税理士法人プライムパートナーズ

相続税の配偶者控除とは?1.6億円まで非課税になる仕組みを解説

2025-03-08
目次

ご家族が亡くなられた後、遺された配偶者の方の生活を守るために、相続税にはとても心強い制度があります。それが「相続税の配偶者控除」です。この制度を上手に活用すると、相続税の負担を大幅に、場合によってはゼロにすることも可能です。しかし、適用するためにはいくつかの要件があったり、使い方によっては将来的に損をしてしまうケースもあったりします。この記事では、相続税の配偶者控除の仕組みや適用要件、注意点について、分かりやすく解説していきますね。

相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)とは?

相続税の配偶者控除とは、亡くなった方(被相続人)の配偶者が遺産を相続した場合に、相続税が大幅に軽減される制度のことです。正式には「配偶者の税額の軽減」といいます。この制度は、亡くなった方の財産形成には配偶者の貢献があったこと、そして、遺された配偶者の今後の生活を保障するという目的から設けられています。とても手厚い内容になっているので、しっかりと理解しておきましょう。

いくらまで非課税になるの?

配偶者控除を適用すると、配偶者が相続した財産のうち、次のうちどちらか多い方の金額まで相続税がかからなくなります。

1億6,000万円
配偶者の法定相続分相当額

つまり、配偶者が相続する財産の価額が最低でも1億6,000万円までは相続税がゼロになるということです。もし、遺産の総額が大きく、配偶者の法定相続分が1億6,000万円を超える場合には、その法定相続分までが非課税の対象となります。多くの場合、この制度を使えば配偶者の方に相続税はかからない計算になりますね。

法定相続分とは?

法定相続分とは、民法で定められている遺産を相続する割合の目安のことです。遺言書がない場合に、誰がどれくらいの割合で財産を相続するかの基準になります。配偶者の法定相続分は、他に誰が相続人になるかによって変わってきます。主なパターンは以下の通りです。

相続人の組み合わせ 配偶者の法定相続分
配偶者と子 1/2
配偶者と親(直系尊属) 2/3
配偶者と兄弟姉妹 3/4
配偶者のみ すべて(1/1)

例えば、遺産総額が3億円で、相続人が配偶者と子2人の場合、配偶者の法定相続分は1/2なので1億5,000万円です。この場合は「1億6,000万円」の方が大きいので、配偶者は1億6,000万円まで相続しても相続税はかかりません。

配偶者控除を適用するための3つの要件

この強力な配偶者控除ですが、誰でも自動的に適用されるわけではありません。適用を受けるためには、次の3つの要件をすべて満たす必要がありますので、しっかり確認しておきましょう。

法律上の配偶者であること

まず、亡くなった方の戸籍上の配偶者でなければなりません。婚姻届を提出している法律上の夫婦関係にあることが必要です。そのため、長年連れ添った内縁関係や事実婚のパートナーは、残念ながらこの控除の対象にはなりません。なお、婚姻期間の長さは問われませんので、結婚して1日でも法律上の配偶者であれば適用対象となります。

相続税の申告期限までに遺産分割が終わっていること

相続税の申告期限である「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」に、相続人全員で遺産の分け方について話し合う「遺産分割協議」を終え、配偶者が実際にどの財産をどれだけ取得するかが決まっている必要があります。もし、相続トラブルなどで期限内に遺産分割がまとまらない財産については、原則として配偶者控除を適用できません。

ただし、どうしても期限内に分割できない事情がある場合は、相続税申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出することで、3年間の猶予が認められます。この期間内に分割が完了すれば、後から控除を適用し、納めすぎた税金を還付してもらうことができます。

相続税の申告書を税務署に提出すること

これが最も大切なポイントの一つです。配偶者控除を適用した結果、相続税額が0円になったとしても、必ず税務署へ相続税の申告書を提出しなければなりません。「税金がゼロだから申告しなくていい」と勘違いしてしまうと、配偶者控除が適用されず、後から多額の税金とペナルティが課せられる可能性がありますので、くれぐれもご注意ください。

配偶者控除の計算例をみてみよう

では、実際に配偶者控除がどのように相続税額に影響するのか、簡単な例で見てみましょう。相続税の計算は複雑ですが、ここではイメージを掴んでみてください。

【設例】
・相続財産:2億円
・相続人:配偶者と子2人(計3人)
・遺産分割:法定相続分通り(配偶者1/2、子それぞれ1/4)

① 基礎控除額を計算する
相続税には、まず「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除があります。
3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円

② 課税対象となる遺産総額を計算する
相続財産から基礎控除額を引きます。
2億円 - 4,800万円 = 1億5,200万円

③ 各相続人の納税額を計算する(配偶者控除適用前)
課税遺産総額1億5,200万円を元に、全体の相続税額を計算し、実際の相続割合で按分すると、配偶者には本来、約1,800万円の相続税がかかる計算になります。(※計算の簡略化のため概算)

④ 配偶者控除を適用する
ここで配偶者控除を適用します。配偶者が相続した財産は2億円の1/2である1億円です。これは、非課税枠である「1億6,000万円」以下です。そのため、配偶者控除を適用することで、配偶者が納める相続税は0円になります。

配偶者控除を利用するときの注意点

非常にメリットの大きい配偶者控除ですが、利用する際には知っておきたい注意点もあります。特に、次の相続まで見据えることが大切です。

二次相続まで考えて遺産分割をしよう

例えば、お父様が亡くなった相続を「一次相続」、その後お母様が亡くなった相続を「二次相続」といいます。一次相続で配偶者控除を最大限に活用して、お母様がほとんどの財産を相続すると、その時点での相続税は抑えられます。しかし、その結果お母様の財産が大きくなり、二次相続の際に、お子様たちが支払う相続税が非常に高額になってしまう可能性があるのです。

二次相続では、当然ながら配偶者控除は使えません。また、相続人が一人減ることで基礎控除額も少なくなります。一次相続の節税だけを考えるのではなく、家族全体の税負担が最も軽くなるように、一次相続と二次相続をトータルで考えた遺産分割のシミュレーションをすることが重要です。

遺産分割パターン(一次相続) 一次相続と二次相続の税額合計
配偶者が多く相続する 高くなる可能性がある
子にもバランス良く相続させる 低くなる可能性がある

遺産を隠すと控除は適用されない

当然のことですが、意図的に遺産を隠して申告した場合、税務調査でそれが発覚すると、その隠していた財産については配偶者控除の適用を受けることができません。それだけでなく、重加算税といった重いペナルティが課されることになります。財産はすべて正しく申告することが大前提です。

配偶者控除とよく似た制度との違い

「配偶者控除」という言葉は、相続税以外でも使われるため、混同しないように整理しておきましょう。

所得税の「配偶者控除」「配偶者特別控除」

これらは、相続税ではなく、毎年の所得税を計算する際に適用される控除です。年末調整や確定申告でおなじみですね。納税者本人の合計所得金額や、配偶者の年間の合計所得金額によって控除額が決まるもので、相続税の配偶者控除とは全く別の制度です。

贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)

こちらは、生前に夫婦間で居住用の不動産やその購入資金を贈与した場合に、最高2,000万円まで贈与税がかからなくなる制度です。婚姻期間が20年以上であることなどの要件があり、「相続」ではなく「生前贈与」の場面で使われる特例です。

まとめ

今回は、相続税の配偶者控除について詳しく解説しました。最後に大切なポイントを振り返っておきましょう。

相続税の配偶者控除は、配偶者が相続した財産が「1億6,000万円」または「法定相続分」のどちらか多い金額まで非課税になる制度です。
・適用するには「法律上の配偶者であること」「期限内に遺産分割を終えること」「相続税申告書を提出すること」の3つの要件が必要です。
・控除を使って相続税が0円になる場合でも、申告書の提出は絶対に必要です。
・一次相続だけでなく、二次相続のことまで考えて遺産分割の割合を決めることが、家族全体の節税につながります。

相続税の配偶者控除は、正しく理解して使えば非常に有効な制度です。しかし、二次相続まで考慮した最適な分割割合の判断は専門的な知識が必要になることも少なくありません。もしご不安な点があれば、税理士などの専門家に相談してみることをお勧めします。

参考文献

国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減

相続税の配偶者控除に関するよくある質問まとめ

Q.相続税の配偶者控除とは何ですか?

A.配偶者が遺産を相続した場合、法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い金額まで相続税がかからなくなる制度です。正式には「配偶者の税額軽減」といいます。

Q.配偶者控除で非課税になる金額の上限はいくらですか?

A.「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」の、いずれか多い方の金額まで非課税となります。

Q.配偶者控除を受けるための条件は何ですか?

A.主に、①法律上の配偶者であること、②相続税の申告書を提出すること、③遺産分割が確定していること、の3つの条件を満たす必要があります。

Q.配偶者控除を利用する際の注意点はありますか?

A.今回の相続では節税になりますが、その配偶者が亡くなった際の二次相続で、子供たちの相続税負担が大きくなる可能性があります。全体のバランスを考慮することが重要です。

Q.相続税が0円になる場合でも、配偶者控除を使うには申告が必要ですか?

A.はい、必要です。配偶者控除を適用して相続税額が0円になったとしても、税務署へ相続税の申告書を提出しなければ、この特例は適用されません。

Q.事実婚や内縁の妻でも配偶者控除は使えますか?

A.いいえ、使えません。この制度は戸籍上の配偶者のみが対象であり、事実婚や内縁関係のパートナーは適用対象外となります。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。