいくら?6ヶ月分の資金確保は可能?

では、今回のテーマである「延納申請において、6ヶ月分の資金を手元に置いておくことができるのか?」について、具体的に見ていきましょう。結論から言うと、原則として6ヶ月分の生活費をそのまま手元に残すことは難しいです。

手元に残せる「当面の生活費」の具体的な計算方法

延納申請で手元に残すことが認められている「当面の生活費」は、国税庁の手引きで計算方法が定められており、原則として3ヶ月分とされています。
「金銭納付を困難とする理由書」では、申請者やその家族の収入状況などから年間の生活費を算出し、そのうち申請者が負担すべき金額を計算します。そして、その年間負担額の3ヶ月分が「当面の生活費」として、納付可能額から差し引くことが認められます。

例えば、計算の結果、あなたの年間生活費負担額が240万円だった場合、手元に残せる「当面の生活費」は、240万円 ÷ 12ヶ月 × 3ヶ月 = 60万円 が目安となります。

「当面の事業経費」も考慮される

個人事業主の方など、ご自身で事業を営んでいる場合は、当面の生活費に加えて「当面の事業経費」も考慮されます。こちらは、原則として1ヶ月分の運転資金が認められています。

結論:6ヶ月分の資金を手元に置くのは難しい

以上のことから、延納申請時に手元に残せる資金は、原則として「当面の生活費3ヶ月分」と「事業を営んでいる場合は事業経費1ヶ月分」が上限となります。そのため、「今後6ヶ月は相続財産が取得できない」というご事情があったとしても、6ヶ月分の生活資金を確保して延納を申請することは、原則として認められないということになります。

ただし、お子様の学費の支払いが間近に迫っている、ご家族の入院・手術費用が必要など、特別な支出が具体的に決まっている場合は、その事実を証明する書類(請求書や領収書など)を提出することで、別途考慮してもらえる可能性はあります。個別の事情については、税務署や税理士に相談してみましょう。

延納申請の手続きの流れ

延納を申請する場合の、大まかな手続きの流れも確認しておきましょう。

必要な書類は?

延納申請には、主に以下のような書類が必要になります。特に「金銭納付を困難とする理由書」は、預貯金の残高や生活費の内訳などを細かく記載する必要があり、作成に手間がかかります。

  • 相続税延納申請書
  • 金銭納付を困難とする理由書
  • 担保提供関係書類(担保を提供する財産の登記事項証明書など)

申請期限はいつまで?

延納の申請期限は、相続税の申告期限と同じです。つまり、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、すべての書類を揃えて税務署に提出する必要があります。期限を過ぎてしまうと申請できなくなるため、注意が必要です。

延納が難しい場合の他の選択肢

延納は要件が厳しく、手元資金もかなり少なくなってしまう可能性があります。そのため、他の方法も合わせて検討することが大切です。

金融機関からの借り入れ(納税ローン)

銀行などの金融機関が提供している、相続税の納税資金を目的としたローンを利用する方法です。延納よりも金利が高くなる可能性はありますが、審査に通れば手元の資金を減らすことなく納税できます。延納の利子税率と比較して、どちらが有利かを検討してみましょう。

相続財産の売却

相続した不動産などを売却して、納税資金を作る方法です。ただし、買い手を見つけ、契約、決済まで行うには時間がかかります。相続税の申告期限である10ヶ月以内に売却を完了させるのは簡単ではないため、早めに準備を進める必要があります。

まとめ

今回は、相続税の延納申請における手元資金の確保について解説しました。ポイントをまとめます。

  • 相続税の延納は、金銭での一括納付が困難な場合に認められる分割払い制度です。
  • 延納を申請する際、手元に残せる資金は厳しく審査されます。
  • 手元に残せる「当面の生活費」は、原則として3ヶ月分が上限とされています。
  • そのため、「今後6ヶ月は相続財産が取得できない」という理由で、6ヶ月分の資金を手元に置いておくことは原則として困難です。
  • 延納申請は手続きが複雑で、期限も決まっています。納税資金に不安がある場合は、自分だけで判断せず、お早めに税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 タックスアンサー No.4211 相続税の延納

国税庁 相続税・贈与税の延納の手引

相続税の延納申請と手元資金に関するよくある質問

Q.相続税の延納を申請する場合、手持ちの現金はすべて納税しなければいけませんか?

A.いいえ、必ずしもすべてを納税に充てる必要はありません。今後の事業継続に必要な運転資金や、当面の生活費など、合理的な理由がある資金は手元に残すことが認められる場合があります。

Q.相続財産が6ヶ月間現金化できない場合、6ヶ月分の生活費を手元に残して延納申請できますか?

A.はい、できる可能性があります。相続財産を取得するまでの間の生活を維持するために必要な資金として、6ヶ月分程度の生活費を手元に残すことは、税務署に事情を説明することで認められるケースが多いです。

Q.手元に残せる「当面の生活費」は、いくらまで認められますか?

A.法律で明確な金額が定められているわけではありませんが、一般的には3ヶ月から6ヶ月程度の生活費が目安とされています。家族構成やこれまでの生活水準などを考慮し、社会通念上妥当な金額が判断されます。

Q.生活費を手元に残したい場合、延納申請で特別な手続きは必要ですか?

A.延納申請書と共に、なぜその金額を手元に残す必要があるのかを具体的に記載した理由書などを提出します。相続財産がすぐに現金化できない事情や、生活費の内訳などを明確に説明することが重要です。

Q.手元に残す生活費の金額が高すぎると、延納申請は認められませんか?

A.はい、不相当に高額な生活費を主張した場合は、その部分については納税に充てるよう指導され、延納が認められない可能性があります。あくまで必要最低限の合理的な金額を算出することが大切です。

Q.どの程度の金額を残せるか不安です。誰に相談すればよいですか?

A.個別の事情によって判断が大きく異なるため、相続税に詳しい税理士へ相談することをおすすめします。専門家のアドバイスを受けることで、ご自身の状況に合わせた適切な申請が可能になります。

事務所概要
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