親などから大切な財産を相続したけれど、銀行に預けたままでは物価上昇(インフレ)で価値が目減りしてしまうかもしれない…そんな不安をお持ちではありませんか?この記事では、相続財産を「ETF」という金融商品で運用する方法について、投資初心者の方にも分かりやすく解説します。メリットや注意点、具体的な始め方まで、一緒に学んでいきましょう。
そもそもETFって何?相続財産での運用は可能?
「相続したお金で投資なんて、ちょっと怖いな」と感じるかもしれませんね。でも、ETFの仕組みを知れば、その不安も少し和らぐはずです。まずは基本から押さえていきましょう。
ETF(上場投資信託)の基本
ETFは「Exchange Traded Fund」の略で、日本語では「上場投資信託」といいます。特定の株価指数(例えば、日経平均株価やアメリカのS&P500など)と同じような値動きを目指すように運用される投資信託の一種です。一番の特長は、株式と同じように証券取引所に上場しているため、取引所の開いている時間ならいつでもリアルタイムで売買できる点です。たくさんの会社の株を少しずつ集めた「詰め合わせパック」のようなイメージを持つと分かりやすいかもしれません。
なぜ相続財産を運用するの?
相続した財産を、なぜわざわざ運用する必要があるのでしょうか。それは、「インフレから資産価値を守るため」という大きな理由があります。例えば、今の1,000万円が、物価が年2%上昇する世界では、1年後には実質的に980万円分の価値しかなくなってしまいます。銀行預金の金利が0.001%といった超低金利の状況では、預けているだけでは資産は実質的に減っていくのです。そこで、インフレ率を上回るリターンが期待できる運用が必要になります。
相続した財産はETFで運用できる
はい、もちろん運用できます。遺産分割協議が終わり、ご自身の相続分として受け取った預貯金を元手にETFを購入することが可能です。また、もし株式や投資信託などを相続した場合は、それらを一度売却して現金化し、その資金で改めてご自身の運用方針に合ったETFを買い直すこともできます。大切なのは、相続手続きをきちんと完了させてから運用を始めることです。
相続財産をETFで運用するメリット
では、数ある投資商品の中で、なぜETFが相続財産の運用先として注目されているのでしょうか。その具体的なメリットを見ていきましょう。
少額から始められる分散投資
最大のメリットは、手軽に「分散投資」ができることです。例えば、TOPIX(東証株価指数)に連動するETFを1つ買うだけで、日本の主要な企業約2,000社に少しずつ投資したのと同じ効果が得られます。もし1社が倒産しても、全体への影響はごくわずかです。このようにリスクを抑えられる分散投資を、数万円程度の少額から始められるのがETFの大きな魅力です。
コストが比較的安い
投資には「手数料」がかかりますが、ETFは運用中にかかるコスト(信託報酬)が非常に低い傾向にあります。一般的な投資信託では年率1%以上のものも珍しくありませんが、人気のETFでは年率0.1%を下回るものも多くあります。たった数パーセントの違いに思えるかもしれませんが、この差は10年、20年と長期で運用するほど、最終的な手取り額に大きな影響を与えます。
透明性が高く分かりやすい
ETFは、日経平均株価などの特定の指数に連動するため、ニュースで「今日の株価は上がった・下がった」と聞けば、自分の資産がどう動いたかをおおよそ把握できます。また、どのような銘柄(会社)で構成されているかも公開されているため、「自分が何に投資しているのか分からない」という状況になりにくいのも安心できるポイントです。
換金性が高い
ETFは株式と同じように、証券取引所が開いている時間帯であれば、いつでも好きなタイミングで売買できます。そのため、「急な出費でお金が必要になった」という時でも、スムーズに現金化しやすいというメリットがあります。これを「換金性が高い」といいます。
知っておきたいデメリットと注意点
もちろん、ETFにもデメリットや注意すべき点があります。良い面だけでなく、リスクもしっかりと理解した上で判断することが大切です。
元本保証ではない(価格変動リスク)
最も重要な注意点は、ETFは預貯金と違って元本保証ではないということです。市場の状況、例えば世界的な経済不安などが起これば、購入した時よりも価格が下落し、資産が目減りする「元本割れ」の可能性があります。短期的な価格の変動に一喜一憂せず、長期的な視点で資産を育てる心構えが必要です。
分配金に課税される
ETFを保有していると、企業でいう配当金のような「分配金」が支払われることがあります。この分配金は利益とみなされるため、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて合計20.315%(2024年時点)の税金がかかります。受け取った金額がそのまま手元に残るわけではないことを覚えておきましょう。
相続したNISA口座は引き継げない
もし亡くなった方がNISA(少額投資非課税制度)口座でETFを運用していた場合、残念ながら相続人はその非課税の恩恵を引き継ぐことはできません。相続したETFは、相続人の課税口座(特定口座や一般口座)に移管されます。そのため、移管後に得られる分配金や、売却して得た利益には通常通り税金がかかってしまいます。
相続財産でETFを始める具体的なステップ
「自分にもできそう」と感じていただけましたか?ここでは、実際に相続財産でETF運用を始めるための簡単な4つのステップをご紹介します。
STEP1. 証券会社の口座を開設する
ETFの売買には、証券会社の口座が不可欠です。最近では、スマートフォンで手軽に口座開設ができ、手数料も安いネット証券が人気です。いくつかの会社を比較して、ご自身に合った証券会社を選びましょう。
STEP2. 相続財産を口座に入金する
無事に証券口座が開設できたら、相続した預貯金の中から運用に回す資金をその口座に入金します。生活に必要な資金や、近い将来に使う予定のあるお金は必ず手元に残し、当面使う予定のない「余裕資金」で始めることが鉄則です。
STEP3. 運用するETFを選ぶ
証券会社のサイトでは、たくさんのETFが紹介されています。初心者の方であれば、まずは全世界の株式に広く分散投資するタイプ(通称:オルカン)や、アメリカの代表的な500社に投資するタイプ(S&P500連動型)など、投資対象が広く分散されているものが分かりやすく、おすすめです。
STEP4. ETFを購入する
入金が完了し、投資したいETFが決まったら、いよいよ購入です。証券会社の取引画面で、買いたいETFの銘柄名や銘柄コードを入力して検索し、購入したい口数または金額を指定して注文を出します。これであなたも投資家デビューです。
相続したETFの評価と相続税
現金ではなく、ETFそのものを相続するケースもあります。その場合の相続税の計算は少し特殊ですが、知っておくと有利になることもあるので、確認しておきましょう。
ETFの相続税評価額の計算方法
ETFの相続税評価額は、上場株式と同じルールで計算されます。具体的には、以下の4つの価格のうち、最も低い価格を選んで評価額とすることができます。これにより、相続税の負担が少し軽くなる可能性があります。
| 評価の基準となる価格 | 内 容 |
| 相続開始日(亡くなった日)の終値 | 当日が休日の場合は、その日に最も近い平日の終値を使います。 |
| 相続開始月の毎日の終値の月平均額 | 亡くなった月の、取引があった日すべての終値を平均した額です。 |
| 相続開始月の前月の毎日の終値の月平均額 | 亡くなった月の、前の月の終値の平均額です。 |
| 相続開始月の前々月の毎日の終値の月平均額 | 亡くなった月の、2ヶ月前の終値の平均額です。 |
取得費加算の特例について
もし相続税を納めた方が、相続開始の翌日から3年10ヶ月以内にその相続したETFを売却した場合、「取得費加算の特例」という制度を使える可能性があります。これは、支払った相続税額の一部を、ETFの取得費(買った値段)に上乗せできる制度です。取得費が大きくなることで、売却益が小さくなり、結果として利益にかかる所得税などを抑えることができます。
まとめ
相続財産をETFで運用することは、インフレから大切な資産を守り、将来のために賢く育てていくための有効な選択肢の一つです。少額から始められる分散投資、低コスト、分かりやすさといったメリットがある一方で、元本割れのリスクも存在します。全ての財産を一度に投資するのではなく、まずは少額から、長期的な視点で始めてみてはいかがでしょうか。この記事が、あなたが大切な資産と向き合うための一助となれば幸いです。
参考文献
国税庁 No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
相続財産のETF運用に関するよくある質問まとめ
Q.なぜ相続財産をETFで運用するのがおすすめなのですか?
A.低コストで世界中の資産に分散投資でき、リスクを抑えながらインフレに強い資産運用が期待できるためです。現金で保有するよりも資産価値の目減りを防ぎやすいメリットがあります。
Q.相続財産をETFで運用する際の注意点は何ですか?
A.元本保証はなく、市場の変動で資産価値が下落するリスクがあります。また、遺産分割協議で相続人全員の合意を得てから運用を始めることがトラブル回避のために重要です。
Q.相続した財産でETF運用を始めるにはどうすればいいですか?
A.まず証券会社の口座を開設します。遺産分割協議を経てご自身の財産になった資金を入金し、運用したいETFの銘柄を選んで購入するという流れが一般的です。
Q.ETFの運用で得た利益にかかる税金について教えてください。
A.ETFの売却益や分配金には、原則として20.315%の税金がかかります。ただし、NISA(少額投資非課税制度)を活用することで、一定の範囲内であれば非課税で運用できます。
Q.初心者にはどのようなETFがおすすめですか?
A.全世界の株式や米国のS&P500など、広範な市場の株価指数に連動するインデックス型のETFがおすすめです。これらは分散効果が高く、低コストで運用できる特徴があります。
Q.相続税を支払った後でないと運用は始められませんか?
A.遺産分割が完了していれば、相続税の納税前に運用を始めること自体は可能です。ただし、相続税の納税資金を確保しておくことが最優先です。納税資金分は現金で残しておきましょう。