相続税の申告、無事に終わってホッとしたのも束の間、「税務調査」という言葉を聞くと、なんだか不安になりますよね。「うちは大丈夫かな?」「いつまで心配しなくちゃいけないの?」そんな疑問や不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。この記事では、相続税の税務調査がいつ頃、何年前までさかのぼって行われるのか、そして調査で指摘されないためのポイントまで、わかりやすく解説していきますね。
相続税の税務調査はいつ、何年まで来るの?
相続税の税務調査は、申告書を提出すれば必ず来るわけではありません。しかし、もし来るとしたらいつ頃なのか、そしてその効力はいつまで続くのか、気になりますよね。まずは、税務調査の時期と「時効」について見ていきましょう。
税務調査が来る時期は申告後1~2年後がピーク
相続税の税務調査の連絡は、多くの場合、申告期限から1年後~2年後の夏から秋(8月~11月頃)に行われる傾向があります。これは、税務署の職員の人事異動が7月に行われ、新しい担当者が業務に慣れた頃に調査を開始するためです。申告後すぐに連絡が来るケースは比較的少ないので、少し時間が経ってから「そういえば…」と思い出した頃に連絡が来ることが多いようです。
相続税の時効は原則5年、悪質な場合は7年
税務署が相続税の申告内容について誤りを指摘し、追加で税金を請求できる権利には「時効」があります。これを「除斥期間(じょせききかん)」と呼びます。
原則として、この期間は申告期限の翌日から5年間です。つまり、申告から5年が経過すれば、税務署から追加の納税を求められることは基本的になくなります。
ただし、意図的に財産を隠すなどの悪質な脱税行為(偽りその他不正の行為)があったと判断された場合、時効は7年に延長されます。申告漏れに気づいていながら放置するようなことは絶対にやめましょう。
通常の申告(申告漏れなど) | 申告期限から5年 |
意図的な財産隠しなど悪質なケース | 申告期限から7年 |
なぜ過去にさかのぼって調査されるの?
税務調査では、亡くなった時点の財産だけでなく、過去のお金の動きも詳しく調べられます。なぜなら、そこに申告漏れのヒントが隠されていることが多いからです。税務署はどのような点に注目しているのでしょうか。
申告漏れの多い「名義預金」
「名義預金」は、税務調査で最も指摘されやすい項目の一つです。これは、口座の名義は配偶者や子ども、お孫さんであっても、実質的には亡くなった方(被相続人)が管理・運用していた預金のことを指します。例えば、「子どものために内緒で貯めていた」「専業主婦の妻の口座に夫が生活費とは別にお金を移していた」といったケースが該当します。
たとえ名義が違っても、その原資が被相続人のお金で、被相続人が自由に使える状態にあったと判断されれば、それは被相続人の財産として相続税の対象となります。「家族名義だから大丈夫」というわけではないので、注意が必要です。
相続開始前の贈与(生前贈与加算)
亡くなる直前に行われた贈与は、相続税の計算に含めるルールがあります。これを「生前贈与加算」といいます。
現在のルールでは、相続開始前3年以内の贈与は、贈与税を支払っていたかどうかに関わらず、相続財産に加算して相続税を計算し直さなければなりません。年間110万円の基礎控除内の贈与であっても対象となります。なお、この期間は2024年1月1日以降の贈与から段階的に延長され、最終的には7年間に延びます。
このルールを知らずに申告から漏れてしまい、調査で指摘されるケースが後を絶ちません。
税務署はどうやって情報を集めるの?
「税務署はどうしてそんな昔のことまで知っているの?」と不思議に思うかもしれません。税務署は、私たち納税者が想像する以上に多くの情報を把握しています。
- KSKシステム(国税総合管理システム):全国の納税者の過去の申告内容や所得、財産の情報を一元管理している巨大なデータベースです。
- 金融機関への照会権限:税務署は法律に基づき、金融機関に対して口座情報の開示を求めることができます。これにより、過去10年程度の預金の入出金履歴は簡単に把握できます。
- その他公的機関からの情報:市区町村役場に死亡届が提出されると、その情報は税務署にも通知されます。また、不動産の登記情報なども法務局から入手できます。
このように、税務署はさまざまな情報網を駆使して、申告内容の妥当性を厳しくチェックしているのです。
10年以上前までさかのぼるケースとは?
金融機関の取引履歴の保管期間が10年であることから、調査も10年程度が一般的ですが、場合によってはそれ以上昔の取引までさかのぼって調査されることもあります。
不動産の購入資金の出どころ
故人が過去に不動産を購入していた場合、その購入資金をどうやって捻出したのかを調べるために、購入時期までさかのぼることがあります。例えば、購入資金が親からの援助であった場合、それは「贈与」にあたる可能性があります。その贈与が正しく申告されていたかなどを確認するために、何十年も前の取引が調査対象になることがあるのです。
過去の相続で取得した財産
故人が、さらにその親(今回の相続人から見ると祖父母)から財産を相続していた場合も注意が必要です。税務署は過去の相続税申告書も保管しているため、「前回の相続で取得したはずの土地や株式が、今回の申告書に記載されていないのはなぜか?」といった観点で調査を行います。もし売却していたなら、その代金がどうなったのかを説明する必要があります。
故人が一代で財産を築いた場合
親からの相続財産が少なく、故人ご自身の力で大きな財産を築き上げた場合、その財産形成の過程を調べるために、収入が多かった現役時代までさかのぼって調査されることがあります。当時の収入に見合った財産額かどうか、不自然なお金の動きがないかなどがチェックされます。
税務調査で指摘されないための対策
税務調査は誰にとっても避けたいもの。しかし、きちんと対策をしておけば、過度に心配する必要はありません。ここでは、調査対象になりにくくするための3つのポイントをご紹介します。
生前の取引記録を整理・保管しておく
故人の古い預金通帳や、不動産の売買契約書、贈与契約書など、お金の動きを証明できる書類は、できるだけ捨てずに保管しておきましょう。特に、高額な入出金があった場合には、その理由(例:「家のリフォーム代」「孫の学費援助」など)をメモで残しておくと、調査の際にスムーズに説明できます。これらの記録は、いざという時にあなたを守る大切な証拠になります。
家族名義の財産をしっかり確認する
相続が始まる前に、家族名義の預金や保険が「名義預金」に該当しないか、家族全員で確認しておくことが重要です。もし贈与として成立させたいのであれば、贈与契約書を作成し、お金の管理は名義人本人が行うなど、「あげた・もらった」という事実を客観的に証明できる形を整えておくことが大切です。
正確な相続税申告が最大の防御
結局のところ、財産を一つひとつ丁寧に見直し、漏れなく正確に申告することが、税務調査に対する最大の防御策です。財産の評価や特例の適用など、相続税申告は非常に専門的で複雑です。少しでも不安がある場合は、相続を専門とする税理士に相談することをおすすめします。専門家の力を借りることで、申告の正確性が高まり、税務署からの信頼も得やすくなります。
もし税務調査の連絡が来たら?
対策をしていても、調査の対象に選ばれてしまう可能性はゼロではありません。もし連絡が来たらどうすればよいのでしょうか。慌てず冷静に対応するための手順を知っておきましょう。
慌てずにまずは日程調整を
税務調査の多くは、事前に電話で「○月○日に調査にお伺いしたいのですが」と連絡が入る「任意調査」です。突然押しかけてくるわけではありません。提示された日程が都合悪ければ、正直に伝えて調整してもらいましょう。準備のために、ある程度の期間を確保することが可能です。
税理士に相談・立ち会いを依頼する
税務調査の連絡が来たら、まずは相続税申告を依頼した税理士に連絡しましょう。ご自身で申告した場合でも、税務調査の対応だけを税理士に依頼することは可能です。専門家が立ち会うことで、調査官とのやり取りを任せることができ、精神的な負担を大きく軽減できます。不利な回答をしてしまうリスクも避けられます。
指摘された場合のペナルティ
万が一、申告漏れなどを指摘され、追加で税金を納めることになった場合、本来の税額に加えてペナルティとして「加算税」や「延滞税」が課せられます。ペナルティは内容によって税率が大きく異なります。
過少申告加算税 | 申告額が少なかった場合に課される。追加税額の10%(一定の場合は15%)。 |
無申告加算税 | 期限内に申告しなかった場合に課される。納付税額の15%(一定の場合は20%~30%)。 |
重加算税 | 財産隠しなど悪質な場合に課される最も重いペナルティ。過少申告で35%、無申告で40%。 |
延滞税 | 納付が遅れたことに対する利息。法定納期限の翌日から完納日までの日数に応じてかかる。 |
ただし、税務調査の通知が来る前に、自主的に修正申告をすれば、これらの加算税は軽減されたり、かからなかったりします。ミスに気づいたら、早めに対応することが大切です。
まとめ
最後に、この記事のポイントをまとめます。
- 相続税の税務調査は、申告後1~2年後の夏から秋に来ることが多いです。
- 時効(除斥期間)は原則5年、悪質なケースでは7年です。
- 調査では「名義預金」や「生前贈与」が重点的に見られ、10年以上さかのぼることもあります。
- 最大の対策は、財産を正確に把握し、漏れなく申告することです。生前の取引記録の保管も重要です。
- もし調査の連絡が来ても慌てず、税理士に相談して冷静に対応するのが安心です。
税務調査と聞くと身構えてしまいますが、その仕組みとポイントを正しく理解していれば、過度に恐れる必要はありません。この記事が、皆さんの不安を少しでも和らげるお役に立てれば幸いです。
【参考文献】
相続税の税務調査に関するよくある質問まとめ
Q. 相続税の税務調査は、いつまで行われる可能性がありますか?
A. 原則として、相続税の申告期限から5年以内です。ただし、意図的な財産隠しなど悪質なケースと判断された場合は、7年に延長されます。
Q. 税務調査の期間である「5年」は、いつから数え始めるのですか?
A. 相続税の申告期限(被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月後)の翌日から数え始めます。
Q. 税務調査は、申告後どのくらいの時期に来ることが多いですか?
A. 相続税の申告書を提出してから1~2年後、特に夏から秋にかけて(8月~11月頃)に行われることが多い傾向にあります。
Q. 7年を過ぎれば、もう税務調査は絶対に来ませんか?
A. はい、7年という期間は「除斥期間」と呼ばれ、この期間が過ぎると税務署は課税処分を行えなくなるため、原則として税務調査は行われません。
Q. 税務調査は、ある日突然自宅に来るのでしょうか?
A. いいえ、通常は突然訪問されることはありません。事前に税務署から相続人(または依頼している税理士)へ電話で日程調整の連絡が入ります。
Q. 時効が7年に延長されないためには、どうすれば良いですか?
A. 故意に財産を隠したり、事実と異なる内容で申告したりせず、正直に申告することが最も重要です。不明な点があれば専門家である税理士に相談しましょう。