「相続税の申告が必要みたいだけど、どんな書類を集めればいいの?」
ご家族が亡くなられて大変な中、相続税の手続きまで進めるのは本当に骨が折れますよね。特に、相続税の申告で提出する添付書類は種類が多く、ご自身の状況によって必要なものが変わるため、何から手をつけて良いか分からなくなってしまう方も少なくありません。
相続税の申告には、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内という期限があります。この記事では、どなたでもスムーズに準備が進められるよう、相続税申告に必要な添付書類を一覧表で分かりやすくまとめました。ぜひ、ご自身の状況と照らし合わせながら、チェックリストとしてご活用ください。
相続税申告で提出する添付書類の全体像
相続税の申告で税務署に提出する書類は、大きく分けると「相続税申告書」と「添付書類」の2つです。添付書類は、申告書に書かれた内容の根拠を示すための大切な資料となります。
この添付書類は、さらに以下の2種類に分けられます。
- 全員が必ず提出する書類:被相続人(亡くなった方)や相続人の関係を証明する書類など
- 状況に応じて提出が必要な書類:相続する財産の種類や、利用する特例・控除によって必要になる書類
つまり、ご自身の相続の状況を把握し、「どの書類が自分に必要なのか」を正しく見極めることが、書類集めの第一歩になります。ここから、それぞれのパターン別に詳しく見ていきましょう。
全員が必ず提出する基本の添付書類
まずは、どのような相続の形であっても、相続税を申告する方全員が提出しなければならない基本的な書類です。これらの書類は、主に亡くなった方と相続人との関係を公的に証明するために必要となります。
被相続人(亡くなった方)に関する書類
亡くなられた方の身分関係を証明する書類です。特に「出生から死亡までの戸籍謄本」は、すべての相続人を確定させるために不可欠な書類で、集めるのに時間がかかる場合があるので早めに準備を始めましょう。
書類名 | 主な内容と注意点 |
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍) | 相続人を確定させるために必要です。本籍地を何度も変更している場合は、それぞれの市区町村役場から取り寄せるため時間がかかることがあります。手数料は1通450円~750円程度です。 |
被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票) | 最後の住所地を証明する書類です。本籍地の記載があるものを取得してください。手数料は1通300円前後です。 |
相続人に関する書類
次に、財産を受け取る相続人全員に関する証明書類です。
書類名 | 主な内容と注意点 |
相続人全員の戸籍謄本 | 被相続人が亡くなった日(相続開始日)以降に取得したものである必要があります。手数料は1通450円です。 |
相続人全員の住民票 | こちらも相続開始日以降に取得したものを準備します。マイナンバー(個人番号)の記載は不要です。手数料は1通300円前後です。 |
相続人全員のマイナンバー確認書類 | 申告書に記載するマイナンバーの本人確認のために必要です。マイナンバーカードのコピー(両面)や、通知カードのコピー+運転免許証のコピーなどを準備します。 |
遺産分割に関する書類
誰がどの財産をどれだけ相続したかを証明するための書類です。
書類名 | 主な内容と注意点 |
遺言書の写し | 遺言書がある場合に提出します。自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所での「検認」を受けたことを証明する「検認済証明書」も併せて必要です。 |
遺産分割協議書の写し | 遺言書がない場合や、遺言書とは異なる内容で遺産分割をする場合に作成・提出します。相続人全員の合意が必要です。 |
相続人全員の印鑑証明書 | 遺産分割協議書に実印を押した場合に、その印鑑が本人のものであることを証明するために添付します。この書類のみ原本の提出が必要です。 |
もし、申告期限までに遺産分割が決まらない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、後から特例の適用を受けられる場合があります。
相続する財産別に必要な添付書類
ここからは、相続する財産の種類に応じて必要となる添付書類です。ご自身が相続する財産を確認しながら、必要なものをチェックしてください。これらの書類は、財産の価値(評価額)を計算した根拠を示すために重要です。
不動産(土地・建物)がある場合
土地やご自宅、マンションなどを相続した場合に必要な書類です。
書類名 | 取得場所 |
登記事項証明書(登記簿謄本) | 法務局 |
固定資産評価証明書 | 不動産所在地の市区町村役場 |
公図・地積測量図 | 法務局 |
賃貸借契約書の写し | (お手元) |
「名寄帳」を市区町村役場で取得すると、その人が所有する不動産の一覧が確認できるため、申告漏れを防ぐのに役立ちます。
預貯金・現金がある場合
金融機関に預けているお金や、ご自宅で保管していた現金(タンス預金)も相続財産です。
書類名 | 取得場所 |
預貯金の残高証明書 | 各金融機関 |
既経過利息計算書 | 各金融機関 |
過去5~7年分の預金取引履歴(通帳のコピー) | (お手元・不足分は金融機関) |
手元現金の申告 | (書類は不要ですが、金額を把握し申告が必要です) |
残高証明書は、必ず被相続人が亡くなった日(相続開始日)時点のものを取得してください。取得には1~2週間かかることもあるので、早めに依頼しましょう。
有価証券(株式・投資信託など)がある場合
株式や投資信託などを相続した場合に必要な書類です。
書類名 | 取得場所 |
証券会社の残高報告書 | 取引のあった証券会社 |
配当金支払通知書 | (お手元) |
非上場株式の評価に必要な書類(決算書3期分など) | 株式を発行した会社 |
生命保険金・死亡退職金がある場合
生命保険金や死亡退職金は「みなし相続財産」として課税対象になります。
書類名 | 取得場所 |
生命保険金支払通知書 | 生命保険会社 |
生命保険証券の写し | (お手元) |
死亡退職金・功労金の支払明細書 | 故人の勤務先 |
これらには「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠がありますが、非課税枠を超える部分が課税対象となります。
特例や控除を利用する場合に必要な添付書類
相続税には、税金の負担を大きく軽減できる特例や控除の制度があります。これらを適用するためには、申告書と併せて追加の書類を提出する必要があります。
配偶者の税額軽減
配偶者が相続する財産のうち、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額までは相続税がかからない制度です。この適用を受けるためには、遺産分割が確定していることが前提となるため、「遺産分割協議書の写し」と「相続人全員の印鑑証明書」の提出が非常に重要になります。
小規模宅地等の特例
亡くなった方が住んでいた土地や事業をしていた土地の評価額を、最大で80%減額できる非常に効果の大きい特例です。適用要件が細かく定められており、それを満たしていることを証明するために、以下のような書類が必要になる場合があります。
- 相続人の住民票
- 被相続人の戸籍の附票
- 介護保険被保険者証の写し(老人ホームに入所していた場合)
- 賃貸借契約書の写し(持ち家がない相続人が適用する場合)
その他(債務・葬式費用・生前贈与)の添付書類
最後に、プラスの財産以外に関連する書類です。財産から差し引けるもの(債務・葬式費用)や、逆に財産に加算しなければならないもの(生前贈与)があります。
債務・葬式費用
亡くなった方の借金や未払いの税金、そして葬式にかかった費用は、相続財産から差し引くことができます(債務控除・葬式費用控除)。
控除の種類 | 必要な書類の例 |
債務控除 | 借入金の残高証明書、未払いの医療費・税金・公共料金の領収書や請求書など |
葬式費用控除 | 葬儀会社からの領収書、お布施や心付けの支払い記録(メモでも可)など |
生前贈与(相続開始前3年~7年以内)
亡くなる前の一定期間内に行われた贈与は、相続財産に加算して相続税を計算するルールがあります。この期間は、相続開始が2026年12月31日までは「3年」、それ以降は段階的に延長され、2031年1月1日以降は「7年」となります。該当する贈与がある場合は、「贈与契約書」や「贈与税の申告書の控え」などを準備しましょう。
相続時精算課税制度を利用した場合
生前に「相続時精算課税制度」を利用して贈与を受けていた場合は、その贈与財産をすべて相続財産に加算して申告する必要があります。その際に「相続時精算課税選択届出書の控え」や、贈与を受けた年の「贈与税の申告書の控え」などを提出します。
まとめ
今回は、相続税申告に必要な添付書類について、全体像から具体的な書類一覧まで詳しく解説しました。ご覧いただいたように、相続税の申告には非常に多くの書類が必要で、ご自身の財産状況や利用する特例によって集めるべきものが大きく変わります。
申告期限である10か月は、長いようで意外とあっという間に過ぎてしまいます。まずはこの記事を参考に、ご自身に必要な書類のリストアップから始めてみてください。そして、取得に時間がかかりそうな書類から優先的に手配を進めるのが、スムーズに申告を終えるためのコツです。
もし書類集めや申告書の作成に少しでも不安を感じたら、無理せず税理士などの専門家に相談するのも一つの有効な手段です。正しい申告で、安心して手続きを終えましょう。
【参考文献】
・国税庁「相続税の申告のしかた(令和6年分用)」
・国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」
・国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
相続税申告の添付書類に関するよくある質問まとめ
Q. 相続税の申告で、最低限必要な書類は何ですか?
A. 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本とマイナンバーカード(または通知カードと本人確認書類)の写しが基本となります。これらは相続関係を証明するために必須です。
Q. 相続財産に不動産(土地・建物)がある場合、どんな書類が必要ですか?
A. 土地や建物の登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産税評価証明書、住宅地図(名寄帳)などが必要です。これらは法務局や市区町村役場で取得できます。
Q. 銀行の預貯金を相続した場合、必要な書類は何ですか?
A. 被相続人が亡くなった日の預金残高証明書と、過去の取引履歴(金融機関による)が必要です。残高証明書は各金融機関に依頼して発行してもらいます。
Q. 書類はどこで取得すればよいのでしょうか?
A. 戸籍謄本や住民票、固定資産税評価証明書は市区町村役場、登記事項証明書は法務局、預金残高証明書は各金融機関で取得します。
Q. 添付書類を提出し忘れた場合、どうなりますか?
A. 税務署から提出を求める連絡が来ます。意図的に財産を隠したと判断されると、ペナルティ(加算税や延滞税)が課される可能性がありますので、速やかに対応しましょう。
Q. 書類集めが複雑です。税理士などの専門家に依頼するメリットは何ですか?
A. 専門家に依頼すると、複雑な書類の収集・作成を代行してもらえ、申告ミスを防げる点が大きなメリットです。また、特例の適用など節税につながるアドバイスを受けられることもあります。