ご家族から受け継いだ大切な相続財産。「このお金をどうしよう…」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。銀行に預けておくだけではもったいないけれど、投資は少し怖い気もしますよね。そんな中、注目されているのが「NISA(ニーサ)」を活用した資産運用です。この記事では、相続財産をNISAで運用する際のメリットとデメリット、そして知っておくべき注意点について、わかりやすく丁寧にご紹介します。
NISAの基本をおさらい!新NISAで何が変わった?
まずは、NISAがどんな制度なのか簡単におさらいしておきましょう。NISAは、個人投資家のための税制優遇制度です。通常、株式や投資信託などの金融商品に投資をして利益(配当金、分配金、譲渡益)が出ると、約20%の税金がかかります。しかし、NISA口座内で得た利益には、この税金がかからない、というとてもお得な制度なんです。
最大の魅力は「運用益が非課税」
NISAの最大のメリットは、なんといっても運用で得た利益が非課税になる点です。例えば、相続した資金のうち100万円を投資して、120万円に増えたとします。この場合、利益は20万円ですよね。通常の課税口座であれば、この20万円に対して20.315%、つまり約4万円の税金がかかります。しかし、NISA口座であればこの税金がゼロになり、20万円の利益をまるまる受け取ることができるのです。相続財産のようなまとまった資金を運用する場合、この非課税効果はとても大きなメリットになります。
新NISAのパワーアップしたポイント
2024年からNISA制度は「新NISA」として、さらに使いやすくパワーアップしました。以前の制度(旧NISA)と比べてどこが変わったのか、表で見てみましょう。
| 項目 | 新NISA(2024年〜) |
|---|---|
| 制度の期間 | 恒久化(いつでも始められる) |
| 非課税保有期間 | 無期限 |
| 年間投資上限額 | 最大360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円) |
| 生涯非課税保有限度額 | 最大1,800万円 |
| 口座開設期間 | 恒久化 |
特に、非課税で保有できる期間が無期限になったこと、そして年間に投資できる金額が大幅に増えたことで、長期的な視点でじっくりと資産を育てていくことが可能になりました。
知っておきたいNISAの注意点
メリットの大きいNISAですが、注意点もあります。まず、NISAは投資であるため、元本保証ではありません。購入した金融商品の価格が下落し、元本割れするリスクがあります。また、NISA口座で損失が出た場合、他の課税口座で出た利益と相殺する「損益通算」ができない点も覚えておきましょう。
相続財産をNISAで運用する3つのメリット
では、具体的に相続した財産をNISAで運用すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。主な3つのポイントをご紹介します。
運用益が非課税になり、効率的に資産を増やせる
先ほども触れましたが、やはり最大のメリットは運用益が非課税であることです。相続によってまとまった資金を手にした方がNISAを活用すれば、非課税の恩恵を大きく受けることができます。せっかく受け継いだ大切な資産ですから、税金の負担を抑えながら効率よく増やしていけるのは嬉しいポイントですよね。
いつでも引き出せる流動性の高さ
NISA口座で運用している資産は、iDeCo(個人型確定拠出年金)のように原則60歳まで引き出せないといった制限がありません。必要な時にはいつでも売却して現金化することができます。将来、住宅の購入資金や子どもの教育費など、急にまとまったお金が必要になった場合でも対応しやすいという安心感があります。
生前贈与と組み合わせて賢く資産承継
これは少し視点を変えた活用法ですが、相続対策としてもNISAは有効です。例えば、親が子どもに年間110万円の基礎控除の範囲内で生前贈与を行い、その資金を元手に子ども自身のNISA口座で運用するという方法です。これにより、親の財産を非課税で子どもに移転しながら、子どもは非課税のメリットを活かして資産形成ができます。将来の相続税対策にも繋がる賢い使い方と言えるでしょう。
相続財産をNISAで運用する際のデメリット・注意点
一方で、相続財産をNISAで運用するには、知っておかなければならないデメリットや注意点も存在します。特に相続が絡むと、通常とは異なるルールがあるのでしっかり確認しましょう。
年間投資上限額があるため一度に投資できない
新NISAの年間投資上限額は最大360万円です。そのため、例えば1,000万円の相続財産があったとしても、その全額を1年でNISA口座に入れることはできません。生涯非課税保有限度額の1,800万円を使い切るには、最短でも5年かかります。相続した財産が高額な場合は、数年に分けて計画的に投資していく必要があります。
重要!被相続人のNISA口座は引き継げない
これは非常に重要なポイントです。もし亡くなった方(被相続人)がNISA口座で資産を運用していた場合、相続人はそのNISA口座をそのまま引き継ぐことはできません。NISAの「非課税で運用できる権利」は、あくまで口座名義人本人だけのもので、相続はできないのです。被相続人が亡くなった時点でNISA口座での非課税期間は終了し、その中身の資産は相続人の「課税口座(特定口座や一般口座)」に移管されます。つまり、相続後は非課税の恩恵を受けられなくなります。
相続したNISA資産は取得価額が変わる
被相続人のNISA口座から相続人の課税口座へ資産が移管される際、その金融商品の取得価額は、被相続人が購入した時の価格ではなく、相続が発生した日(亡くなった日)の時価に変わります。例えば、被相続人が50万円で買った株が、亡くなった日に100万円になっていたとします。この株を相続した場合、相続人の取得価額は100万円となります。その後、この株が120万円に値上がりして売却すると、利益の20万円(120万円-100万円)に対して課税されることになります。被相続人が安く買っていたというメリットは引き継げない点を理解しておく必要があります。
NISA口座の資産を相続する手続きの流れ
もし、ご家族がNISA口座を持ったまま亡くなられた場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。一般的な流れは以下の通りです。
1. 金融機関への連絡:被相続人が取引していた証券会社や銀行に、口座名義人が亡くなったことを連絡します。
2. 必要書類の準備:金融機関から相続手続きに必要な書類の案内がありますので、それに従って書類を準備します。一般的には以下のような書類が必要です。
3. 遺産分割協議:相続人全員で、NISA口座にあった資産を誰が相続するのかを話し合います。決まった内容は遺産分割協議書にまとめます。
4. 相続人の課税口座へ移管:必要書類を金融機関に提出し、手続きが完了すると、被相続人のNISA口座にあった資産が、指定された相続人の課税口座へと移されます。
主な必要書類
| 書類の種類 | 概 要 |
|---|---|
| 非課税口座開設者死亡届出書 | 金融機関所定の書類です。 |
| 被相続人の戸籍謄本等 | 出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です。 |
| 相続人全員の戸籍謄本・印鑑証明書 | 誰が相続人であるかを証明するために必要です。 |
| 遺産分割協議書または遺言書 | 誰がその資産を相続するのかを証明する書類です。 |
NISAと相続税の気になる関係
NISAは運用益が非課税になる制度ですが、相続税との関係はどうなっているのでしょうか。ここも誤解しやすいポイントなので、しっかり押さえておきましょう。
NISA口座の資産はどう評価される?
相続税を計算する際、NISA口座にある上場株式などの金融資産は、以下の4つの価格のうち、最も低い価格で評価することになります。これは、株価の変動リスクを考慮した納税者に有利な評価方法です。
- 相続が発生した日(亡くなった日)の終値
- 相続が発生した月の毎日の終値の平均額
- 相続が発生した月の前月の毎日の終値の平均額
- 相続が発生した月の前々月の毎日の終値の平均額
NISA口座の資産も相続税の課税対象
最も大切なことは、NISAはあくまで投資で得た利益にかかる「所得税」が非課税になる制度だということです。したがって、NISA口座にある資産そのものが「相続税」の非課税対象になるわけではありません。NISA口座の資産も、預貯金や不動産などと同じように、被相続人の財産として相続税の課税対象となります。この点を混同しないように注意しましょう。
まとめ
相続財産をNISAで運用することは、運用益が非課税になるという大きなメリットがあり、大切な資産を効率的に増やすための有効な選択肢の一つです。特に2024年から始まった新NISAは、制度が恒久化され、非課税枠も拡大したことで、より使いやすくなりました。
一方で、相続財産が多額な場合は一度に全額を投資できない点や、被相続人が利用していたNISA口座の非課税メリットは引き継げないといった重要な注意点もあります。
相続という大きなライフイベントで受け取った大切な財産だからこそ、メリットとデメリットの両方をしっかりと理解し、ご自身のライフプランやリスク許容度に合わせて、計画的に活用していくことが大切です。もし判断に迷うことがあれば、専門家に相談することも検討してみましょう。
参考文献
相続財産をNISAで運用する際のよくある質問まとめ
Q.相続したお金をNISA口座で運用できますか?
A.はい、可能です。ただし、相続財産を直接NISA口座に入れることはできません。一度ご自身の銀行口座などに入金し、そこからNISA口座で金融商品を購入する流れになります。
Q.相続財産をNISAで運用するメリットは何ですか?
A.最大のメリットは、運用で得た利益(配当金・分配金・譲渡益)が非課税になる点です。通常約20%かかる税金がゼロになるため、効率的に資産を増やせる可能性があります。
Q.相続財産をNISAで運用するデメリットや注意点はありますか?
A.NISAは投資であるため、元本が保証されておらず、購入した金融商品の価格が下落するリスクがあります。また、年間の非課税投資枠には上限があるため、多額の相続財産を一度に投資できない場合があります。
Q.亡くなった親のNISA口座の株を、自分のNISA口座に引き継げますか?
A.いいえ、NISA口座の金融商品を直接引き継ぐことはできません。被相続人のNISA口座内の商品は、相続人の課税口座(特定口座など)に移管されます。非課税の恩恵は引き継がれません。
Q.相続税をNISAで節税することはできますか?
A.いいえ、NISAは運用益を非課税にする制度であり、相続税そのものを減らす効果はありません。相続税を支払った後の財産を、非課税で効率よく運用するための制度です。
Q.相続財産が多額な場合、NISAをどう活用すれば良いですか?
A.NISAには年間投資枠の上限があります。そのため、数年に分けて計画的に投資を行うことが一般的です。ご自身のライフプランに合わせて、長期的な視点で資産形成に活用することをおすすめします。