ご家族が亡くなられて相続税の申告を終えた後、「税務署から連絡が来たらどうしよう…」と不安に思われる方は少なくありません。特に、税務署が故人(被相続人)の金融機関の口座を、一体どれくらい過去にさかのぼって調べるのか、気になりますよね。この記事では、税務署による金融機関の調査が何年間にわたって行われるのか、なぜ過去の取引まで詳しく調べるのか、そして私たちがどう備えればよいのかを、分かりやすく解説していきます。
税務署は金融機関の取引履歴を何年さかのぼる?
相続税の税務調査において、税務署が金融機関の取引履歴を調査する期間には、実は明確な「ここまで」という法律上の定めはありません。しかし、実務上の慣例や税務署が持つ権限から、ある程度の目安を知ることができます。
原則は過去3~5年、でも実際はもっと長い?
一般的に、税務調査では相続開始前3年から5年程度の預貯金の動きが重点的にチェックされることが多いと言われています。この期間に不自然なお金の動きや大きな出金があると、その使途について詳しく質問される可能性が高まります。ただし、これはあくまで一般的な目安に過ぎません。申告内容に疑わしい点が見つかった場合、調査はさらに過去へとさかのぼっていきます。
金融機関の取引履歴は最低10年分
ここで重要なのが、税務署は金融機関に対して、最低でも過去10年分の取引履歴の開示を求めることができるという点です。金融機関は法律によって、顧客の取引記録を10年間保管することが義務付けられています。税務署は国税通則法という法律に基づいて、納税者の同意がなくても金融機関に照会をかける強力な権限を持っています。そのため、税務調査の連絡が来た時点で、税務署はすでに10年分の取引データを把握していると考えておいた方がよいでしょう。
10年以上さかのぼるケースもある?
通常は10年が一つの区切りですが、例外的に10年以上前にさかのぼって調査が行われるケースもあります。例えば、以下のような場合です。
- 過去の相続で得た財産の確認:被相続人がさらに前の相続(例えば、ご自身の親からの相続)で不動産などを取得している場合、その財産が今回の相続財産に正しく含まれているかを確認するため、前回の相続時点まで調査が及ぶことがあります。
- 不動産購入資金の出所調査:何十年も前に購入した不動産の資金源が不明瞭な場合、その購入資金の出所を明らかにするために、購入時期までさかのぼって預金履歴が調べられることがあります。
なぜ過去の取引まで詳しく調べるの?
税務署がなぜこれほど念入りに過去の取引を調べるのか、その目的は「申告漏れとなっている財産がないか」を確認するためです。特に、以下の3つの点は重点的にチェックされます。
申告漏れが多い「名義預金」の確認
税務調査で最も指摘されやすいのが「名義預金」です。これは、口座の名義は配偶者やお子さん、お孫さんであっても、実質的には被相続人がそのお金を管理・使用していた預金のことを指します。例えば、おじいちゃんがお孫さんのために作った口座でも、通帳や印鑑をおじいちゃんが管理していて、お孫さんはその存在を知らなかった、というようなケースです。このような名義預金は、名義人のものではなく被相続人の相続財産として申告しなければなりません。税務署は過去の入金履歴を調べることで、そのお金の出所が誰なのかを突き止め、名義預金でないかどうかを判断します。
「生前贈与」が正しく行われているか
相続税対策として行われる生前贈与ですが、これも税務署が厳しくチェックするポイントです。特に、相続開始前3年以内の贈与(2024年1月1日以降の贈与については、段階的に7年間に延長)は、相続財産に加算して申告しなければならない「生前贈与加算」というルールがあります。これは、年間110万円の基礎控除内の贈与であっても対象となります。税務署は過去の口座の動きから、この期間内に行われた贈与がないかを確認し、申告漏れを指摘します。
タンス預金などの隠し財産がないか
被相続人の生前の収入状況などから予測される財産額と、申告された相続財産の額に大きな差がある場合、税務署は「タンス預金」などの隠し財産を疑います。過去に金融機関からまとまった現金が引き出されているにもかかわらず、その使い道がはっきりしない場合、「現金で自宅に保管しているのではないか」と判断されることがあります。過去の出金履歴を調べることは、こうした申告されていない財産を見つけ出すための重要な手がかりとなるのです。
税務署はどうやって情報を集めているの?
「税務署はどうしてそんなに詳しく知っているの?」と不思議に思うかもしれません。税務署は、私たちが想像する以上に多くの情報を収集・管理する仕組みを持っています。
KSKシステム(国税総合管理システム)
税務署は、KSKシステムという全国の納税者の申告や納税に関する情報を一元管理する巨大なデータベースを保有しています。これにより、被相続人の過去の所得税の確定申告状況や不動産の売買履歴などを瞬時に把握できます。この情報と相続税の申告内容を照らし合わせることで、不審な点を見つけ出しているのです。
金融機関への強力な調査権限
前述のとおり、税務署は法律に基づき、金融機関に対して預金残高や入出金履歴の照会をかけることができます。この調査は、被相続人の口座だけでなく、相続人やその家族など、関係者の口座にまで及ぶことがあります。これにより、家族間での不透明なお金の動きも把握されてしまいます。
市町村役場からの死亡届情報
市町村役場に死亡届が提出されると、その情報は自動的に税務署に通知される仕組みになっています。そのため、税務署は相続の発生を確実に把握しており、一定以上の財産があると見込まれる方については、申告書が提出されるのを待っている状態なのです。
税務調査の対象になりやすいケース
すべての申告に対して税務調査が行われるわけではありません。しかし、以下のようなケースは調査対象に選ばれやすいと言われています。
| 相続財産の総額が大きい | 一般的に、遺産総額が2億円を超えると調査の可能性が高まる傾向にあります。申告漏れがあった場合の追徴税額が大きくなるため、税務署も重点的に確認します。 |
| 申告内容に不審な点がある | 被相続人の収入に見合わない財産額(少なすぎる場合)や、過去の不動産売却代金が見当たらないなど、申告内容に矛盾点や不明点があると調査対象になりやすくなります。 |
| 税理士が関与していない申告 | ご自身で申告書を作成した場合、専門家ではないため計算ミスや財産の評価誤りが起こりやすく、税務署もより慎重に内容を確認する傾向があります。 |
もし申告漏れが見つかったらどうなる?
税務調査で申告漏れを指摘されると、本来納めるべきだった税金を追加で納める(追徴課税)だけでなく、ペナルティとして重い税金が課せられてしまいます。
ペナルティとしての加算税と延滞税
申告漏れの内容に応じて、以下のようなペナルティが課されます。意図的な財産隠しなど悪質と判断された場合には、非常に重い税負担となる可能性があります。
| ペナルティの種類 | 内容 |
| 過少申告加算税 | 申告額が本来より少なかった場合に課される税金です。原則として、追加で納める税額の10%(一定の要件を満たす場合は15%)が課されます。 |
| 無申告加算税 | 期限内に申告をしなかった場合に課される税金です。原則として、納付すべき税額の15%(一定の要件を満たす場合は20%)が課されます。 |
| 重加算税 | 財産を意図的に隠した場合など、悪質なケースに課される最も重い税金です。過少申告の場合は35%、無申告の場合は40%もの高い税率が課されます。 |
| 延滞税 | 法定納期限までに納税しなかった場合に、遅れた日数に応じて課される利息的な税金です。 |
まとめ
今回は、税務署が金融機関の口座をどれくらいさかのぼって調査するのかについて解説しました。結論として、税務署は最低でも過去10年分の取引履歴を調査できる強力な権限を持っていると覚えておくことが重要です。特に、申告漏れの起こりやすい「名義預金」や「生前贈与」については、厳しくチェックされます。相続税の申告は、専門的な知識が求められる複雑な手続きです。税務調査のリスクを減らし、正しく納税するためにも、不安な点があれば相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスを受けながら、安心して手続きを進めましょう。
参考文献
税務署の銀行調査に関するよくある質問まとめ
Q.税務調査では、銀行口座を何年前までさかのぼって調べられますか?
A.法律上の時効は原則5年、悪質な場合は最大10年さかのぼって調査される可能性があります。ただし、調査の必要性に応じてそれ以前の取引も確認されることがあります。
Q.税務署はいつでも自由に銀行口座を調査できるのですか?
A.いいえ。「質問検査権」に基づき、税務調査に必要な範囲でのみ調査が可能です。無制限に自由に見ることはできませんが、銀行への照会は納税者の同意がなくても行われます。
Q.相続税の調査では、どの範囲の口座が対象になりますか?
A.亡くなった方の口座だけでなく、相続人やその家族名義の口座も調査対象になることがあります。これは、生前贈与や名義預金がないかを確認するためです。
Q.過去の無申告は銀行調査でばれてしまいますか?
A.はい、ばれる可能性は非常に高いです。税務署は入出金の履歴から所得を推計できるため、過去の無申告所得を指摘されることがあります。
Q.税務署からの銀行調査を拒否できますか?
A.納税者自身が調査を拒否しても、税務署は法律に基づき金融機関へ直接照会する権限を持っています。金融機関には回答義務があるため、事実上、調査を拒否することはできません。
Q.どのような場合に銀行口座が調査されやすいですか?
A.売上や所得が急に増減した場合、不動産の売買など大きな資産の動きがあった場合、海外送金が多い場合、相続が発生した場合などが調査のきっかけになりやすいです。