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相続税申告で生命保険金が未受領…受領日は空欄で良い?

2025-02-26
目次

ご家族が亡くなられ、相続税申告の準備を進めている中で、「生命保険金の手続きが間に合わず、まだお金を受け取れていない…」と焦っていませんか?相続税の申告期限は刻一刻と迫ってきますし、書類の書き方が分からなくて不安になりますよね。特に、生命保険金の受領日が空欄のままで良いのか、多くの方が悩むポイントです。この記事では、相続税申告において生命保険金が未受領の場合の申告書の書き方や注意点について、分かりやすく解説していきます。

相続税申告と生命保険金の基本的な関係

まず、なぜ生命保険金が相続税の申告に関係してくるのか、基本的な部分からおさらいしましょう。この関係性を理解することが、未受領の場合の対応を理解する近道になります。

生命保険金は「みなし相続財産」

被相続人(亡くなった方)が保険料を負担していた生命保険金は、民法上の相続財産ではありません。受取人固有の財産とされています。しかし、被相続人の死亡によって支払われるお金であることから、税法上は「みなし相続財産」として扱われ、相続税の課税対象となります。預貯金や不動産といった本来の相続財産と合算して、相続税を計算する必要があるのです。

生命保険金の非課税枠

生命保険金には、残されたご家族の生活保障という大切な役割があるため、税制上の優遇措置が設けられています。それが「生命保険金の非課税枠」です。以下の計算式で求められる金額までは、相続税がかかりません。

計算式 500万円 × 法定相続人の数

例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人いる場合、500万円 × 3人 = 1,500万円までが非課税となります。この非課税枠は、相続人の方が受取人である場合にのみ適用される点に注意が必要です。

相続税の申告期限は必ず守りましょう

相続税の申告と納税の期限は、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」と定められています。この期限は非常に重要で、1日でも遅れるとペナルティが発生する可能性があります。生命保険金の手続きが遅れているからといって、申告期限を延ばすことは原則としてできません。

生命保険金が未受領の場合の相続税申告書の書き方

それでは、本題である「生命保険金をまだ受け取っていない場合」の申告書の書き方について具体的に見ていきましょう。

結論:受領年月日は「空欄(ブランク)」で提出することはできません。

結論からお伝えすると、相続税の申告期限までに生命保険金を受け取っていない場合、相続税申告書第9表「生命保険金などの明細書」の「保険金受領年月日」の欄は「申告期限年月日」を記載して提出してください。

なぜ空欄ではいけないのか?

相続税は、「相続の開始があった時」、つまり被相続人が亡くなった日時点での財産に対して課税されます。生命保険金の場合、被相続人が亡くなったことで、受取人は「保険金を受け取る権利」を取得したことになり「みなし相続財産」として扱われます。そのため、申告時点で未受領であっても、その「権利」を相続財産として申告する必要があり、日付の記載が求められます。

申告書への具体的な記載方法

通常、保険会社から「保険金支払通知書」といった書類が届きます。申告書には、この通知書に記載されている情報を基に記入します。

  • 保険会社名:支払通知書に記載の保険会社名を記入します。
  • 保険金受取人:実際に保険金を受け取る方の氏名を記入します。
  • 支払われた保険金額:支払通知書に記載されている保険金額を記入します。
  • 保険金受領年月日:支払通知書に記載の支払日を記入します。

その他の項目(被保険者名など)も、分かる範囲で正確に記入しましょう。

保険金の支払通知書も届いていない場合は?

申告期限が迫っているのに、保険会社からの支払通知書すら手元にない、というケースも考えられます。その場合は、以下のように対応しましょう。

まずは保険会社へ連絡を

すぐに保険会社に連絡を取り、手続きの進捗状況を確認しましょう。その際に、支払われる予定の保険金額(見込額)と、いつ頃支払通知書が届くかを確認してください。申告に必要な情報なので、正確な金額を教えてもらうことが大切です。

見込額で申告する

保険会社から確認した保険金の「見込額」で相続税の申告を行います。申告書の摘要欄などに「見込額にて申告」と記載しておくと、税務署にも事情が伝わりやすくなります。金額が確定していないからと申告を遅らせるのではなく、まずは期限内に申告を済ませることが最優先です。

見込額で申告した場合の注意点:修正申告と更正の請求

後日、実際に受け取った保険金額が見込額と異なっていた場合は、申告内容を修正する手続きが必要です。手続きは、申告した税額が少なかったか、多かったかによって異なります。

申告した税額が少なかった場合 修正申告
申告した税額が多かった場合 更正の請求

例えば、1,000万円の見込みで申告したところ、実際には1,010万円だった場合は「修正申告」を、990万円だった場合は「更正の請求」を行います。どちらの手続きも、差額が判明したら速やかに行いましょう。

申告期限に間に合わない場合のリスク

生命保険金の手続きが終わらないことを理由に申告期限を過ぎてしまうと、様々なデメリットが生じます。どのようなリスクがあるのか、しっかり確認しておきましょう。

無申告加算税と延滞税

期限内に申告をしなかった場合、ペナルティとして「無申告加算税」が課されます。税率は、本来納めるべき税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%と非常に高率です。(税務調査を受ける前に自主的に申告した場合は5%に軽減されます)
さらに、納税が遅れた日数に応じて「延滞税」もかかってきます。余計な税金を支払うことにならないよう、期限は必ず守りましょう。

特例が使えなくなる可能性

相続税には、税負担を大きく軽減してくれる特例がいくつかありますが、その多くは「期限内に申告すること」が適用要件となっています。代表的なものに、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」があります。これらの特例が使えないと、納税額が数百万円、場合によっては数千万円単位で変わってしまうこともあります。期限を守ることは、節税の観点からも非常に重要です。

未受領の生命保険金に関するQ&A

最後に、未受領の生命保険金に関してよく寄せられる質問にお答えします。

Q. 受取人が相続放棄をしたら保険金はもらえない?非課税枠は?

A. 生命保険金は受取人固有の財産ですので、相続放棄をしても受け取ることができます。ただし、相続放棄をすると「相続人」という立場を失うため、生命保険金の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)を適用することはできません。受け取った保険金全額が、みなし相続財産として課税対象になります。

Q. 未受領のまま申告したら、税務調査の対象になりやすいですか?

A. 受領日が空欄であったり、見込額で申告したりしたこと自体が、税務調査の直接的な原因になることは考えにくいです。ただし、申告した見込額と、保険会社から税務署へ報告される支払調書の金額が大きく異なっている場合などは、税務署から問い合わせ(お尋ね)が来る可能性があります。その際は、事情を正直に説明し、必要に応じて修正申告などを行いましょう。

まとめ

今回は、相続税申告で生命保険金が未受領の場合の対応について解説しました。ポイントをまとめます。

  • 相続税申告書に記載する生命保険金の受領年月日は、未受領であれば空欄のままで問題ありません。
  • 課税の基準は被相続人が亡くなった日であり、その時点で「保険金を受け取る権利」が発生しているからです。
  • もし保険金額も確定していない場合は、保険会社に確認した「見込額」で期限内に申告しましょう。
  • 実際の金額と異なった場合は、後日「修正申告」または「更正の請求」で対応します。
  • 申告期限に遅れると、無申告加算税などのペナルティや、節税に有利な特例が使えなくなるリスクがあるため、期限厳守が鉄則です。

相続税申告は手続きが複雑で、ご自身で判断に迷うことも多いかと思います。特に生命保険金が絡むと、契約内容によって扱いが変わることもあります。少しでも不安な点があれば、相続税に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

国税庁 No.1750 死亡保険金を受け取ったとき

生命保険金の受取日が未定な場合の相続税申告 よくある質問

Q.相続税申告書を作成中ですが、生命保険金をまだ受け取っていません。申告書の受領日は空欄で良いですか?

A.いいえ、空欄(ブランク)で提出することはできません。相続税の申告期限までに保険金を受け取っていない場合は、「申告期限年月日」を記載して提出してください。

Q.なぜ生命保険金の受領日が未定でも、空欄で申告書を提出してはいけないのですか?

A.生命保険金は、被相続人の死亡によって受け取る権利が確定した「みなし相続財産」として扱われます。そのため、実際に受領しているかどうかにかかわらず、相続税の課税対象として申告する必要があり、日付の記載が求められます。

Q.申告期限までに保険金を受け取っていない場合、受領日には具体的に何の日付を書けばよいですか?

A.国税庁の指針に基づき、申告書の提出日を記載します。通常、申告期限日に提出することが多いため、「申告期限年月日」を記載するのが一般的です。

Q.申告期限日を記載して申告した後、実際に保険金を受け取りました。何か追加の手続きは必要ですか?

A.申告した保険金の金額と、実際に受け取った金額が同じであれば、追加の手続きは原則として不要です。もし金額に差異があった場合は、修正申告や更正の請求が必要になる可能性があります。

Q.生命保険金には非課税枠があると聞きましたが、申告は必要ですか?

A.はい、非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)の適用を受ける場合でも、申告書への記載は必要です。申告書第9表に保険金の詳細を記載し、非課税枠を適用する計算過程を示すことで、正しく税額が計算されます。

Q.もし生命保険金の申告を忘れてしまったらどうなりますか?

A.申告漏れを税務署から指摘された場合、本来の税額に加えて過少申告加算税や延滞税が課される可能性があります。申告漏れに気づいた場合は、速やかに自主的に修正申告を行うことをお勧めします。

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