確定申告をして税金が手元に戻ってくると、とても嬉しい気持ちになりますよね。しかし、その翌年に送られてきた国民健康保険料などの通知書を見て、「なぜか社会保険料が大幅に増加している」と驚かれた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、良かれと思って行った確定申告が原因で、税金の還付額以上に社会保険料の負担が増えてしまうケースがあるのです。この記事では、確定申告による還付と社会保険料の計算の仕組み、そしてどのような場合に社会保険料が増加してしまうのかを、具体的な金額などを交えながらわかりやすく解説していきます。
確定申告による還付と社会保険料の関係
まずは、税金が戻ってくる仕組みと、それがどのように社会保険料に影響するのかという基本的な関係性について一緒に見ていきましょう。税金と社会保険料は別々の仕組みで計算されているため、片方でお得になっても、もう片方で負担が増えるという逆転現象が起こることがあります。
確定申告で税金が還付される仕組み
確定申告を行うと、1年間の正しい所得をもとに税金が再計算されます。その結果、あらかじめ源泉徴収などで納めていた税金が本来の税額を上回っていた場合に、その差額が還付金として戻ってきます。たとえば、医療費控除を利用したり、上場株式等の売却損と配当金を損益通算したりすることで、課税される所得が減り、還付を受けられる仕組みです。
| 還付が発生しやすい主なケース | 具体的な内容 |
|---|---|
| 医療費が年間10万円を超えた場合 | 医療費控除の適用により所得税が減額 |
| 株の売却損と配当金を相殺した場合 | 損益通算により配当金から天引きされた税金が還付 |
税金の計算と社会保険料の計算の違い
所得税は、その年の所得に対してかかる国への税金です。一方、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料などの社会保険料は、前年の所得をもとにして市区町村が計算し、翌年度の保険料として決定されます。ここで重要なのは、確定申告で申告した所得の金額が、そのまま翌年の社会保険料の計算基礎として市区町村に共有されるという点です。
所得税は減っても社会保険料は増えるケースがある
医療費控除などの所得控除を追加するだけであれば、所得金額自体は増えないため社会保険料が上がることはありません。しかし、上場株式等の配当金や売却益のように、本来なら申告不要制度を選んで申告しなくてもよい収入をあえて確定申告してしまうと、その収入が「あなたの所得」として合算されてしまいます。結果として所得税は還付されても、所得金額全体が増加したとみなされ、翌年の社会保険料が跳ね上がってしまうのです。
社会保険料が増加する主な原因と具体的な申告内容
それでは、どのような申告をすると社会保険料が増加してしまうのでしょうか。ここでは、多くの方が直面しやすい具体的な原因と、その申告内容について詳しく解説していきます。
上場株式等の配当や譲渡益を申告した場合
証券会社の特定口座(源泉徴収あり)で得た上場株式等の配当金や売却益は、利益の約20.315パーセントの税金が天引きされているため、原則として確定申告は不要です。しかし、過去の売却損と相殺するために確定申告を行うと、その配当金などの金額が合計所得金額に加算されてしまいます。たとえば、配当金が年間50万円あった場合、これを申告すると所得が50万円増えたものとして社会保険料が計算されてしまいます。
| 申告方法の選択 | 社会保険料への影響 |
|---|---|
| 申告不要制度を選択(申告しない) | 所得に加算されないため保険料はそのまま |
| 総合課税・申告分離課税で申告する | 所得に加算されるため保険料が増加する可能性大 |
副業などの雑所得を確定申告した場合
会社員の方が副業で得た収入は、年間20万円以下であれば所得税の確定申告をしなくてもよいというルールがあります。しかし、源泉徴収された税金を取り戻したいなどの理由で、あえて20万円以下の雑所得を確定申告した場合、その副業の所得も国民健康保険料などの計算に含まれることになります。少額の還付金のために、かえって社会保険料の負担が増えてしまうことがあるため注意が必要です。
国民健康保険料や後期高齢者医療保険料への影響
会社員が加入する健康保険(社会保険)の場合、保険料は毎月の給与額(標準報酬月額)を基準に決まるため、株式の配当などを確定申告しても影響はありません。しかし、自営業の方などが加入する国民健康保険や、75歳以上の方が加入する後期高齢者医療保険の場合、確定申告で増えた所得の約10パーセント前後が保険料として上乗せされることがあります。所得が100万円増えれば、年間で約10万円も保険料が高くなる可能性があるのです。
| 加入している健康保険の種類 | 確定申告による保険料への影響 |
|---|---|
| 会社員の健康保険(社会保険) | 給与が基準となるため原則として影響なし |
| 国民健康保険・後期高齢者医療保険 | 確定申告した所得が加算され保険料が増加する |
確定申告する前に確認すべき注意点
少しでも手元にお金を残すためには、目先の税金の還付だけでなく、翌年の社会保険料まで見据えた慎重な判断が求められます。ここでは、確定申告の前に確認しておきたい大切なポイントをお伝えします。
申告不要制度の活用を検討する
上場株式等の配当や源泉徴収ありの特定口座での売却益については、あえて確定申告を行わない申告不要制度を選ぶことが、多くの場合で社会保険料を抑える有効な手段となります。確定申告をして数万円の税金が戻ってきても、翌年の国民健康保険料がそれ以上に上がってしまっては本末転倒ですよね。申告をする前に、本当に申告が必要かどうかを立ち止まって考えてみましょう。
社会保険料の増加額と還付額のシミュレーション
申告を迷ったときは、実際にどのくらいの金額が変わるのかをシミュレーションしてみることが大切です。たとえば、申告によって所得税と住民税が合計で3万円還付されるとします。しかし、申告によって所得が50万円増え、国民健康保険料の料率が約10パーセントだった場合、翌年の保険料は約5万円増加します。このケースでは、トータルで2万円の損をしてしまう計算になります。
医療費の自己負担割合への影響も確認する
70歳以上の方の場合、確定申告によって所得が増えると、病院の窓口で支払う医療費の自己負担割合が上がってしまうリスクもあります。一定の所得を超えると、それまで1割または2割負担だった方が、現役並みの3割負担に変更されることがあります。長期間にわたって医療費の負担が増えることは、家計にとって非常に大きな痛手となります。
| 年齢と所得の目安(単身の場合) | 病院での自己負担割合 |
|---|---|
| 75歳以上で課税所得が145万円未満 | 原則1割または2割負担 |
| 75歳以上で課税所得が145万円以上など | 現役並みの3割負担 |
ご家族への影響(配偶者控除・扶養控除)
確定申告による所得の増加は、ご自身の社会保険料だけでなく、ご家族の税金や社会保険にも思わぬ影響を及ぼすことがあります。家族全体で負担が増えないように、一緒に確認していきましょう。
配偶者控除が外れてしまうケース
専業主婦(夫)の方などが、ご自身の名義で上場株式等の配当金や売却益を確定申告した場合、その金額がご自身の「合計所得金額」として計算されます。配偶者控除を受けるための条件は、年間の合計所得金額が48万円以下であることです。もし申告によって所得が48万円を超えてしまうと、パートナーの方の税金計算から配偶者控除が外れ、パートナーの所得税や住民税が高くなってしまいます。
扶養に入っている家族が申告する場合の注意点
親御さんやお子さんが扶養に入っている場合も同様です。たとえば、年金暮らしの親御さんが株式の売却損と配当を相殺するために確定申告を行い、その結果として合計所得金額が48万円を超えてしまうと、お子さんであるあなたの扶養控除が外れてしまいます。さらに、親御さんご自身の国民健康保険料や介護保険料も連動して上がってしまう可能性があるため、申告は慎重に行う必要があります。
今後気をつけるべき制度変更と対策
税金や社会保険の制度は毎年のように見直されています。過去にはできた対策が、現在はできなくなっていることもありますので、最新のルールを正しく知っておくことが大切です。
所得税と住民税の課税方式の統一(令和6年度以降)
以前は、所得税では確定申告をして還付を受けつつ、住民税では「申告不要」を選んで社会保険料の増加を防ぐという便利な方法がありました。しかし、令和6年度(令和5年分の確定申告)からは制度が変更され、所得税と住民税の課税方式が完全に統一されました。つまり、所得税で確定申告を行うと、自動的に住民税でも申告したことになり、社会保険料の計算に必ず反映されるようになったのです。
事前に制度を理解して損をしない申告を
このように、制度の変更によって「確定申告をすれば必ずお得になる」という時代ではなくなりました。税金の還付額、社会保険料の増加額、医療費の自己負担割合、そしてご家族の扶養控除など、すべての影響を総合的に比較して判断しなければなりません。ご自身のケースでどちらが有利になるか迷った場合は、申告期限の前に市区町村の窓口などで具体的な影響額を確認することをおすすめします。
まとめ
確定申告で税金の還付を受けると、手元にお金が戻ってくるためお得に感じますが、上場株式等の配当や売却益を申告したことによって合計所得金額が増加し、翌年の国民健康保険料や後期高齢者医療保険料が跳ね上がってしまうケースが非常に多く見られます。また、令和6年度からは所得税と住民税の課税方式が統一されたため、これまでのように「所得税だけ申告する」というテクニックが使えなくなりました。目先の還付金だけでなく、社会保険料の増加や医療費の自己負担割合への影響、ご家族の扶養枠なども含めてトータルで損得を計算し、本当に確定申告をすべきかどうかを慎重に見極めるようにしましょう。
参考文献
社会保険料と確定申告のよくある質問まとめ
Q.確定申告で税金が戻ってきたのに、国民健康保険料が上がったのはなぜですか?
A.確定申告によって株式の配当や売却益、副業の収入などを所得として申告したため、国民健康保険料の計算基礎となる総所得金額等が増加したことが原因と考えられます。
Q.会社員でも確定申告をすると翌年の社会保険料は上がりますか?
A.会社員が加入する健康保険の保険料は毎月の給与額を基準に決まるため、副業や株式の確定申告をしても原則として社会保険料は上がりません。影響があるのは国民健康保険などに加入している方です。
Q.所得税と住民税で異なる申告方法を選ぶことはできますか?
A.令和6年度(令和5年分)の申告から所得税と住民税の課税方式が統一されたため、所得税で確定申告をした場合は住民税でも必ず申告したことになり、異なる方式は選べなくなりました。
Q.親が株式の配当を確定申告すると私の税金に影響しますか?
A.親御さんの申告により合計所得金額が48万円を超えた場合、あなたの扶養親族から外れることになり、結果としてあなたの所得税や住民税が高くなる可能性があります。
Q.医療費控除だけを申告しても社会保険料は上がりますか?
A.医療費控除は所得から差し引かれる「所得控除」であり、所得金額そのものを増やすものではないため、医療費控除の申告だけで社会保険料が上がることはありません。
Q.申告した方が得か損か、どうやって調べればよいですか?
A.還付される所得税と住民税の合計額と、増加する見込みの国民健康保険料などの額をシミュレーションして比較します。具体的な保険料の計算はお住まいの市区町村窓口で確認することができます。