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相続税対策の養子縁組は本当に得?メリット・デメリットを徹底解説!

2025-05-13
目次

「相続税を少しでも安くしたいな…」「養子縁組が相続対策になると聞いたけど、本当かな?」と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、相続対策としての養子縁組は、正しく活用すれば大きな節税効果が期待できる有効な手段なんです。法定相続人が増えることで、相続税の計算上有利になる仕組みがあるんですよ。
しかし、メリットばかりではありません。思わぬデメリットや注意点もあり、知らずに進めてしまうと家族間のトラブルに発展したり、かえって税金が高くなったりするケースも…。
この記事では、相続対策で養子縁組を検討している方のために、そのメリットとデメリット、手続きの方法や注意点まで、わかりやすく解説していきますね。

相続対策で行われる養子縁組とは?

養子縁組とは、血のつながりがない人との間に、法律上の親子関係を生じさせる制度のことです。養子縁組をすると、養子は実の子ども(実子)と全く同じ立場の「法定相続人」になります。法定相続人になると、遺産を相続する権利が生まれ、遺産分割協議にも参加することになります。相続対策として、この「法定相続人を増やす」という点が非常に重要になってくるんですよ。

普通養子縁組と特別養子縁組の違い

養子縁組には、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。相続対策で一般的に利用されるのは「普通養子縁組」です。この二つの違いをしっかり理解しておきましょう。

種類 特  徴
普通養子縁組 実の親(実親)との親子関係は続いたまま、養親との間にも新たに親子関係が生まれます。そのため、養子は実親と養親の両方から相続を受ける権利があります。
特別養子縁組 実親との法的な親子関係が完全に解消され、養親との間だけに親子関係が成立します。主に子どもの福祉を目的とした制度で、厳しい要件があるため、相続対策で利用されることはほとんどありません。

このように、相続対策を目的とする場合は、実親との関係も維持できる普通養子縁組が選ばれるのが一般的です。

誰を養子にするケースが多いの?

相続対策としての養子縁組では、お孫さんや、お子さんの配偶者(お嫁さんやお婿さん)を養子にするケースが多く見られます。例えば、「いつも身の回りの世話をしてくれるお嫁さんに財産を残したい」「家業を継いでくれる孫に多く相続させたい」といった想いを法的に実現するために活用されることが多いんです。特に子どもがいないご夫婦が、甥や姪を養子に迎えて後継者とするケースもあります。

養子縁組で相続税対策を行う4つのメリット

養子縁組をすると、なぜ相続税の節税につながるのでしょうか。その理由は、法定相続人が増えることで、税金の計算で使えるさまざまな「控除枠」が大きくなるからです。ここでは、具体的な4つのメリットを見ていきましょう。

相続税の基礎控除額が上がる

最大のメリットは、相続税の計算における基礎控除額が増えることです。基礎控除額とは、「この金額までは相続税がかかりませんよ」という非課税の枠のことです。計算式は以下のようになっています。

【基礎控除額の計算式】
3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

つまり、養子縁組で法定相続人が1人増えるごとに、基礎控除額が600万円も増えるのです。例えば、相続人が子ども2人の場合、基礎控除額は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)ですが、養子を1人迎えて相続人が3人になると、4,800万円(3,000万円+600万円×3人)にアップします。この差はとても大きいですよね。

生命保険金の非課税枠が増える

亡くなった方が保険料を負担していた生命保険金を受け取った場合、その保険金も相続税の対象となりますが、ここにも非課税枠があります。この枠も法定相続人の数によって決まるんです。

【生命保険金の非課税限度額の計算式】
500万円 × 法定相続人の数

法定相続人が1人増えると、生命保険金の非課税枠が500万円増えます。例えば、相続人が2人なら非課税枠は1,000万円ですが、養子を迎えて3人になると1,500万円まで非課税で受け取れるようになります。

死亡退職金の非課税枠が増える

亡くなった方の会社から支払われる死亡退職金にも、生命保険金と同じように非課税枠が設けられています。計算式も同じです。

【死亡退職金の非課税限度額の計算式】
500万円 × 法定相続人の数

こちらも、法定相続人が1人増えるごとに非課税枠が500万円増えるため、節税につながります。

相続税の税率が下がる可能性がある

相続税は、遺産の総額が大きくなるほど税率が高くなる「累進課税」という仕組みになっています。法定相続人が増えると、基礎控除額が増えるだけでなく、法律上の分け方(法定相続分)で計算する際の一人あたりの取得金額が少なくなります。その結果、より低い税率が適用され、全体の相続税額が安くなる可能性があるのです。

法定相続分に応ずる取得金額 税率
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15%
5,000万円以下 20%
1億円以下 30%
2億円以下 40%
3億円以下 45%
6億円超 55%

相続対策で養子縁組をする際の注意点・デメリット

たくさんのメリットがある養子縁組ですが、良いことばかりではありません。実行する前に必ず知っておいてほしい注意点やデメリットもあります。後で「こんなはずじゃなかった…」と後悔しないように、しっかり確認しておきましょう。

相続税法上の養子の人数には制限がある

節税になるからといって、何人でも養子を増やせるわけではありません。相続税の計算上、法定相続人の数に含めることができる養子の数には、国税庁によって次のような制限が設けられています。

  • 被相続人に実子がいる場合:養子は1人まで
  • 被相続人に実子がいない場合:養子は2人まで

例えば、実子が2人いる方が、孫3人を養子にしたとしても、相続税の計算上、法定相続人としてカウントできる養子は1人のみです。このルールはしっかり覚えておきましょう。

孫を養子にすると相続税が2割加算される

お孫さんを養子にする「孫養子」は、本来なら親から子、子から孫へと二世代にわたってかかるはずの相続税を、一回で済ませてしまう(一代飛ばす)ことになります。この税負担の公平性を保つため、特別なルールが設けられています。
具体的には、お孫さんが養子として財産を相続する場合、そのお孫さんが支払う相続税額が2割増しになる「相続税額の2割加算」という制度の対象になります。
ただし、亡くなったお子さんに代わって相続人となる「代襲相続」の場合には、この2割加算の対象にはなりません。

相続税対策だけが目的だと否認されるリスク

養子縁組が、明らかに相続税の負担を不当に減少させるためだけに行われたと税務署に判断された場合、その養子の数を法定相続人の数に含めることが認められない(否認される)ことがあります。
明確な基準はありませんが、例えば、亡くなる直前に急いで養子縁組をしたものの、その養子には全く遺産が渡らないようなケースは、節税目的と見なされるリスクが高まります。否認されると、節税に失敗するだけでなく、修正申告や追徴課税が必要になるため注意が必要です。

親族間でトラブルになる可能性

養子縁組は、他の相続人、特に実子にとっては複雑な問題です。なぜなら、養子が一人増えることで、実子一人ひとりの法定相続分(法律上の取り分)が減ってしまうからです。
事前に十分な話し合いをせず、一方的に養子縁組を進めてしまうと、「なぜ自分の取り分が減るのか」と不満が生まれ、親族間の関係が悪化し、遺産分割協議がスムーズに進まなくなる可能性があります。最悪の場合、養子縁組の無効を訴える裁判にまで発展するケースもあります。

養子縁組の手続き方法

実際に養子縁組を行うには、どのような手続きが必要なのでしょうか。ここでは、相続対策で一般的な「普通養子縁組」の手続きについて簡単にご紹介します。

普通養子縁組の手続き

普通養子縁組は、養親(親になる人)と養子(子になる人)の合意に基づき、市区町村役場に「養子縁組届」を提出することで成立します。
手続きはそれほど複雑ではありませんが、いくつかポイントがあります。

  • 届出場所:養親または養子の本籍地、もしくは所在地の市区町村役場
  • 必要なもの:養子縁組届、本人確認書類(運転免許証など)、(場合によって)戸籍謄本
  • 証人:成人の証人2名の署名が必要です。
  • 未成年者を養子にする場合:原則として、家庭裁判所の許可が必要になります。

手続き自体はシンプルですが、法的な親子関係を結ぶ重要なものですので、慎重に進めましょう。

養子縁組を円満に進めるためのポイント

養子縁組は、相続対策として有効な手段ですが、家族関係に大きな影響を与えるものでもあります。トラブルを避け、円満に進めるためには、どのようなことに気を付ければ良いのでしょうか。

他の相続人に事前に説明し、理解を得る

最も大切なことは、他の相続人、特に実子に対して事前にきちんと説明し、理解を得ておくことです。なぜ養子縁組をするのか、その理由を丁寧に伝えましょう。「長年介護をしてくれた感謝の気持ちだから」「家業を継いでもらうため」など、節税目的だけではない、あなたの真摯な想いを伝えることが、後のトラブルを防ぐ鍵になります。いきなり養子が増えていた、となると、誰でも驚き、不信感を抱いてしまいますよね。

遺言書も併せて準備する

養子縁組をする場合は、遺言書も併せて作成しておくことを強くお勧めします。養子縁組によって法定相続人が増えると、遺産分割の話し合いが複雑になる可能性があります。
遺言書で「誰に、どの財産を、どれだけ相続させるか」を明確に指定しておくことで、残された家族が遺産分割で揉めるのを防ぐことができます。養子に相続させたい財産や、他の相続人への配慮などを具体的に記しておくことで、あなたの意思が尊重されやすくなります。

まとめ

今回は、相続対策としての養子縁組について、メリットやデメリット、注意点などを詳しく解説しました。
養子縁組は、法定相続人を増やすことで相続税の基礎控除や各種非課税枠を増やし、大きな節税効果が期待できる有効な手段です。しかし、相続税法上の人数制限や孫養子への2割加算、そして何より親族間トラブルのリスクなど、慎重に検討すべき点も多くあります。
メリットとデメリットを天秤にかけ、ご自身の家族構成や財産状況に本当に適した方法なのかを見極めることが大切です。少しでも不安な点があれば、相続に詳しい税理士などの専門家に相談し、最適な相続対策を一緒に考えていくことをお勧めします。

参考文献

国税庁 No.4170 相続人の中に養子がいるとき

国税庁 No.4157 相続税額の2割加算

国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

相続対策の養子縁組に関するよくある質問まとめ

Q.相続対策で養子縁組をするメリットは何ですか?

A.法定相続人が増えることで、相続税の基礎控除額(600万円×法定相続人の数)や生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が増加し、節税効果が期待できます。また、財産を渡したい人に確実に相続させることができます。

Q.養子は何人まで相続税の計算に含められますか?

A.相続税法上、法定相続人の数に含めることができる養子の数には制限があります。被相続人に実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までと定められています。

Q.孫を養子にすることはできますか?

A.はい、可能です。孫を養子にすると、通常は子から孫へという二段階の相続が一度で済むため、相続税の課税を1回分減らせる可能性があります。ただし、孫が養子として相続する場合、相続税額が2割加算される点に注意が必要です。

Q.養子縁組の手続きはどのように行いますか?

A.養親と養子になる方が署名した「養子縁組届」を、本籍地または所在地の市区町村役場に提出します。届出には証人2名の署名も必要です。未成年者を養子にする場合など、ケースによっては家庭裁判所の許可が必要になることもあります。

Q.養子縁組をすると、他の相続人の相続分はどうなりますか?

A.養子は実子と同じ法定相続人として扱われるため、法定相続人の数が増えることになります。その結果、他の相続人一人ひとりの法定相続分は減少します。後々のトラブルを避けるためにも、事前に他の相続人の理解を得ておくことが重要です。

Q.養子縁組のデメリットや注意点はありますか?

A.一度成立した養子縁組を解消するのは簡単ではありません。また、相続分が減ることになる他の親族との間でトラブルに発展する可能性があります。節税目的だけでなく、家族関係や養子自身の人生への影響も十分に考慮して慎重に判断する必要があります。

事務所概要
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