相続税の納税期限は、相続が始まってから10ヶ月と意外と短いものです。「納税の準備が間に合わない」「延納の申請も忘れていた…」そんな状況に陥ると、どうなってしまうのか不安になりますよね。この記事では、もし相続税の納税期限に間に合わなかった場合に起こること、そして今からでもできる対処法について、わかりやすく解説していきます。一人で悩まず、正しい知識を身につけていきましょう。
相続税の申告・納税・延納の基本ルール
まずは基本から確認しましょう。相続税には、守らなければならない大切な期限があります。この期限を正しく理解することが、すべてのスタート地点になります。
申告と納税の期限は「10ヶ月以内」
相続税の申告と納税の期限は、どちらも「亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」と決められています。例えば、1月15日に亡くなったことを知った場合、その年の11月15日が期限日です。この日までに、税務署への申告書の提出と、計算された税金の納付の両方を完了させる必要があります。
延納申請の期限も同じ
「現金一括で払うのが難しい…」という場合に利用できるのが「延納」という分割払いの制度です。しかし、この延納を申請する場合も、納税期限(つまり申告期限と同じ日)までに申請書を税務署に提出しなければなりません。期限を過ぎてから「やっぱり分割で…」ということは原則として認められないので、注意が必要です。
納税も延納申請も間に合わないとどうなる?
もし、納税期限までに納税も延納申請もできなかった場合、残念ながらペナルティが発生します。これは法律で定められているため、避けることはできません。どのようなペナルティがあるのか、具体的に見ていきましょう。
利息に相当する「延滞税」がかかる
まず、納税が1日でも遅れると「延滞税」という、利息のような性質の税金が課されます。これは、本来の納税期限の翌日から、実際に納付が完了した日までの日数に応じて自動的に計算されます。納付が遅れれば遅れるほど、延滞税の額は雪だるま式に増えていってしまいます。
延滞税の税率は、納期限の翌日から2ヶ月を経過するかどうかで変わります。
| 期間 | 税率(年率) |
| 納期限の翌日から2ヶ月以内 | 原則年7.3%と「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い方(令和6年中は年2.4%) |
| 納期限の翌日から2ヶ月超 | 原則年14.6%と「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い方(令和6年中は年8.7%) |
申告が遅れたことへの「無申告加算税」も発生
納税が遅れているということは、多くの場合、申告も遅れているはずです。申告期限までに申告しなかったことに対しても「無申告加算税」というペナルティが課されます。これは、納税額に対して一定の税率をかけて計算されます。
| 申告のタイミング | 無申告加算税の税率 |
| 税務調査の通知前に自主的に申告した場合 | 5% |
| 税務調査の通知後、調査前に申告した場合 | 納める税額の50万円まで10%、50万円を超える部分は15% |
| 税務調査後に申告した場合 | 納める税額の50万円まで15%、50万円を超える部分は20% |
もし、財産を意図的に隠していたなど悪質だと判断されると、さらに重い「重加算税(40%)」が課されることもあります。
最悪の場合、財産が差し押さえられる
期限を過ぎても納税しないままでいると、税務署から督促状が届きます。それでも無視し続けると、最終的には財産の差し押さえという強制的な手続きが取られます。預貯金や不動産、給与などが差し押さえられ、強制的に税金の支払いに充てられてしまうのです。こうなると、自分の意思で財産を自由にできなくなってしまいます。
期限切れ!今すぐできる対処法
「もう期限を過ぎてしまった…」と諦めるのはまだ早いです。ペナルティを最小限に抑えるために、今すぐやるべきことがあります。
1日でも早く「期限後申告」と納税をする
最も重要なのは、気づいた時点ですぐに「期限後申告」を行い、納税することです。期限後申告とは、文字通り申告期限を過ぎてから申告を行うことです。先ほどの表で見たように、税務調査が入る前に自主的に申告すれば、無申告加算税の税率が低く抑えられます。延滞税も日割りで計算されるため、1日でも早く納付すれば、その分だけ負担を軽くすることができます。
納税資金がどうしても足りないなら税務署へ相談
「申告はするけど、どうしても一括で払えるお金がない…」という場合でも、放置するのは絶対にやめましょう。まずは所轄の税務署の徴収担当窓口に連絡し、正直に事情を説明して相談してください。すぐに納税できない理由や今後の支払い計画などを具体的に伝えることで、分割での納付(納税の猶予)など、何らかの対応を検討してもらえる可能性があります。
納税資金を準備する方法
そもそも納税資金が足りない場合、どのような準備方法があるのでしょうか。期限前に検討できる方法も合わせて確認しておきましょう。
相続税は原則として現金一括払いです。しかし、相続財産が不動産ばかりで現金が少ないケースも珍しくありません。そんな時に検討できる方法がいくつかあります。
| 方法 | 内 容 |
| 延納 | 一定の要件を満たせば、相続税を年単位で分割払いできます。担保の提供が必要になる場合が多く、利子税がかかります。納税期限までに申請が必要です。 |
| 物納 | 延納でも納付が困難な場合に、不動産などの相続財産そのもので税金を納める方法です。要件が厳しく、認められるケースは稀です。納税期限までに申請が必要です。 |
| 金融機関からの借り入れ | 相続した不動産などを担保に、金融機関から納税資金を借り入れる方法です。「納税ローン」などの商品があります。 |
| 相続財産の売却 | 相続した不動産や有価証券などを売却して、納税資金を作る方法です。売却には時間がかかるため、早めの準備が必要です。 |
期限に間に合わないと節税の特例が使えない?
期限に間に合わないことのデメリットは、ペナルティだけではありません。相続税を大幅に減額できる特例が使えなくなるという、非常に大きな問題があります。
「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」のリスク
相続税には、「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」や「小規模宅地等の特例」といった、非常に節税効果の高い制度があります。これらを適用すると、相続税がゼロになるケースも少なくありません。しかし、これらの特例を利用するための大前提として、「申告期限内に申告すること」が条件となっています。つまり、期限に遅れると、これらの強力な節税策が一切使えなくなってしまうのです。
救済措置「未分割申告」とは
ただし、救済措置も用意されています。もし、遺産分割協議がまとまらないなどの理由で申告が間に合わない場合は、「未分割申告」という方法があります。これは、ひとまず法定相続分で相続したと仮定して期限内に申告し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を一緒に提出する方法です。この手続きをしておけば、後日、遺産分割が正式に決まった際に、改めて特例を適用した申告(更正の請求)をすることが可能になります。納税と延納申請が間に合わない状況とは少し異なりますが、申告自体が遅れそうな場合は、この方法を検討しましょう。
まとめ
相続税の納税期限に、納税も延納申請も間に合わない場合、延滞税や無申告加算税といった金銭的なペナルティが課され、最悪の場合は財産を差し押さえられる可能性があります。さらに、節税に不可欠な特例が使えなくなるという大きなデメリットもあります。
もし期限を過ぎてしまったら、1日でも早く自主的に期限後申告と納税を行うことが、ダメージを最小限に抑える唯一の方法です。そして、納税資金の準備が難しい場合は、決して放置せず、まずは税務署や税理士などの専門家に相談してください。早めの行動が、問題を大きくしないための鍵となります。
参考文献
国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
相続税の納税期限と延納申請のよくある質問まとめ
Q.相続税の納税期限に間に合わないとどうなりますか?
A.期限までに納税しないと、ペナルティとして「延滞税」が課されます。これは納税が遅れた日数に応じて計算される利息のような税金です。
Q.延納申請も間に合わなかった場合、何かペナルティはありますか?
A.延納申請の期限も納税期限と同じです。期限を過ぎると延納は認められず、納税が遅れた分の「延滞税」が発生します。また、財産を差し押さえられる可能性もあります。
Q.納税も延納申請も間に合わない場合、まず何をすればよいですか?
A.できるだけ早く税務署に連絡し、納税の意思があることを伝えて相談してください。一日でも早く納税することで、延滞税の負担を最小限に抑えられます。
Q.延滞税はどのくらいの利率ですか?
A.延滞税の利率は年によって変動しますが、納期限の翌日から2ヶ月を経過する日までは比較的低い利率、それを過ぎると高い利率が適用されます。詳しくは国税庁のウェブサイトで確認できます。
Q.税金を払わないままでいると、最終的にどうなりますか?
A.税務署から督促状が送付されます。それでも納税しない場合、預貯金や不動産などの財産が差し押さえられ、強制的に税金が徴収される可能性があります。
Q.申告自体が遅れてしまった場合はどうなりますか?
A.申告期限(納税期限と同じ)に遅れると「無申告加算税」が課されることがあります。自主的に期限後申告をすれば加算税が軽減される場合もあるので、気づいたらすぐに申告しましょう。