ご家族が亡くなられた後、財産を相続する方の中に障害をお持ちの方はいらっしゃいませんか?もし、いらっしゃる場合、「障害者控除」という制度を利用して、相続税の負担を大きく減らせる可能性があります。この制度は、相続税の金額そのものから直接一定額を差し引ける、とても節税効果の高いものです。この記事では、相続税の障害者控除について、どのような方が対象になるのか、いくら控除されるのか、具体的な計算方法や注意点などを、わかりやすく解説していきます。
相続税の障害者控除ってどんな制度?
相続税の障害者控除とは、財産を相続した人が85歳未満の障害者である場合に、納める相続税額から一定の金額を差し引くことができる制度です。これは、障害を持つ方の今後の生活の負担を少しでも軽くするために設けられています。財産の評価額から引くのではなく、計算された税額から直接引く「税額控除」なので、相続税の負担を減らす効果がとても大きいのが特徴です。
障害者控除の対象になる人(適用要件)
障害者控除を利用するためには、次の4つの要件をすべて満たす必要があります。
要件1 | 相続や遺贈で財産を取得したときに、日本国内に住所があること |
要件2 | 相続や遺贈で財産を取得したときに、85歳未満の障害者であること |
要件3 | 財産を取得した人が、法定相続人であること |
要件4 | 相続や遺贈によって財産を取得していること |
法定相続人とは、民法で定められた相続人のことです。例えば、亡くなった方の配偶者や子どもなどが該当します。遺言によって法定相続人ではないお孫さん(代襲相続でない場合)が財産を受け取ったとしても、この控除は使えないので注意が必要ですよ。
「一般障害者」と「特別障害者」の違い
障害者控除の金額は、障害の程度によって「一般障害者」と「特別障害者」の2つの区分に分けられ、金額が変わってきます。どちらに該当するかは、お持ちの障害者手帳の種類や等級などで判断されます。
一般障害者 | ・身体障害者手帳:3級~6級 ・精神障害者保健福祉手帳:2級または3級 ・療育手帳:重度(A)以外 |
特別障害者 | ・身体障害者手帳:1級または2級 ・精神障害者保健福祉手帳:1級 ・療育手帳:最重度・重度(A) |
この他にも、戦傷病者手帳をお持ちの方や、常に介護が必要な状態として市区町村長の認定を受けている方なども対象となります。ご自身がどちらに該当するか、手帳の内容などを確認してみてくださいね。
障害者であることの判定タイミング
障害者控除が使えるかどうかは、「相続開始の時(=亡くなった日)」の状況で判断されます。相続の手続きを進めている間に障害者手帳の交付を受けても、亡くなった日に障害者でなければ、基本的にはこの控除は使えません。
ただし、亡くなった時点で手帳の交付を申請中であったり、医師の診断書などで明らかに手帳が交付される程度の障害があったと認められたりする場合には、控除の対象となることがあります。
障害者控除の計算方法
障害者控除の金額は、その方が85歳になるまでの年数に応じて計算します。計算方法はシンプルで、年齢が若いほど控除額は大きくなりますよ。
計算式は以下の通りです。
- 一般障害者の場合:控除額 = (85歳 – 相続開始時の年齢) × 10万円
- 特別障害者の場合:控除額 = (85歳 – 相続開始時の年齢) × 20万円
※年齢の計算では、1年未満の月数は切り捨てた満年齢を使います。
具体的な計算例
実際に計算してみましょう。例えば、相続が始まった日に50歳の方がいたとします。
- 【例1】50歳の一般障害者の場合
(85歳 – 50歳)× 10万円 = 350万円 - 【例2】50歳の特別障害者の場合
(85歳 – 50歳)× 20万円 = 700万円
このように、同じ年齢でも障害の区分によって控除額が大きく変わることがわかりますね。
控除額が相続税額より大きい場合は?
計算した障害者控除の額が、その方が納めるべき相続税額よりも大きい場合があります。つまり、控除額が余ってしまうケースです。その場合、余った控除額は無駄にはなりません。その方の扶養義務者である他の相続人の相続税額から差し引くことができます。
ここでいう「扶養義務者」とは、配偶者、親や子、祖父母や孫、兄弟姉妹などです。実際に扶養していたかどうかに関わらず、これらの関係にある相続人であれば、余った控除額を引き継ぐことができます。
扶養義務者から控除する場合の計算例
具体的な例で見てみましょう。
- 相続人:兄(45歳・一般障害者)と妹
- それぞれの相続税額:300万円
1. 兄の障害者控除額を計算
(85歳 – 45歳)× 10万円 = 400万円
2. 兄の相続税を計算
兄の相続税額300万円から、控除額400万円を引きます。
300万円 – 400万円 = -100万円
兄の納税額は0円になり、まだ控除額が100万円余ります。
3. 妹の相続税を計算
妹は兄の扶養義務者なので、兄から引ききれなかった100万円を自分の相続税額から引くことができます。
妹の相続税額300万円 – 100万円 = 200万円
結果として、妹が納める相続税は200万円になります。
このように、家族全体で相続税の負担を軽減できるのが、この制度の大きなメリットです。
障害者控除を利用する際の注意点
とてもお得な障害者控除ですが、いくつか知っておきたい注意点があります。
過去にも障害者控除を使ったことがある場合
例えば、お父様の相続で障害者控除を使い、その後お母様の相続(二次相続)でもう一度使う、というケースがあります。このように、過去の相続で障害者控除を使ったことがある場合、2回目以降は控除できる金額が制限されることがあります。1回目に使い切らなかった控除額が上限になるなど、計算が少し複雑になりますので注意が必要です。
障害者控除を適用して相続税が0円になったら?
障害者控除を使った結果、納める相続税額が0円になった場合、その方については相続税の申告は原則として不要です。これは、配偶者控除や小規模宅地等の特例のように「申告すること」が適用の条件になっていないためです。
ただし、他の相続人に納税額がある場合は、その方は申告が必要です。また、二次相続に備えて、今回いくら控除したのかを計算して記録を残しておくことを強くおすすめします。
障害者控除に関するよくある質問
ここでは、障害者控除についてよくいただくご質問にお答えします。
要介護認定を受けていれば適用できますか?
残念ながら、要介護認定を受けているだけでは、障害者控除の対象にはなりません。ただし、お住まいの市区町村に申請して「障害者控除対象者認定書」という書類の交付を受けられれば、障害者手帳がなくても控除の対象として認められる場合があります。
遺言で財産をもらった孫も適用できますか?
お孫さんは、原則として法定相続人ではないため、たとえ障害をお持ちで遺言によって財産を受け取ったとしても、障害者控除は適用できません。ただし、お孫さんが代襲相続人(亡くなった親の代わりに相続人になること)であったり、亡くなった方の養子になっていたりする場合は法定相続人となるため、控除を適用できます。
申告に必要な書類は何ですか?
障害者控除を適用して相続税を申告する際には、通常の申告書類に加えて以下の書類が必要です。
- 相続税申告書の第6表「未成年者控除額・障害者控除額の計算書」
- 障害者手帳のコピーなど、障害者であることを証明する書類
まとめ
今回は、相続税の障害者控除について解説しました。最後にポイントを振り返っておきましょう。
- 相続税の障害者控除は、85歳未満で障害を持つ法定相続人が利用できる制度です。
- 控除額は障害の程度(一般・特別)と年齢で決まり、相続税額から直接差し引かれます。
- 控除額が余った場合は、扶養義務者である他の相続人の税額から引くことができます。
- 適用によって税額が0円になれば、相続税の申告は不要です。
障害者控除は、要件に当てはまれば大きな節税効果が期待できる制度です。しかし、適用要件の判断や、扶養義務者への引き継ぎ計算など、少し複雑な部分もあります。もし「自分たちのケースで使えるのかな?」「計算方法がよくわからない」と不安に感じたら、税理士などの専門家に相談してみるのが安心ですよ。
【参考文献】
国税庁 No.4167 障害者の税額控除
相続税の障害者控除に関するよくある質問
Q. 相続税の障害者控除とは何ですか?
A. 相続人に障害がある場合に、相続税額から一定額を差し引くことができる制度です。障害のある方の生活を支えることを目的としています。
Q. 障害者控除でいくら控除されますか?
A. その方が85歳になるまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)が控除されます。計算式は「(85歳 – 相続開始時の年齢) × 10万円(または20万円)」です。
Q. 誰が障害者控除の対象になりますか?
A. 相続開始時に日本国内に住所があり、法定相続人である障害者の方が対象です。一般障害者または特別障害者に該当する必要があります。
Q. 控除額が本人の相続税額より大きい場合はどうなりますか?
A. 控除しきれなかった金額は、その障害者の方の扶養義務者(配偶者、直系血族、兄弟姉妹など)の相続税額から差し引くことができます。
Q. 障害者控除を受けるには、どのような手続きが必要ですか?
A. 相続税の申告書に、障害者控除を受ける旨と計算した控除額を記載します。あわせて、障害者手帳のコピーなどの証明書類を添付して税務署に提出します。
Q. 障害者手帳がなくても控除を受けられますか?
A. はい、受けられる場合があります。相続開始日時点で障害者手帳の交付申請中であったり、医師の診断書などで障害があると客観的に認められれば、控除の対象となる可能性があります。