ご家族が亡くなり相続が発生すると、相続税の申告を税理士に依頼したり、不動産の名義変更(相続登記)を司法書士に依頼したりと、さまざまな費用がかかりますよね。これらの費用を、ご自身の所得税の確定申告で経費として計上できたら、少しでも負担が軽くなるのに…と考えたことはありませんか?特に、アパートなどの収益物件を相続した場合はどうなるのでしょうか。この記事では、相続税申告の費用や司法書士への登記費用が、相続人の所得税申告でどのように扱われるのかを、ケース別にわかりやすく解説していきます。
相続にかかる費用と所得税申告での扱い
まず結論からお伝えすると、相続にかかった費用の中には、相続人ご自身の所得税の確定申告で経費として認められるものと、認められないものがあります。特に、相続した財産の種類やその後の使い方によって、扱いが大きく変わってくるのがポイントです。それぞれの費用がどのように分類されるのか、具体的に見ていきましょう。
相続税申告の費用(税理士報酬など)
残念ながら、相続税の申告手続きのために税理士へ支払った報酬は、原則として相続人の所得税申告で経費にすることはできません。これは、相続税の申告が、個人の事業や不動産経営といった「所得」を得るための活動とは直接関係がない、と考えられているためです。また、相続税を計算する上でも、この税理士報酬は被相続人(亡くなった方)の債務ではないため、「債務控除」として遺産総額から差し引くこともできません。
相続登記の費用(司法書士報酬・登録免許税)
不動産を相続した際にかかる相続登記の費用は、状況によって所得税申告で考慮できる場合があります。この費用には、司法書士へ支払う報酬と、法務局へ納める登録免許税が含まれます。この登記費用が経費になるかどうかは、相続した不動産をその後どうするのかによって決まります。
- 収益物件(アパートなど)として賃貸経営を続ける場合 → 不動産所得の「必要経費」になる可能性があります。
- 自宅や土地などを売却する場合 → 譲渡所得の「取得費」になる可能性があります。
このように、登記費用は扱いが分かれるため、次の章で詳しく解説していきます。
その他の相続関連費用
相続手続きでは、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本を集めたり、遺産分割協議書を作成したりと、さまざまな書類の取得費用や作成費用が発生します。これらの費用も、基本的には所得税の申告で経費にすることは難しいです。ただし、司法書士に相続登記を依頼した際に、一連の手続きとしてこれらの書類取得も代行してもらった場合は、その費用も司法書士報酬の一部として扱われ、上記「相続登記の費用」と同じように考えられることが一般的です。
収益物件を相続した場合の登記費用は「必要経費」に
親が経営していたアパートや駐車場などの収益物件を相続し、ご自身がその賃貸経営を引き継ぐケースはよくあります。この場合、相続登記にかかった費用は、あなたの所得税を計算する上でとても重要になります。
不動産所得の必要経費として計上できる
収益物件の相続登記にかかった司法書士報酬や登録免許税は、その年の不動産所得の「必要経費」として計上することができます。不動産所得は「総収入金額(家賃収入など)- 必要経費」で計算されるため、必要経費が増えれば所得金額が減り、結果として納める所得税や住民税が安くなるというメリットがあります。
確定申告書を作成する際は、一般的に以下のような勘定科目で処理します。
| 費用の種類 | 一般的な勘定科目 |
| 登録免許税 | 租税公課 |
| 司法書士報酬 | 支払手数料 |
このルールは、平成17年1月1日以降の相続から適用されるようになりました。それ以前は必要経費として認められていなかったので、大きな違いですね。
いつの経費として計上するの?
これらの登記費用は、実際に支払った年の不動産所得の必要経費として計上します。例えば、令和6年中に相続が発生し、司法書士への支払いや登録免許税の納付を済ませたのであれば、令和7年に行う令和6年分の確定申告で経費として申告することになります。忘れずに計上するようにしましょう。
相続した不動産を売却した場合の登記費用は「取得費」に
相続した不動産がご自身の住まいではなかったり、活用する予定がなかったりして、売却を選択することもあるでしょう。この場合、相続登記の費用は「譲渡所得」の計算に関わってきます。
譲渡所得の「取得費」に加算できる
相続した土地や建物を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、所得税がかかります。この譲渡所得は、以下の計算式で算出されます。
譲渡所得 = 売却価格 – (取得費 + 譲渡費用)
この計算式にある「取得費」に、相続登記にかかった司法書士報酬や登録免許税を含めることができます。取得費が大きいほど、計算上の利益(譲渡所得)が小さくなり、結果的に税金の負担を軽くすることができるのです。
取得費に加算する際の注意点
相続登記費用を取得費に加算する際には、一つ重要な注意点があります。それは、被相続人(亡くなった方)がその不動産をいくらで購入したか不明な場合に適用される「概算取得費(売却価格の5%)」を使うケースです。
先祖代々の土地などで購入時の契約書がなく取得費がわからない場合、売却価格の5%を取得費とみなして計算することが認められています。しかし、この概算取得費を使う場合は、相続登記費用を別途加算することはできません。あくまで、実際の取得費がわかる場合にのみ、登記費用を上乗せできると覚えておきましょう。
| 取得費の計算方法 | 相続登記費用の扱い |
| 実際の取得費(被相続人の購入代金など)がわかる場合 | 取得費に加算できる |
| 概算取得費(売却価格の5%)を使う場合 | 加算できない |
相続税申告における費用の扱い
ここまで所得税の話をしてきましたが、念のため相続税申告における費用の扱いについてもおさらいしておきましょう。相続税申告の費用や相続登記費用は、所得税だけでなく相続税の計算上も経費のような扱い(控除)はできないのでしょうか。
債務控除の対象にはならない
相続税の計算では、亡くなった方が残した借入金や未払金などを「債務」として遺産総額から差し引くことができます。これを債務控除といいます。しかし、税理士への相続税申告報酬や司法書士への登記費用は、亡くなった後に発生する費用であり、被相続人自身の債務ではありません。そのため、これらの費用は債務控除の対象外となります。
葬式費用との違い
相続税の計算上、例外的に控除が認められているのが「葬式費用」です。これは、社会的な慣習などから特別に認められているものです。税理士報酬や登記費用は、この葬式費用のような特別な控除の対象とはならないため、相続税額を直接減らす効果はない、ということになります。
確定申告をするときのポイント
相続登記費用を必要経費や取得費として正しく申告するために、いくつか押さえておきたいポイントがあります。
領収書や請求書は必ず保管する
経費として計上するための大原則ですが、支払いを証明する領収書や請求書、振込明細などの書類は必ず保管しておきましょう。税務調査などで確認を求められた際に、これらの証拠書類がないと経費として認められない可能性があります。
複数の不動産を相続した場合は按分が必要
例えば、収益物件であるアパートと、ご自身が住むことになる実家を同時に相続し、まとめて相続登記を行ったとします。この場合、司法書士に支払った報酬や登録免許税の総額のうち、どの部分がアパート(不動産所得の必要経費)に対応し、どの部分が実家(経費にならない)に対応するのかを分ける必要があります。
この場合、一般的にはそれぞれの不動産の固定資産税評価額など、合理的な基準で費用を按分して、収益物件に対応する金額だけを必要経費として計上します。
まとめ
今回は、相続税申告の費用や登記費用が、相続人の所得税申告で考慮できるかについて解説しました。最後にポイントを整理しておきましょう。
- 相続税申告の費用(税理士報酬):所得税の経費にも、相続税の債務控除にもならない。
- 相続登記の費用(司法書士報酬・登録免許税):
- 収益物件を相続し賃貸経営を続ける場合 → 不動産所得の「必要経費」になる。
- 相続した不動産を売却する場合 → 譲渡所得の「取得費」になる(※概算取得費の場合は除く)。
このように、相続にかかる費用は、その後の状況によって税務上の扱いが大きく異なります。ご自身のケースで費用を正しく計上し、適切に節税するためにも、この記事の内容を参考にしてみてください。もし判断に迷うことがあれば、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
相続関連費用の確定申告に関するよくある質問
Q.相続税申告を税理士に依頼した費用は、確定申告で経費にできますか?
A.いいえ、原則として経費にできません。相続税申告の費用は、個人の所得を得るために直接必要な費用とは見なされないためです。
Q.収益物件を相続した際の、司法書士への登記費用はどうなりますか?
A.その年の不動産所得を計算する際の「必要経費」に計上できます。これにより所得税や住民税を節税できます。
Q.相続した実家を売却しました。このときかかった登記費用は経費になりますか?
A.はい、不動産を売却した際の譲渡所得を計算するときの「取得費」に加算できます。これにより譲渡所得が減り、税金が安くなる効果があります。
Q.相続登記にかかる登録免許税も経費にできますか?
A.はい、司法書士報酬と同様に、収益物件なら「必要経費」、売却物件なら「取得費」として扱われます。
Q.なぜ相続税申告の費用は、相続税の計算上も控除できないのですか?
A.相続税の計算で控除できる債務は、亡くなった方が生前に負っていた借金などです。税理士報酬などは亡くなった後に発生する費用のため、債務控除の対象外となります。
Q.登記費用の領収書をなくしてしまいました。経費に計上できませんか?
A.経費計上には領収書などの証拠書類が原則必要です。請求書や銀行の振込記録などで代用できる場合もありますが、税務署に認められないリスクがあります。必ず保管しましょう。