ご家族が亡くなられて相続が発生したとき、相続人の中に障害のある方がいらっしゃる場合、相続税の負担を軽くできる「障害者控除」という制度があります。これは、相続後の生活を支えるための大切な制度です。今回は、この障害者控除の対象となる障害者の等級や、具体的な控除額の計算方法、申告の際の注意点などを、わかりやすく丁寧にご説明していきますね。
相続税の障害者控除とは?
相続税の障害者控除は、障害のある相続人の方の税負担を軽減するための制度です。相続によってご家族の生活環境が変わる中で、特に障害のある方の今後の生活を守るという目的があります。この制度を正しく理解して、忘れずに活用することが大切です。
障害のある方の生活を守るための優しい制度
多くの場合、障害のある方はご家族のサポートを受けながら生活されています。もし、その支えとなっていた方が亡くなり、多額の相続税がかかってしまうと、残された方の生活が不安定になってしまうかもしれません。障害者控除は、そうした状況を考慮し、相続後の生活基盤を安定させるために設けられた、とても心強い制度なんです。
大きな節税効果が期待できる「税額控除」
障害者控除の大きな特徴は、「税額控除」であるという点です。税額控除とは、計算された相続税の金額から、直接控除額を差し引くことができる仕組みです。財産の総額から差し引く「基礎控除」などと比べて、直接税額が減るため、節税効果が非常に大きいのが魅力です。
障害者控除を受けるための4つの要件
この障害者控除は、誰でも受けられるわけではなく、いくつかの要件を満たす必要があります。ここでは、適用を受けるために必要な4つの条件を一つずつ確認していきましょう。すべての条件に当てはまっているか、チェックしてみてくださいね。
85歳未満の障害者であること
まず、相続が開始した日(被相続人が亡くなった日)の時点で、相続人の年齢が85歳未満であることが必要です。ここでいう「障害者」には、障害の程度によって「一般障害者」と「特別障害者」の2つの区分があり、どちらに該当するかで控除額が変わってきます。詳しい区分については後ほどご説明します。
日本国内に住所があること
次に、相続が開始した日に、日本国内に住所があることが要件となります。基本的には、日本にお住まいの方が対象となる制度だとお考えください。ただし、一部例外的なケースもありますが、ほとんどの場合はこの要件を満たす必要があります。
法定相続人であること
障害者控除を適用できるのは、法定相続人に限られます。法定相続人とは、民法で定められた相続する権利を持つ人のことです。例えば、お孫さんが遺言によって財産を受け取った場合でも、そのお孫さんが代襲相続人(親が先に亡くなっている場合など)でなければ、法定相続人ではないため、この控除は使えません。ただし、お孫さんでも養子縁組をしている場合は法定相続人として扱われます。
財産を相続・遺贈で取得していること
最後の要件として、障害者控除の対象となる相続人が、実際に何らかの財産を相続または遺贈によって取得している必要があります。法定相続人であっても、遺産分割協議の結果、財産を全く受け取らなかったという場合には、残念ながら障害者控除を適用することはできません。
障害の等級と控除額の計算方法
それでは、一番気になる控除額がどのように決まるのかを見ていきましょう。障害者控除の金額は、先ほど少し触れた「障害の区分(等級)」と「相続開始時の年齢」の2つの要素で決まります。計算方法はシンプルなので、ご自身の状況に当てはめて考えてみてください。
「一般障害者」と「特別障害者」の区分
相続税法では、障害の程度に応じて「一般障害者」と「特別障害者」の2つに区分しています。どちらに該当するかは、お持ちの障害者手帳の等級などで判断されます。主な基準は以下の表のとおりです。
| 区分 | 主な該当者 |
| 特別障害者 | ・身体障害者手帳の障害等級が1級または2級の方 ・精神障害者保健福祉手帳の障害等級が1級の方 ・療育手帳などで重度の知的障害者と判定された方 |
| 一般障害者 | ・身体障害者手帳の障害等級が3級から6級までの方 ・精神障害者保健福祉手帳の障害等級が2級または3級の方 ・療育手帳などで中度または軽度の知的障害者と判定された方 |
ご自身がどちらに当てはまるか、お手元の手帳などで確認してみてくださいね。
障害者控除の計算式
障害の区分がわかったら、いよいよ控除額の計算です。計算式は以下のようになります。
【一般障害者の場合】
控除額 = (85歳 - 相続開始時の年齢) × 10万円
【特別障害者の場合】
控除額 = (85歳 - 相続開始時の年齢) × 20万円
※相続開始時の年齢に1年未満の端数(例:50歳6か月など)がある場合は、1年に切り上げて計算します。つまり、50歳1日でも50歳11か月でも、「51年」ではなく「50歳」として計算し、(85-50)で計算します。
具体的な計算例で見てみよう
言葉だけだと少し分かりにくいかもしれませんので、具体的な例で計算してみましょう。
【例1】相続開始時に60歳3か月で、一般障害者の方の場合
① 年齢は60歳として計算します。
② 計算式:(85歳 – 60歳) × 10万円 = 250万円
この場合の障害者控除額は250万円となります。
【例2】相続開始時に45歳で、特別障害者の方の場合
① 年齢は45歳です。
② 計算式:(85歳 – 45歳) × 20万円 = 800万円
この場合の障害者控除額は800万円となります。
控除額が相続税額より大きい場合はどうなる?
計算した障害者控除額が、その障害者ご本人が納めるべき相続税額よりも大きい場合があります。例えば、相続税額が100万円なのに、控除額が250万円というケースです。このような場合、使いきれなかった控除額が無駄になることはありません。残りの金額は、他の相続人の税額から差し引くことができるのです。
扶養義務者の相続税額から控除できる
控除しきれなかった金額は、その障害のある方の「扶養義務者」である他の相続人の相続税額から差し引くことができます。ここでいう扶養義務者とは、配偶者、父母や祖父母、子や孫などの直系血族、兄弟姉妹などを指します。実際に同居して扶養しているかどうかに関わらず、この関係にあれば対象となります。
扶養義務者への控除額の引き継ぎ計算例
具体的な例で見てみましょう。
【状況】
・相続人:長男(扶養義務者)と次男(55歳の一般障害者)
・長男の相続税額:300万円
・次男の相続税額:200万円
【ステップ1】次男の障害者控除額を計算する
(85歳 – 55歳) × 10万円 = 300万円
【ステップ2】次男本人の相続税額から控除する
次男の相続税額200万円 – 障害者控除額300万円 = -100万円
次男の相続税は0円になり、まだ100万円の控除額が残ります。
【ステップ3】残った控除額を長男の相続税額から控除する
長男の相続税額300万円 – 残りの控除額100万円 = 200万円
結果として、長男が納める相続税は200万円に減額されます。
障害者控除を申告するときの注意点
障害者控除を適用する際には、いくつか知っておきたい注意点があります。申告で慌てないように、事前に確認しておきましょう。
障害者であることの判定時期
障害者控除が適用できるかどうかは、あくまで「相続開始時(亡くなった日)」の状況で判断されます。そのため、相続が発生した後に障害者手帳の交付を受けても、原則としてこの控除は適用できません。ただし、相続開始時にすでに手帳の交付を申請中であったり、医師の診断書で明らかに障害の状態であったことが証明されたりする場合には、認められることもあります。
2回目以降の相続で控除を受ける場合
例えば、お父様の相続(一次相続)で障害者控除を使い、その後お母様の相続(二次相続)で再び控除を使う場合、控除額の計算方法が変わる点に注意が必要です。二次相続で使える控除額は、一次相続で使った控除額を差し引いた残りの金額が上限となります。そのため、一次相続で控除額をすべて使い切っている場合は、二次相続では障害者控除を適用できません。
控除の結果、相続税が0円になったら申告は不要?
障害者控除を適用した結果、納める相続税が0円になった場合は、原則として相続税の申告は不要です。これは、「小規模宅地等の特例」など申告が必須の特例とは違う点です。ただし、先ほどの「2回目以降の相続」に備えて、今回の相続でいくら控除を使ったのかを明確にするためにも、計算の記録はきちんと残しておくことをお勧めします。
まとめ
今回は、相続税の障害者控除について詳しくご説明しました。相続人の中に障害のある方がいらっしゃる場合は、忘れずに活用したい大切な制度です。ポイントを最後にもう一度おさらいしましょう。
- 相続人が85歳未満の障害者である場合、相続税の障害者控除が適用できます。
- 控除額は、障害の等級(一般障害者・特別障害者)と年齢によって決まります。
- 控除額が本人の税額より多い場合、余った分は扶養義務者の相続税額から差し引けます。
- 適用には4つの要件があり、すべて満たす必要があります。
ご自身が要件に当てはまるかどうかを確認し、この制度を正しく利用して、相続税の負担を少しでも軽くしてくださいね。もし判断に迷ったり、手続きが不安だったりする場合には、税理士などの専門家に相談することも検討してみてください。
参考文献
相続税の障害者控除に関するよくある質問まとめ
Q.相続税の障害者控除とは何ですか?
A.相続人が85歳未満の障害者である場合に、相続税額から一定額を控除できる制度です。障害の程度や年齢に応じて控除額が変わります。
Q.障害者控除の対象となる障害者の要件を教えてください。
A.相続開始時に日本国内に住所があり、法定相続人であること、そして障害者手帳(身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳など)の交付を受けていることなどが要件となります。
Q.障害者控除の金額はいくらですか?計算方法も知りたいです。
A.控除額は「(85歳-相続開始時の年齢)×10万円(特別障害者の場合は20万円)」で計算します。年齢は1年未満の端数を切り捨てて計算します。
Q.「一般障害者」と「特別障害者」の違いは何ですか?
A.障害の程度によって区分されます。例えば、身体障害者手帳では1級または2級、精神障害者保健福祉手帳では1級の方が「特別障害者」に該当します。それ以外の方は「一般障害者」となります。
Q.相続税申告で障害者控除を受けるには、どのような手続きが必要ですか?
A.相続税の申告書に障害者控除を受ける旨を記載し、障害者手帳の写しなどの証明書類を添付して税務署に提出する必要があります。
Q.相続人本人の相続税額より障害者控除額の方が大きい場合はどうなりますか?
A.控除しきれない金額がある場合、その相続人の扶養義務者(他の相続人など)の相続税額から差し引くことができます。