ご実家を相続したけれど、誰も住んでいない…そんな「空き家」をお持ちではありませんか?近年、日本中で空き家が増え続け、社会問題になっています。この状況を受け、2023年12月に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が改正され、「管理不全空き家」という新しい区分が作られました。これは、これまでのルールよりも厳しく、放置していると固定資産税が最大6倍になってしまう可能性もある、とても重要な変更なんです。この記事では、「管理不全空き家とは何か?」という基本から、どんな状態だと指定されてしまうのか、そしてそうならないための対策まで、分かりやすくお話ししていきますね。
そもそも「管理不全空き家」って何?
「管理不全空き家」とは、一言でいうと「このまま放っておくと、ご近所に迷惑をかけてしまう危険な空き家(特定空き家)になってしまいそうな状態の家」のことです。2023年12月13日に施行された改正空家等対策特別措置法によって、新たに設けられた区分です。これまでは、かなり危険な状態にならないと行政が介入しにくかったのですが、これからはその一歩手前の段階で、市区町村が所有者に対して管理を促せるようになりました。空き家をお持ちの方にとっては、これまで以上に適切な管理が求められるようになった、ということですね。
「特定空き家」との違いは?
「管理不全空き家」とよく似た言葉に「特定空き家」があります。この2つの違いを理解することがとても大切です。「特定空き家」は、すでに倒壊の危険があったり、衛生的に非常に悪い状態だったりと、周りに深刻な悪影響を与えている空き家のこと。いわば、危険度がMAXの状態です。それに対して「管理不全空き家」は、そこまで危険ではないけれど、「特定空き家の予備軍」と位置づけられています。違いを表にまとめてみました。
| 種類 | 状態のイメージ |
| 管理不全空き家 | ・壁にひび割れがある ・窓ガラスが数枚割れている ・雑草が生い茂り、害虫が発生しそう (特定空き家になる手前の状態) |
| 特定空き家 | ・家が大きく傾き、倒壊の危険がある ・ゴミが散乱し、ひどい悪臭がする ・外壁や屋根が剥がれ落ちそう (すでに危険で、周囲に悪影響を及ぼしている状態) |
このように、危険性のレベルが違うんですね。「管理不全空き家」の段階でしっかり対策をすれば、「特定空き家」という最悪の事態を防ぐことができるんです。
なぜ「管理不全空き家」が新設されたの?
なぜ、わざわざ新しい区分が作られたのでしょうか。それは、増え続ける空き家問題に、より早く、より効果的に対応するためです。これまでの「特定空き家」制度だけでは、問題が深刻化してからでないと行政が動けず、改善に時間も費用もかかってしまうケースが多くありました。そこで、危険な状態になる前の「予防」として、「管理不全空き家」という仕組みが導入されたのです。これにより、市区町村は早い段階で所有者に適切な管理をお願いし、地域全体の安全や住みやすい環境を守っていくことを目指しています。
うちの空き家は大丈夫?管理不全空き家の判断基準
「じゃあ、具体的にどんな状態だと管理不全空き家になってしまうの?」と心配になりますよね。国が示しているガイドラインを基に、チェックすべきポイントを具体的に見ていきましょう。あくまで目安ですが、一つでも当てはまる場合は注意が必要です。
保安上の基準(安全に関わること)
建物そのものや、敷地内のものが原因で、人にケガをさせてしまう可能性がある状態は危険です。
- 建物の構造部分(柱や梁など)に破損や腐食が見られる
- 壁にひび割れがあったり、一部が剥がれていたりする
- 窓ガラスが割れたままになっている
- 屋根瓦がずれたり、破損したりしている
- 門や塀が傾いていて、倒れそうになっている
- 庭の木が枯れていたり、枝が折れそうになったりしている
衛生上の基準(健康に関わること)
不衛生な状態は、悪臭や害虫・害獣の発生源となり、近隣住民の健康を脅かす可能性があります。
- 敷地内にゴミが散乱・放置されている
- 排水管が壊れて汚水が漏れ出している
- 雑草が生い茂り、蚊やハチなどの害虫が発生している
- ネズミやハクビシンなどの動物が住み着いている形跡がある
景観や生活環境への影響
直接的な危険はなくても、地域の景観を損なったり、生活に支障をきたしたりする状態も問題視されます。
- 外壁がひどく汚れていたり、落書きされたりしている
- 庭木や雑草が隣の家や道路にはみ出している
- 人の出入りがないのに、郵便受けがチラシでいっぱいになっている(不法侵入などのリスク)
これらの基準は、市区町村の職員が現地調査を行って判断します。もし近隣から通報などがあれば、調査の対象になる可能性もあります。
管理不全空き家に指定されるとどうなるの?
もし、お持ちの空き家が「管理不全空き家」と判断された場合、行政から段階的に改善を求める連絡が来ることになります。その流れと、最も注意すべきペナルティについてご説明します。
行政からの「指導」と「勧告」
まず、市区町村から所有者に対して「指導」が行われます。「お宅の空き家は少し管理が不十分なので、草刈りをしてくださいね」「割れた窓を修理してくださいね」といった形で、具体的な改善点について助言を受けることになります。この「指導」の段階で速やかに対応すれば、特に大きな問題にはなりません。
しかし、指導に従わず、放置し続けた場合、次のステップとして「勧告」が出されます。これは指導よりも重い措置で、「このままでは周辺環境に悪影響が出るため、期限までに改善しなさい」という、より強い要請です。
【要注意】固定資産税が最大6倍に!
ここが今回の法改正で最も重要なポイントです。「勧告」を受けてしまうと、その空き家が建っている土地の「住宅用地の特例」が解除されてしまいます。
「住宅用地の特例」とは、人が住むための家が建っている土地の固定資産税を大幅に安くしてくれる制度です。この特例がなくなると、税金がどうなるか見てみましょう。
| 土地の面積 | 固定資産税の軽減率(特例適用時) |
| 200㎡以下の部分(小規模住宅用地) | 評価額の6分の1に減額 |
| 200㎡を超える部分(一般住宅用地) | 評価額の3分の1に減額 |
つまり、「勧告」によってこの特例が適用されなくなると、200㎡以下の土地であれば固定資産税が最大で6倍、200㎡を超える部分でも最大3倍に跳ね上がってしまう可能性があるのです。管理を怠ったことによる金銭的な負担は、決して小さくありません。
なぜ空き家は増え続けてしまうのか
そもそも、なぜ適切に管理されない空き家が増えてしまうのでしょうか。その背景には、いくつかの社会的な要因があります。
相続がきっかけになるケース
空き家が生まれる最も多い原因は「相続」です。親が亡くなって実家を相続したものの、子どもはすでに別の場所で家庭を築いており、実家に戻って住む予定がない、というケースは非常に多くあります。実家が遠方にあれば、定期的に管理しに行くのも大変ですよね。また、兄弟姉妹など複数の相続人がいる場合、売却するのか、誰が管理するのかといった話し合いがまとまらず、結果的に放置されてしまうことも少なくありません。
固定資産税の問題
「使わないなら更地にしてしまえばいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、これまでは建物を解体して更地にすると、先ほどご説明した「住宅用地の特例」が適用されなくなり、固定資産税が高くなってしまうという問題がありました。そのため、「とりあえず家を残しておいた方が税金が安い」と考え、特に活用する予定がなくても建物をそのままにしているケースが多かったのです。今回の法改正は、こうした「とりあえず放置」のリスクを高めることで、所有者に適切な管理や活用を促す狙いもあります。
管理不全空き家にしないための対策
では、大切な資産である空き家を、問題のある「管理不全空き家」にしないためには、どうすれば良いのでしょうか。具体的な対策を3つご紹介します。
定期的な管理を心がける
ご自身で管理できる距離にある場合は、最低でも月に1回は訪れて、状態をチェックすることが基本です。具体的には、以下のようなことを行いましょう。
- 全ての窓や扉を開けて空気の入れ替えをする(カビや湿気を防ぎます)
- 郵便受けを空にする(放火や不法侵入のリスクを減らします)
- 庭の草むしりや木の剪定をする
- 雨漏りや建物の傷みがないか、外から見て確認する
定期的に人の手が入っていることが分かると、建物の劣化を防ぐだけでなく、防犯上の効果も期待できます。
売却や賃貸を検討する
「今後も住む予定がない」「管理が負担だ」と感じる場合は、元気なうちに売却や賃貸に出すことを検討しましょう。空き家も時間が経てば経つほど老朽化が進み、資産価値が下がってしまいます。まだ家が傷んでいない状態であれば、高く売れたり、借り手が見つかったりする可能性も高まります。地域の不動産会社に相談すれば、査定や活用方法についてアドバイスをもらえますよ。
空き家管理サービスの活用
「遠方に住んでいて自分で管理できない」「高齢で体力的に難しい」という方には、専門の空き家管理サービスを利用するのも一つの手です。費用はかかりますが、専門のスタッフが定期的に巡回し、換気や清掃、庭の手入れ、状況報告などを行ってくれます。行政からの指導を受けるリスクや、ご近所とのトラブルを未然に防ぐことができるので、安心のための投資と考えることもできます。
まとめ
今回は、2023年12月から始まった新しい制度「管理不全空き家」について詳しくお話ししました。この法改正によって、空き家を所有していることの責任は、以前よりもずっと重くなりました。ポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 「管理不全空き家」は、放置すると危険な「特定空き家」になる手前の状態。
- 市区町村から改善の「勧告」を受けると、固定資産税が最大6倍になる可能性がある。
- そうならないためには、定期的な管理が不可欠。
- 自分で管理できない場合は、売却や管理サービスの利用も早めに検討する。
空き家の問題は、先延ばしにすればするほど、解決が難しくなってしまいます。ご自身の資産を守り、地域社会に迷惑をかけないためにも、この機会にご自身の空き家とどう向き合っていくか、ぜひ一度考えてみてくださいね。
参考文献
管理不全空き家のよくある質問まとめ
Q.管理不全空き家とは何ですか?
A.そのまま放置すると、より危険な「特定空き家」になる恐れがある状態の空き家のことです。2023年の法改正で新たに設けられた区分で、特定空き家の予備軍と位置づけられています。
Q.管理不全空き家と特定空き家の違いは何ですか?
A.管理不全空き家は特定空き家になる手前の段階です。管理不全空き家には行政からの「指導」が入りますが、罰則はありません。一方、特定空き家は「勧告」や「命令」の対象となり、従わない場合は罰金や行政代執行の可能性があります。
Q.管理不全空き家に指定されるとどうなりますか?
A.市区町村から建物の修繕や清掃など、適切な管理を行うよう「指導」を受けます。この指導を無視して状態が悪化すると、特定空き家に移行する可能性があります。
Q.管理不全空き家になると固定資産税は上がりますか?
A.いいえ、管理不全空き家に指定されただけでは固定資産税は変わりません。しかし、状態が悪化し「特定空き家」に指定され「勧告」を受けると、住宅用地の特例が適用されなくなり、固定資産税が最大6倍になることがあります。
Q.管理不全空き家の指定を解除する方法はありますか?
A.はい、あります。行政からの指導内容に基づき、庭木の剪定、外壁の修繕、ゴミの撤去などを行い、空き家の状態を改善することで指定は解除されます。
Q.管理不全空き家にならないための対策はありますか?
A.定期的な見回り、清掃、換気、庭の手入れなどを行い、建物の状態を良好に保つことが重要です。ご自身での管理が難しい場合は、売却や賃貸、空き家管理サービスの利用などを検討しましょう。