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経営承継円滑化法の民法特例を解説!遺留分の問題をスッキリ解決

2025-02-01
目次

会社の事業承継を考えたとき、大きな課題となるのが「相続」の問題です。特に、後継者以外の相続人が持つ「遺留分」が、株式の分散を招き、経営の安定を脅かすことがあります。そんな悩みを解決するために設けられたのが「経営承継円滑化法」です。

経営承継円滑化法とは?事業承継をサポートする法律

中小企業の事業承継は、日本の経済にとって非常に重要な課題です。経営者の高齢化が進む中で、スムーズに次の世代へバトンタッチできなければ、貴重な技術や雇用が失われてしまうかもしれません。そこで、国は事業承継を後押しするために「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」、通称「経営承継円滑化法」を制定しました。この法律は、税制面、金融面、そして民法の特例という3つの柱で、中小企業の事業承継を強力にサポートしてくれるんです。

なぜ民法の特例が必要なの?

事業承継では、会社の株式や事業用資産を後継者に集中させることが不可欠です。しかし、会社の資産の多くが先代経営者の個人資産である場合、後継者への財産の集中は、他の相続人の「遺留分」を侵害してしまう可能性が高くなります。遺留分とは、兄弟姉
妹以外の法定相続人に最低限保障されている遺産の取り分のこと。もし他の相続人が遺留分を主張(遺留分侵害額請求)すると、後継者はその分を金銭で支払わなければならず、最悪の場合、会社の株式を手放さざるを得ない状況にもなりかねません。これが株式の分散を招き、経営の不安定化につながるのです。このような事態を防ぐために、民法の特例が設けられました。

遺留分制度の課題点

通常の遺留分制度には、事業承継においていくつかの課題があります。まず、遺留分侵害額請求をされると、後継者は多額の資金を用意する必要が出てきます。会社の株式は評価額が高額になりやすく、その支払いのために会社の経営が圧迫されることも少なくありません。また、生前贈与で株式を後継者に渡しても、その贈与は遺留分の計算対象(特別受益)となります。しかも、贈与された株式の価値が後継者の努力で上がったとしても、相続開始時の高い評価額で遺留分が計算されてしまうため、後継者の経営努力が報われにくいという問題もありました。

経営承継円滑化法の支援内容

経営承継円滑化法では、事業承継を円滑に進めるために、以下のような支援策が用意されています。今回は、この中の「遺留分に関する民法の特例」に焦点を当てて解説していきますね。

支援の種類 概  要
税制支援(事業承継税制) 後継者が相続・贈与で取得した自社株式にかかる相続税・贈与税の納税が猶予・免除される制度です。
金融支援 事業承継に必要な資金(自社株の買取資金など)の融資を受けやすくなる制度です。信用保証枠の拡大などの支援があります。
遺留分に関する民法の特例 後継者への自社株の生前贈与について、遺留分の対象から外したり、評価額を固定したりできる制度です。

民法特例の具体的な内容

では、具体的に民法特例でどのようなことができるのでしょうか。この特例を利用するには、後継者を含む推定相続人全員の合意が必要です。その上で、主に2つの大きな特例(合意)を結ぶことができます。これらの合意によって、将来の遺留分トラブルを未然に防ぐことが可能になります。

除外合意とは?

「除外合意」とは、先代経営者から後継者へ生前贈与された自社株式を、遺留分の計算の基礎となる財産から除外するという合意です。通常、生前贈与された財産は遺留分の計算に含まれますが、この合意を結んでおくことで、後継者に贈与した株式は「なかったもの」として遺留分を計算できます。これにより、他の相続人から株式について遺留分を請求される心配がなくなり、後継者は安心して経営に専念できるのです。株式が分散するリスクを根本から断つことができる、非常に強力な対策といえますね。

固定合意とは?

「固定合意」とは、先代経営者から後継者へ生前贈与された自社株式の評価額を、遺留分を計算する際に「合意した時点での評価額」に固定するという合意です。もしこの合意がないと、相続が発生した時点の高い株価で遺留分が計算されてしまいます。後継者が頑張って会社の価値を高めるほど、支払うべき遺留分が増えるという矛盾が生じてしまうのです。しかし、固定合意を結んでおけば、将来株価がどれだけ上昇しても、遺留分の計算は低いまま。後継者の経営努力が正当に評価され、経営へのモチベーションを維持することにもつながります。

付帯合意で柔軟な取り決めも可能

除外合意や固定合意に加えて、「付帯合意」を結ぶこともできます。これは、より当事者の実情に合った、きめ細やかな取り決めをするためのものです。例えば、後継者が株式だけでなく、事業に必要な不動産も先代経営者から贈与される場合に、その不動産も遺留分の計算から除外する合意ができます。また、後継者以外の相続人(非後継者)が受けた生前贈与も遺留分の計算から除外するなど、相続人間の公平性を保つための調整も可能です。これにより、相続人全員が納得しやすい形で合意を形成することができます。

民法特例を利用するための要件

この便利な民法特例ですが、誰でも利用できるわけではありません。会社、先代経営者(旧代表者)、後継者のそれぞれに一定の要件が定められています。手続きを進める前に、これらの要件を満たしているかを確認することが大切です。

対象となる会社(特例中小企業者)の要件

まず、対象となる会社は、以下の要件を満たす「特例中小企業者」である必要があります。

項目 要  件
会社の形態 非上場会社であること。
事業継続期間 合意時点で3年以上継続して事業を行っていること。
その他 中小企業者であること(資本金や従業員数などが業種ごとに定められています)。

対象となる先代経営者(旧代表者)の要件

株式を贈与する先代経営者は「旧代表者」と呼ばれ、以下の要件を満たす必要があります。

  • 過去に会社の代表者であったこと(現代表者でも構いません)。
  • 推定相続人のうち、少なくとも1人に対して、会社の株式等を贈与したことがあること。

対象となる後継者の要件

株式を受け取る後継者は、以下の要件を満たす必要があります。

  • 旧代表者から株式等の贈与を受けた推定相続人であること。
  • 会社の総株主の議決権の過半数を保有していること。
  • 会社の代表者であること。

これらの要件は、合意の時点だけでなく、経済産業大臣の確認や家庭裁判所の許可を受ける時点でも満たしている必要がありますので注意してくださいね。

民法特例の手続きの流れ

民法特例を利用するためには、いくつかのステップを踏む必要があります。少し複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつ丁寧に進めていくことが重要です。専門家のサポートを受けながら進めるのが一般的です。

推定相続人全員での合意

最初のステップは、後継者を含む推定相続人全員で話し合い、合意書を作成することです。ここで、どの株式を「除外合意」または「固定合意」の対象にするのかを決めます。全員の署名または記名押印のある書面での合意が必要です。この合意形成が、この制度を利用する上での最大のポイントと言えるでしょう。

経済産業大臣の確認

全員の合意ができたら、次に経済産業大臣の確認を受けます。後継者が申請者となり、合意した日から1ヶ月以内に、必要な書類を添えて中小企業庁に申請します。この確認は、合意が事業承継を円滑にする目的でなされたものであることを公的に認めてもらうための手続きです。

家庭裁判所の許可

経済産業大臣の確認を受けたら、最後に家庭裁判所の許可を得る必要があります。確認を受けた日から1ヶ月以内に、後継者が家庭裁判所に許可の申立てを行います。家庭裁判所では、この合意が当事者全員の真意に基づいて行われたものであるかどうかが審理されます。全員の意思が尊重されているか、特定の相続人に不利益が偏っていないかなどが慎重に判断され、問題がなければ許可が下ります。この許可をもって、合意の効力が正式に発生します。

民法特例の注意点

事業承継の強力な味方となる民法特例ですが、利用する際にはいくつか注意すべき点があります。後で「こんなはずではなかった」とならないように、デメリットや注意点もしっかり理解しておきましょう。

推定相続人全員の合意が必須

この特例の最大のハードルは、推定相続人全員の合意が必要な点です。一人でも反対する人がいれば、この制度を利用することはできません。そのため、なぜこの特例が必要なのか、後継者が会社を継ぐことの重要性を、時間をかけて丁寧に説明し、他の相続人の理解と協力を得ることが不可欠です。

合意の効力がなくなるケース

一度成立した合意も、特定の事情が発生した場合にはその効力が失われることがあります。例えば、以下のようなケースです。

  • 後継者が先代経営者より先に死亡してしまった場合
  • 合意の後で、先代経営者に新しい子どもが生まれるなどして、新たな推定相続人が現れた場合

このような事態に備えて、合意内容を定期的に見直すことも大切です。

専門家への相談がおすすめ

これまで見てきたように、民法特例の適用には複雑な要件や手続きが伴います。要件の確認、相続人との交渉、合意書の作成、そして大臣確認や家裁への申立てなど、専門的な知識がなければスムーズに進めるのは難しいでしょう。事業承継に詳しい弁護士や税理士などの専門家に早めに相談し、計画的に準備を進めることを強くおすすめします。

まとめ

経営承継円滑化法の民法特例は、事業承継における最大の懸念事項の一つである「遺留分」の問題を解決するための非常に有効な制度です。この特例を活用することで、後継者は株式の分散リスクに悩まされることなく、安心して経営に集中できるようになります。ただし、利用するには推定相続人全員の合意という高いハードルがあり、手続きも複雑です。会社の未来を守るため、そして家族間の円満な相続を実現するために、早い段階から専門家を交えて準備を始めることが、成功への鍵となります。事業承継をお考えの経営者の方は、ぜひこの制度の活用を検討してみてくださいね。

参考文献

中小企業庁:経営承継円滑化法による支援

経営承継円滑化法の民法特例に関するよくある質問

Q. 経営承継円滑化法の民法特例とは、簡単に言うとどんな制度ですか?

A. 後継者に会社の株式などを生前贈与する際に、将来他の相続人との間で起こりうる「遺留分」のトラブルを防ぐための特別なルールです。具体的には、贈与した株式を遺留分の計算対象から外したり、評価額を贈与時の金額で固定したりできます。

Q. 「除外合意」とは何ですか?

A. 先代経営者から後継者に贈与された自社株式などを、遺留分を計算する際の財産から除外(なかったことにする)という、推定相続人全員による合意のことです。これにより、株式が遺留分請求の対象外となります。

Q. 「固定合意」とは何ですか?

A. 後継者に贈与された自社株式の価値を、遺留分計算の際に「合意した時点での評価額」で固定するという合意です。これにより、後継者の経営努力で株価が上がっても、将来支払う遺留分の金額が増えるのを防げます。

Q. この特例を利用するのに、誰の同意が必要ですか?

A. 後継者本人を含め、推定相続人「全員」の書面による合意が必要です。一人でも反対者がいると、この特例を利用することはできません。

Q. 手続きは自分でもできますか?

A. 全員の合意形成後、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可という専門的な手続きが必要です。要件も複雑なため、事業承継に詳しい弁護士や税理士などの専門家に相談しながら進めるのが一般的です。

Q. どんな会社でもこの特例を使えますか?

A. いいえ、利用できるのは非上場の中小企業で、3年以上事業を継続しているなどの要件を満たす会社に限られます。また、先代経営者や後継者にもそれぞれ満たすべき要件があります。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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