ご家族が亡くなられた後の手続きは多岐にわたり、心身ともに大変な時期かと思います。中でも、相続税の申告と納税は期限が厳密に決められており、これを過ぎるとペナルティが発生してしまうため、特に注意が必要です。10ヶ月という期間は長いようで、実はあっという間に過ぎてしまいます。この記事では、相続税の申告期限と納税期限の基本的なルールから、万が一間に合わなかった場合の対処法まで、一つひとつ丁寧に解説していきますね。
相続税の申告・納税期限はいつまで?
相続税には「申告」と「納税」の2つの義務があり、どちらも同じ期限が設けられています。まずは、この最も重要な期限について、基本的なルールから確認していきましょう。
原則は「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」
相続税の申告と納税の期限は、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」と法律で定められています。「相続の開始があったことを知った日」というと少し難しく聞こえますが、これは一般的に「被相続人(亡くなられた方)の死亡日」を指します。
例えば、1月15日に亡くなられた場合、その翌日である1月16日から10ヶ月後、つまり同年の11月15日が申告と納税の期限となります。年をまたぐ場合も考え方は同じで、6月20日に亡くなられた場合は、翌年の4月20日が期限です。
申告期限が土日祝日の場合は?
もし、計算した10ヶ月後の期限日が土曜日、日曜日、祝日、あるいは年末年始(12月29日~1月3日)といった税務署の閉庁日にあたる場合は、その休み明けの平日が期限となります。例えば、期限日が日曜日だった場合は、翌日の月曜日が期限になるので、少しだけ余裕ができますね。
10ヶ月以内に行うべき手続きの流れ
「10ヶ月もあれば十分」と感じるかもしれませんが、相続税の申告までには数多くの手続きを踏む必要があります。実際には、あっという間に時間が過ぎてしまうことがほとんどです。大まかな流れを把握しておきましょう。
| 手続きの段階 | 主な内容 |
| 相続開始直後(~3ヶ月) | 死亡届の提出(7日以内)、遺言書の有無の確認、相続人の調査・確定、相続財産の概要把握、相続放棄・限定承認の検討 |
| 相続開始中期(~7ヶ月) | 被相続人の所得税の準確定申告(4ヶ月以内)、相続財産の詳細な調査と評価、財産目録の作成、遺産分割協議の開始 |
| 相続開始後期(~10ヶ月) | 遺産分割協議の成立と遺産分割協議書の作成、相続税申告書の作成、相続税の申告と納税 |
特に、相続人同士での話し合いである「遺産分割協議」が長引くと、申告期限ギリギリになってしまうケースが多いため、早めに準備を始めることが大切です。
期限に間に合わないとどうなる?ペナルティについて
もし、定められた期限までに相続税の申告や納税ができなかった場合、残念ながらペナルティが課せられます。本来支払う必要のなかった税金を負担することにならないよう、どのようなペナルティがあるのかをしっかり理解しておきましょう。
申告が遅れた場合の「無申告加算税」
正当な理由なく申告期限までに申告書を提出しなかった場合に課されるのが「無申告加算税」です。この税率は、申告するタイミングによって変わってきます。
| 申告のタイミング | 無申告加算税の税率 |
| 税務署の調査通知を受ける前に、自主的に申告した場合 | 納付すべき税額の5% |
| 税務署の調査を受けた後に申告した場合 | 納付すべき税額の50万円までは15%、50万円を超える部分は20% |
自主的に申告するかどうかで、負担が大きく変わることがわかりますね。
納税が遅れた場合の「延滞税」
納税が期限に遅れた場合には、利息に相当する「延滞税」が課されます。これは、法定納期限の翌日から実際に納税した日までの日数に応じて自動的に計算されます。税率は納期限の翌日から2ヶ月を境に変わり、遅れるほど高くなっていきます。現在の税率は、年によって変動しますが、原則よりも低い特例税率が適用されています。
特例が使えなくなるデメリット
金銭的なペナルティ以上に大きなデメリットとなるのが、相続税額を大幅に軽減できる特例が使えなくなることです。代表的なものに以下の2つがあります。
- 配偶者の税額軽減:配偶者が相続した財産のうち、法定相続分または1億6,000万円までのどちらか多い金額まで相続税がかからなくなる制度。
- 小規模宅地等の特例:亡くなった方が住んでいた土地などを相続した場合に、その土地の評価額を最大80%減額できる制度。
これらの特例は、期限内に申告することが適用要件の一つです。期限を過ぎてしまうと、これらの強力な節税策が使えず、納税額が何倍にも膨れ上がってしまう可能性があります。
申告期限に間に合わない!そんな時の対処法
「相続人同士で揉めていて、遺産分割協議がまとまらない…」など、どうしても申告期限に間に合いそうにない状況もあるかもしれません。そんな時でも、ペナルティを最小限に抑えるための方法があります。
「未分割申告」でペナルティを回避
遺産分割が確定していない場合でも、申告期限を過ぎてはいけません。このような場合は、まず「未分割申告」という手続きを行います。これは、相続財産を一旦、民法で定められた法定相続分で分割したと仮定して相続税額を計算し、期限内に申告と納税を済ませる方法です。
この未分割申告を行っておけば、期限内に申告・納税したことになるため、前述した「無申告加算税」や「延滞税」といったペナルティを避けることができます。
未分割申告でも特例を後から適用する方法
未分割申告の段階では、遺産の分け方が決まっていないため、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」を適用できず、一時的に多くの税金を納めることになります。しかし、心配はいりません。
未分割申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を添付して提出しておくことで、実際に遺産分割が成立した後、申告をやり直すことができます。遺産分割が成立した日の翌日から4ヶ月以内に「更正の請求」という手続きをすれば、特例を適用した正しい税額に修正され、納め過ぎた税金は還付されます。
納税資金が足りない!そんな時の対処法
相続財産は受け取ったものの、そのほとんどが不動産で、納税するための現金が手元にないというケースも少なくありません。相続税は原則として現金一括納付ですが、それが難しい場合には救済措置が用意されています。
分割で納める「延納」
「延納」とは、一定の要件を満たす場合に、相続税を分割で納めることを認めてもらう制度です。延納を申請するには、以下の主な要件を満たす必要があります。
- 相続税額が10万円を超えていること
- 金銭で一括納付することが困難な事情があること
- 延納税額に見合う担保を提供すること(延納税額100万円以下かつ延納期間3年以下の場合は不要)
延納期間中は、利息にあたる「利子税」がかかりますが、一度に大きな資金を用意できない場合には有効な手段です。
財産で納める「物納」
「物納」は、延納によっても金銭での納付が困難な場合に、最終手段として認められる制度です。その名の通り、現金ではなく、相続した土地や建物などの財産そのものを国に納めることで納税します。
物納できる財産には、不動産、国債、株式などの順番で優先順位が決められており、どんな財産でも認められるわけではありません。手続きも複雑なため、物納を検討する場合は、税理士などの専門家への相談が不可欠です。
クレジットカードでの納付も可能
実は、相続税はクレジットカードで納付することも可能です。「国税クレジットカードお支払サイト」という専用サイトから手続きを行います。ただし、納付できる金額は1,000万円未満という上限があり、納税額に応じた決済手数料がかかる点には注意が必要です。一時的に現金が足りない場合の一つの選択肢として覚えておくと良いでしょう。
申告期限が延長されるケースとは?
原則として、相続税の申告期限は延長されませんが、ごく一部、例外的に期限が変わったり、延長が認められたりするケースが存在します。
災害などやむを得ない理由がある場合
地震、台風といった自然災害などの影響で、申告や納税の手続きが期限までにできない場合、所轄の税務署に申請することで、その期限を延長してもらえることがあります。これは個別の申請が必要になるため、該当するような事態が起きた場合は、税務署に確認してみましょう。
申告期限の起算日が変わる特殊なケース
そもそも、申告期限の計算を始める日(起算日)が「死亡日」とは異なる特殊なケースもあります。ご自身の状況が当てはまるか確認してみてください。
| 特殊なケースの例 | 申告期限の起算日 |
| 疎遠で長期間、死亡の事実を知らなかった相続人 | その相続人が死亡の事実を知った日 |
| 遺言書によって財産を受け取った相続人以外の人(受遺者) | 自分が遺贈(遺言による贈与)を受けたことを知った日 |
| 相続人が、まだ生まれていない胎児だった場合 | その胎児が生まれた日 |
| 死亡後に行われた認知によって相続人になった人 | 認知の裁判などが確定したことを知った日 |
これらのケースでは、それぞれの「知った日」や「生まれた日」の翌日から10ヶ月後が申告期限となります。
まとめ
相続税の申告期限と納税期限は、原則として「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」です。この10ヶ月という期間は、相続人の確定や財産調査、遺産分割協議など、やるべきことが多く、あっという間に過ぎてしまいます。もし期限に遅れてしまうと、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課され、大切な遺産が目減りしてしまいます。
遺産分割がまとまらない場合は「未分割申告」を、納税資金が足りない場合は「延納」や「物納」といった制度を活用することもできます。相続手続きは複雑で、ご家庭の状況によって対応も変わってきます。期限内にスムーズに手続きを進めるためにも、不安な点があれば早めに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
相続税の申告・納税期限のよくある質問まとめ
Q.相続税の申告と納税の期限はいつですか?
A.相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。例えば、1月15日に亡くなったことを知った場合、その年の11月15日が期限となります。この期限が土日祝日にあたる場合は、その翌日が期限です。
Q.申告期限の起算日である「相続の開始があったことを知った日」とは具体的にいつですか?
A.通常は、被相続人(亡くなった方)が死亡した日を指します。ただし、後から自分が相続人であることを知った場合など、特別な事情がある場合はその事実を知った日が起算日となることもあります。
Q.申告期限を過ぎてしまった場合、どうなりますか?
A.本来納めるべき税金に加えて、「無申告加算税」や「延滞税」といったペナルティが課せられる可能性があります。また、税額を軽減できる特例(配偶者の税額軽減など)が利用できなくなる場合もあります。
Q.申告期限の延長はできますか?
A.相続人同士の争いや災害など、やむを得ない事情がある場合には、税務署長の承認を得ることで期限の延長が認められることがあります。ただし、自動的に延長されるわけではなく、個別の申請が必要です。
Q.相続税の納税はどのように行いますか?
A.金融機関や税務署の窓口で現金で納付する方法のほか、クレジットカード納付、コンビニ納付(30万円以下)、e-Taxを利用したダイレクト納付やインターネットバンキングからの納付など、様々な方法があります。
Q.期限までに納税資金が用意できない場合はどうすればよいですか?
A.一括で納付することが難しい場合、一定の要件を満たせば「延納」や「物納」という制度を利用できる可能性があります。延納は分割払い、物納は不動産などで税金を納める方法で、どちらも税務署への申請と許可が必要です。