ご両親から相続したご実家が空き家になっていて、売却を考えている方はいらっしゃいませんか?もし一定の要件を満たせば、売却で得た利益(譲渡所得)から最大3,000万円を控除できる、とてもお得な制度「空き家特例」が使えるかもしれません。特に2024年からは、買主が家を解体するケースでも特例が使いやすくなりました。ただ、その分注意すべき点や準備する書類も増えています。この記事では、空き家特例の基本から、新しい「買主解体」ケースの必要書類、トラブルを防ぐための契約書の書き方まで、わかりやすく解説していきますね。
空き家特例(3,000万円特別控除)とは?
まずは、この制度がどんなものなのか、基本からおさらいしましょう。正式名称は「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といいます。少し長い名前ですが、簡単に言うと「相続した空き家を売却した際に出た利益にかかる税金を、大幅に軽くしますよ」という制度です。増え続ける空き家を減らすことを目的に作られました。
制度の概要
この特例を使うと、空き家とその土地を売って得た譲渡所得から、最大で3,000万円を差し引くことができます。譲渡所得は「売却価格 − (取得費 + 譲渡費用)」で計算されますが、この計算で出た利益が3,000万円以下なら、特例を使えば所得税・住民税がかからなくなる、という非常に大きなメリットがあります。相続した家を売却するなら、絶対に知っておきたい制度ですね。
適用を受けるための主な要件
ただし、誰でもこの特例を受けられるわけではありません。いくつかの細かい要件をすべてクリアする必要があります。主なものを下の表にまとめましたので、ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
| 項目 | 主な要件 |
| 対象となる人 | 相続または遺贈によって家屋や敷地を取得した相続人であること。 |
| 対象となる家屋 | ・昭和56年5月31日以前に建築されたこと。 ・マンションなどの区分所有建物でないこと。 ・相続が始まる直前に、亡くなられた方(被相続人)が一人で住んでいたこと。 |
| 譲渡価額 | 売却した価格が1億円以下であること。 |
| 譲渡の期限 | 相続が始まった日から3年が経過する年の12月31日までに売却すること。 |
| その他の条件 | 相続してから売却するまで、事業用、貸付用、居住用として使っていないこと。 |
令和6年からの改正点
この空き家特例は、令和6年(2024年)1月1日以降の譲渡から、さらに使いやすくなる改正が行われました。特に重要なポイントは2つです。
| 改正ポイント | 内容 |
| 買主による解体・耐震改修 | これまでは売主が売却前に解体などを済ませる必要がありましたが、改正後は譲渡後に買主が解体や耐震改修を行う場合でも特例の対象になりました。売主の先行費用負担がなくなる大きなメリットです。 |
| 相続人が3人以上の場合 | 家屋と土地を相続した人が3人以上いる場合、1人あたりの控除額が3,000万円から2,000万円に引き下げられました。 |
空き家特例の申告に必要な書類
空き家特例を利用するためには、譲渡した翌年に行う確定申告で、たくさんの書類を提出する必要があります。特に重要なのが、市区町村が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」です。書類集めには時間がかかることもあるので、早めに準備を始めましょう。
全てのケースで必要な主な書類
どのパターンで売却するにしても、基本として以下の書類が必要になります。
- 確定申告書
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
- 売却した不動産の登記事項証明書
- 売買契約書のコピー
- 被相続人居住用家屋等確認書
売却のパターン別で必要な追加書類
売却の仕方によって、上記の基本書類に加えて、さらに追加で必要な書類があります。特に今回注目したい「買主が解体するケース」は、買主の協力が不可欠になります。
家屋はそのまま、または耐震リフォームして売却した場合
- 耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書の写し
売主が家屋を解体し、更地にして売却した場合
- 解体した家屋の閉鎖事項証明書
- 解体工事の請負契約書のコピー
- 解体後の敷地の写真
【今回のポイント】譲渡後に買主が解体する場合
- 買主が解体したことを証明する書類(家屋の閉鎖事項証明書など)
- 譲渡の時から、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに家屋を取り壊すことを約束した売買契約書のコピー
- (被相続人が老人ホーム等に入所していた場合)要介護認定を受けていたことを証明する書類や、施設の契約書など
譲渡後に買主が解体するケースの留意点
令和6年の改正で「買主解体」が認められ、売主にとっては非常に利用しやすくなりました。しかし、この方法は売主一人では手続きが完結しないため、いくつか知っておくべき大切な注意点があります。
なぜ買主解体が認められるようになった?
以前は、特例を使うには売主が先に自費で家を解体する必要がありました。解体費用は100万円以上かかることも多く、この金銭的な負担がネックとなり、特例の利用を諦める人も少なくありませんでした。そこで、売主の負担を減らし、もっと制度を利用しやすくするために、買主が購入後に解体する形でもOKということになったのです。
買主解体で特例を受けるための期限
このケースで最も重要なのが期限です。買主は、家屋を購入(譲渡)したときから、その年の翌年2月15日までに、解体工事または耐震改修工事を完了させなければなりません。この期限を1日でも過ぎてしまうと、売主は空き家特例を使えなくなってしまうので、本当に注意が必要です。
買主から書類をもらえないリスク
特例の申請には、買主が解体した後に法務局で手続きをして取得する「閉鎖事項証明書」などが必要です。つまり、買主の協力が絶対条件となります。もし買主が必要な書類の提供に協力してくれなかったり、手続きが遅れたりすると、売主が確定申告の期限に間に合わなくなってしまうリスクがあります。このリスクを避けるために、次の契約書の書き方がとても重要になります。
トラブル回避!契約書の書き方のポイント
「買主が期限までに解体してくれなかった」「必要書類を渡してくれない」といった最悪の事態を避けるため、売買契約書に特約条項として、買主の義務をはっきりと書き記しておくことが不可欠です。不動産会社の方とよく相談して、以下のポイントを盛り込むようにしましょう。
解体・耐震改修の義務を明記する
まず、買主が建物を解体する義務があることと、その期限を具体的に契約書に記載します。これにより、買主の責任が明確になります。
【文例】
「買主は、本物件の引渡し後、令和〇年〇月〇日まで(譲渡の年の翌年2月15日より前の日付を設定)に、自己の責任と負担において本物件上の建物を解体・撤去するものとします。」
協力義務と期限を具体的に記載する
次に、売主が特例を申請するために必要な書類の取得と提出について、買主が協力する義務があることを明記します。これにより、書類の受け渡しがスムーズになります。
【文例】
「買主は、前項の建物の解体・撤去後、速やかに建物滅失登記を申請し、登記事項証明書(閉鎖事項証明書)を取得するものとします。また、買主は、売主が『被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除』の適用を受けるために必要な一切の書類の取得に協力し、令和〇年〇月〇日までに売主へ交付するものとします。」
違約金についても定めておく
万が一、買主が約束を守らなかった場合に備えて、違約金に関する条項を入れておくことも有効な対策です。これにより、買主の義務履行を強く促すことができます。
【文例】
「買主が正当な理由なく前各項の義務を履行せず、その結果、売主が本特例の適用を受けられなかった場合、買主は売主に対し、違約金として金〇〇万円を支払うものとします。」
書類の取得先と手続きの流れ
最後に、具体的な手続きの流れと、重要書類である「被相続人居住用家屋等確認書」の取得方法について確認しておきましょう。
「被相続人居住用家屋等確認書」の取得方法
この確認書は、特例を申請する上で心臓部ともいえる書類です。これは、売却した空き家が所在する市区町村の役場(建築指導課など)で発行してもらいます。申請書に必要事項を記入し、登記事項証明書や売買契約書のコピーなど、たくさんの添付書類と一緒に提出します。申請してから発行までには1週間から10日程度、場合によってはそれ以上かかることもあります。確定申告の期限間際に慌てないよう、売却が終わったらすぐにでも手続きを始めることをお勧めします。
確定申告までのステップ
特例を利用するまでの大まかな流れは以下の通りです。
- 不動産会社に相談し、買主を見つける(買主解体の場合は、契約条件をしっかりすり合わせる)
- 売買契約を締結する(特約条項を忘れずに!)
- 物件の引き渡しと代金の決済を行う
- (買主が期限内に建物を解体する)
- 市区町村役場で「被相続人居住用家屋等確認書」を取得する
- 譲渡した年の翌年2月16日から3月15日までの間に、全ての必要書類を揃えて税務署で確定申告を行う
まとめ
空き家特例は、相続した実家の売却を考えている方にとって、税負担を大きく軽減できる非常に有利な制度です。特に令和6年からの改正で、買主解体のケースでも利用できるようになったことで、その活用の幅はさらに広がりました。しかし、その分、売主が注意すべき点や、買主との協力体制をしっかり築く必要性が増したことも事実です。トラブルを未然に防ぐためには、売買契約書に具体的な義務や期限を明記することが何よりも大切です。手続きが複雑で不安な場合は、税理士などの専門家に相談しながら進めるのが安心ですよ。
参考文献
空き家特例のよくある質問まとめ
Q.空き家特例とは、どのような制度ですか?
A.相続または遺贈により取得した被相続人の居住用家屋(空き家)を売却した際に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。これにより、売却にかかる所得税や住民税の負担を大幅に軽減することができます。
Q.家を買主が解体する場合でも、空き家特例は使えますか?
A.はい、令和6年1月1日以降の譲渡であれば、譲渡後に買主が家を解体または耐震改修した場合でも特例の対象となります。ただし、買主は譲渡の年の翌年2月15日までに解体等を完了させる必要があります。
Q.買主解体の場合、契約書には何を書けばよいですか?
A.トラブルを避けるため、①買主が建物を解体する義務とその期限、②売主が特例申請に必要な書類の取得に協力する義務、③約束が守られなかった場合の違約金、などを特約として明記することが重要です。
Q.特例に必要な「被相続人居住用家屋等確認書」はどこで取得できますか?
A.この確認書は、売却した空き家が所在する市区町村の役場(建築関連の部署など)で発行されます。申請には多くの添付書類が必要で、発行まで時間がかかるため、早めに手続きを開始することをおすすめします。
Q.相続人が複数いる場合、控除額はどうなりますか?
A.相続人それぞれが要件を満たせば控除を受けられます。ただし、令和6年1月1日以降の譲渡で、相続人が3人以上の場合は、1人あたりの控除額が3,000万円から2,000万円に引き下げられます。
Q.もし買主が期限までに解体しなかったらどうなりますか?
A.売主は空き家特例の適用を受けることができなくなります。そのような事態を防ぐためにも、契約書に解体の義務や期限、さらには違約金に関する条項を設けておくことが非常に重要です。